風の辿り着く場所レジェンズ二次創作 暁 紅龍作
 雲一つ無い青空が広がる岩石質の山肌が連なる山脈……。山脈の風景は地球とはまた違った雰囲気を醸し出している……。そこにある遺跡に俺たちは住んでいる。
「よお!白竜!今日はお前二十歳の誕生日だってな!!」  遺跡の中にある村の人々に、すれ違いに祝いの言葉を言われ、俺は恐縮しながら歩いている。俺は白竜、この村で唯一の神官候補生だ。
 神官とは、この世界の様々な自然現象を司っている聖霊の意思を伝えると言う役職だ。神官候補生は二十歳になると自分が籍を置いている属性の聖霊から試練を言い渡される。この村は、風の聖霊の守護域であり、二十歳を迎えた俺は風の神殿へ向かっている途中だった。

 神殿に入り、俺は巨大で神々しい風の聖霊を象った像の前にある小さな池のような水面の中央に立ち、聖霊と意識が同調するように神経を研ぎ澄まして行く……。
『…白竜………、汝に我の試練を言い渡そう………。』
「…はい……。」
 俺はその場で固唾を飲んだ。言い渡されるまでの時間が長く感じられた。
「……汝には異世界の危機を救う試練を与える……。」
 俺の目の前に碧い光り輝く小さなクリスタル状の光がゆっくりと降りて来ると、差し出した手の平で光は碧いクリスタルとなった。
『人の姿ではこの試練は達成できないであろう……。少々苦しいではあるが耐えるのだぞ……。』
 聖霊が言い終わると手の平にあったクリスタルが浮き上がり、俺の胸に勢い良く突き刺さった。
「ぐっ……、がはっ!……。」
 突き刺さった感覚が徐々に消えて行くとクリスタルが体の中に溶け込んで行っていた。
「はぁ……、はぁ……。」
 荒い息をしながら何とか自分の意識を支えている。
『……これにて試練言い渡しを終わる………。白竜よ……。』
「はい………、くっ…!!…」
 まだ先程の痛みが引いていないせいか少し視界がふらつく。
『白竜よ……、満月の夜にまた来るが良い……。その夜がお前の旅立ちの時だ……。』
(満月の夜………、……確か明日だったか………。)
俺は朦朧とする頭の中で考えを巡らせ、そのままその場でグッタリとして寝てしまった。

翌朝………。
 朝日が差し込む神殿の中で俺は目を覚ました。
「……ってて……。体中がだるいな……。」
 そう言いつつも立上がり神殿を後にする。俺はそれから試練の旅に出る事を世話になった人に一人ずつ挨拶回りに出た。そして、一番伝えなくてはいけない大切な人に会う時には既に日は沈み、時間が残り少ない事を意味していた。
「もう……、白竜は毎回待たせるんだから……。」
 そう言って振り向いたのは長い美しい黒髪で身長は俺より低めで華奢な体付きの女性だった。
「ごめん……、遅れて…。」
 俺はすぐに謝ると、
「大丈夫、もう慣れちゃったからね。」
 彼女はすんなり許してくれた。

 暫くの沈黙の後、俺が話を切り出す。
「…で‥さ、伝えないといけない事が………。」
「旅に…出るんでしょ……?」
 俺の言葉を遮るように彼女は俺が今言おうとしていた事を口にした。
「知っていたのか……。」
 俺は頭を押さえ困った顔をしながら彼女に言った。
「うん……。ここに来るちょっと前にね…。」
「何だ……、少し遅過ぎたか……?」
 俺は苦笑いをしながら彼女を見る…。すると、彼女がゆっくりと抱き付いて来た。
「ちゃんと……、戻って来てね……、私……、ずっと待ってるから……。」
「あぁ……、必ず戻って来る……。」
 そう言って俺は彼女から離れ、神殿へ向かった。

 神殿に辿り着き、俺は像の前で意識を集中させる…。
『白竜よ………、もう良いのか……?』
 聖霊が俺に聞いて来る…。
「はい……。もう出発しても構いません……。」
 俺は真剣な顔をして像を見つめる……。
『白竜よ……、昨日我が話した事を覚えているか……?』
「はい……。人の体では困難な試練だと申されて……。」
『そうだ……。その人の体を一時的に姿を変える必要がある…。その為に昨日汝の体に埋め込んだクリスタルの力が必要だ…。』
「あのクリスタルが……?」
 俺は胸に手を当てる……。
ドクンッ………
 すると、徐々に体の鼓動が早くなり始めじわじわと汗をかきはじめ、途端に胸を締め付けられるように苦しくなり、俺はその場で床に手を付ける……。
「う…ぅぁ…ぁ…ぐっ…ぁあ……ああ…!!」
 胸の苦しさがジワジワと全身に根を広げるように広がって行き、俺は声になら無い叫び声を上げる。そして体の急激な変化が始まった……。
 体の隅から隅まで、至る部分の筋肉が著しく発達していき、身長も伸びて行く……。同時に尻からは太くて長い尻尾が揺れ動きながらゆっくりと姿を見せる。胴は徐々に筋肉質でありながら全体的にずっしりとした体格になり、反対に胸は筋肉で覆ったように逞しい体付きになり、首は太く長く伸びて行く。
「ぐぅおぁぁあ!!」
 俺は苦しさのあまり口を大きく開いて叫ぶ。しかしまだ変化は終わらない。手も筋肉質でかつ、指に変化が起り、五本あった指が三本に数を減らしながら指の先の爪が白く鋭い大きな物へ変わり、足も今まで以上に太く逞しくなり指は三本へ変わり、指の先には手と同様に白い鋭い大きな爪が現れる。
 それまでの体の変化で、着ていた服はただのぼろきれ状態になり、体に纏わりついているだけである。そのぼろきれから見える皮膚は全身は純白で首から背中を通り、尻尾の先までの部分は澄んだ碧い皮膚をしていた。
「ぐぉぉぉおぁぁああ!!」
 先程よりも大きく叫びを上げ、瞳から涙を滲ませる。すると顔にも変化が起き始める。叫びながら大きく開けていた口は鼻から下が前へ伸びて行き、歯は抜け落ち、そこから新たに鋭く鋭利な歯と大きな牙が生える。舌も顎の変化に合わせ細く長くなり、上顎の先端には新たに鼻孔が形成され、皮膚は体と同じく白くなり、首から頭を通り、鼻筋までが碧い皮膚に変わる。
 目は正面から横に移動して、黒い瞳から碧い澄んだ美しい瞳へとなる。頭は全体的に流線形になり、髪の毛は金色に変わり、光り輝く。
「グォォォォオオオオオ!!!!」
 そして鳴き声…いや、動物のような大きな咆哮を上げると、背中から大きな塊左右に三つづつでき、その塊を突き破り現れたのは大きな羽毛に覆われた純白の美しい三対の身長の二倍はあるであろう巨大な翼であった。
「ぐっ…、うぅ……はぁ……、はぁ……」
 そこには、明らかに人では無い動物……、伝承でしか聞いた事が無かった伝説の風の使い……、ウィンドラゴンとなった俺が息を荒くしていた……。

『……ほぉう……、なかなか龍の姿も……。白竜よ……、これを着るが良い……。』
 俺の目の前に一式の服が用意される。俺は初めて見るのだが、着方を何故か知っている……、そればかりかこれまで以上に風の力を敏感に感じる事が出来る……。そしてこれまでの異世界で起きていた出来事が俺の中に新しく記憶されて行く。着替えが終わる頃には俺にはありとあらゆる風の知識が記憶されていた。
『……、準備は整ったな……?白竜よ……。』
 俺はゆっくり頷く。
『では……、異世界への扉を開くぞ………。』
 俺の前方に空間の歪みが起き、その先には異世界の風景が広がっている。
『さあ、行くが良い!!シロン(白竜)!お前の試練の始まりだ!!』
 風の聖霊が俺に言い放つ。
「…ウィンドラゴンのシロン……!!いざ…、参るっ!!」
 俺は翼を使い羽ばたくと空間の歪みへ勢い良く飛び立ったのであった……。


‐終‐
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