ちょうど二年前になるだろうか、俺はここであるトレーナーと出会った。その時の俺は体も小さく、弱々しさが見て取れるぐらいであった。そして俺はそのトレーナーと共に『トレーニングの旅』と言っても良いだろうか…、最初は二人だけであったが、徐々に賛同する仲間も増えていきそして何よりも、旅の回数を重ねる度に自分の体に力と経験、そして体つきさえ変わっていくほど急激な成長を遂げるのであった。旅の終盤には俺の体は身長も伸び、筋肉も逞しく自分に自信が付くようにさえなっていた。
そして旅からトレーナーの住む街までの帰路で、俺とトレーナーのこれからを大きく変える出来事が起きることになる。帰り道には、自転車も通れないほどうっそうと丈の長い雑草が生えている道路があり、しかもその日は雷を伴う激しい雨が降っていた。俺はトレーナーを手助けするように必死にその草むらの中をトレーナーと共に進んでいた。
そして服もびしょびしょ、草むらの中を抜けてきたのでかなり汚れてしまった靴を纏ったトレーナーが草むらから姿を現す。後を追って俺も姿を現し、トレーナーは自転車に乗り、颯爽と駆け抜けていくのであった。
だが………、
その途中の橋で……、
悲劇が襲うことになるとは思っても居なかった……。
「後少しだからな、急ぐぞ!」
トレーナーは俺に話しかけるとトレーナーと俺は橋を渡り始めた。そして橋の中央付近に差し掛かったその時であった。俺とトレーナー目掛け空から激しい雷撃が打ち放たれたのであった。
「ぐあぁぁ……!!」
トレーナーと俺は声にならない叫び声を上げ、トレーナーは自転車から転び落ちた。そして橋から落ちてしまい、崖に激しくぶつかり、崖に偶然あった人二人分ぐらいの広さの出っ張りに何とか俺は誘導できた。しかし、力はあっても俺にはどうすることも出来なかった……。何故なら……。
「バシャーモ、もう良い……。」
トレーナーは俺に言う。俺の体は全身が鳥のような手足の毛は赤く、指は三つ鈎爪の様に鋭く、他の部分は黄色い毛で覆われ、身軽な体つきに逞しい筋肉が付いており、顔の皮膚は赤く、嘴が鋭く、二本の皮膚と同系色の角が姿を見せ、目は蒼く、頭からは二つのまるで髪の毛のようで羽のような物が見えている。
そう……、俺は人ではない……、バシャーモと言うポケモンなのであった。俺は
「何を言っているんだ!!」
と言ったつもりだったが、その声は鳴き声としか聞こえなかった。
「いいか…?バシャーモ……。今からお前にこれを渡す……。」
そう言って片方の手から何か不思議な石を取り出した。
「もう…俺は、助からない…。だが、お前は助かることが出来る。バシャーモ…、お前はこれから俺として生きていくんだ……。」
苦しそうな息づかいをしているトレーナーの頭部と、腹部からは鮮血が流れていた。その状態で俺に話をする。
「それにはこの石の力が必要だ。この石はな……。」
いきなりナイフを取り出すと、トレーナーは自らの手を傷つけ、石に血を数滴たらした。すると、石が光り始め、その光が俺を包み込む…。
体が……。
熱い……。
そして……。
俺の中に…タツヒトの記憶が流れ込む……。
光が消える頃にはそこには二人の人間……。しかも、同一人物が居たのであった。俺の今の姿はタツヒト本人の姿そのものであったのだ。
「だがな…これをやった人間は……。ぅぅぐぁぁ……!!」
突然タツヒトの体が光り始めると、光っている箇所から徐々に縮み始めていったのだ。
「タツヒト!!これはどういう事だ!!」
「バシャーモ…、俺は…『卵』になるのだよ…。ポケモンのな……。」
「!!!何故っ?!タツヒトが!?」
「お前にその石を通して俺の全てを託した……。そして俺は転生するのだよ……。」
「そんなっ!!タツヒト!!」
俺は叫ぶ。だが、そんな事をしている内にも段々と光が一つになっていく。
「バシャーモ……、いや……、タツヒト……。有り難うな……。」
「タツヒトーーー!!」
そう言ってタツヒトは瞳を閉じると、光に包まれ、一つの楕円形をしている一抱えぐらいある卵に姿を変えてしまったのであった。
「タツヒト…、」
俺はその場で泣き崩れるが、その時、卵から鼓動が聞こえていた。
「そうだ……、タツヒトは死んでいない……、生きているんだ…。この卵と俺の体の中で……。」
そう言って、俺はリュックに卵を入れ、崖を登り、何事も無かったかのようにタツヒトの家に帰ったのであった。
俺は出掛ける時は欠かさず卵を持ち出し、常に暖めていたが…、一向に殻が割れることが無い……。
そして…………。
今に至るのであった……。
「タツヒト……。俺はお前をどうすれば……。」
あの場所で俺は座り込み、ため息をついていた。
その時であった…!
パキッ!パキパキっ……!!
突然卵が孵化し始めたのだ!!そして…。俺の目の前で孵化したのは……。全身がオレンジ色をしていて、腹部は薄く黄色に色がついていて、背は小さく、手足には小さいながら爪がついており、尻尾の先には炎がついている。その姿は紛れもなく…、ヒトカゲであった。
そしてヒトカゲは大きく鳴くと、更に体が変化していく。身長が伸び、全身が筋肉質になると、頭から一本の角が生えたと思うと、更に姿を変え、角は二本に、腹部はどっしりとした体型になり、足の筋肉が発達していく。首も伸びて、身をかがめたと思うと、背中を突き破るかのように、大きな翼が生えて、尻尾は更に太く、大きくなり、そこにはヒトカゲから二段階進化したリザードンが姿を現したのであった。
そしてリザードンはゆっくりと瞳を開き、その美しい蒼く光り輝く瞳で俺を真っ直ぐ見つめている。
「バシャーモ……、待たせたな……。」
リザードンの口からは、タツヒトの声が聞こえる。タツヒトはやはり卵の中で生きていたのだ。
「タツヒトー!!」
俺はその場でタツヒトの『人』の姿からポケモンの『バシャーモ』の姿へ変え、リザードンに抱きついたのであった。
「おっと、どうした?バシャーモ。」
タツヒトが俺を優しく抱き寄せると、
「俺…、ずっと待っていたよ!!」
と涙ぐみながら俺はタツヒトの顔を見ていた。
「そうか…、目覚めが遅くて悪かったな……。」
ばつが悪そうな顔をしながら、タツヒトは言っていた。
「でも…、タツヒトのその姿……、格好いいよ……。」
俺は今感じた事をありのままに全て話した。
「そうか?でもなんでリザードン何だろうな?」
笑いながら俺とタツヒトは二年振りの、そして思いもよらない再会を心の底から嬉しく思っていた。
「じゃあ…、また二人で旅を始めるか…?」
「そうだね!!」
そうして、俺とリザードンとなったタツヒトのポケモンとしての新たな旅が始まったのであった。