夢の中の僕と 暁 紅龍作 ポケットモンスター二次創作
 この家にはどうしても立ち入ってはいけないところがある。それは僕の父さんがとても危ないからだと言って僕を入れてくれないのだ。
 でも、時々夢を見るんだ。なんだかすごくハラハラするけどドキドキもする冒険のような夢。今の僕にはできないような事を夢の中の僕は容易く実現してしまうのだ。そんな夢の中の僕は髪が長く、その髪をとめている翡翠色の髪留めをしている。そして夢から覚め、いざ自分を見つめると、何ともない普通の子供なのだ。この夢を見るようになったのはいつ頃だろうか。それは僕の11歳の誕生日を迎えてからほぼ毎日を繰り返していた。
 それだけ、夢の中の僕は魅力的で、そんな自分になりたいという願望があったのだ。

「父さん、どうしてあの部屋には入れないの?」
 僕は父さん・・・、ケイさんに問いかける。
「あの部屋には、この家系が生み出してしまった邪悪な獣を封印しているアイテムを保管しているから入れないんだよ。」
 11歳になり、父も僕のことをだいたいわかってくれるようになってくれた。それだからこそ、僕にようやくあの部屋の事情を話してくれたのだろう。
「だから、あの部屋は入ってはいけない。わかったかい?」
 父は続けて僕に約束をしようとする。
「うん、入らないよ。」
 そのときの僕はそう誓ったであろうか。

 その晩。僕は夢をまた見ていた。  その夢の舞台は髪の長い僕が神秘のアイテムを手に入れるという話のようであった。まず、鍵のかかった部屋の扉。鍵がかかっているのだから入ることができない。だが、僕は父の外出中にその鍵の置き場所を簡単に探し当ててしまう。そして鍵を開け、中に入りそのアイテムを入手してしまうのだった。

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 明くる朝、僕はいつものように父と母とで朝食をとっていた。何気ない、いつも通りの光景。それは父の発言で少し状況が変わってくる。
「今日はこの地域の各当主が集まり、今後の地域の活性化について話し合う会議がある。それに出席するため、しばらく家を空ける。」
 ・・・父さんが居ない・・・?
 僕はなぜかドキドキした。それも仕方ないことだろう。あのような夢を見た後なのだから。
「はい、わかりました。帰りはいつ頃・・・」
 という父と母の話に耳を傾け、日が落ちるまでには帰ってくるという事がわかった。

「では行ってくる。」
 そうして父は出かけていった。この家は3人暮らしには必要ないほど広大な敷地と、そして部屋数があるのだ。そんな環境だからこそ、僕はあの夢を夢見た。なんでもできてしまう、僕にはない、僕の別の姿がある。
 そしてそれは昇華して行動に移る。まずはあの部屋を探す。父が大切にしている物だ。邪悪とは言っていたがそれはきっと別な意味なのだろう、と僕はそう思っていた。入っては出て、入っては出ての繰り返し。そして、ようやく見つけた。
 何かの複雑な文字でかかれた札が扉に幾枚も貼り付けられ、立ち入ることを許さない部屋があった。
「ここかな・・・?」
 僕はそっと扉に手を置くと・・・。
『君は、僕だね・・・?ずっと待っていたよ・・・くくく。』
 という頭の中に響くような声が聞こえる。
「君は・・・?」
 僕は部屋中を見回す。しかし誰もいない。母もいない。
『だから言っただろう?君の夢見ている「君」自身さ・・・。』
 つぶやきはさらに続ける。
『さぁ、お入り・・・。』
 そうして僕の手を置いていた扉の部分がパチパチと雷光を放ちながら黒くゆがんでいく。そして・・・。
「うわぁ!!」
 ぐいっと一気に扉の向こうへ吸い込まれていった。
『ようこそ、夢の世界の中へ・・・くくく。』
 声の主はどうやらあの翡翠色の腕輪から話しかけているようだ。
『さぁ、この腕輪を手にとってごらん・・・?』
 声はそう促してくる。僕には魅力的に感じた。この腕輪を着けていれば、きっと僕はあの夢の僕になれる。そう感じた。そうして手に取る。ずっしりとしているが、きれいに光り輝いている。
『どうだい・・・?きれいだろう・・・。君はこれを着ければ夢の中の君になれるんだ・・・。さぁ、付けてごらん・・・?』
 声は着ける事を促してくる。
「これを付ければ・・・僕はあの夢の中の僕に・・・なれるっ!」
 そうしてがしっと右腕に付けたのである。その直後である。身体に電撃の走るような感覚に襲われる。身体が急に動かなくなる。動くことを許されない。
『くくく・・・。ありがとう・・・。では早速君の身体を使わせてもらおうじゃないか・・・。』
「な・・・なにを・・・言っているの・・・?」
『なぁに・・・。君が夢見ていた君になるだけのお話しさ・・・。』
 そうして腕輪は付けていた右腕を一気に床へ振りかざす。腕輪が腕から抜け落ち、それは緑色の破片となり・・・。
「うわぁぁぁ!!」
 身体に緑色の雷光がほとばしる。そして変化が始まる。
 元々短かった髪の毛がだんだんと伸びていくと、それは潤沢なたてがみになる。たてがみの色も一気に深紅に。一部分だけ漆黒に染め上がっていく。そうして頭部に変化が起こる。じわじわと鼻から下あごまでが鼻を中心として前方へ伸びていくと鼻がその伸びていく中心部になり、それは獣のような鼻になる。
 その鼻の変化を中心に段々とグレーの毛が覆って行く。頭部はきめ細やかに、そして胴はふさふさに、腕と脚には頭部同様にきめ細やかな毛が生えそろう。ただ、毛が生えそろう部分に若干の変化が生じる。それは胸である。胸部に生えそろったそれはグレーから漆黒の毛が潤沢に生えそろっていく。
 全身が獣毛に覆われると、今度は身体の各部が変化を起こす。まず頭部が変化したことにより、首が段々と短くなりながらも細くなっていく。そして胸部がまるで鎧を着けたかのように丈夫に発達をする。その発達した胸部は全身を大きく変化させ、胸部は盛り上がり、逆にウェストは引き締まりぎゅっと細くなっていく。そして変化は腕へとさしかかる。
 腕は上腕がぐっと細くなり、逆に前腕は筋骨共に発達し太く、頑丈になっていくと共に、指は3本に癒着・消滅を繰り返していきながら紅く変色した爪がまるでコーティングしていくかのように指と思わせるものから巨大で鋭利な爪へと変貌する。
 変化は脚部も起こり、大腿が膨張するかのように発達し、逆に膝から下は細くなりながらも踵から脚の先端部までが伸びゆき、獣のような脚へと姿が変わる。そして最後に閉じていた目の周りに紅い毛がアクセントになり、ぼさぼさだった長いたてがみをそろえるかのように緑色の光る球体が集まると、それは翡翠色の髪留めとなる。
 そうして、僕の・・・いや・・・?俺の変化が終わったのだ。
「ふぅ・・・。久々の身体の感覚・・・。良い物だな・・・。くくく・・。」
 そうつぶやく俺は大悪党・・・、その昔に世界を混乱させるまでに悪事を働いた張本人であるゾロアーク・クロヅキである・・・。
『僕を・・・どうするつもりなんだ・・・。』
 僕は彼の身体の中でそう問いかける。
「なぁに、数日身体を借りるだけだ。それに、ほら・・・。こうすりゃ元通りさ・・・。」
 そうして髪留めに手を伸ばし、呪文を唱えると、僕の身体は段々と元の人であった姿に戻っていく・・・。
「あ・・・。元に・・・。」
 僕はあっけにとられた。僕は身体を奪われ、結局そのままだと思っていた。邪悪な獣・・・。ゾロアークと聞いたからには、そう思っていたのだ。
『なぁに、そんなに俺様を怖がらなくてもいいんだぜ・・・?』
 クロヅキは続ける。
『俺様は大悪党だと世には認識されているが、俺は単に悪さをして皆を驚かせただけなんだ。それに、その下準備には時間もかかる。そうだ、契約しないか?』
 クロヅキはそう問いかけてきた。
「契約・・・?」
 僕にはあまり意味がわからなかった。
『あぁ、簡単に言えば約束事だ。お前は、俺の力を自由に使えるようにする。その代わりに身体は俺が自由に変化させることができるようにな。それでいいか?』
 こんな魅力的で、なんかドキドキもハラハラもする事ができるのならば・・・。
「うん!それで良いよ!」
 僕は契約に応じたのであった。

 それから、僕の行動は夜型に変わった。

 夜道で狐火を出し、人を脅かす。

 瞬時に動き回り、影を残像にし、人を驚かす。

 といった、ハラハラでどきどきな事をするようになった。それは夜の月夜に照らされる世に現世したゾロアークの姿で・・・。


-終-
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