シェーンコップ×フレデリカ/牛男さん





 ……薄暗い部屋に、くぐもった声が響いている。
 女は膝と肘をついて身体を支え、尻を突き出すような格好。顔をベッドに埋め、漏れ出す声を少しでも押さえようとしている。
 男は女のくびれた腰をつかみ、背後から存分に男根を打ち付けていた。
「んっ、ううっ……ん……」
 金褐色の髪が額に張り付き,ヘイゼルの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。明らかに快楽を感じてはいるが、それを表に出すことを恐れている表情だ。
「……ふん」
 男は逞しい体つきながらも、端正な要望の持ち主で、口元には皮肉めいた微笑を浮かべていた。激しく女を責めながら、右手で女の敏感な部分をまさぐる。「んんっ!? あっ――そこはっ!」
 女はシーツをつかみ、背中をのけぞらせる。
「ここは? なんだ?」
「……い、いえ」
「たまらないんだろう? フレデリカ。ほらっ」
「ああっ! い――いやぁあああ!」
 女は甲高い大声を上げ、ぶるぶると身体を振わせる。
「……またイっちまったか。感じやすい奥さまだ」
「そ、そんな……あなた」
 男――シェーンコップは新妻の身体を満足げに見下ろしてから、なめらかな動きで正上位に変化する。
「ヤン提督もお可哀想に。こんないい女に裏切られたんだからな」
「……」
 女――フレデリカの顔が歪む。



 彼女は一年前にヤン・ウェンリーからプロポーズを受けた身である。その後、ヤンは自由惑星同盟と民主主義の存続のために、銀河帝国へ帰属した。
 以来音信不通となっている。
 フレデリカはヤンを待ち続けた。しかし、募る寂しさには勝てず、あまり足を向けない酒場で限界近くの酒量を飲み、そこにシェーンコップが現れて……気付いた時には身体を奪われていたのである。
 根がまじめ過ぎるだけに、ヤンを裏切った彼女は自分を許すことができず、その罪の意識から、シェーンコップの要求を無条件で受け入れることになった。
 オフィスでも自宅でも、毎日のように犯され、愛もないくせに結婚した。
「それで? はぁ、はぁ……手紙は書いたんだろうな」
「あっ、あっ……は、はい。け、結婚しました、と……んあ!」
 シェーンコップは腰の動きを止め、冷淡ともいえる視線をフレデリカに叩き付ける。
「それは、かなりショックだろうな。ヤン提督は今、微妙な立場におられる。遠い異国の地でただひとり、婚約者のことを思い出しながら、耐えてきたのだろうに。それを、お前さんは裏切った」
「そ、それは、あなたが……無理やり」
 シェーンコップはフレデリカの胸をもみ、その先端を指ではじいた。
「……あっ」
「さそってきたのは、お前さんのほうだぜ。自ら唇を重ね、服を脱ぎ、腰を振ってきた。寂しくてたまらないメス犬のようにな」
「……」
 フレデリカの顔に、暗い後悔の念が浮かぶ。
(――これだ!)
 その表情が、シェーンコップをさらに燃えさせるのだ。



 他人の女を奪う楽しみ。罪の意識に苛まれる女を、快楽の縁に突き落とす歓び。愛などという妄想を、シェーンコップは信じない。あるのは、精神に対する刺激のみ。
 シェーンコップはフレデリカの唇を奪い、再び腰を打ち付けていく。
「……あっ、あ、あ、あっ」
「ほら、ヤン提督に謝れよ! 俺は、あの男のことを気に入ってたんだぜ。少々野心が足りなかったのが、玉の傷だがな」
「……あ、ああっ! ご、ごめんなさい――提督!」
 フレデリカは涙を流しながらも、どうしようもなく感じてしまっている。シェーンコップの腰を両足で挟んで、腰を微妙にスライドさせていた。
(ふん、男を歓ばせるツボをつかんでやがる)
 シェーンコップは自分の心の奥底に、暗い炎を感じ取った。
 それは、嫉妬と呼ぶべき感情だろうか、どちらにしろ、その炎は自分に新たなる性の力を与えてくれる。そして、この炎を感じられなくなったとき、自分は可愛らしいこの新妻を、ためらうことなく捨てることになるだろう。
(あと、数カ月か、それとも数年か……)
 シェーンコップはこれまでに積み重ねてきた経験のすべてを駆使して、フレデリカを高めていく。
「あっ、ああ! だ、だめっ! ……イ、イキ……ます!」
「淫乱だな、お前は! 他の女より、ずっと!」
「っああ! あ、あ、ああっ……!」
 フレデリカは四肢を硬直させて、呼吸を止める。
「……ッ!」
 襲いかかる波のうねりに、さすがのシェーンコップも自分を解放せざるをえなかった。
 互いに果てたあとも、甘い抱擁などない。
 事後処理を妻に任せて、シェーンコップは煙草を加え、天井を見つめている。
 今日は珍しく感傷的な気分になっていた。
「ヤン提督も、きっと上手くやってる」
 フレデリカはティッシュで夫の性器を丁寧に拭き取っている。
「……お前さんのような、気だてのいい美人の物好きが、銀河帝国にだって、ひとりくらいはいるだろうさ」


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