時は狂王の試練場の時代、もしくはそのあとの話…。
光のほとんど射さない迷宮。石壁に覆われ、何やら苔むした匂いも漂う。そして、その暗闇の奥からは冷たくも殺気に満ちた気配がなびいてくる。並みの人間では近付く事さえままならない空間だが、かの地に足を踏み入れ、その奥に潜むものを手に入れようとする者達にとってここはその入り口でしかないのだ…。
闇の中、何かがうごめく気配がする。影に隠れてこそいるが何かが動いている。人間よりも小柄な体格に豚に似た顔を持つ獣人―オークである。獲物―この場合は主に迷宮で倒れた冒険者達―の肉を求めてうろつき回る迷宮でも最下層のモンスターである。
「…腹減ったな…そう言やこないだ獲物食ったのはいつだ?」
リーダー格のオークがつぶやいた。
「あ〜、昨日だったかな〜、それとも三日、四日…それとも…たくさん?」
子分格の一人が答える。何とも頼りない返事だが。
「…でもよ〜、やっぱり食うなら中くらいだよな。ヒゲ面はクセがあるし細耳は食い足りねえ。チビどもは今ひとつ…。」
「そうだよな、中くらいの奴らは男も女もうまいからな…ズルル。」
いつの事だったか、手傷を負っていた獲物達を奇襲した時の事を思い出し舌なめずりをする奴もいた。そんな話をしながら獲物を探すうち、一匹が何かを感じ取った。
「…クンクン…いい匂いがするぜ…。」
一匹が鼻を効かせる。それにつられて他の数匹も鼻を伸ばす。
「ホントだ。うまそうな匂いがするぜ。」
「中くらい、しかもメスだ。」
「おおっ、ごちそうだぜ…。」
「よぉーっし、行くぜ野郎ども!」
リーダー格の号令と共に一同は匂いの先へと走っていった。
薄明かりの中、それは静かに立っていた。
暗がりの中静かに立つ白い影。ほんのり浮かぶ白い肌と均整の取れた手足と体つき…彼らの言う中くらい―人間の女性の姿に見える影が静かに立っていた。その前に先程のオークの群れが現れる。
「…いい匂い…食ったらさぞかしうまそうだ…。」
一匹が鼻をくぐらせながらその物体に迫る。
ズルリ…。
そして、その舌を人で言うなら足に当たる部分にベタリと這わせる。
ヒュン。
その時、風がうなった音が響く。
ドスン。
その直後、さっきまで足をなめていたオークの首がそのままの顔で胴体から落ちる。よく見ると、白い影はオークの首をはねたであろう右足を静かに左ひざに当てている。この光景にさしものオーク達にもおびえが走る。
「ひええ…。」
慌てて逃げ出そうとするオーク達。そのうち一匹が何を血迷ったか貧相な剣を手に白い影に迫る。
「グォォォォーッ!」
ヒュン。
しかし、そいつが剣を振ろうとした瞬間、今度は左足が首を落とす。そして、白い影は静かに体を伸ばすと両腕にあたる部分を地に着ける。その姿はまぎれもなく巨大なクモの姿であった。
「バ、バケモノだーっ!」
「人に化けたクモなんて知らねえぞー!」
口々に言いながら逃げる。当然彼らは知らないが、この迷宮の下層には糸こそ吐かないものの高い繁殖性と猛毒を操り、群れを成して獲物に襲いかかる巨大クモの存在が2種類ほど確認されている。しかし、人間の女性に似た外見を使って獲物をさそうクモは今の今まで確認されてはいない。まして、迷宮の最上層で弱った獲物を狙う事しか頭にないオーク達がそんな存在について興味を抱く事などまずないのだから。
ヒュン、ヒュン。
ドタドタ逃げ回るオーク達だが、力尽きたものから順番に脱落し、クモの餌食になって行く。一撃で首を落とされるもの、一刀両断にされるもの…。そんな中、一人生き残ったリーダー格は辛くも逃げ延び、小部屋に逃げ込んでいた。
「はぁ…はぁ…ここまでくれば…。」
下卑た声で息を吐くリーダー。その頭上から例のクモが静かに下りる。一瞬、リーダーの視界の両端に白い物が見えた。それはリーダーの首を挟むように包むと…そのまま一回転した。
グキッ。
ドスン。
首を360度回されたリーダーはそのまま倒れる。その顔面にクモは頭部を這わせると、
ウアァァァァン…。
ブシュー…。
吼えながら糸の代わりにその口から多量のヨダレを吐き出すのだった…。
迷宮の深部。未だ迷宮の奥に潜む者にこそ届かぬものの、そのすぐ近くにまで進む力を得た者達がまた一組、迷宮の番人達と死闘を繰り広げる。
「でぃっ!」
「このっ!」
剣士二人が迫り来る下級魔族達を切り捨てる。
「いったん下がれ!」
魔術師達が強力な呪文を浴びせる。全てを焼き尽くす爆発が一面を焼き尽くす。
「やったか…?」
しかし、爆煙の中から呪紋を無効化した巨人が三体現われる。冒険者達は一瞬の行動を遅らせてしまう。その時…。
タッ!ヒュン!
一陣の風が吹く。
パーティーにいた一人の忍者が強力な足の一撃で巨人の足を文字通り切る様に蹴り落とす。
ビュン!
返す刀、いや、足でもう一体の首を落とし、スタッと地上に降り立つ。
グオッ!
残った巨人の一撃が忍者を襲うが、忍者は素早く前転して回避すると両手をついた勢いで飛び上がり…。
ガシッ!
両足でその首を挟むと…。
ブォキッ!
そのまま一回転した…。
全てが終わった時仲間達は忍者の技をたたえたが、覆面で顔を隠し、正体さえわからぬその忍者はただ黙して語らなかった。ただ、本人以外知る事のない"感触"をのぞいて…。
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