君に出会えたこと
君がここにいること
深い感謝を。
君に映る世界
「すまない…嫌な思いをさせた。」
忍足の部屋に入った途端に跡部がぽつりと言った。
先ほど跡部邸で「ありがとう」と言った言葉にも驚いたが、謝罪の言葉は
今まで聞いたことがなかったので忍足は驚いて振り向いた。
跡部は玄関から一歩も動いていなかった。靴を履いたまま俯いて呟いた跡部に忍足
は首を傾げた。
跡部邸でのことは予想はしてはいなかったが、自分から望んでついていったことだ。
だからその場で何が起ころうとその結果も自分で望んだものであり、跡部が気にする
ことではないと忍足は思う。
ここに来るまでいやに言葉数が少ないと思っていたらそんなことを考えていたのか。
「跡部?そんなんは気にせんでも・・・」
ええんやで、とその言葉は跡部に遮られる。
焦っているような速さで。
今言わなければもう言う機会はないとでも言うような切実さで。
いつも凛とした綺麗な通る声が震えているのが不思議だった。
「嫌な思いをさせて悪かったと思ってるのに、お前があそこにいてくれてよかった
とか…お前がくれた言葉が嬉しいと思ってる自分が…むかつく。」
弱い自分がいつも情けなくて、虚勢ばかり張って。
でも強がっていればいつか望んだ自分のまま強くなれると思っていた。
そうなれたら、一人でも生きていけるとそう思っていた。
「強い自分でいたかった。誰にも…縋らないで、独りで生きていたかった。
でも…違った。俺はいつも誰かに支えられてたのに気付かない不利をしてた
俺は…弱くて愚かだ。」
『景吾はもろうてきます。俺にとってはあんたが百人いるより千人いるより景吾一人のが意味がある。
何より一等大事やねん。変なこと言わんといて、もう景吾にそんな汚い言葉聞かせんといて。』
あの言葉に涙がでそうだった。
泣いてしまいたかった。
必要だと、
こんなに弱くて愚かな俺がお前に、誰かに必要とされていることが信じられなくて。
「…もう1度、」
玄関ちゅーで行こう。
「いや、でもさっき言ったことほんまやし、もろてくって言ったのも本気やで?
こんなとこにお前んこと置いとけるか。」
「俺は景ちゃんが大事やから本当のこと言っただけや。
・・・側におって、俺もお前んこと一人にしたりしない。せやから一人にせんとって…」
その忍足の言葉はどこか切実さを伴って聞こえ、跡部の胸は何故か引き絞られるように痛んだ。
「・・・いる。一人になんてしてやらねえよ。」
そう言って誓いのように二人、そっとキスをした。
それなのに、どうして。
今まで自分で選べたことは少なかった。
テニスをしたいと望んだこと。
でも今は自ら望んで彼の側にいることができる。
君の側にいること。
ありがとう側にいてくれて。
お前の瞳に映る世界はどんな世界なんだろう。俺の世界と違うのは当たり前。
俺たちは違う人間だから。
きっと優しい世界だと思う。
こんな俺を受け入れてくれたお前だから。
「側にいてくれたこと、嬉しかったから…お前を困らせたりなんかしない。」