ようやく長きに渡った争いを終え僕たちは日常を取り戻そうとしていた。
それは遥か遠い昔の事のように、忘れていた日常。


[sbject.平和と罪]

「…キラもう体は平気なのか?」
争い後プラントに下りた一行は傷をそこで癒していた。 街の人々の復興を手伝いながら。
アスランは夕暮れの丘に登るなりその姿を見つけて思わず声を かけて駆け寄っていく。キラ・ヤマトの元へ。
「ん?アスラン……うん。もう平気だよ」
日の沈み出す夕暮れの丘の上の木陰に立つキラの髪は風に擽られて揺れる。 キラの穏やかな瞳はアスランをとらえて、キラの元に寄り添うように して立つアスランはそんなキラに小さく優しく微笑みかける。
「この頃はまた何か考えているんだろ?…考えるのも良いけど 一気にたくさん考えるなよ。考え過ぎるのは良くない」

その瞬間風が2人の間を吹き抜けてゆく。

そんなキラの姿を見るアスランは思わず一息ついてキラの体にそっと 手を伸ばしてその体を抱き寄せ、細き体を優しく抱きしめる。
「…ただ俺は心配なんだ。キラ……1人で思いつめるなよ」
キラの細き柔らかな髪にアスランが触れてそっと撫で、キラの 肩をしっかりと抱きしめるとキラがゆっくりと指先をアスランの 服の裾へと伸ばし、そこをきゅっと掴む。
「――ッ…分からないんだ!僕たちのした事に、それに罪は無いのか!? もっと早く気付いたから……僕たちは――ッ」
キラの声が少しかすれて上ずり、アスランの胸へと身を預けると アスランはキラの体を吹き付ける風から守るかのように 優しくキラの体を包み込むようにして抱きしめる。

時が、風が、2人を見守る中アスランは小さく息を洩らして キラの肩から手を外すとキラの手へと自分の手を伸ばして、 キラのその細き手首を軽く掴み取る。
「――…見せたい物があるんだ。…ちょと来てくれ」
ふいにアスランはキラの顔を覗き込むとその手を引いて静かに 丘を下り出して行く。
「ェ!?―――…ちょ、アスラン…?」


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丘を下りたアスランがキラの手を引いて向かう先には 真っ白の決して大きいおは言えぬ建物があった。
「……ァ――…アスラン?」
建物を前にキラがアスランの横顔を見上げるとアスランは 小さく笑んでキラの手を引っ張る。 廊下を進むと大きな吹き抜けのホールの部屋が現れ、 その中央にははっきりと分かる物があった。

――――大きくて黒いグランドピアノ――――

「ァスラン…ここは………」
部屋の中央へ足を進めその物を目の前にキラが小さく洩らすと、 そのグランドピアノに触れるアスランは瞳を細めてキラの顔を見やる。
「あぁ、ここはブリッツのパイロットだったニコル・アマルフィーの ためのピアノホールだ」
アスランの言葉にキラの動きが止まる。ニコル、と言えばキラが アスランと争った際にアスランを助けるために命を落とした 若きザフト軍の戦士。キラはブリッツを思わせるような黒きグランドピアノに そっと手を掛ける。
「ニコルは俺たちの誰よりも優しくて、強かった。ピアノが大好きな 15歳だったのに…それなのに"平和"を求めて戦った」
アスランの手が拳をつくっているのがキラにも分かった。
キラは思わず目線を落とし奥歯をきつく噛み締めてる。
「…キラ。目をそらすなよ。これはもう変えられない真実だ。 でも今はニコルが求めた"平和"があるんだ。この平和を護る事がニコルの ために出来る事じゃないか?」
アスランの考えに僕は思わず瞳が潤んだ。でも泣いてはいられない。 僕たちは変える事の出来ない"今"を生きているから。
「…………うん」
僕はゆっくりと頷いて、瞳を開くとアスランの手はもう拳を つくっていないのが見えた。


「なに1人で格好付けてるんだよ、アスラン」
「そうそう。こんな所で何やってるかと思えばな」
ふいに上から声が聞こえてきて、アスランもキラも思わず顔を上げると ホールの2階席の渡りからイザークとディアッカが自分たちを 見下ろしているのが分かった。
イザークとディアッカは小さく笑むと2階から柵を越えて下りて来て、 2人の側へと歩み寄り、ホール内に音を立てて風は吹き抜ける 頃にはイザークがキラの横に立つ。
「まったく貴様は本当に甘い奴だな。…それに比べ、お前は本当に 油断もスキも無い」
小さく溜め息をついてキラを見るとイザークはキラの奥に立つ アスランを見て呟くように洩らしてわざと深く溜め息をついて見せて口端を 微かに上げてニヤリと笑む。
「ぇ?…イザークとディアッカは何しに来たの?」
突然の2人の登場にキラが呆気にとられているとイザークはアスランから キラを奪い取るようにキラの腕を引きキラの顔を覗き込む。
「―――――ェ!?」
「…そんなの夕食の時間だからに決まっているだろ!突然いなくなるから 俺自らキラを探しに来ただけだ」
「イザーク!?」
イザークが小さく笑んでキラを見つめるとアスランはイザークの腕をキラから 離してイザークの手を掴む。
「油断が出来ないのはどっちだ!!」
アスランの声がホールにこだまするように反響するとイザークとアスランは 敵対するように互いに向き合い、キラは2人の間に入り 2人の顔を交互に見上げる。
「ちょ―…!ちょっと!2人ともやめてよ…」
アスランとイザークの間で困ったように眉を下げて2人の顔を 交互に見やるキラの姿にアスランとイザークは思わず動きを止める。

『キラ…なんて可愛いんだ。イザークがいくら入って来ようと 俺たちには昔からの絆があるよ…な』
『チッ…キラはこんな奴等に見せるには勿体無いくらいだ』

「さて。こんなくだらねぇ事やって無いでさっさと行くこうぜ!キラ!」
2人が動きを止めてキラが困り顔をしているとディアッカはにこりと 微笑んでキラの手を引っ張り、2人の間からキラを連れ去るように 抱上げてホオールから一目散に出て行く。
「――え!!?ちょ、ちょっと!!ディアッカ!!?」
キラがとまどい暴れるのも気にせずにディアッカはキラの細く軽い体を しっかりと抱きしめて、ニヤリと笑むと立ち尽くす アスラン・イザークを見やり軽くウィンクする。

「ディアッカ――…貴様!!ただで済むと思うなよ!!!!」
「キラ――――ッ!!!!ディアッカ待て!!」

アスランとイザークの叫び声が大きくホールにこだまして、ディアッカの 笑い声が屋外から風に戻されホールに響き、そうして少年たちは 少年らしい日常を取り戻していく。忘れていた日常を。
今ここに、もし、あの優しき15歳のピアノを愛す少年がいたのなら
きっと、きっと彼はこの光景にもあの暖かく優しい笑みを見せただろう。



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ニコルが大好きな管理人の気持ちです。
きっと笑顔でこんな光景を見つめてくれるのでは,と
思ったら突然書きたくなった1作です。


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