旅は道連れ、運び屋道中お稲荷JKたまもちゃん!・まほろば小町ハルヒノさん二次創作 冬風 狐作
「ほぉ、鹿が喋っていた?」
「何かそんな気がしたんだよね、まっ気のせいだと思うけど」
 深夜の名阪国道、そろそろ伊賀一之宮インターも近く比較的軽快に走れる区間に入った辺りで助手席から聞こえて来た声に私はそう返した。
「ふうん、ちなみにどこで?近鉄奈良駅前?」
「どこって、平城宮跡のデカい門の辺り」
「あー朱雀門?太極門?」
「ほら、近鉄の電車が走ってる側」
「じゃあ、朱雀門かって言っても、流石にあそこまで神鹿さんは来ないだろうし…」
「ま、なんか気のせいだとは思うよ。ただすごく背の高い女性と高坊って感じの連れだったな」
「そうか、まぁ気のせいって事にしといた方が良いかもな。さて、ガス入れがてらコンビニ寄るぞ」
 冬の三重から奈良にかけての道中と言うのはイメージに反してかなり寒いもの、下手をすると雪までしっかりと降るから関東平野よりもきついのではないかと思えるところはある。
 この晩も雪こそ降ってはいないが、気温低下からのチェーン規制はかかっていて、途中で行われていたタイヤチェックに引っかかっていた車、専らは濃尾平野や首都圏のナンバーであったがを尻目に冬タイヤ装着が当然な地域のナンバーと言う事もあり、チェックもそこそこに通過してここに至るとはなっていた。
「はー雪がないってやっぱ寒いなぁ」
 インター、と言えども名阪国道の交差点に毛が生えた様な角を曲がってコンビニとセットになっているスタンドにてガスを入れる。流石に満タンで出発してきたとはいえ、300キロ強も軽バンにて飛ばしてくるといささか燃料には不安が出て来る。
 冷え切った深夜の空気の中、眼鏡越しに吐く息がとても白くなっているのを見やりつつ給油し、そして隣り合うコンビニ側に一旦車を回して、目覚ましも兼ねてホットドリンクやらを買い込んで外に出ると先に外で一服しているはずの連れが見知らぬ誰かと話を、それも親しげにしているのに気付いた。
 敢えて気付かぬ振りをして聞き耳を立てつつ、コーヒーをグイっと喉に流し込む。うん、ホッとすると思いつつ時に笑い声まで混じる連れと見知らぬ、そう女性なのは違いない。大分暖かそうな格好をしているのは当然として、特に首元をすっかり隠さんとするばかりに包んでいる襟巻と言うかが非常に目立つ。ただ同時に気付いたのはなんか被り物でもしているのか?との事だった、いやにリアルなそれは同時に被り物な訳がない、と私の中にある種の確信を抱かせてくる。
「おい」
「あ、ごめんごめん、放置しちゃって」
「すいません、お連れの方を捕まえてしまいまして」
 声をかけるのと重なる三者の声、そしてはっきりと見えてしまうその連れが話をしている相手の顔。違いない、人ではない、鼻先を黒く湿らせている犬、いや違う、狐の顔がそこにあるのを私は見て先の確信が正しいと意識の中で反芻しては、ほんの少し首を傾げては笑ってしまった。
「ん?どうかした?」
 連れの、幾らがトーンの外れた問い返しに軽く空いている手を振りながら私は幾らか笑みを強めて返す。
「いやいや構うとこはないって言いたいのだが…お狐さんが出るとは流石深夜の名阪国道だ、となっただけですよ?こんな時間に伏見のお稲荷さんが何をしてらっしゃる?」
 途端にそこには幾らかの静けさが広がる、それを破るのはすぐそばの名阪国道本線をヤン車がかっ飛ばしていく音なのが場所柄とはなろうが立場上、軽く頭を下げて返事を待つ私に対し、その"伏見のお稲荷さん"が返事をするのはもう数拍必要なものだった。

「本当、いきなり驚かせてしまった様ですいませんねぇ」
 それから幾らかしての車中、再び名阪国道本線に入った軽バンのハンドルを握りながら、私は後部座席に座る"伏見のお稲荷さん"に相変わらず笑みを嚙みしめつつ話しかけていた。
「いえ、良いのですけど…私の方が何でしょう、狐なのに狐に摘ままれた感が致しますね」
「はは、狐が狐にだなんて。ホントすいませんねぇ、もっと早くウチの馬鹿が気付いてればこう暖かい場所により早くご案内出来ましたのに…大丈夫です、お気になさらず。とにかく、ご都合なら幾らでもつけますよ?稲荷山までご案内でも構いはしませんが」
 暖房が良く効いた車内で交わされるやり取り、おさきと名乗るその白狐は先ほどに比べると幾らか固い顔をしつつ、とは言えどこかでホッとしたそんな雰囲気でいるのは良く伝わってくるものだった。
  「ああ、そこまでは大丈夫です。ただ、そうですね…大和郡山までよろしいですか?」
「良いですとも。ちょっと寄り道するだけですから、お安い御用ですよ、伏見のお狐さん。源九郎さんのお近くでよろしいですね」
 ええ、それでと返すおさきにまた笑って応じる私。その一方、このやり取りにすっかり黙り込んでいるのが先ほどまでおさきと盛んに話し込んでいた連れの方だった。どこかでやってしまったとも取れる顔をしているのがルームミラーから合わせて見えるもので、やれやれと浮かべつつ私は大きなあくびと合わせて舌を長くだらんと垂らしては、実に、自ら形容するのもアレだが獣臭い息を吐いてしまう。
 舌自体が明らかに長く、何よりそれをしまう口自体は前に突き出ていて矢張り鼻先は黒く湿らせている獣の顔と口。そこから大きく息を吐いては、いきなり車線変更してきた大型トラックをやり過ごして引き続き奈良盆地へ向けて走っていく。そう、今この車にはヒトならざる者が2人乗っている、そしてそれを理解したからこそ連れのヒトは静かになってしまっているそうした構図だった。
「おっとすいません、犬臭くしてしまった様で。窓開けましょうか」
「いえ、大丈夫です。それにその、あなたが単なる獣ではないのは分かりますよ?そう接点はないですけれど、お犬様でしょう?」
「如何にも、先にも紹介遊ばせた通り、東国の狼の眷属がいち、とはなります。まぁこう余り見せるものではありませんが、白狐のあなたを前にしたらどうも隠せなくてすいませんね、ご不快ならば申し訳ない」
 再び急な車線変更をしてくる別のクルマを避けつつ、また大きく息を吐いてしまう。如何にも、と言葉にした通りに私もまたヒトの身ではない。正確に言うとヒトであったのがある時にふとした事でこの姿となって、の過去があるのだが分かる相手に明かしているのは大口真神に連なる眷属の狼がひとつ、それは確かなものだった。
「しかし、おふたりはどんなご関係なのです?」
「言ってしまえばペアの運び屋ですよ、私がサーバントで彼がマスターな訳ですが…ほら、もうそんなに硬くなるなって、な?」
「そ、そうは言われてもねぇ?まさか話していた相手が伏見のお稲荷さんだなんて、ここが山城国ならともかく伊賀国でそれは思わないって」
「ですよね。本当、私が驚かせてしまった様でごめんなさい、てんこ姉様に知られなければ良いのですけど」
「てんこ?ああ、あなたのお姉さんの事は人伝に聞いた事はありますねぇ、いやぁ本当強いお狐さんをお乗せしているものだ」
「えってんこ姉様の事、ご存知ですか?」
「ええ、知っていますとも。まぁ伝手のある関東のとある稲荷狐を介して評判を聞いているだけですから、直接面識がある訳ではございません」
 ははあ、とどこか安堵したかの様なおさきの返事。それに私はすっかり狼の顔に変じたまま引き続きハンドルを握っていく。

 話が弾むのは何とも時間の進みを忘れてくれるもので気付いた時にはいつも休憩する針インター付近を通過してしまい、いよいよオメガカーブへと差しかからんとしているところだった。
「休憩とか特に良いですよね?」
「休憩したらその顔がばれるでしょ、伏見のお狐さんより化けるのは狼のアンタは下手なんだからさ」
「はいはい…そうだ、さっき連れが面白いこと言っていたんだけれど、奈良の神鹿さんで私やおさきさん、あなたみたいに振舞う方っていらっしゃいます?そう朱雀門辺りで見かけたって言う話をついさっきしていたものだから気になりましてね」
 そろそろ車は高峰サービスエリアに差しかかる頃、エンジンブレーキ使用を訴える標識に従いながら先にしていた話を思い出して投げかける。最も何か知ってると踏んでではない、単に話のネタに、として振ったはずが返ってきたのは肯定の返事だった。
「えっ、あの神鹿さんでもいらっしゃるんですか」
「そうですそうです、ま、私達稲荷の狐と比べると土地との繋がりが密接ですし、そう出歩いているとかはないみたいですけど見かけますよ」
 飄々と話すおさきに私と連れは切り口は違うとは言え、矢張りかとうなずくしかなかった。そう連れは以前に奈良に来た際に朱雀門近くで見かけた喋っていた鹿は今、車中を共にしている狼と狐と同じ類だと。そして私はそうと知れたからには慎重さが幾らかいるな、と。
「慎重に…ですか?」
 そしてそれはおさきに読まれたらしい、オメガカーブをぐいぐいと下り行く中、一旦静まり返った車中に良く通る彼女の問いかけ。それに私は幾らか打たれた様にうなずいて、その通りと返す。
「ま、運んでいるモノが運んでいるモノですからねぇ。慎重にしないと行けないっていうのは違いなくて、ええ本当に」
「運んでいるモノ、ああとても力があるモノを運んでらっしゃいますね。こう、これは許可の…御札?」
 流石は伏見の稲荷山に仕える白狐だ、と私は唸るのみだった。如何にも、と返して続けるは恐らくは春日の神鹿さん方にバレても大人の対応はしてくれるでしょうが、後ろから雷をぶつけられるか、あるいは相撲勝負を仕掛けられるか、どちらかは覚悟しなければなりませんね、とだけ返しては半径150メートル6パーセントの行勾配をグイっと通過していくハンドルを強く握ってしまえてならないものだった。

「いや、凄い濃い時間だったなぁ」
 ようやく助手席の連れがいつもの調子で話し始めたのはそれから1時間ほどしてからだろう。もう後部座席にはおさき、伏見の狐さんの姿はなく、私も顔を人に戻して一路奈良盆地を南に向かって、本来向かうべき方面へとまだ深い冬の未明の道を走っていた。
「その台詞は私も、だねぇ。やぁ驚いた、驚いて顔が狼になってしまったのは許してくれよ。そうでないと釣り合いが取れんかったからね」
「でも、私の眼にはヒトの顔に見えたよ?あのおさきさん、君が狼の顔になってからは白狐の顔にしか見えなくなったけどさ」
「そうしたもんよ、まぁやっぱガチモンは強いって訳で。さて、でも予定通りつけそうだね」
「ま、時間調整として良かったんじゃない。えーと国道309号はもう直であと35分か」
「所要時間は看板見た通りだろ?ま、いいさ、安全運転で行こう、雷が追って来ない内に」
   始発電車の前の点検作業を終えたと思しき作業員達の姿を並行する線路に見ながら、ガラ空きの国道を行くハンドルをまた強く握る。今日の運び屋としての役目は、そうおさきに見透かされた通り許可証、もとい本来ならば禁忌とされる行為を神の名の下に良しとする御札を運ぶものだった。
 それは諏訪明神が威の下に出される肉食を良しとする"鹿食免"の事。大口真神が力の下にある私からしてもそれは実にヒトの身でいる時に助かるのであるが、そもそも肉食を禁ずるきっかけとなった仏教が伝わり力を得た大和国、かつそこを統べる春日明神の使いは鹿にして密接に関わりがある武甕槌命は建御名方神と因縁強くある神。
 即ち国譲りの際に反対した建御名方神を出雲から諏訪へと相撲にて負かし追いやったからこそ、神話の時代は遠くなれりとは言え機敏さは求められるとなるばかり。
 最も、上手くやってナンボなのもまた事実。とにかく伏見の白狐たるおさきを相乗りさせる思わぬ出来事があったのもまた楽しい、と感じてはまだ夜闇深い、奈良県の南の大部分を占める山間へ向かう。そう言えば何で伊賀のあんな場所におさきはいたのだろうと、肝心な事を聞いてなかった事を思いつつハンドルを切る狼の運び屋たる私なのだった。


      完
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