晩秋に赤く・後編 冬風 狐作
 それに気がつくまでも無く手を伸ばした僕は、ある意味無意識の境地のまま何故か確固たる形のあるオブジェであるかのように炎の下部を掴むとそのまま頭上へと持ち上げて載せる。気がついた時には既に頭部に炎の姿はあった、そして髪の毛がその炎に呼び寄せられる様に風も無いと言うのに逆巻いては炎を誘う様に揺れ、飲み込まれていく。
「あ・・・う・・・頭に何か・・・目も・・・ぉ・・・っ。」
 炎の一部と化して根元へ向かって黒から赤に・・・ただし全てでは無い、生え際やもみ上げはそれに倣わずむしろそのまま、そうして炎の裾を包むかのように広がり変色する。その色は黒ではない白・・・もみ上げは垂れるまでに長く、そしてそれら全ては白く濃密で地肌や地肌と炎の密着している箇所は皆目見通せないほどだった。
 そして眼窩の上の部分が、およそ眉毛にある箇所が隆起し赤く染まる。顎が前へ出っ張り鼻はそれに落ち込むようにしてその向きに隆起させた、そして皮膚は濃紺にそれを隠す様に茶に染まる・・・茶色の微細で、薄く濃密に埋める獣毛によって染まった皮膚の濃紺は消えて茶色に染まる。その変化が苦しいのか辛いのかは見ているだけでは分からない。しかし先ほど呟いて以来、瞳を硬く閉じて軽く呻いている様は何処か辛そうで、その呻きの端々にある独特な丸みはただそうではないと静かに主張しているようであった。
 頭の炎から始まった変化は全体をオーラとなって包んでいく・・・その中で纏っていた服は体とは別に分裂して随所で凝固し出し形を成し、現れた素肌は顔と同じく濃紺に染まった後に手足の指先を除いて茶色、あるいは胴と膝下と同じく白いふさっとして柔らかそうな獣毛に埋まる。そして独自に凝固しつつあった服は・・・手首の甲側、膝の皿、そして肩を覆う。
 それは獣毛とは違うある程度の形を持ちながら、体に密着していた金色の物体。プロテクターの様なそれらは見たところ金属の様であったが金属と言うまでの質感はない、とにかく軽く硬さとしなやかさを備えた物質なのだろう。耳が立ち中は濃紺、耳朶は茶に・・・そして開かれた瞳は澄んだ濃い青の黒目に黄色の白目、異質な何処かで親近感を抱き好んでいた者と同じ姿となった姿があった。変化したせいかどこかぼうっとしているのは仕方ないのだろう。

「ふふ・・・好きな姿でしょう・・・。」
 ふと我に戻ったのはその声、同時に背中側から前にかけて伸びるU字型の金色に光る物体をかけられ・・・続いてその先端が幾重にも丸くなって両胸の、位置的には乳首をその円の中心とするかの様に覆い体に密着する。手首等についているのと恐らく同じ素材のそれは締め付ける様に硬く、こちらはまず取れないと言った風に吸い付いて固まっていた。
「これは・・・え・・・あ・・・!?」
「見慣れているでしょう・・・ご主人様・・・。」
 慌ててその刺激に視線を下にやり鼻先ではなく接吻が視界には入っている事、そしてその体が明らかに異質な物になっている事に気が付いた僕は驚き呟く。そこに再び背後からの・・・温かい肉と芯のある感触、赤く鼠色で4本指と言う矢張り異質な腕が肩からかけられ、背中全体に大きな質量が乗ってきた。そして首筋が硬いものに突付かれる。
「ご主人様・・・?」
「ええそうですよ・・・覚えてないのですか?毎日会っているのに。」
「毎日・・・毎日会うなんて・・・。」
 その口調と声、そしてこの巻かれた腕に覚えは全てには無かった。言われてみれば何処かで出会った記憶、いや出会ったと言うよりも見ていた・・・更に突き詰めれば使っていた記憶、夢中になっていた、連れて来た・・・ポケモン。一気に記憶が繋がり何なのか認識する頭脳、そして口は開かれる。
「バシャーモ・・・?」
「そうです・・・良かった、思い出してくれて・・・!」
 ホッとした様に、そして歓喜する様に文字通り熱い息と共に言葉がうなじに来る。不思議とそれで背筋が震えたのは何かの偶然なのだろうか、とにかく深く考えるまでも無くまた新たな混乱、いや疑問が出てくる。どうしてバシャーモが僕の背中に抱きついてきているのか、そして何よりもこの今の僕の姿は・・・ゴウカザルの姿、その物であるのはどうしてなのかと浮かんでくる。
 ただそれに対するバシャーモの返事はつれなかった、と言うよりも急に不明瞭になっていた。ぼかす様なぼかさない様な中途半端の狭間で揺れる言葉・・・その姿は図鑑の中で見た自分のバシャーモの性格そのままであった。
"ああ・・・矢張り・・・。"
 それを見て僕はそう思いそっと肯く、このバシャーモは何時も使っているバシャーモ以外の何者でも無いという事を。そう思うと途端に、トレーナーとして何時も使っている気持ちとバシャーモ自体が好みである事も合って2つの気持ちが心の中でない交ぜとなる。そして敢えて黙って聞くに終始しただ見つめる・・・思う事があるなら口にしてくれと、視線に浮かべて伝えさせて。
「・・・意地悪ですね、ご主人様は・・・。」
 苦笑いを浮かべながら・・・大分前から正面にて相対しているバシャーモはそっと呟く。それに対して僕が答えないのを見ると更に独りで続けていく。
「私がこんなに・・・悩ましく思っているのに気が付かないなんて・・・。」
「悩ましく何を・・・?」
「言わせるつもりですか・・・。」
「ああそうだね・・・言ってもらわなくちゃ分からない、命令さ。」
 僕はあくまでもバシャーモの口から言わせたくたまらなかった、何よりもそうであるのが当然と感じていた。それはバシャーモのトレーナーであるのは自分なのだからと言う気概もあったのだろう、それに対してバシャーモは普段の関係・・・トレーナーに従うポケモンと言う立場をずっと貫いているのはその言葉の端々からうかがえる。
 命令とまで言われた以上、従うポケモンである以上それには幾ら理不尽でも従わなくてはならない。しかし命令・・・従うべき立場、しかし言う事は心情の吐露と大いに躊躇われる。それに思い悩むバシャーモが余りにも人らしくて、そして普段のゲームの中の一部として接し見てきた姿と被ってギャップが何とも面白くてならなかった。しかし何時までもバシャーモも悩んでいる訳ではない・・・ようやく決心し口を開く時、僕はまた静かにそれを聞き入った。
「・・・きなんです・・・。」
「き?」
「しっかり聞いて下さいよ・・・もう・・・ご主人様が・・・。」
 一拍の沈黙、赤い顔を更に赤らめ指で顔を軽く掻きながら言葉を吐く。
「好きなんですから・・・ああもう。」
 そう言って顔を隠す仕草は恋する乙女、大分古臭い表現だがその細く言ってみれば女性的でありながら逞しい体にその仕草は良く似合う。それをじっと見つめた僕は一歩踏み出しバシャーモの肩に手を置いて顔を上げさせる、バシャーモの体は震えていた。大きな興奮で大きく鼓動していたところにそっと返答を示し返すのだ。

「ご主人様・・・良いのですね・・・?」
「もちろんさ・・・僕もバシャーモは好きだ。」
 赤い顔はまるで燃え上がるよう、それを示すかのごとく言葉と共に漏れる吐息は熱く濃厚。草ポケモンならそれだけで火傷してしまいそうな勢いだった、最もゴウカザルとなっていた僕にはどうと言う事はなくただ心地よい。
 そして僕はどうしてゴウカザルなのかと言う事を尋ねる、確かにゴウカザルは炎好きである僕の手前最新版のポケモンでは真っ先にヒコザルを選んで進化させ、昔のバージョンから連れて来た愛用の炎ポケモンと共に使っている。ダブルバトルでは良くバシャーモと共に使っていたが、それと恐らく関係はあるのだろうとしても矢張りそれはバシャーモの口から聞きたいもの。だから尋ねたのである。
「それはこう言う事です・・・。」
「ん・・・あ・・・っ!?」
 バシャーモは今度はそう躊躇わずに行動を、先ほど僕が返答でした様に行動で返してきた。それは正面からの抱きつき、そして押し倒しに・・・軽い口付け。一気に繰り広げられた流れに僕は思わず目を回して下敷きになった形でそのままされるがままになる。
「ご主人様は知らないでしょうけれど・・・。」
 口同士を重ね合わせる程度の口付けを離すとバシャーモは見下ろすように包んで、語りつつ手を僕の体に回す。その手つきは何処か手馴れていて巧み、つぼを押さえた指の動きに僕は思わず身を悶えさせ呼気を荒くさせる。
「何時もしてるんですよ・・・私は・・・彼女と・・・。」
 その口調はいとおしげで丸く棘は無い、手はますます滑らかに優しく刺激を加えてくる。
「彼女・・・ぉ・・・?」
「ええゴウガザルと・・・してるんです。」
「んぁっ・・・!」
 そう言うと一気にツボが付かれ僕は思わず大きな喘ぎ声と共に痙攣する、その反応を見て満足げに微笑んだバシャーモはもう片手を股間へとやりそして擦った。
「でもご主人様はオスだから・・・私と同じ・・・。」
「う・・・はぁ・・・。」
 何時の間にやら僕のイチモツは硬くなっていた、半勃ちと言う程度か・・・だがそれは軽く掴まれただけで一気に硬くなり剛直となって跳ね立つ。掴まれている手の中では収まりきらない、そのような感じの中で手が離れたかと思ったら熱いモノがそこに押し当てられた。それはバシャーモのイチモツ、ぼうっとした頭で思い返せばゲームの中でバシャーモは♂でゴウカザルはその姿に似合わず♀であった。
 しかし今の言葉からは今の僕はゴウカザルとなっても男、♂のままらしい。そしてバシャーモも♂・・・♂同士が体を擦り合わせているある意味では背徳的で禁断で、どこか誘われる情景の中に僕がいるのを僕はようやく認識したのであった。それを知ってか知らずかバシャーモはしばしイチモツ同士を自ら腰を振ってすり合わせ、存分に先走りを漏らして慣らさせ染み込ませた後におもむろに腰を上げて僕の顔の前に突き出す。
 僕は特に指示された訳でも無いが自然と顔を伸ばし、その魅力的な大腿部に手をかける格好で体を支えて加える。そのいきり立ったバシャーモの、バシャーモとゴウカザルの先走りでぬらぬらになった細く長いイチモツを咥えて舌を走らせる。時折、幾つかの箇所で丹念に舐めれば舐めるほどバシャーモが感じて軽く呻き震えるのが嬉しくてたまらなかった、後頭部に手を置かれたのはますます興奮を誘い熱心に舌を走らせる事に繋がり僕の股間は更に硬く熱く漏らす。
「あ・・・うふ・・・ゴウカザル・・・ぅ・・・っ!」
 その言葉と共にバシャーモが果てたのはまもなくだった、もうその口からご主人様と言う言葉は出ない。代わりにゴウカザルと言いながら口の中に熱い粘液を注ぎこんで来る、その一滴一滴を僕は全く♀であるゲームの中のゴウカザルになったかのように味わい受け入れる。そしてようやく経って外れた時、わずかに口の周りについて拭った残滓は熱さからは思えない白さをしていた。

 その後、再び抱き合ってしばし余韻を味わう僕とバシャーモ・・・どれほど口付け交わし互いの手で全身を弄りあった事か。そして解いた時新たな展開が待ち受ける、向かい合った2人またも押し倒しを、とは言えそれは僕、ゴウカザルが押し倒したから厳密には先ほどと逆だが矢張り口付けを、これまでに無く濃厚にねっとりと口同士を外れぬ様に噛み絡み合わせてその中で舌を絡める。
 バシャーモの舌は長くゴウガザルの舌を取り込み巻き込んで行く、しかし互いにその感触と触れ合う事それが嬉しい。長さは関係ないとにかく2人は互いに思いあっていた・・・トレーナーとポケモン、現実と仮想と言うその枠を超えて。最も今が現実なのか仮想なのか、それは誰にも分からない。ただ絡み合える、それの機会を大切に存分に使うだけだ。
「それじゃ・・・バシャーモ・・・。」
「きて・・・よ。」
 そして舌を外し余韻を楽しむまでも無くゴウカザルとバシャーモは軽くやり取りを交わして・・・再び絡む、身を重ねる。正常位、互いに見つめあった姿勢、バシャーモを下にして叩きつける腰はゴウカザル。バシャーモと同じく長いが根元に行く形で太いイチモツがバシャーモの体内に叩き込まれる。一定のリズム、そして勢いにて吐かれる息は火炎の無い炎・・・その周囲だけ灼熱地獄であるかのように熱い。
 そこで絡み合う2人は大いに求め合い喰らいあい、互いに大きく弾けた。熱い子種がバシャーモの中に注ぎ込まれる、震えるバシャーモ自身も熱く先ほど出したばかりとは思えない勢いで噴出させ互いを白くする。正しくその勢いは交尾、獣の、野獣の交尾・・・そして繋がったままゴウカザルは手の力を失ってバシャーモの厚い鳩胸に倒れ込み、バシャーモもそれを受け止めて幾度か撫でて静かに瞳を閉じる。多くの熱気が漂う全体の余韻の中でも格別な2人の余韻の中にて・・・沈む。

「ん・・・。」
 気が付けば視線が違う位置になっていた、左の頬が妙に熱く硬い物と触れ合っている感触とはっきりと耳に届く回転音・・・変わった枕だった。布団は無い、強いて言えば部屋全体の再び前にも増して温まっていた空気がそれと言う事が出来るだろう。慌てて首をもたげて飛び起きると布団は背後、目の前のパソコンの画面には自分を残して誰もいなくなったチャット画面、青く色づいた幾つものメッセ・・・どうやら途中で寝落ちしてしまったらしい。
「ああ・・・朝か・・・。」
 寝落ちした事へのかすかな罪悪感とバツの悪さに軽く舌を噛み髪の毛を掻く。夢の中の出来事はすぐに薄れて行った・・・ただどこかかすかな、何とも絶妙で背筋のぞくぞくっとする感覚の名残に息をほんのり漏らすのだった。尾てい骨の辺りに手を当てて幾ら弄ろうとも・・・そこにはただ名残と平板な肉体があるだけであった。
 そして傍らに置かれた携帯ゲーム機の画面を見る。そこでは何時の間にかバトルが終わっておりレベルアップした相性抜群なバシャーモにゴウカザル、そして幾つもの卵が転がっていた。
「おはようバシャーモ・・・ゴウカザル。」
 不思議と胸がきゅんとしたのは気のせいだったのだろうか・・・そう言い切れない気持ちのわだかまりがあった。


 完
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