ポケモンの世界へようこそっ! 暁 紅龍作
「あぁ・・・行っちゃったよ・・・。」
 ホームに到着した途端に乗る予定の電車に先に立たれてしまった。友人と久しぶりに会う約束をしていた俺は仕方なくコンコースで一人始発まで待つことにした。友人にも連絡を入れたりと中々大変だがすぐにそう言った連絡事項は終わってしまう。何か暇つぶしが出来ないかと鞄をあさる。暇つぶしはしっかりと持ち歩いている俺は携帯ゲーム機を鞄から取り出し電源をつける。 スタイラスペンでゲームを選択してプレイしているのはポケモンである。中々育てていけば強く育つモンスターもいることから暇をもてあますのにはもってこいのゲームだ。
 やり込んでいけばそれだけモンスターも答えてくれる・・・。そう言う物だと俺は思っている。しかし、ここ最近は駄目なモンスターばかりだ。この前のリザードは岩タイプのポケモン相手に簡単にやられてしまうし、フライゴンも俺の思っているより遙かに素早さが遅く使い物にならなかった。どれも気に入らずにすぐに俺は逃がしてしまったが、そんなことはしょっちゅうしているので気にとがめなかった。

 今回も駄目なポケモンが一匹出てきたようだ。それはハクリュー・・。全くドラゴンだと思い育ててみて愕然とした。こんなにも成長が遅いポケモンは初めてだった。もうこいつにも用はないと、そのまま「逃がす」を押しデータを消した。全く、今までこいつにかけた時間がもったいなく感じられ、やる気のなくなった俺はしばらく眠ることにした・・・。

 ゲーム機の電源をつけっぱなしで寝てしまった俺の周りに何か変化が起き始める。
“・・・こいつ・・・寝てやがるぜ・・・。”
“あぁ・・・全く・・・俺たちの苦労も知らないで・・・腹が立つなぁ・・・・。”
“絶対・・・許せない・・・・。”

 それぞれ思い思いの鬱憤を言葉にして表している・・・。それは少し色が薄く透明であり、どこか揺らめいている。何というか、ホログラムデータのように実体がないように思える。
 そして姿は人ではなかった・・・。先ほど消した筈のモンスター達・・・。すらりと長い蒼い身体のハクリュー、ドラゴンのような姿を取っている緑色の身体をしているフライゴン、そして紅色の身体が色鮮やかなリザード・・・・。それらが寝ている彼の周りを取り囲んでいる・・・。
“ねぇ・・・こいつ・・・中に引き込んじゃおうか・・・?”
 そうして段々と意識のない彼に近寄るポケモン達・・・。
“そうだね・・・きっと驚くだろうね・・・ふふふ・・。”
 ぐっと両手足を掴み、ハクリューは動かないように羽交い締めをして一気にゲーム機の液晶画面に身体を押し込もうとする。すると段々とゲーム機の液晶画面に身体が沈んでいく・・・。小さなゲームの液状画面が一際大きく光り始めるとその間、何事もないように寝ている彼はポケモン達に連れられ、遂にゲーム機の中へと連れ込まれてしまったのであった・・・・。
 そして電源を使い果たしたのだろうか、ゲーム機はそのまま沈黙を保っていたのである・・・。

『・・・おい、いい加減おきろよ・・・。「主様」よぉ・・・。』
 そして俺を起こそうと揺すり動かされる。何かあったのだろうかと眠い身体を起こして起き上がるとそこは先ほどまで自分が居た場所とはほど遠いところであった。何やら家のようで薄暗い一室である。
 突然ぱしゃっと頭に水をかけられ何事かと振り向くとそこには三匹のポケモンが居たのだ。
『ようやく起きたようだね・・「主様」よぉ・・・。俺たちのこと、覚えてるか?』
 そうして暗闇から出てきたのはリザード、フライゴン、そしてハクリューであった。
「御前達・・・。此処は・・っ!!」
 俺ははっとした。なぜならこいつらが現実に存在するわけがないのだから。だとしたら俺は・・。俺はポケモンの世界へときてしまったのだ・・・・っ!!
『幻想じゃないよ。此処に連れてきたんだ・・・。私たちと同じ苦しみを味わってもらうために・・・。』
 ハクリューはつもりにつもった鬱憤を秘めながらそう低い声で言い放つ・・・。
『俺たちは此処の世界にはもう居ないことになって居るんだよ・・・・。だから・・っ!』
 フライゴンも翼を広げて畏怖の念を抱かせるように低い声で言う・・。
『だから俺たちの代わりにこの世界で頑張ってもらおうじゃないかと思ってな・・っ!!』
 リザードの言葉を皮切りにじりじりと俺に近寄るポケモン達・・・。その表情は何時ものフレンドリーな顔ではなく怒りに歪ませた表情であった・・。
「あぁ・・!わ、悪かった・・・っ!!俺が悪かった・・・っ!!だから許してくれ・・っ!!」
 俺は跪きながら彼らに詫びる。もうさめる夢であるのならさめて欲しいと思うほどであった。 しかし・・・。
『もうこの世界にきた時点で貴方の運命は決まっていたんですよ・・ふふふ・・・覚悟を・・・っ!!』
 そうして一気に三匹は俺に飛びかかる。すると三匹は直接のし掛らず、空中で光の粒となって分散すると俺を円形に取り囲む。
「あぁ・・・!」
 円形に取り囲んだ光の粒は段々と俺の身体の方へと収縮していき、取り囲むと段々と俺に密着し始める・・。それぞれの粒は身体につくと俺の身体はスポンジが水を吸い取るように吸い込んでいく。それは色も変化しながら身体の形状まで変化を伴っていく。
 それまで人の形状を維持していた身体は段々と下半身・・・脚部が光の粒に圧着されるように癒着していく・・・。先端の足の甲は細く尖ると尻尾へと変化し宝玉のような蒼い球が二つ現れる。その球を起点に段々と皮膚は厚くなりそして蒼く染まり始める。変化は徐々に上半身へと向かい始め、腹部から太くなった脚部に掛けて純白の皮膚へと変わり、胴体は段々と細長く伸びていく・・・。まるで蛇のように長く伸びた胴体は既に人の数倍はある。
 腕部は段々と胴体へとめり込み、跡形もなく元々無かったかのような感覚になる。胸部の骨格も小さく萎縮して胴体の太さと同じ太さへと変化していく。
「がはっ・・・・ぐっ・・・。」
 俺は自分の身体に起きている変化について行けずに悶えていた。ただ身体に痛みが走り、身体が動かせないのだ・・・。
 その間にも変化は首へとさしかかる。首は段々と長くなり身体と同じ太さにまで細くなると、胴体と同じく背は青、腹部から首の前部までを純白の厚い皮膚が覆う。そして変化は頭部にさしかかる・・・。音を立てて骨格が変化していくと頭部は段々と萎縮していく。
 耳は段々と広がっていくとまるで鳥の羽の如く毛羽だった部位へと変化していく。それは側頭部の付け根の部分でくるりと丸まっている。小さくなった頭部は髪の毛が吸収されると丁度眉間の部位から角のような尖った部位が皮膚を突き破り現れる。鼻から下顎までが段々と前方へと伸び始め、鼻は上顎と密着すると突き出た上顎の先端部に新たに鼻孔を形成していく。
 下顎も上顎と同じく突き出ると、口が大きく裂ける。同時に下も顎の変化に合わせて細長く変化していく。頭部は全体的に扁平していくと瞳がやや離れ始め広く見渡せるようになっていく。 そして染め上げられていくように頭頂から上顎までは青に、下顎から首筋までが純白の厚い皮膚に変化する。
 変化の終りと言わんばかりに瞳が縦割れ大きな物に変化し、丁度首の部分に大きな澄んだ青色の宝玉が現れると変化が終わったのであった・・・。

『これできっと「主様」も私たちの苦労を分かってくれるはず・・・・。』
 そう言い残し、ポケモン達はすぅっとその場から姿を消したのであった。

『きゅぅ〜。』
 “あれ・・・僕はどうしちゃったんだろう・・?”
 そうして薄暗い部屋の中で僕は目覚める。何だか身体がだるい。身体が言うことをきかない・・・。けれど何だか力がわき上がっていて・・・・。そうして彼は変化した身体で外に出る・・・。明るい外の世界は一気に僕を新たな姿として迎えてくれる。
『きゅう〜!』
“そうだ・・!僕はハクリューなんだっ・・!”
 一気に新たな感覚と記憶が埋め尽くしていく。
「あ・・、あんな所にハクリューが・・・っ!行け、ゴウカザルっ!!」
 そうして今までの記憶を一切捨て、ゲーム機の中で「ハクリュー」として生きていくのであった。


 完
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