[sbject.音色 -ネイロ- ]

「アスラン!来てくれたんですね」
大きなコンサートホールにキラとアスランが入っていくなり、まだ 人の入りの少ないホールの中でニコルが笑みを浮かべてアスランの元へと 駆け寄ってくる。いつもの服とは違い、アスランもキラもニコルも スーツを着用している。
今日ははニコルのピアノリサイタルなのだ。ニコルは暖かく 柔らかい笑みを浮かべて呆気に取られたようにアスランの服の袖を 掴むキラの顔を覗き込む。
「キラもこんにちは。僕のピアノを聴くのは初めてですよね? ゆっくり聴いていって下さいね」
ニコルの笑顔にキラも思わず笑んで頷いて、アスランの服の袖から ゆっくりと手を離すとニコルと向き合って話をし始める。
「キラはピアノリサイタルは初めてですか?」
「うん、実はそうなんだ。だから妙に意識しちゃって…その、僕が 緊張するなんて変だよね」
キラが苦笑するように瞳を細めて笑むと、そんなキラを横から見つめる アスランは思わず微笑んで、向き合うニコルはキラに今日弾くピアノに ついて優しく説明する。
「ふふっ、緊張しないで良いですよ?今日は名曲から何曲か、と僕の オリジナルを何曲かやるんです」
「オ、オリジナル!?ニコルはすごいなァ」
キラが呆気にとられたように声を上げるとニコルもアスランもキラの穏やかな 表情に微笑む。場が和やかな雰囲気を持つ中でそこへ堂々と入って来る者がいた。
「貴様ラ。こんな入り口で何をやっている」
その声にアスランもキラも振り返ってみると正装をしたイザークとその 少し後ろで入り口の扉を閉めるディアッカの姿が見られる。
いつもの髪よりもディアッカは後ろへと少し髪を流してオールバックのようにしている。 イザークは歩くと微かに揺れる細きプラチナブロンドの髪を 指先で掻き揚げてキラを見やる。
「貴様のスーツ姿は初めて見るな。軍服かパイロットスーツしか 見た事が無かったからな」
イザークは"貴様呼び"をする割に優しく微笑んでキラを見やると、キラの首元に 手を伸ばしてスーツの中に入ったシャツの襟を出して襟元を整える。
「ぁ、有難う。僕もイザークのスーツ姿は初めて見るけどイザークも ディアッカもよく似合うね」
人がだんだんと入ってくる中でキラは小さく笑んでイザークとディアッカの顔を 交互に見やる。キラは少し目線を上げて大きな瞳を微かに細めて 柔らかい笑みを見せるとふいにアスランがキラの服の袖を引っ張る。
「ェ…?!ちょ…とアスラン…?」
「――…そ。そろそろ席につく時間だ、行こう。キラ」
アスランが自分の方へとキラを引っ張るとイザークはムスっとして アスランと逆のキラの袖を引っ張る。アスランもキラも 瞳を見開くとイザークが明らかに眉を寄せているのが分かる。
「何故貴様がキラを連れて行く!!」
「おいおいイザーク…こんなとこまで来て何やらかす気だよ」
アスランとイザークがキラを挟んで立ち合うとディアッカがイザークと キラの間に入るようにして身を乗り出し、その光景にニコルは小さく 微笑んでその光景を見つめる。
「…イザークその手を離せ。キラは俺と一緒に見る約束をしたんだ」
「そんな事は関係無い。貴様こそその手を離せ!!」
「ちょっと2人とも!今日はニコルのリサイタルなのに…」
アスランとイザークが睨み合う間に立つキラは眉を下げて擦れた声を上げて アスランとイザークの顔を交互に見て、その後に目線を落として小さく溜め息をつく。
キラが困り果てて目線を伏せるとそれに見かねたディアッカがイザークの服の袖を 引っ張ってイザーク手がキラの服から離れるのを確認するとイザークの体を抱上げる。
「――ッ!?貴様ァー何をする!!?下ろせ、ディアッカ!!」
「暴れんなって…ぉぃ。今日はニコルのリサイタルなんだからな」
イザークが暴れてディアッカの首元に爪を立てても呆気にとられる キラ・アスラン・ニコルが見つめる中でディアッカは小さく苦笑してイザークを 連れて行こうとし、3人から離れる際に右手を上げて眉尻の横に持って行くと 人差し指と中指を立てて3人にディアッカなりの敬礼をする。
「んじゃ遠くから見てるからしっかりな、ニコル!アスラン貸し1な」
「何が"貸し"だ!!貴様―――――ッ!!」
暴れるイザークをしっかりと抱いてディアッカが3人の元を離れると アスランもニコルも呆気にとられていたのが、くすくすと笑って その背を見送る。ディアッカはイザークを抱きかかえたまま2階席へと上がって行き 暴れ叫ぶイザークに溜め息をついてようやくイザークを下ろすとイザークの服の 袖を引いて歩いていく。

「ふふ、3人ともどこでもこの調子ですね。それじゃ、僕は行きます」
ニコルがくすくすと小さく笑んでアスランの顔を見るとアスランは ニコルと目線を合わせてバツが悪そうに小さくはにかむように笑って 眉を寄せる。そんなアスランの顔を見やると横に立つキラも思わず笑んで、 ニコルはキラの笑みを見ると2人の元から離れて行く。
「…ぁ。ニコル頑張ってね!」
キラがニコルの背に声をかけるとニコルは首だけ傾けて振り返り、口端を 少し上げて頬の方に小さくえくぼが見えるように優しく笑みを見せて頷く。
「――…今度は眠らずに聞いていて下さいね、アスラン」
ニコルの優しく柔らかな笑みにアスランはまたはにかんで苦笑して ニコルと目線を合わせてからキラに小さく声を掛けて2人並んで席の方へと足を向けて行く。

             ***************

リサイタルを訪れた面々が席に着き、時間になるとニコルのリサイタルがはじまる。
それぞれの席に着いてニコルに拍手を送り、ニコルの演奏に耳を傾ける。 ステージで光に当てられてニスが綺麗に塗られ、隅々まで磨かれた漆黒の グランドピアノの美しさもさる事ながらそのピアノで若干15歳とは思えぬ 美しい音色を奏で出すニコルはまさに光り輝いていた。
始まりと終わりには盛大な拍手が起こり、最後にはニコルにアンコールが頼まれ、 会場に駆けつけて演奏を聴いていたラクス・クラインが舞台に上がり ニコルがピアノで会わせてラクスが一曲歌を奏でた。
ステージは大成功で幕を閉じたのだ。


リサイタルが無事に終わるとアスランはイザークに追いかけられるのを 恐れてキラを連れて会場を出て、近くの喫茶店へと足を向けた。
風が揺れて2人の髪を乱れさせる中でアスランは扉に手を差し出して 喫茶店の入り口を開いてキラを中へと先に入れる。
「先にどうぞ」
「有難う、アスラン」
夕暮れの太陽の当たる暖かい席に2人は案内されて2人は向かい合い 席へと腰掛けてメニューをオーダーするとアスランはきっちりとしてめて いたネクタイに手を掛けて緩めると瞳にかかる前髪を指先で軽く掻き揚げる。
「…あのさ。ニコルのリサイタル凄かったね。上手すぎて年下になんてとても思えないや」
キラが柔らかく笑んでアスランを見つめて話し出す。"あの曲も良かったし、オリジナル はちょっと寂しい感じだったけど綺麗で…" キラの話にアスランは瞳を細めて目の前のキラに優しく笑んでその話を聞き頷く。
「そうだな。ただ良いピアノじゃ宝の持ち腐れだ。あのピアノはニコルが 弾いたからすごく良かった」
「うん。ニコルの奏でる音色ってすごく優しくて綺麗で、でも力強くて…すっごく いい音だったよね」
キラはアスランの意見に激しく同意するように頷いて、微笑み瞳を細める。 陽に当たるキラの笑みは美しくてアスランはキラを真っ直ぐに見つめる。
「…音色が綺麗だって言うなら"キラ"の声だってそうだよ。 綺麗で優しくて温かくて強い…だろ?」
アスランが真顔になりながら優しく微笑むとキラは思わず呆気にとられて頬を 紅に染めるが差し掛かる夕暮れの陽射しの中でそれは分かりずらい。
アスランとキラが共に黙り込むと、そこにウェイトレスがコーヒーと紅茶を 持って来てテーブルに置いて2人を見やり丁寧に1度お辞儀をする。
「綺麗って――……そんな…ぁ。の、飲もうか!!」
キラは言葉が出て来ずに丁度来たテモンティーのカップに手を掛けると、 アスランは小さく苦笑してコーヒーカップを手に取り瞳を伏せて笑む。
「…あぁ、そうだね」

西日にあてられた2人の顔がほのかに紅を帯びたのを隠していた。
夕暮れ、君は暖かい人で俺には君の全てが愛しい――…


アスキラよりもキラ総受けが好きな方。オマケ

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ニコルのリサイタルが聴きたいのはあたし。
アスランは寒い台詞を平気で言いそうだよ。
それでキラは終始照れちゃったりね(笑)

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