いるべき世界ではなけれども 冬風 狐作 遊戯王二次創作
 どうしようもない事にこだわるのは時としてあるもので、ここしばらくは昔に友達と遊んでいた、あるいは友達が夢中になっていたものについて考える事に耽る事が多かった。
 自らもした事がある、つまり前者のパターンならばその多くは昔を思い出せる、懐かしむの応用として接する事が出来るものであり専ら気晴らしに近いところがある。例えば幾らか電車に長く揺られる時、あるいは銭湯に行って浸かりつつ巡らせる、そんな時には実に相応しい。
 しかし後者となると幾らかコツが要る、何せどうして親しい友達がしていなかったのに当時の私はしていなかったのか、との点に至る事もあるし、そちらではなく一体友達はそれで何をしていたのだろう、との方向に逸れる事もある。
 場合によってはどこかで悶々と気持ちを巡らせてしまい、本来注ぐべき事柄への集中力を削いでしまう。故に何かをしている合間と言うよりも微睡んでる布団の中だとかでするのがよろしいところがあり、そのまま眠りに落ちて目を覚ますと合わせて何かしら考えていたけれど、と眠気と共に忘却に付してしまう。言わば思考を幾らか調整する、とでも評せそうな点がそこにはあるな、と我ながら思えるものだった。

 だからその日も私は大きく溜息を吐いて転がりつつ、今はすっかり付き合いのなくなってしまった友達が夢中になっていた、正確に言えば付き合いが疎遠になるきっかけとなったモノについて考えていた。
 それはいわゆるカードゲーム、私も最初の頃は幾らかは付き合っていたのだがのめり込んでいく彼の勢いについていけなくなり手を引き、そのまま関係も弱まって、となったもの。最もある程度までは付きあっていたものだから、冒頭に掲げたふたつのパターンに当てはめるならおよそ中間だろう。
 故にある程度そのゲームの仕組みだとかキャラについては覚えているし、それもあってどうしてそうなってしまったか、と巡らせるのから次第に逸脱してどのキャラが好きだったか、との方向にいつの間にか意識はシフトしていた。
 しかし、手を引いてからもう幾年も経過しているから記憶はどうしてもあやふやになるもので、何時の間にか私は枕元に置いておいたスマホを引っ張り込んで色々と確かめるべく検索をかけていた。確かこれだ、とカード名等を打ち込んでみると結構誤字脱字だらけで、脳裏に残るイラストの姿と改めて重ねつつ、ああそうだそうだとどれだけなった事だろう。つまり次第に懐かしむ流れへと更なる遷移を遂げていた訳であり、そこに次第に重なり行くまどろみがまたそれを歪めていくのは避けられぬなもの。
 加えてその時、私は寝る前に軽く一杯飲んでいたから良い具合に回ったままの高揚感がますます、とそれはもう正気でなかったのだけは確かだった。そしてふと思い出す、そう言えば、と、確か捨ててなかったはず、そうすっかり忘れ去っていた記憶がどこからかむくりと起き上がってきた瞬間、布団から這い出て長らく閉じたままの段ボールの蓋へと手をかけていた。
「そうそう確か、ああ、これだ」
 それは実家を出て独り暮らしを始めた時に私物を纏めて持ち出した際の段ボールのひとつだった、正直言うと生活に必須なものではなかったし惰性的にそうしてしまった感が強かったから、何時か整理しようとクローゼットの奥にしまいっ放しになっていたもの。だから具体的に何が入っていたか、普段は意識もしなければ、たまに意識を向けても何だっけなぁと全体に対して思っていたのだが、今日は先にも触れた通りに思考がぐるぐると渦を巻いていたからそれらが噓であるかの様に中身を手繰り、奥から引き出したのは大分変色したプラスチックケースだった。
 留め具も大分傷んでいて、勢いで開けると取れてしまいそうだったから力加減も調整しながら外して、とすれば中からは幾らか埃臭い香りが一瞬だけ鼻腔を刺激しながら散っていった。更に手にするのは複数に束ねられたカードの数々、恐らく考えもせずに輪ゴムで括ったのが災いして表側にあるカードの表面にはゴムの跡がついて傷んでしまっていたものだし、輪ゴム自体が引くと簡単に千切れてしまうほどボロボロな状態となっていた。
 それらを除けながら私は今、脳裏に浮かんでいる、即ちケースの隣に置いたスマホの画面に表示それているカードを探していた。この束にもなく次の束にも、と繰り返し中々出て来ないのに記憶違いだったか、捨ててしまったか、との思いも重なり始めた矢先、大きく首を縦に振ってしまう。
「おお、これこれ…やっぱ簡単に捨てないでおくものだなぁ、とは言えついさっきまである事すら忘れてしまっていたけど、さ」
 手にしたカードを見ながら、自らに対する突っ込みを含めた独り言をつぶやいてしまう。角度を幾らか変えて、またかざしては懐かしいと思いつつ何を思ったのか、私はそのカードを机に置くなりスマホカメラで撮影して、そのままSNS上へと投稿してしまう。
 付したコメントは懐かしい、と合わせて保管の仕方が悪かったから汚れがついてしまった旨を記したのだけは覚えている。しかしそこで限界が来たのは確かだった、幾らか高まった眠気と醒めつつはあるが残っているアルコールとが不意に全てを満たして、ぱたりと布団の中へと転がり込んでしまったのは違いなかった。

 目を覚ました時、大きく息を吐いてしまった。点いていたハズの電気は消えていた、ただスマホの画面と思しきまっすぐな明かりだけがぼんやりと辺りを照らしていた。
 正に寝落ちだな、と思いつつ私は時計を見ようと身を起そうとした。しかしどうした訳だろう、胴体が全く起き上がらない。正確に言えば足には力が入るが腰に力が入らずものの見事に自らの体重により布団へと押し付けられたままだった。
 まだ夢を見ているのだろうか、夢の中で夢をか、と妙に鮮明に浮かべたるなりある事に気付いた。それはまっすぐな明かり、つまりスマホの灯りだと思っていたものが明らかに目の前、つまり天井の側にあって私に対して照らされる形であり、次第にその明るさを増しながら迫ってきている事に。
 正にそれは夢であって当然の光景としか言えない。足だけをばたばたとさせながら私は胴体、特に顔の側に近づいてくる光に瞬きすらせず注目してしまえる。
 まぶしい、実にまぶしい、金縛りとの訳ではないのかもしれないけれど遮りたい、そうした思いが段々と浮かんでくるなり不意に片腕を真っすぐ突き上げてしまう。それはおよそ封じられていた発条が一気に弾けたかの様で、その指先にし何か四角い物があるのが見える。そう、それは保管の仕方が不味くて幾らか汚れてしまっていたあのカードであった。
「汚れてしまったならきれいにすれば…良い、か」
 途端に脳裏にはいつも使っているSNSのリプ欄が浮かんでくる。大元にあるのは確かに寝落ち前に投稿した写真付きのもので、そこにはアイコンが初期表示のままの誰かからのリプがついていて、そこに記されていたのが先に書いたつぶやきの通りのもの。重ねて思考が巡っていく、そう汚れてしまったならきれいにする、それ自体にするのが難しいなら真っ新な状態から起こした方が手っ取り早い、そう真っ新な白紙の様な何かにもう描き起こした方が良いに違いない、と。
 その何かと自らの事である、と私は意識した。ますます迫ってくる光が突き上げた先にあるカードと腕先を包むのを見たのは正にその時の事で、途端に熱の様で熱ではない何かが手首から先に満ち、痛みもなく弾けるのを感じるのと合わせて思う、ああもう遮る必要はないのだと、何故ならその光は私の中に取り込まれてしまったのだから、と。
 もう先ほどまでのまぶしさはその通りどこもなかった、ただ明るさは相変わらずあるもので今は左腕の肘から先が明らかに発光していた。更に言うならその範囲は次第に肩へと向かってきており、先端からは光が落ち着くのと引き換えに明らかに新たなワタシの姿が現れていた。そう、あの汚してしまったカードの中に描かれていたキャラクターそのものの姿であるのは違いなかった。
 まずは金色のしっかりとして厚手のグローブ、幾らか慣らしがてら指を動かしていると幾らかの引き攣りを経た後には特徴的な内反りの刀がしっかりと握られる形で姿を現していた。見える肌は幾らか濃いめの紫色、更に覆い隠す様に手首から肘を経て肩までをグローブと同じ色をした肘当てがおよそ二の腕の半ばまでを包んでいく。
 その時には光は肩から胴体へと主に輝ける場所を移しており、合わせて体が何の違和感もなしに、文字通り白紙に描き起こされていくかの様に変容していった。全てがしなやかに滞りなくしっかりと、肌は須らく紫に、そして金の防具や装束がそこに重ねられていく中で黒い胸当てに包まれた鳩胸は程よくたわわな双丘、つまり乳房へと変容していく。
 金色の部分は時には皮膚そのものにも刻まれていき、身に纏う防具と肉体そのものを一体化させていく作用がある様だった。特に大腿部に飾りの様に走る幾重もの金の筋は正にそうで、膝から下の大きく前ほと鋭角に尖ったブーツ状の防具と肉体そのものを不可分にする事、この上なしとなっていた。

 左腕の先端に取り込まれて以降の光はそうして胴体を経て四肢の全てを巡っていく。部位が変わる度に光加減だとかかには斑があって、それは正に満ち欠けそのものであるのは違いないといつのまにかワタシは目を閉じていながら知っていた。
 その変化具合は脳裏にはっきりと見てなくとも映っていたからどこがどうなっていくのかは手に取る様に分かるもの。ただ恐れる気持ちは全くなくむしろ憂いどころか解きほぐされていく、そうした満ちていく心地の内にふと開かれた眼は爛々と金色に満ちていて、頬骨に走る幾らか濃い紫の筋により一層引き立てられているのは違いない。
 今や爪先には黒く鋭い爪があり、それ等はヒトの五指ではなく獣、即ち大型のネコ科らしいたくましい四つ指より生じている。もう一つの爪は踵には見当たらぬから、先にも触れた膝下に手前に良く突き出た防具がそれを象徴しているのは明白だった。
 その頃にはもう布団の内にその身はなく、部屋自体に狭さを感じる程度の体躯に変貌して起立していた。地を踏む足、首を振りつつ両手を動かせば飾りのついた内反り刀が幾らか埃っぽい部屋の空気を切り、何だか急に澄んだ空気が流れ込んでくる、そんな感すら抱けてしまう。
「はああ…きれいになっちゃったな、こちら側に起きちゃった」
 開く口の内には鋭く真っ白な牙が垣間見えるもの、そしてまた刀を一振りして見れば次の瞬間にはその身は部屋の中にはなかった。そうどうした訳か深夜の家並みを見下ろす高い空を駆けていた、それもかなりの速度なのは鼻筋を挟んだ顔を覆う半月上の半面にまた大きく靡く腰布と淡い金の髪と飾りで良く分かった。
 とにかくワタシは久々に表に出れた、との意識を抱けていた。とにかく今はそれを体の全身に刻みたいとの一心で、多くの人が眠りについている深夜の街の空を駆け行く。とにかくここは本来あるべき世界ではないのはワタシ自身が分かっている事、ただ今はこの新月の闇夜を照らし輝く虎の姫、そう月光舞剣虎姫として顕現したからには飽くまで夜を駆けてみよう、それしか頭にないまま、こだわらずににまた雲を一刀斬りながら行く身となるのであった。


 完
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