ユリアン×カリン /(SF板銀英スレ12-39さん)
「あなたって本当にはっきりしない男ね。あれだけ侮辱されたのなら男なら一言くらい
言い返せないの?」
ここはユリアンの士官専用の個室である。
ここで先ほどからカリンとユリアンの口論、いや、一方的なカリンの攻撃が続いていた。
事の起こりはこうである。
即ち、カリンとユリアンが通路を歩いていた時、故山の下士官、恐らく酔っ払っていた、
がユリアンを見つけて絡んできたのだ。
クドクドと、ヤン提督の養子だからといって何でお前みたいな若造がイゼルローン政府の
指導者になど納まる権利があるのか?お前などより功績も年齢も高い高潔な提督
や軍幹部などいくらでもいるぞと・・・
それに対してユリアンは困ったような表情を浮かべて黙っているだけであった。
そしてたまたま一緒に居たカリンがヤン提督を侮辱する発言に怒ってこの下士官
に一発食らわせたのであった。
驚いた下士官はほうほうの体で逃げ出したが、カリンの怒りは収まらず、その矛先は
ユリアンに向き、こうしてユリアンの個室にまでついてきているのだった。
ユリアンは相変わらず困ったような表情を浮かべながら、黙ってカリンの顔を見つめていた。
実のところ、カリンの美しさに心を奪われていて、罵声を浴びようが何だろうが、それで少しの間でも
一緒に居られるなら幾らでも我慢しよう、いや、実際カリンの美貌に気を取られていて
罵声も耳に入ってはいなかったが・・・・・
「ちょっと私の言う事聞いているの?」
ハッとユリアンが我に返ると、カリンの顔が思いっきり眼前にあった。
「無視する気?」
お互いの鼻がくっつきそうになる程の近さ、カリンの甘酸っぱいような唾の匂いが
ユリアンの鼻腔をくすぐった。
まるで、果実の甘い汁のように・・・
カリンの甘い吐息に誘われるように、思わずユリアンの唇がカリンの唇を塞ごうとした時、
ドン!と鈍い音と共にユリアンは胸を突き飛ばされてよろめいた。
「何を考えているのよイヤラシイ!」
気がつけばカリンが顔を真っ赤にして怒っている。弁解する余裕も無く、今度は両手で
思いっきり突き飛ばされた。ユリアンはその場に踏みとどまれず、2.3歩後退する。
「イヤラシイ奴!女の子に罵られながらあなたは頭の中で何を考えていたの?最低!」
両手を腰に当てて、カリンの攻撃は続く。
「なっ、何も変な事など考えていないよ。そっちこそ何を思い違いしているんだい?」
ユリアンはどもりながら反撃したが、動揺が現れており、説得力はなかったと言えよう。
だが、カリンは冷静な判断をすることが出来ず、ユリアンの言葉尻にだけ反応して
カッとなった。
ユリアンの反撃が、自分の吐いた言葉の否定、暗に自分を何でもイヤラシイ事に結び付けて
考える淫らな女だと言われた様に感じたのだ。
そして逆上した。
即ち、両手で思いっきりユリアンを突き飛ばしたのだ。
女の子、といっても相手は16歳の士官候補生、体力的には並みの男性よりはある。
攻撃の激しさに、反射的にユリアンの左手は突き飛ばしてくるカリンの腕を掴んでいた。
胸を思いっきり突き飛ばされて倒れこむユリアンにその腕を掴まれたままのカリンは
自らもバランスを失ってユリアンにのしかかるように倒れこんだ。
期せずしてその体勢は、傍から見るとまるでカリンがユリアンを押し倒しているかのようだった。
ユリアンの顔に、まるで柑橘類のようなよい匂いがする・・・・カリンの赤毛が被さっていた。
思わず手が、カリンの髪をなでようとして伸びた。
ビクッと、カリンの身体がユリアンの上で震えた。
カリンの肉付きのいい両の乳房が・・・服の上からではあるが、ユリアンの胸を圧迫し、
思わずユリアンは息を止めた。
硬直した身体をゆっくりと、ゆっくりと解すかのように息を、深呼吸のようにゆっくりと
行なう。息を吸い込むたびに、膨らむユリアンの胸板がカリンの身体を押し上げ、息を
吐き出すと共にのしかかってくる。
カリンの顔は、ユリアンの首の下辺りでそっぽを向いているかのように横に向いており、
その顔は赤毛に隠れて表情は読み取れない。
ユリアンの手が、カリンの髪をなでるようにしてそっと頭に置かれた。
胸と胸が重なり合っているために、お互いの胸の鼓動が隠しようも無く相手に伝わってしまう。
激しく動機する心臓の鼓動、強すぎて、自分の心音なのかと思わず錯覚してしまう。
まるでお互いに胸で犯されているような錯覚すら覚える。
カリンの頭にあったユリアンの手が静かに離れた。そして、その手は床に置かれ
静かにユリアンは状態を起こし始めた。
ハッとして、カリンも気まずげに立ち上がってその赤毛をかき上げ、何事も無かったかのように
簡単に衣服の乱れを整え始めた。
「ゴメン・・・」小さくユリアンが呟いた。
カリンはそれを聞いて理由も分からず動揺した。
(何がゴメンなのかしら?一体何に対して謝っているというの?私を転ばした事?
それとも私の身体に触った事?)
自分でも、何に対して怒っているのか、それが心の動揺である事を認めるのを
本能的に拒絶していた。
(そもそも、この男はいつもこうだ。誰に対しても従順で、反発せず意思を示さない。
だから誰からも可愛がられる、親を失った不幸なんかそぶりも見せず、何時だって
明るく誰からも愛される・・・・)
それは逆恨みというか、やっかみ、嫉妬とでも呼ぶべき感情ではあるが、カリンは
そう言われるのは拒絶した。
彼女の心の中では、正しいものが報われず、大人に媚を売るものが地位と、特権
を得ているかのような現実は、少なくともそうだと思っている、は侮蔑と憎悪の対象
なのだった。
幼い頃から片親で育った自分を、不幸ではないと突っ張りながら生きてきたが、反面、
それ以上の不幸を背負っているはずのユリアンがまるで不幸などないかのように幸福そうに
生きているように見えるのが、どうしようもなく腹ただしく・・・・・・・その感情を覚えるたびに
本当の自分の心の醜さ、弱さを見せ付けられるかのようで、どうしようもない気持ちに
なるのだった。
(あなたと私は何も変わらないはずなのに、どうしてあなたは、そっち側、に居るのよ?)
それがカリンの矛盾しながらも正直な思いだったのかもしれない。
もしかすると、先ほどの下士官のセリフこそ、彼女の思いそのものだったのかもしれない。