貝殻のワナ 月陰作 ポケットモンスター二次創作
 磯辺に大きな貝殻が落ちている。口を閉じて沈黙している。大きさは一抱えぐらい。分厚くて頑丈そうな深いマリンブルーの殻には片方だけで規則正しく五本の筋が入っている。
 それは紛れもなくパールルである。口を閉じているということは死んでいるのだろうかと思い、13・4歳ぐらいの若いトレーナーが近付いて口を開けてみた。口は固そうに思われたが、意外に軽く開けられた。果して中には、あの桃色で柔和にゅうわなパールルの顔はなかった。ただ運動をつかさどる筋肉で出来た水色の器官だけがぴくぴくと蠕動ぜんどうしていた。何かに襲われて、憐れにも断頭にあったかのようにその頭部をなくしたパールルのようだった。
 血は出ていなかった。その若いトレーナーは嫌なものを見たと思って顔をそむけた時、ぴくぴくと断末魔の痙攣けいれんのように蠕動していた筋肉器官は、しなやかに延び、6本の中央を取り囲むように突出している触手を、そのトレーナーの首に絡め手足に巻き付けて、背後から彼を捕らえた。
 彼の体は、あの青い筋肉組織の本体に持ち上げられ、大きく開いた殻の上に掲げ上げられた。奇妙なことに、触手は器用に彼の服の中に滑り込み、服を脱がし始めた。両足はひざを曲げた形に固定され、両腕はすくめた形に固定された。そして彼のあられもない部分を優しく刺激する。触手のうち、右足を固定した触手は、ペニスに巻き付き、滑らかで程良い粘りけの粘液を分泌してしごき、左足を固定した触手は陰嚢をで、足の間から伸びてきた触手は肛門から直腸に滑り込んで内側から突き上げる。
 同時に首に巻きついた触手は、首を一巻きしてからも、さらに伸びて彼の口の中いっぱいに侵入し、口中であやしくうごめきながら、薄く塩味のする粘液を大量に分泌して喉の奥に流し込む。
 触手が甲斐甲斐かいがいしく陰部をなぜる感覚が次第に快感へと変化していくにつれ、彼の体を固定した後も滑りのよい粘液を分泌している触手が、僅かに蠢くことで、彼は全身から快感を感じるようになった。喉の奥に流し込まれる粘液さえもが甘美なものに感じられてきた。あるいはその粘液には、そのように犠牲者の心をとろかす作用があったのかもしれない。
 快感は激しく全身を駆け巡り、いきりたった彼のペニスは身震いしていた。ペニスを愛撫あいぶしていた触手は、それが近いことを感じ取り、一滴も取り逃すことのないようにと思ってか、筒状になって彼のペニスにしゃぶり付いた。直腸に入り込んだ触手の動きもそれに合わせてその動きを活発化させた。その動きが激しさを増し、快感が頂点に達した。トレーナーは射精した、激しく全身を振るわせて。内臓を吸い出されるかのような快感だった。
 精液は、筒状になってペニスに覆い被さった触手に流れ込んでいく。触手は余すところなく呑み下す。射精が終わったとき、もはや彼のかたくなな精神は朦朧もうろうとし、強張こわばった体は解きほぐされたようだった。トレーナーは自分の体が柔らかくなり、なおかつ小さく縮んでいるように感じた。

 現に手足は既に利かなくなっている。ふと目をやると、脚はかつての膝のあたりぐらいの長さまで縮んでおり、足首や膝の関節の区別が無くなり、指は見られず、ずんぐりとしてやや先細りになった棒のようだった。腕も脚と同様、ひじぐらいまでの長さになっており、手も下膊かはくも区別が無くなっていた。
 驚きでトレーナーは、茫然と見つめていたが、そのうち首の長さも短くなっているようで、首を曲げていられなくなってきた。体の縮小に合わせて、あの青い筋肉組織の本体が彼の背中側からり上がり、そこから伸びていた触手は役目を終えたように、両手両足のいましめを緩めて本体に引っ込み始めている。
 離れたところから見ると、大きく開いたパールルの殻の上に掲げ上げられた彼の体は、小さくなってゆくに連れて青い筋肉組織の本体に呑み込まれてゆく。そしてゆっくりと殻の内側の方に引き込まれる。
 トレーナーの体はこの時点で3分の2ぐらいの大きさにまで縮んでいた。腕も脚も痕跡としての出っ張りを残すのみとなっている。だが彼は、首が失われ、頭部が胴体と完全に癒着してしまったために、うつむいてこの様子を見ることができなくなっていた。眼はただ自分以外の対象を見ることが出来るだけだった。
 彼はない不安と途惑いを感じながらも、無情にも爽やかに澄んだ青空をただただ眺めていた。溶け崩れた雪だるまのように頭部が胴体に落ち込んだ体が、ついに筋肉組織に呑み込まれ、包み込まれてしまった。彼を包み込んだ筋肉組織は、飴をしゃぶるように彼の体をもてあそんだ。彼の体はその中で二転三転し始めた。その過程で彼の体は目に見えて丸く整形されていく。
 最初は動きもぎこちなかったが、彼の体の縮小と整形が進むほど、軽やかに回転した。またしても彼は、全身から大脳へと駆け上り小刻みに激しくなったり優しくなったりする快感の波を感じ、そのために短い間に何度も射精してしまった。ペニスもその中で、体の変化に合わせて大きさを縮めながら、包皮が完全にまくれ上がり全体が槍の穂先のような形に変わっていく。

 彼の体はもうかなり縮んでいて、筋肉組織の太さよりも小さくなってからは、外からは中の様子は僅かなりとも窺いようがない。
 そして筋肉組織自体の動きが止まった。しばらくして筋肉組織は、蕾が花ひらくようにその封を解いた。ことが終わったあとの溜息のようにむっと湯気が立ちのぼり、精液と粘液にまみれた彼の表皮が顔を覗かせた。
 その皮膚は瑞々みずみずしい桃色に色付いていた。やがて全身が現れた。といってもそこには、頭部と胴体が一体化して20cmぐらいの球体に成り果てた彼の体があった。それは桃色の大理石のようだった。それは、青い筋肉組織を「台座」とし、そこから突きだした6つの突起が周囲を守る「玉座」に納まっている。
 眼は開けているのが解らないような柔和な薄目で、口はきょとんと開け放たれ、頬に当たるらしい部分には初々しい血色がさしている。その姿はまさしくパールルのそれだった。全身精液と粘液まみれで熱っぽい息をしていたパールルだったが、しだいにその息も和らげられているようだった。
 いきり立っているペニスは、人間のものとは程遠く、全体が槍の穂先のように尖り、分厚く滑らかな表皮の狭間から棘のように突きだしていた。それも興奮の静まりと共に萎縮して表皮の割れ目の中に収まっていった。表皮はぴったりと閉じて、一見しただけではかすかな体溝たいこうとしか見えず、依然として球形の体に違いはない。

 パールルは溜息をついた。しばらく空を見上げて眺め、やがて海の方に目を転じた。沖の方を眺めると、水平線は蒼く霞んでいた。彼がいる場所には、ただ風の音と波の音とが、優しくその響きを漂わせているだけだった。



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