栓とドール・第1話 冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
 大都会の喧騒、そしてその中に様々に漂う臭いを好ましいと思う様になってもう久しかった。昔は何とも感じていなかったものが今となっては、と言う典型的なパターンであって今日もまた、鼻腔に入ってくるそれ等へのふとした心地良さと共に感じながら街を歩いていた。むしろ雑踏でないとこの気配が味わえない、と言う事もあってこう言う場所が大好きで仕方なかった。
 そう臭いを楽しめるのは評価が分かれるかねしれない。だが少なくとも異臭と感じて顔を顰めるよりもずっと精神衛生上良いだろう。つまりメリット、と言えてしまえる訳であるが同時にデメリットもコインの裏表として持ち合わせるもの。この場合は臭い、更にはこの臭いの発生源であり、そして心地良く思えてならない雑踏の中は、1人であれば容易に処理出来てしまえるものも、こうも多くの視線のある中では出来ない場合があるのがデメリットだった。それは困難を生み出すだけではなく、その「処理すべき事柄」は場所を選ばずにいきなり生じるものだから性質が悪い以外の何物でもなかった。
 だから今、それに見舞われてしまった僕は可能な限り人とぶつからない、しかし素早く雑踏を駆け抜けると言う2つの課題を同時に果たさねばならなかった。急がねばと念じつつ、それは必死で先ほどまではただ楽しんでいた人の波を横切らねばならない展開。当然心中は穏やかではない、何かに追われている、堰き立てられているとの感情で心臓は強く拍動して止まない。脂汗は当然激しく、それだけ切迫していた事を全身に嫌と言うほどに示す。
 とにかくその足は人を回避しつつ、ひたすらある場所へ向けて街角に街角と街角を曲がり行く。確か、確かこちらに行けばと言ううろ覚えの脳内地図に従った挙句、ようやくそれらから解放されたのは白い無機質で、軽く饐えた臭いと水気の漂う狭い空間だった。
「うう・・・またかよぉっ」
 ガチャガチャと言う音はベルトの金具の揺れる音、声はどこか弱弱しくもある、そしてその声よりも力強いのではないかと言う荒い呼吸はズボンを下げて現れたむっとした熱気を強く鼻腔と口腔を介して体内に取り込んでいた。
「は・・・ぁ」
 その熱気は独特の臭気を伴っていた、即ち体熱を源として生じた熱、共に発生した汗からの水蒸気の混合物によって生成された物だった。それは1つの単語で示すならそれは体臭だろう、汗臭さと言うべきかも知れない。だが僕はそれに特別の、少なくとも不快だとか負の感情は抱けない。むしろようやく落ち着けた証でしかなかったし、体をある程度冷却させて気分爽快に導いてくれる清涼剤なのだ。
 だから次第に体へと一定の落ち着きと緩みが再び戻ってはくる。しかし同時にそれは一瞬の狂乱にもたらされた束の間の休息、そう一瞬雲が晴れただけであり、その下で生じていた本質的な変化がいよいよ表に現れる、そんな主役交代の経過の一幕でしかない。つまり経過の半ばでしかない瞬間である事を、尚も強く漂う臭いを鼻腔でたっぷり味わいながら僕はすっかり承知していた。だから僕の関心に従って、じっと新たに生じつつある堅さと熱の根源へとどこか熟れた眼球は視線を向けていくのみだった。

「くぁ・・・っ」
 そうして見つめる僕の股間、それを自分で言うのは何だかおかしくはあるが実は結構大きい。つまりいわゆる巨根と言う訳で、太さもあり長さも20センチはある。睾丸も大きく、正直そう言うのが好きな人から見たら絶対襲われてしまいそうな、そう言う性器がそこに鎮座している。だから勃起するとそれはもう硬いジーパンでもすっかり押し上げてしまうほどで、まだ思春期の頃は朝になる度に大きくなって、ズボンの柔らかい生地だから外に出てしまっている事も時折あったので、それが嫌で仕方なかった。
 そんなイチモツは当然、熱気を帯びていると書いた様にすっかり大きく勃起し、湯気が立つのではないかと思うほど先走りが既に漏れていて、パンツはおろか今脱ぎ捨てたジーパンにも湿り気は及んでいた。僕は思わずその竿を握ってしまうがそれは片手のみ。そしてその手は何故だか上全体へ竿と、更にそこにつながっている睾丸を持ち上げる様に動かすなり、残りの片手はその下、睾丸が持ち上がってさらけ出された蟻の門渡り、そう呼ばれる辺りへと届いて軽く弄る様に触れていく。
 普通その場所は滑らかな、言うなれば両尻のつながる窪み、つまり境界としての役割しかない。また位置的にも陰部と陰部の間であり、正しく陰部の中心と言える場所であるから意識する事はあれ触れる事とかは滅多にない、そう言う場所である。
 しかし僕のもう一方の手は今、そこに触れていた。そして何かを掴んでいたのだ、滑らかで特に何も無いはずのそこにある出っ張り、それを掴んで引き抜こうとしていた。先ほどの喘ぎ声はそれに触れた事によるものだった。体の真に正に来る刺激、そう快楽の刺激により思わず漏らしてしまったうめき声は掴めば掴むほど、荒い息と共に小刻みに漏れて行ってきりが無くなっていく。
「あ・・・いゃ・・・いい・・・っ」
 うわ言の様に漏らしつつ顎はすっかり上に上がって口は息も絶え絶え。何より股間が広がっていく、熱い火照ったそれから逃れたい、と言わんばかりの細かい震えと共に姿勢はより傾斜して便座に身を委ねていく。そしてじりじりと股間の出っ張りを掴んだ手は、そう言う状況へとなっても確実に動いていき、強く熱が外に奔出すると言う感覚を感じた時にはそれはすっかり体の中から抜け出でて、手に握られたまま僕の顔より高いところに掲げられていた。
「ああ・・・栓、また抜いちゃった・・・っ」
 それを見て実感しつつ僕は力なく呟き脱力する。熱は一時よりも収まっていた、しかし体の芯にこもる熱はとても収まったとは言えない。むしろ表面がなまじ放熱されてしまったせいで余計にこもる熱の色合いが濃くなってしまった、その様な灼熱感が体内の粘膜を通して伝わってくる。
 そしてその狭い便座の上に背中をすっかり預ける姿勢になって、股間を広げてさらけ出していた僕は何時しか止まっていた手を動かし始めていた。それはイチモツにずっと添えられていた手の方で竿を掴んでは揉み、また扱きと腹の上に横たわった太いそれを刺激しまた熱を生み出していく。しかしあくまでも規則的な動きと言うかで、少なくともイチモツを刺激してより快感を得ようと意識している訳ではなかった。
 では一体何の為にそれをしていたのだろう?
 それは、そう既に書いた様に熱を得る為だった。表面は冷め、しかし内面ではまだたぎっている熱をより強めるべくの行為。目はすっかり濁っていて脳みそすらも湯だっている様な具合の中、射精に幾度も至るがあくまでも「現象」として至ったに過ぎず、軽い痙攣と喘ぎ声が漏れる以外は特段の反応はでない。
 体内の熱は射精する度に強まっていた、内臓も筋肉も骨もとろとろ煮込まれていくような感覚すらになっていく。だが外面は精液と汗で汚れていく以外に特段の変化がないのは、一種の菓子パン、つまり中にチーズだとかベーコンが入っていて温めると中はとろとろになっている、あの具合を浮かべると分かりやすいだろう。そして時としてその菓子パンの中身が爆ぜて表面を変える事がある様に、僕の体も次第に中身が爆ぜていく。そしてそれは決して体の表面を突き破る事はないままに、むしろ熱で軟化したからか中の変化に合わせて膨らんでいく、そう随所でむくっむくっと爆ぜる度に膨らんでいくのだ。

 本来なら肉体と言うのは皮膚も内臓もどこかでつながっていて、極論、それ等は便宜上着けられた体を構成する塊の部位の名前でしかない。しかし今の僕にはそれは前述した菓子パンの例えの如く通じなくなっていた。中身は中身であり、表面は表面と言えるそれはすっかり異形と言うに相応しい、巨大な豆でも入っていそうに丸く均質な形に膨らんだ胸。そして元の体からすると一回りも二周りも体の節の部分は忠実に括れてはいるが、それでも膨らんでむちむちっとなった体はとても僕が僕とは思えない姿であった。
 何より、再び股間に目を向ければそこにあの僕のイチモツの姿は無かった。勃起しているものは確かにあるがそれはおよそイチモツの姿ではなく、その下にパックリと開いた穴があるのを見ると女性器の一部、クリトリスであると言うのが位置的に相応しいだろう。そして開いた穴、割れ目からは熱い液体、愛液がどろどろとこぼれて盛んに片手を突っ込んでは弄り、刺激を僕は貪らずに入られなかった。
「は・・・はぐう・・・ううん・・・っ」
 喘ぎ声は一時よりも強く漏れていた、ただそれを出す口には唇の気配は無い。こちらもまた股間の割れ目と同じく丸いぽっかりとした穴でしかなく、そこにはあの僕が先ほど股間から引きずり出した「栓」が突っ込まれていて、その先端を口の中で盛んに舌で愛撫していたのだから。そしてその表面、つまり体の表面全体へと目を向ければそれは幾らかの色に染まっているのが見える。1つはクリーム色、ほんのり黄色の乗った暖かい色合いがその多くの箇所を占めているのが目に付く。
 それ以外では比較的明るめの茶色、そして淡いから濃いまでの緑色が体の端々に見当たる事だろうか。茶色についてはつま先だとか手先だとかその辺りをはっきりと覆っているに過ぎないが、緑色についてはその色に染まっている部位が特徴的な形状をしていて興味深い。まずは腕と足に額そして胸にあるのは正に葉っぱ、と言う様な形状とカールをしているし、更に垂れているものの耳と思しき形状をしている箇所には薄い緑から濃い緑へとのグラデーション。それは耳の付け根近くから先端まで及んで、楕円形に茶色くも染まっていた。
 そして茶色いのはもう1つ、そう鼻である。ちょこんと、逆三角形の茶色に染まったそこを頂点として顔は滑らかな傾斜を全体に得ていた。その中にあの丸い口が位置しているのであり、目の回りも大きく窪んでその中には僕の瞳が位置していた。そうそこだけは僕のままだった、盛り上がる事も何もせず熱に熟んだ眼球が、眉毛やまぶたと共に位置していて先ほどから涙が止まらない。
 だがそれは悲しいとかそう言う事情から漏らしているのでは決してない、漏れ出すだけで熱さを強く瞳に感じさせられる、一種の嬉し涙に咽びいていたのだから。そう喜びの感情の爆発なのである。

「う・・・あヴ・・・いひ・・・らめぇ・・ごひゅひんさまぁ・・・っ」
 もうしばらくするまでも無く僕の中に羞恥心も何も残っていなかった。鈍い動きのままひたすら股間で太くなった指を動かし、口の唾液と共に熱い愛液を床に垂れ流す。当然それ等は臭い、そう臭いのだ。だからその穴を塞いでいた口に今は突っ込んでいる「栓」はとても臭くて、苦くて、でもそれを味あわない事にはもういられない己に対する葛藤だけはわずかにあったろう。
 だがそれ以上に抱いていたのはこの様な体へと変貌してからとなると、唯一元に戻せる術を知っている人物の到来を心待ちにする気持ちだった。それは「ごひゅひんさま」、そう「ご主人様」である。
 最早一定の間隔を置いて自然と発情させ、この姿へと変わってしまう人でない存在、ラブドールへと僕を堕としたあの方の到来。僕はそれを待ち焦がれては鈍い動きで快感を貪る1体のリーフィアドール、そうとしかもうこの姿ではなくても己を認識出来ない、それが自然だった。
全身から沸き立つ、特に穴から漏れ出す臭い、興奮を誘う香りを強く吸い込み、そしてただ欲望を発散される為だけに存在する陰部の穴、それを塞ぐ栓を矢張り欲望の為に存在するもう1つの、口とヒトであれば言われる穴に咥えた生きたラブドール。それはご主人様がこうなった事に気付いてやって来るまでの時間、それは溶けて狂ってしまいたいほどの愛しい時間へと堕ち続けていくのだった。もうヒトの目はどこにもないのだから。


 続
 
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