夢幻の奇跡ドラゴンソウル作 ポケットモンスター二次創作

 それは真夜中の事。
ホウエン地方のほぼ南に位置する南の孤島で、1人の少女がおろおろしている。
彼女の前には青年が頭から血を流したりアザが出来ていたりと、喧嘩か何かをした後の様に全身傷だらけで気絶していた。
ぐったりしている所をみると、徹底的に叩きのめされたのだろう。
「ど、どうしよう・・・。このままじゃお兄ちゃんが死んじゃうよぉ・・・。」
 おろおろしながら彼女は辺りを見回した。
無人島ゆえに誰もおらず、更に夜も遅く辺りは暗い。
このふたつが彼女の心をとことん乱す。
「うぅ・・・どうしよう・・・。早くこの島を出たいけどボートなんて無いし、こんな暗闇からは何か出てきそうだし、 うぅ、怖いよぉ・・・。」



 そもそも何故この兄妹が無人島の南の孤島にいるのか。
実はこの兄妹は親の心無い家庭内暴力に耐えかねて家出したのだ。
家出する時に親の目を盗んで、お金や食料を持てるだけ持って家出した後、
たまたまその中に入っていた乗船券を使って船に乗り、ジョウト地方に行こうとしていたのだ。
その船の中でガラの悪い大人達が2人の親が船にいない事を利用し、勝手な理由や不条理な理由で持ってきたもの全部を奪った挙句、
それを取り戻そうとした兄を徹底的に叩きのめし、大人達に刃向かったと言う理由で2人とも海に投げ落とされたのである。
妹は兄を支えながら海を泳ぎ、近くにあった島に流れ着いたのだ。

 そして彼女は兄を担ぎながら島の中を歩く中、かなり深い所まで来てしまい、現在に至っていた。
彼女は親の暴力で自分の心を打ち明けられる身内は兄しかいないが、その兄は暫く起きそうにない。
それに2人が今まで捕獲したポケモン達は例外無く全て親に取られてしまったのである。
2人は幾度となく返してくれと親に必死に説得するも、返ってくるのは心無い暴言と暴力。
お前達がポケモントレーナーになるなんて何年も早いんだよ!
そんな下らん事に金と時間を使うな!
ちなみにこの兄妹の親はポケモントレーナーの経験は無い。
それを嫉妬しているのか、それとも生活を余計に圧迫させないためなのか、
2人がお金や時間や愛情をかけて育てたポケモン達は、親が勝手に逃がしたり、誰かに譲らせたり売らせたり。
それにショックを受けて親になんて事してくれたんだ!と言えば、親に刃向かうなと言う言葉と暴力が返ってくる。
当然彼等は家出する時に親を思いっきり殴り飛ばし、大声を上げてこれまでの怒りをぶちまける。
それぐらいしなければ気が済まないのも分かる。



 家での心無い暴虐、理不尽な理由で荷物を全て取られ、更には海に投げ落とされ、2人の心はまさにズタボロな状態。
もしあの家に留まり続けたならば、この2人は恐らく精神崩壊を起こしていたかもしれない。
だが、問題なのは今後の事である。
このような辺境の島付近を通りかかる船なんてないし、ならばイカダを作れば良いと言う意見がでるが、イカダを作るために必要なノコギリやロープは無い。
おまけに食料も無し。
まさに死を待てと言うような状態であった。

「このままじゃ・・・ホントに私もお兄ちゃんも死んじゃう・・・。」
 彼女は泣き出した。
こんな時に親が勝手に奪い取ったポケモン達がいたら・・・、と考える。
その時だった・・・。

 周りが少しずつ明るくなり始める!
それは闇夜で暗い森を神秘的な色で照らし出し、彼女の恐怖を消滅させてしまう程だった。
「何・・・?」
 神秘的な明りが放たれる方向に目を向けると、これまた神秘的な色をした湖があった。
しかもその湖は2人が少し歩けば着く程の距離にあったのだ。
彼女は無意識に再び兄を担いで、その湖に近づいた。

「うわぁ・・・綺麗・・・。」
 彼女がその湖を見た感想はこの一言でしか表せなかった。
湖は神秘的かつ何処か優しさを感じる薄い水色をしていた。
更に湖の底は少し眩しく光っていたのだ。
おとぎ話や伝説に出て来そうな神秘的な景観が彼女の目の当たりに広がっていた。
「凄い・・・これならお兄ちゃんも・・・。」
 彼女は兄を湖の側まで動かすと、重さに顔を少しゆがめつつ、兄をお姫様抱っこで抱えてゆっくりと湖に浸す。
彼女自身もゆっくりと自分の体を浸して。
少し深い所に来ると、彼女は兄を抱えた状態で息を吸えるだけ吸って湖の中に潜った。

ゴポゴポゴポ・・・。
ブクブクブク・・・。

(不思議・・・水の中なのに息が出来る・・・。)
 やがて彼女は抱えた兄を少し距離を開けて離した。
兄は気絶したままだが、その体からはアザや流血の跡がなくなっていく。
その光景を見た妹は驚くが、それと同時に良かったと安堵の気持ちが溢れた。
(凄いなぁ、この湖・・・。お兄ちゃんの怪我を治しちゃうし、それに心の傷が塞がって行くような感じがする・・・。)
 彼女がボーッとなりながらもそう思った。
そして2人の体に変化が起こった。

 最初に頭が前に突き出て、額に真中が開いた逆三角の模様が現れた。
耳は長くなって斜め後ろに突き出た。
頭髪は徐々に頭の中に入っていき、彼女の目が黄色になった。
次は2人の背中からジェット戦闘機のような翼が現れた。
翼の先は指のような物が4〜5本現れた。
肩から肘までが細くなり、肘から下の手と腕は直結して短くなっていき、指が3本、折りたたみが出来るような形状になった。
胸には真中が開いた三角の模様が現れる。
彼女は水色じみた青、対する兄は赤だ。
体の変化も始まり、2人の体は真正面から見て徐々に楕円形になる。
首も長くなり、上半身は白くなり、下半身は妹は赤、兄は青と別れた。
足も変化し、妹の体からは三角形の尻尾が現れた(兄には尻尾が現れなかったようだ)。
こうして2人の変化は終わった。

(・・・。)
 彼女はボーッと変化した自分の体を見た。
同時に兄も目を覚ましかけた。
(そろそろ湖から出なきゃ。)
 彼女は変化した兄に抱きつきながら、湖から姿を現した。
バシャァァン!!
「ふぅ!何か気持ち良いなぁ。」
 彼女がそう呟いたと同時に兄が目覚めた。
兄の目は真っ赤だ。
「うっ・・・。」
「あっ! お兄ちゃん!」
 妹は目を覚ました兄に再び抱きついた。
「ん・・・!!」
「驚くのも無理ないよね。お兄ちゃんと私、こんなに変わっちゃったんだもん。」
「ヒカリ・・・。」
「私・・・、お兄ちゃんに死んでほしくないの。そんな時に見つけたんだ、この湖を。」
「・・・。」
「お兄ちゃんは・・・ユウイチお兄ちゃんは、私が心を許せる大切な家族なの。だから・・・。」
「・・・ありがとう、本当にありがとう・・・。ヒカリ・・・。」
 兄ユウイチは静かに、妹ヒカリは声を上げて泣き出した。
湖面に下半身を浸かりながら互いに抱き合いながら。
親に心を開けなかったヒカリにとって、ユウイチは唯一心を開ける大切な家族なのだから。


「お兄ちゃん、これからどうする?」
「そうだな・・・。」
 ホウエンの空を飛びながら、2人は今後の事を考えた。
事実上この2人はポケモンになったのだから、誰かに捕獲される可能性が高い。
でも2人は強い絆で結ばれた兄妹だ。
死ぬまで一緒にいたいと想う気持ちに変わりは無い。
「そうだな・・・、最近聞いた噂なんだけど、あるポケモン達が人目のつかない所で暮らしているって噂を聞いたな。」
「えっ!それ本当!?」
「あぁ。そのポケモン達は巧みに気配を隠しているけど、位置は何となく分かる。こっちが共存したい意思を伝えれば受け入れてくれるはずさ。」
「じゃあ早く行こうよ!」
「はは。お前なんだか急にせっかちになったな。じゃあ行くぞ!」
「うん!」
 2人はそのポケモン達が隠れ住む場所を目指した。



 やがて2人が出会ったポケモン達は何と、ミュウツーとスイクンが集結させたポケモン達だった。
2人の意思は親となったミュウツーとスイクンに伝わり、このポケモン達と共に暮らしていくのであった。
また、ヒカリは「ラティアス」、ユウイチは「ラティオス」と改名した。
2人は決して屈する事の無い強い兄妹愛で、常に離れる事が無かったと言う。

 完
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