ポケモンゲットだぜ!冬風 狐作 ポケットモンスター二次創作
「やった! ○○を つかまえたぞ!」
 その画面にそんな表示されてから一体どれだけの時が経過したのだろうか。AC電源に接続していた事から長い事停電してバッテリーが尽きない限り、きっと消える事の無い画面とBGMはこの薄暗くなった部屋を照らし出してこだましている。
「はあ・・・どうしよう」
 僕は体育座りで、膝と胴体の間の谷間に軽く顔を沈ませながらふと呟いた。夜になると自然に点灯する仕様の壁掛け時計の数字は静かに今を告げると共に、更に未来へとその数字を重ねていく。そしてそれを見れば見るほど僕はどこかで切なく、そして不安な気持ちに包まれていった。
「もうこんなに時間が経っちゃって・・・これだもんなぁ」
 そう呟く僕の口は矢張りどこかで感覚が違っていた、何と言うのだろう。そう長い、明らかに重みが動かす度に感じられる、そう言った物をたたえたマズルが僕の口だった。とは言え鋭いとかそう言う印象はない、むしろ丸っこくて軽く上向きに突き出た感じが、中途半端とまでは言わずともかわいらしさとしてそこにあったろう。マズル全体が黒く、そして先端の鼻の部分はほんのり赤色、しかしその丸みに逆らう様な口元にて下顎から伸びた鋭い牙がただかわいいだけではない、と言う印象を数時間前に見て僕は感じていた。
 そんな顔をふと撫でて実感している手も似たような物だった、肘の先は黒くギザギザな形をした境目から先は灰色で構成された毛皮の下。爪はあってもそう鋭さはなく、肉球のぷよぷよとした感覚がどうも慣れないのは相変わらずな僕。腕は腕、足は足と機能が分かれ、それに沿う形で外見も異なっているのは相変わらずであったが、覆っていたり細かい部分が全く違う物になってしまったと言う予期していなかったこの事態に、僕は相変わらず気持ちを沈ませたままでいた。
「幾ら好きったって・・・でもこれは酷いよ・・・」
 そのフレーズももう幾度繰返した事だろう。その度にあの床に転がっていて今尚、あの瞬間と変わらない画面と音を出し続けているゲーム機を見つめて恨み節を吐く、ただその繰り返しを。

「へえ・・・こう言う方法でねぇ」
 時間を巻き戻せば半日前になる、座った先にあるパソコンとゲーム機を交互に操作しながら時間を潰していたのは。
「ここでこうしてこうして・・・連打、と」
 見ていたのはその、ポケモンに関するとある情報サイトだった。シンプルなデザインのそこに、それ以外のサイトには載っていない様な情報が、一般的な情報に交じって時折掲載されているのに気が付いたのはつい数週間前。それもランダムにされているのを知ってからは、自宅にいて暇な時と言うのは決まって接続し、そうして眺めつつゲームをするのがすっかり習慣となっていた。
 前出の呟きもふと見つけたそれを参考にした際の物だった。その内容は全く関係の無い場所にいるのに、ある動作をすれば思いのままのポケモンを出現させられるどころか、確実にゲット出来ると言う内容。ある意味眉唾物であろう、しかし事実であれば図鑑を手っ取り早く完成させる事も可能と思える、大変美味しい方法である。
 だから僕はそれを試してみる事にした。例えガセネタだったとしてもしないよりもして確かめた方が良い、そう言う常日頃の考えが脳裏にあっての行動だったのは否めない。手順通りにしっかりと確認しながら指先を動かして、最後に、そう前述の通り連打をしてから数歩草むらを歩かせた時、それは発生した。
「お・・・」
 その小さな呟きをもたらしたのは聞き慣れたBGMが耳に、そして目に画面の変化が届いたからだろう。そして次なる表情の大きな変化をもたらしたのは画面の変化が終わり、ゲームの中でのプレーヤーとしての自分の後姿と共に試しに選択してみたポケモン、当然適当にではなく自分の好みの、が、ちゃんとバトルの相手として表示されていたからに他ならない。
 だからこそ浮かべたのだ、目を大きく見開いて口を丸くして、大きな喜びの息を吐くと言う喜びの表情を。そして操作する指も軽やかに始めたのだ、バトルとは言えどボールを全く傷付けていない状態で投げれば捕まえられる、最早バトルらしくないバルト。つまり一方的なゲットの為に次は何を捕まえようか、そう言う事すら浮かべては余裕の表情で臨んでいた。

 だがそれから考えを改めたのもすぐの事だった。ボールを選び、モンスターボールを投げて収めてコロコロと転がるあの一連の流れ。それが何時になっても、ボールに入れられたポケモンが、じたばたと中で動いて揺れているシーンのまま、延々と続いているのに気が付いたからだろう。
「あれ・・・ここでまさかの失敗か?でもエラーが起きる危険とか、そんな事書いてないし・・・」
 片手でゲーム機を掴んだまま、僕は視線をパソコンへと戻してその方法を解説したページを、改めて隅から隅まで読み通す。そう何か見落とした事でも、あるいは隠されている文字等があるのではないかと疑って試すほどに。しかしそれ等は全く何の、ただ読んでいるだけでは新たな結果も進展ももたらされない事に更なる焦りを感じた僕は、今度こそ必死になっては片手でマウスを操り、今のこの状態を納得させる、あるいはこうだ、と納得も何もズバリと指摘する文言は無いものかと探すのに没頭した。
 それは迷走だった、と言うべきかも知れない。とにかくある筈だ、何故なら僕が信じているのだからある筈だ、と駄々っ子の様な具合であったのだから。そして時間も忘れて打ち込み、隅から隅まで見て本当に見当たらないと落胆して体の力を落とす。深く椅子にもたれかかり、マウスからも手を離した勢いでゲーム機を掴んでいる手も力が緩み、やや下に垂れ下がる。
 しかし本体自体の重さは変わらないものだからずるっと、そう引力に引かれてずれ動く。しかしそのままの位置で留まっている指は本来の位置にはいられない。だから本来あるべきではない位置にはまって、自然とそこに力を加えてしまう。
「あ・・・っ、と」
 そしてそれをしっかりと認識するにはしばらくの時間を要し、それもはっきりとした1つの動きが指先から伝わってからしばらく、の事だった。その動きとはつまり何かを押す、ボタンを押す、と言うもの。ふにっとした押す感触に釣られる様にして、視線をそちらに向けた時、本来であればボタンの脇にあった筈の親指の腹は1つのボタンの上にあったのだから。
 そしてそれから何をする間もなく不意に音が変わる、ふとしたファンファーレの様なあのBGM。そして急激な脱力感と疲労感が体に伝わってくる、まるで何かに圧倒されているかの様な気持ちにすらなって、意識すら何だか霞んでしまった果てに、次に気が付いた時にいたのはベッドの上だった。

 余程の朦朧振りだったのだろう、正に無意識の内に動いた、と言うのにふさわしかったに違いない。それでもその時はまだ手中にゲーム機を掴んだままだった、そしてどこか重い頭を動かして画面を見つめるとようやくゲットしたとの、そうあのお決まりのフレーズが表示されていたのだ。
 それを見た瞬間の安堵振りと言ったらどれ程だろう、ああようやくと言う気持ちが先行してどうして?との気持ちはどこか隠れがちなまま、ゲーム機をふと投げ出した。気持ちはもう十分だった、とにかくゲットは出来た、しかし先ほどの訳の分からないストップした動作はなんだったのか?何よりもこの体に被さる重さ、今や倦怠感と言う言葉にまとめられるこれは一体・・・と言う気持ちで一杯でとてもゲームどころではなかった。
(ああ一休み・・・しよう・・・っ!?)  だが残酷な事に彼は気が付いていなかった、全ては始まったに過ぎなかったと言う事に。大きく仰向けとして、何時も通りの大の字型の姿勢に移ろうとする間際、体に溜まった倦怠感を少しでも解消しようと点に向けて両手を突き上げた、その時だった。ふと明るい、消そうと言う気すら起きなかった電灯によって照らし出された両腕、その姿に気が付いてしまったのだから。
 それには思わず言葉を失っていた、と書かねばならない。内心での驚きとは対照的に、ぽかりと開けられた口からはただ強く息が吐き出されるのみでそれも間もなく途絶えてしまった。ただ視線は文字通りの釘付け、そうもう既に触れた通りに自らの腕に対して、である。
(何で・・・灰色だと・・・?)
 少なくともその腕が自分の物であるのは確かな事だった、握ろうと思えばしっかりと指先は握られ拳を作るものだし、揺らす事も、そう自在に出来るのだから。しかしそこまでして確認出来てもそれが本当に自分の腕なのかと確信、否、信じられるのかとなると話は別。信じられるだろうか、少なくとも自分では白いものと見ていた肌がどこにも見当たらないなんて。
 代わりにそう一面が灰色、そして下腕の中から先は黒色に覆われているなんて信じられるだろうか?そして今も腕を動かすと矢張りそれは動き揺らぐのは事実、そして更にすればするほどそれは事実となった積み重なっていく。そして同時にこう言われているかの様、事実なのだ、そうなのだから認めよ、と。
(いや・・・うん、疲れてるんだ、きっと)
 それはとても認められなかった、僕はふと脳裏に過ぎったある単語を否定しつつ思った。そうこれは倦怠感が見せる幻覚なのだ、人間は疲れていると我を忘れると言うし、だからきっとこれもその一種なのだ、と。電気を消して暗くして布団に包まって休んで目を覚ませば醒める筈、そう信じて起き上がり手を伸ばす。伸ばした先にあるのは照明を消す紐、そこにかけた手を見ない様に顔を反らしてさえすれば、後は暗がり。もうこれで完璧、である筈とばかりに。
 しかし、そんな考えはふと視野の中に入った1つの影で打ち砕かれた。そうまさか、まさかどうして、との思いを強く来たしたのは言うまでもない。その動く影、勢いで暗くこそしたものの転がっているゲーム機の画面の明かりで下から、より強く浮き彫りされて視界に入ってくるその影こそ、あのマズル。それも全く腕と同じで違和感ない、完全な自分の体の一部、と言うものであって、不思議と腕以上に抵抗無く受け入れられてしまったのにも、その後に強い抵抗を感じ得てしまう。
 そしてそれがきっかけであったかの様に、急に体の随所に痒みが生じる。文字通り急速に、軽い熱すら帯びての広がり様で思わず呼吸が止まるか、と錯覚するほどの猛烈な痒みだった。痒い、痒い、痒い、そう頭の中にぐるぐると言葉が巡る、もうそれしか考えられず、それ以外には何も無い、ただの空白で仕方なかった。
(・・・ああっ、でも・・・っ)
 脳裏に浮かんだのは、あの爪ならきっと掻いたら気持ち良いだろうと言うものだった。あの爪とは当然、自分が否定したくて仕方ない、あの自分の物とは思えないけれども自分の物であるのに違いない灰色と黒、その組み合わせの毛に覆われてしまった腕の爪の事だった。爪自体はほんのりとした鋭さを持っていて、あれで引っ掻いたらたちどころに、この急な痒さに襲われている胸や背中、足がきっと気持ちよくなるのではないか、と。
 それは余りにも魅力的過ぎた、どこかでそれは駄目だ、と声を張り上げている自分がいる筈だった。しかし痒さと言う激流の前には消えて行き、暗がりの中、液晶画面より発せられる青白い光に下から照らし出された体を腕で覆う様にした後は・・・そのまだ白い「自分の」肌を掻き毟っていたのだった。

 掻き毟った事、それは自らの体を損ない、そして新たな自分を生み出す行為でしかない。幾ら丸っこいとは言え本来の人の爪に比較としたらそれは十分に鋭い、その様な刺激に柔らかい人の皮膚が長く耐えられる筈も無く、次第に綻んでそして避けて行った。
 だが血は出なかった、出たのは灰色の、そして所々黒が代わりに噴き出し、そして爪が皮膚を破き去る前にその浸食が残り香の様な「白」を弾き飛ばし、消失せしめる。そしてそれで終わりだった、痒さが消し飛んだ後は何もかも何時も通りの感覚であの倦怠感すらも失せていた。だがしかし、姿は変わっていた、全身を覆う灰色と黒の2色の獣毛、ぴんと立っていた耳、そして上向きに軽くしゃくった顎と牙、そしてもさっとして生じて垂れ下がる灰色の尻尾がある、そんな人の影のままの「ポチエナ」。
 全ては転がっている携帯ゲーム機の液晶画面の明かりの元に明らかにされていた事だった。相変わらずエンドレスに流れ続けるBGMに包まれた画面の中、そこに表示されているグラフィックを見ればますます明らかでようやく、あの不可解な動作等の意味はこういう結果への過程に過ぎなかったのか、と頭の中でつながったのだった。
 もう、そうなると何とかして戻る方法を考えようと言う気にはならない。パソコンは付けっぱなしであったから、そして四足の姿勢にはなっていなかったから調べる事は可能であったかもしれない。しかしそんな意欲はすっかり消し飛んでいて、今はああなってしまったと言う気持ちに浸るのしか浮かばなかった、その人の影の、とも「ポチエナ」の姿をした、とも言える異形の存在には。

 同時にその姿勢は正に冒頭の姿であり、そしてそう言うものだった。壁に背をよりかからせては体育座りで腕を組み、顔をひたすら俯かせる中で時折考えを浮かべたかと思えば、何も浮かべないを繰返して、ずっと時間を過ごしていたのだから。
 俯き加減より顔が回復するまでにはその通り長い時間を要した。しかしその長いインターバルがあったかにだろうか、そうなってからはこれまでになく手短に、取り敢えずすぅっと部屋の天井の一点を見据えたかと思うと不意に立ち上がり、そして転がしたままにしていたゲーム機を手に取った。
(ああ写っている・・・)
 画面に映るゲットされたポケモン、そうポチエナの姿を見て僕はそう自然と浮かべる。
(ああ、僕が、僕が写っている・・・マスターの元に行かないと)
 それは不思議な流れだろう、自分が操作して捕まえたと言うのにそう浮かべるのだから、それではまるでポケモンで・・・最も、今の姿は人の影であると言う点を除けば全くポチエナであるから、ポケモン、と言えてしまえる点もあるだろう。しかしあくまでもゲーム機を再び手にして見てから、その様に浮かべていると言う点に注意しなければならない。 
 しかしとにかく疑問ではなかったのだ、いやもうこの視点は既に僕ではなく、第三者が見た「彼」なのだろう。そして次の瞬間、「彼」は手を伸ばし1つのボタンを押すなり、別の空いている指にて液晶画面へと触れた。
 刹那、BGMが途切れ画面がぶれる。小波の様に同心円としてその波紋が広がったかと思うと、そのまま画面の端を越えて空間全体を揺らめくと言うまるで幻覚、しかしそうと信じられなく見えてしまう摩訶不思議な現象だった。そしてその中にポチエナは中心としてあり、次第にその影を薄く、姿を消していく。そう、ポチエナの姿をした人影が、と言うべきだろう。それがその中に溶けて行く、見ているこちらの目が回ってしまうかの様な動きの中に抵抗も無く、我々が眩暈を感じて一瞬閉じた次の瞬間には見えなくなっていた、と言う様な感じで。
 その後に残されたのは電源の切れた携帯ゲーム機、そしてスタンバイで待機しているパソコンが唸るだけの、照明の切れた真っ暗な夜の部屋のみだった。

「ふーポチエナゲット・・・と」
 そこは明るい陽光の下だった、草むらの中で1人の少年が傍らに止めた自転車を支えつつ、今、正にゲットしたばかりのポケモンを入れたモンスターボールを手にしつつ、ポケモン図鑑を嬉しそうな顔をして眺めている。
「本当、ポチエナの癖にえらく手間取ったなぁ・・・そうレベルも高くないのにどうしてだろう?」
 少年は想定していたよりも手間取り、だから時間もかかった先ほどまでのバトルを思い出していた。いきなり遭遇したポチエナ、レベルも対して高くないのを見て軽い気持ちでゲットしようと試みたら、奇妙なほどに技が外れる上に、ボールも然り。何だかおちょくられている様な気がして本気を出して臨んだ挙句、ようやくゲット出来たと思ったらすっかり暑い昼間になっていたのだった。
「ああもう、予定が狂っちゃった・・・この時間ならもう到着している筈なのに・・・久々に帰るのになぁ」
 呟きながら自転車の姿勢を戻し、そしてボールと図鑑を鞄に収めると少年はゴールドスプレーを体に吹き付けてから、草むらの中をこぎ始めた。
(流石にこれ以上遅れるのは・・・ね、旅にハプニングは付き物だけど)
 そして懸命に加速していく、掻き分けて道路に戻ったら後は真っ直ぐに・・・久々に実家のあるミシロタウンへ続く道を走り去っていくのだった。


 完
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