その言葉の意味を知ったのはそれから一週間後の事・・・その数日前のある日も私はアレックス先生と交わって帰宅しました。ちょうど私は翌日から、父の仕事の都合で家族全員で海外へ数年間移り住む事になっていましたので、その事を先生に話すと先生は餞別とばかり他の人の倍以上交わりあってくれたのです。幸いな事にその日は半日授業でしたから時間的に余裕があり、家にて一休みした私はその足で家族と共に成田へ向かい飛行機に乗って旅立ちました。
そして一週間ほどしたある日、その前日まで毎日の様に海で遊んでいた私はアレックス先生と交わって以来、すっかり体がこれまでとは別人の様に快適になっていましたが流石に連日の海での日焼けと遊びには疲労もたまってしまったので、1人別荘の自室にて寝転んで外を眺めつつ日本から持ち込んだ文庫本等を読んで過ごしていた時でした。
"あれ・・・?何これ・・・。"
急に腹痛を感じたのです、最もその腹痛はこれまで感じた事の無いタイプでトイレに行っても出るべき物が出てきませんでした。不審に思った私が例に腹をさすってみますと何だか硬い感触、そして今一度擦るとやはり何かがありそして微妙に下へと動いたのを感じました。そこで私は直感的に手を股間の前、つまりワギナへとやりこれまで遊びでやっていたのとは気持ちを別にして少し真剣になって指を中へと入れると・・・確かにそこに硬い物があったのです。
"まさか・・・卵?そんな何で・・・でも・・・産まなきゃ・・・。"
私は一瞬心の中で考えを巡らせるとすぐに部屋のドアの鍵を掛けて、足をYの字状に大きく開くと力を一気に腹へ加えました。一秒・・・二秒・・・三秒・・・一秒一秒が永遠にも感じられました、その時の私はすっかり汗まみれで低く唸っている様を誰か見ましたら気が狂っているのではないかと思ったことでしょう。しかし、その時の私は真剣そのもの、産まなくてはと言う義務感と使命感で一杯で姿勢など気にはしている暇はありません。恐らくあの心境こそが母親の想いなのでしょう、そして私は数分後、大きな楕円形の卵を産み落としました。1個ではなく、2個3個と合計で3つの卵を連続して一気に産み落としたのでした。
産み落としてからしばらくは感激の余り涙を流して愛しい卵を、アレックス先生との愛の結晶を抱き抱えていました。しかし時間が経つに連れて次第に冷静になって行った私は、まずは自らが卵を3個も生んでしまったと言う事実に恐れ戦き、次にはどうして卵を産んだのかと言う事に対する疑問。最後に家族に見られたら困ると慌てました。とにかく私はその3つの卵を各部屋に1つずつ風呂が付いている事を利用して、自室の風呂場へと隠すと湯を沸かして自らも風呂に浸かり汗を流して匂いを消すとしばらくその場で卵を温め、そして帰宅した家族の前へ何食わぬ顔をして現れたのでした。
それから残りの滞在期間中はそれまで通りに海へ遊びに出かけたり、観光や買物に行く等して普通に過ごす半面夜ともなると自室に篭って勉強していると称しつつ、ひたすら布団の中にこもって卵を温め続けました。その間浮んでいた2つの疑問について自分なりに考え、結局これは自分が悪いのではないアレックス先生に原因があるのだと、つまりアレックス先生は人間ではないのだと結論付けて後は考えない事にしました。
そしてひたすら布団の中にて卵を温め続けていたそんなある日の事、パソコンで自分のメールボックスを開いた私はとんだ知らせを聞かされました。何とアレックス先生が行方不明になったと言うのです、そして自分の他にも多くの人が先生と交わった多くの人が卵を産み、その一部は孵化して中から鳥が出て来たものの蟷螂の大群に襲われて全滅してしまったと書かれていました。
私は思わず自分の仮説が正しかった事を知ると共に背後に置いてあった卵へと目をやりました、私の卵は今だ孵化する気配はありません。しかしながらこの3つの卵は恐らく、今なお無事にこの世に存在しているアレックス先生の最後の子供達・・・その途端私は椅子から立ち上がるとすぐにそれを抱き抱えて泣きました。号泣でした、先日こちらのテレビニュースにて流れていた謎の怪鳥が東京タワーを襲った後、東京港上空にて自衛隊のミサイル攻撃によって打ち落とされたと言うのは、あれこそがアレックス先生の最期だったのでしょう。そして日本で先生の遺した卵、つまり子供達は孵化した分も含め全て謎の蟷螂に襲われて全滅・・・。
その途端私は誓いました、何があってもこの卵達を子供達を守り抜く事を。幸いここには蟷螂は現れる気配はしません、一日も早く孵化させて育て上げる事を誓ったのでした。
卵が孵化したのも産んだ時と同じく一斉にでした。出て来たのはメールにあった通り嘴と羽を持つ鳥のヒナ、とは言えどこか雰囲気が異なり鳥のヒナであるのに人の赤ん坊の様な気配を感じたものです。そして私はその3羽、いや3人の子供達を大切に育てました。鳥だと言うのに乳を吸いに来る様はまさに人間の赤ん坊の様で微笑ましく、私は顔を綻ばせて乳を与える反面自分なりに調べた知識を元に鳥の食べる物、虫等を与うる事としました。
人の食べる物も与えてみてこれだけを食べる様になったらどうしようかと考えましたが、幸いにして子供達はどれも皆与えられた物はしっかりと食べ好き嫌いは見られませんでした。その一方でまずは鳥として目覚めた子供達を、1人家にいる時等は別荘の敷地が広い事を良い事に空を飛ばせたものでした。家族には拾って来た等と適当な理由を付けて、飼い鳥として正式に認めてもらい部屋の一角に設けた大きなゲージの中に普段は入れています。
そんなある日の事、私が部屋で勉強をしていますと突然誰かが私に声を掛けてきました。
「ママ・・・ママ・・・。」
聞き覚えの無い声でしたがそっと振り返ってみると、そこにいるのは3匹の鳥達・・・狐に抓まれたような顔をして目を合わせていますと、その内の一羽が嘴を開きそして
「ママ・・・。」
と呟きました。つられる様に他の2羽もママと連呼して来ました。毎日子供達に向って言っていたからでしょうが、私は驚きの余り思わず固まってしまったものの次には感激してその3羽、とは言え言葉を喋るのですから3羽と言っては失礼でしょう。3人の子供達を抱き抱えました。
更なる変化が子供達に起きたのはそれからわずか3日後の事でした、その3日間と言うわずかな期間で子供達は一通りの日常会話や計算ならばこなせるまでになっていたのです。驚異的な知能の発達でした、それを半ば面白がって私は色々な事を教えると共に島の中で最も人のいない森の中へと行き、何時も通りに子供達を飛ばしてその様子を眺めていました。
そんな時、何かが突然降り注いできたのです。雨ではありませんでした、それは雨霰の如く避ける暇なく降り注ぎ見事に私も子供達も直撃を食らいました。かなり大きな塊でしたので、私はその時点で死を覚悟していました。ところがいざ直撃を喰らいますと衝撃こそあれ全く痛くないのです、まるでバケツで上から大量の水を浴びせられた感じでして全身がびしょ濡れになっていました。
それでもひとまずは命は助かったとホッとしたのも束の間、私は手を見て驚愕しました。何と皮膚がケロイド状に変化していて、それは手のみならずほぼ全身をくまなく覆っていたのです。私は悲鳴を上げるとそのまま気を失い地面へと倒れました、何処かで子供達とアレックス先生の姿を脳裏に浮かべつつ・・・。
「・・・おかあーさーん、おかあーさーん、起きてよー。」
どこからかその様な声が聞こえてきます。声の感じから1人ではありません、どこか幼さの残る複数の声・・・私の事を呼んでいるのでしょうか?そうだとしたら、考えられるのはただ1つ。その声の主は私の子供であると言う事です、そう思うと不思議と力が湧いて来て私は目蓋を開けました。するとそこには3つの嘴と顔、そしてあの声。
「あっお母さんが目を覚ましたっ。」
その様に言うのは長男・・・と私が勝手にしている一郎、続けてオウム返しの様に次男の次郎、三男の三郎と同じ言葉を吐いていきます。
「あなた達・・・ありがとう、でもその姿は・・・?」
私は立ち上がって子供達の姿を見ると若干の驚きを込めて尋ねてみました、すると彼らも彼らで不思議そうに答えて来ます。
「分からないけど・・・お母さんみたいになりたいけど空も飛びたいな、ってあの変な物に当たってから思ったら・・・。」
と太郎。
「そうそう、僕もそう思っていて気が付いたら。」
と次郎。
「僕だって、そしたらこんな姿になっていたんだ・・・お母さんだってそうだよ。」
「えっ?私も・・・?」
私は三郎に言われて慌てて自らの体を眺めてみました、なるほど確かに言うとおりです。人の肌もあの様に変色したケロイド肌の残滓はどこにも無く、その代わりに如何にも温かそうな鳥らしい明るい茶色の羽毛が厚く胸を覆い、背中には大きな鷲の翼、二の腕と膝から先の鳥の鱗に覆われた両手と足の形をも鳥になってしまった足、各所を覆う羽毛と鳥の羽、そして立派な嘴を持つ鷲の顔・・・そこには性別こそ違えど子供達と同じ鷲と人との混ざりあった生き物となった私の姿があったのでした。
「これが私の・・・。」
私は変わり果てた姿を見て呟いた、子供達は雰囲気を察してだろうかすっかり黙り込んで私を見ている。私はこの様な姿になった事に決して失望感に代表される負の意識は抱いていなかった、むしろ子供達、そしてその父親であり何らかの理由で巨大化してミサイルによって殺されたアレックス先生の真の姿であろうこの姿になれた事を喜んでいた。
「大丈夫?お母さん。」
心配に思ったのか次郎が声を掛けてきた、太郎と三郎もそれに続き首を縦に振る。私は満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「大丈夫よ・・・悲しんでなんかはいないの。ただね、この姿になれた事に喜んでいるだけ・・・さぁ家へ帰りましょうか。ご飯を食べないとね。」
「うん、お母さん。」
私の呼びかけに声を喜びで満たして答える子供達、なんともその姿は愛らしく可愛い。そして今一度微笑むと私は一度求んだ事が無いと言うのに早速大空へと羽ばたいた、子供達がそれに続く。そして私達は楽しげにこの姿へなれた偶然の機会に感謝しつつ、翼を力強く羽ばたかせて行った。
あれから10年余り、今この島にいるのは私達鷲人とその家畜となった人間達だけ。あの後家へと帰ると誰の姿も無かった、あったのは荒れ果てた家の残骸。付近一帯の住宅全てがそうだった、どうやら高級住宅地と言う事で現地の貧困層に略奪されたらしい。あちらこちらに転がる見慣れた顔の死体と見たことの無い顔、そして異形の生き物・・・恐らくは私達と同じくあの謎の塊に当たって体が変化した者なのでしょう。その足で私達は町へと飛びましたが、町も荒れ果てていました。略奪と暴力が町を席巻し戦場の様な有様でした。
数日の間は傍観していた私達は全体の状況を把握すると早速行動を開始、異形の者や暴徒を襲い食料等を確保すると共に片っ端から人を襲いました。とは言え無計画に襲ったのではないのです、暴徒等は論外で徹底的に叩きのめすだけですが人々を守っていたりする強い者や善良な人々を保護し機会を見て犯しました。それは簡単な事です、少しこちらからフェロモンの量を増やしてやれば人はすぐに自ら体を差し出して来るのですから。そして犯し同族にします、自分達と同じ鷲人に姿を変えさせて私と息子達をトップに実力等に合わせて狼や犬の如き絶対的なヒエラルキーへと組み込むのです。そうして体制を整えると共に、暴徒等は家畜として人のまま最下層に置き絶対的な支配下に置いたのでした。
島の支配はわずか2日で確立しまして、以来月日が経ち安定して十分に数も増えた現在、私達はある事を考えています。それは故国日本は東京への帰還、いや凱旋を一族を挙げて行う計画です。恐らくこの計画は数年内に実行へと移されるでしょう、そして東京への帰還を果たし支配した暁には・・・あの人の遺志を告ぐ事としましょうか。何れにしろまだまだ検討の余地は遺されていますので、じっくりと煮詰めたいと思っています。何たって私達は化け物の仔、私はその母なのですから、必ずやり遂げます。
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