As.−Treat me nice

『目眩』

komedokoro


 

 

 

 

 

2017-4-10  16:25



真新しい制服に身を包んで、シンジとアスカは桜並木の下を歩いていた。
赤と青の通学自転車を押しながら。
散り始めた桜は、その両側に続くトンネルの中にいる全ての者を、なにか温かな、幸せな気分に変えてくれる。

シンジが急に立ち止まったので、2、3歩先にでたアスカは、怪訝な顔をして振り返った。


「どうしたの?はやく来なさいよ。」


それに応えず、シンジはどんどん桜並木の下の芝生に踏み込んでいく。その向こう側はまだ幼木の桜が比較的密生してうえられている。次世代の並木が育成されているのだ。
そこに自転車を止め、スタンドを立て走り出す。


「ねぇっ、ちょっとてば、シンジ。待ちなさいよ。」


慌ててアスカも赤い自転車をその場に倒してあとを追った。
どんどん彼の姿は奥へ踏み込んでいく。強い風が吹き抜け、目の前に舞い上がった桜に一瞬視野が遮られた。目をつぶった間に少年の姿を見失ってアスカは小走りに追う。


「あ、こんなとこにいたんだ。ちゃんと付いて歩きなさいよね。」


シンジは緊張した顔で、一本の太い桜の裏側によりかかっていた。


「アスカ、こっちに来て。」
「なに?  あっ・・・」


手を引き寄せられたと思ったら、くちびるが重なっていた。


「あん。ん・・・」


手で遮っててて防ごうとしたが、もうその時には頭に霞がかかったようになって、力が入らなっかった。思い掛けない、男の子の方からのアプローチ。
唇がすぼみ、離れる時に微かな音がした。
時間にしたらほんの2〜3秒のキス。それでも十分な程、熱く頬が染まっている2人。
アスカはそのまま、シンジの肩に抱きとめられてしまっている。シンジも恥ずかしそうな表情のまま、アスカを離そうとはしない。


「・・・怒ってない?」

  『なんでそういう事を言うかなあ・・・そう言ったらあたしは・・・そうか。』

「アスカ?」

  『黙っていれば良いのよね。気の利いた事を言ってくれるまで。』

「アスカの事・・・大好きだ。君が・・・僕と一緒にいてくれる気持ちとは違うかもしれないけど・・・」

  『何よ突然。あたしが、どう違う気持ちで一緒にいるッて言うのよ。』

「只の家族みたいな気持ちでいるのかもしれないけど。弟分みたいな・・・」

  『それを言うなら召し使いとか使用人でしょうよ。』

「アスカ・・・僕は・・・君のこと・・・一人の女の子として、好きになっちゃったみたいなんだ。」

  『最初ッからそう言えば良いのに。まったくじれったいんだから。』

「大体あんたは・・・。」

「え?」


顔を起こして、アスカはシンジの目を見つめる。
一世一代の告白の最中に顔を起こされるのは辛い。たちどころに怯んでしまったシンジ。


「あたしが好きでもないやつにキッスされて、なよなよ抱かれているような女だと思ってるわけ?一体あたしの何処見てそんな判断したのよ。」


アスカにしてみても、いっけない、と思いながらこうなるともう止まらない。
頬と額が赤く染まるのを意識しながらも、勇敢に言い放った。


「あたしはね! あたしは・・・あんたと・・これからも一緒にいたいなあって。そう思ってたから、一緒にいるのよ。シンジの馬鹿と、この鈍い鈍い馬鹿シンと!」
「ひ、酷いよアスカ。」
「ひどくないっ! じゃあ、あたしの気持ちがどんなだか言って御覧なさいよ。」


シンジの顔が、カッと熱くなった。その熱気がアスカに伝わってくる程だった。


「も、もしかして・・・」


気弱な少年は俯きそうになって、見つめてくる少女の視線を外しそうになる。
だが、外そうとした視線の先に少女は一歩踏み出して、その強い輝きを放つ青い瞳で、シンジの視線を離さない。


「僕・・・うぬぼれてもいいの・・・?」
「言って! あたしがあんたのことをどう思っているのか!」
「アスカは・・・僕のこと・・・好きでいてくれてるの?」
「もっと、大きな声で言って!聞こえない!」
「アスカは僕のことが好き!」
「そうよ・・・。」


シンジは真っ赤に上気した顔を輝かした。そしてゆっくり、もう一度息を飲んだ。


「アスカは、・・・僕のことが好き。」
「そうよ。あたしは・・・あんたのことが好きなの。」
「僕も、アスカが、君が、誰よりも好きだ。」
「あたしだってそうよ。あんたの事、他の誰よりも・・・好き。」


そう言うと、アスカはもう一度シンジの肩に顔を落とした。
告げた言葉が身体に染み込んでいく。
シンジはアスカの髪を背中でゆっくり撫で続けている。少女はその手がうれしい。


「アスカの髪は、気持ちいいね。」


最初にアスカが自分の髪を任せた時、ブラシの使い方も知らない男の子を怒鳴り付けてばかりいた。それが鮮やかに赤金のアスカの髪を結い上げてくれるようになっている。
それだけの時間を2人は過ごして来たのだ。
あの頃つけていたインターフェイスセットが、リボンに変わっても、毎朝繰り替えされる2人の儀式は今でもかわりはしない。


「あんたが毎日ブラッシングして、結ってくれてる髪だもん。」


そう言うと、少女は再び顔を上げて、シンジの頬に自分の頬を押し付けぐりぐりと頬ずりをし始めた。微かに互いの唇が頬をかすっていく。


「ふふっ、まるで猫みたいね、あたし達。」


長いこと、そうやって飽きずにしがみつき合い、顔中を擦り付け合っていた。
そして最後に、再び唇同士があわさった。


「ん。」
「ふ。」


じっと固まったまま動かない。互いの息が聞こえる。互いの体温が布地を通して次第に伝わってくる。
その身体の感触が形が、触れている腿と腿から、お腹とお腹から、胸と胸から、頬と頬から、唇から、触れている髪から、腕と腕から。互いの熱い、若い弾む肉体の感触を感じる。


『あ・・・アスカの筋肉の動きが分かる。』
『シンジの体温が分かる。』


唇が割れ、アスカの柔らかな舌がシンジの唇にわずかに触れる。
反射的にシンジの舌もそれに応じるように伸ばされる。
まるで握手でもするように2人の舌が絡み合う。
触れあっていた2人の腕が互いに自分の方へ相手を引き寄せ、頬が強く押しつけ合わされる。
息が荒れ、きつく抱きしめ合う。アスカの足がすこし背伸びをする。


「は。」
「ふう。」
「ん。」


求め合う。固く、きつく、相手の身体の中にめり込んでしまいたいと望むように。
汗ばんだ額。汗ばんだ身体。ふと、顔を互いに離した。


「え?」
「シンジ。」

アスカが、薄いピンクのハンカチを制服のポケットから出した。


「こんなに汗かいてるよ。」


鼻の頭と、両脇。額をハンカチが押さえていく。シンジがアイロンをかけたあと、毎朝僅かにアスカがコロンを一滴浸ます、その香りがかすかにシンジを包む。
にっこりと笑った顔が、今まで自分に向けられた笑顔と全然違って見えた。
2人は再び並木にそって歩き出す。
顔が綻んでしまいそうな幸せな気持ちが胸に溢れていて、こっそり相手の顔を伺い、ちらちらと目線が落ち着かないのだった。


「・・・シンジがいきなりキッスして来たのには驚いたけどね。」


シンジによくそんな勇気があったなあと思う。自分だって何回シンジにぺとっ、と身体ごとくっつきたいと願った事だろう。
朝シンジが歯を磨いている時、ダイニングに立っている時、帰り道、少し斜前を歩いている時。

急にどうしようもなく、この男の子にしがみついてその匂いを吸い込みたくなる。
自分にこもった、何か温かい想いが、吹きこぼれないように押さえ付けたくなるのだろうか。


  『ねえ、手を繋いで。』


その一言がどうしても言えなかったのだ。でも・・・今なら。とアスカは思う。


「シンジ、シンジ。」


振り返ったシンジが微笑んだ。その笑顔に向かって勇気を奮い起こして言った。


「手。・・・繋いで帰ろ。」


シンジは黙ったまま手をさしだしてくれた。
その手に自分の手を重ねる。


「アスカの手って・・・随分小さいんだね。」


指の長いシンジの手に、アスカの手はすっぽりと包み込まれてしまう。


「そうかな。うん、シンジの方が手が大分大きいから。」


顔を見交わす。なんて可愛いんだ。なんて凛々しいのかしら、と互いに思うが、それを気楽に口にできる程まだ大人ではない2人だった。並んで歩く横顔を視野の端に感じて。



『アスカ・・・アスカ・・・』
『シンジ・・・・シンジ・・・・シンジ』



お互いの名前を幾度も口の中で転がしながら、手を繋いで家路を辿る。
その名前に、リボンをかけて。
その名前を、柔らかな絹でくるむようにして。

自転車を押しながら、目眩がするほど幸せな道をたどっていく。








・・・・この記憶は、誰のもの。








2019-02-01 15:22



千倉島に到着した旧ネルフ部隊は、ビルの概観を見る地点に数人の拠点確保要員と無線を置き、
本部とした。二手に別れて施設ビル内部進行を決意。それに先立って特務班が仕掛けた一階の対人爆薬が破裂。さらに外部の迫撃砲によって数箇所への攻撃が加えられた。
ミサトらはその直後に施設周辺に巧妙に隠ぺいされた交戦陣地を制圧した。実際の交戦無し。
被害無し。その直後に続けざまの拳銃発射音を施設内部から認めた。


「さっきの銃声が気になるわね。交戦開始から既に25分。敵の逃走の気配はないの!」
「特務からの知らせはないのか?」
「未だ動きはありません。長野の時と状況は同じです。」
「このままでは、またアスカを救えないおそれがあるわ・・・。何としてもあの子だけは救出しないと。」
「立川の米ヘリ部隊が発進しました。到着まで約2時間です!」


無線係がミサトに報告を入れた。堪らなくなったシンジがミサトに大声で呼び掛ける。


「ミサトさんッ! 行きましょう。敵か味方か分からないなら行くしかないじゃないですか!」

筒型の大型手榴弾を握りしめるミサト。階段に築かれた重機の防御帯を突破できないのだ。


「シンジ君、皆。撃ちまくって!」


手榴弾のの筒を渾身の力を振り絞って投げた。其れは敵の防御陣地の向こうに落ちた。
女性が投げるのが意外だったのか、重機は沈黙していた。それは天井にあたって、砂袋の前に落ち爆発した。その瞬間、シンジが鋭く直線を描いて手榴弾を向こう側に投げ込んだ。
階段をカラン、がらがらと下の重機に向かって落ちて来る。



「伏せてッ!」


バッと凄まじい爆発音と激しいけむりが広がった。
階段が縦に揺れた所から、敵兵が転がり落ちて来る。


「全員突撃ッ!!」


正面の兵が突然大声を上げて2階に駆け上げって行く。その先頭集団にシンジとレイもいた。


「うおあらああああーーーー!」「うわあああーーーーっ!」


2階には廊下もドアもなかった。3階にも。4階に達し、初めて通常の通路と二つの階段が目の前に現れた。通路に沿って幾つかの部屋があり、鍵を破壊して内部を見るとがらんとした内装の無い部屋と、みょうに人間臭い生活臭のある部屋が、ランダムに現れた。


「ここ!」


レイが立ち止まった。素早く壁に粘土のようなものを数カ所に張り付けていき、導線を伸ばし、スイッチを捻った。爆発の衝撃の後、そこに駆け寄り銃の台座で思い切り壁を叩くとモルタルのような外壁が崩れ落ちた。

そこに現れたのは真っ赤な金属の壁だった。


「何だこれは・・・」


不思議な感触の金属・・・体温と脈動すら感じられる。
その温かさの中にレイが心を沈みこませようと努力している微かにえがかれる彎曲・・・
これは。これは・・・シンジにはレイには覚えがあった。これは・・・これは・・・!

その途端に銃弾が周囲に叩き込まれてくる。反対側の階段の上から敵とおぼしき一団が現れたのだ。
ヘルメットと防弾服に助けられて、何とか物陰に引くが互いに死角に入って動きがとれない所に、階下から後続の部隊が駆け上がって来て反対側の通路は通過できるようになった。


「シンジ君、レイッ、行くわよ! 皆は援護してっ。」

分隊が撃ちまくる中、10m程の通路を一気に駆け抜けると、敵集団の側面に付く事ができた。
すかさず手榴弾を投げ込むと、一気に爆発音の中に敵の気配が消えた。反対側の支隊は更に階段をかけ昇っていった。ミサトはシンジとレイだけを残し分隊に更に進むように指示して、床にどっかと胡座をかいてすわり込んだ。


「やれやれ、さすがに齢かなっ・・・と。実戦なんて久し振りだもんね。」
「ミサトさん、あそこにむき出しになっている赤い壁なんですけど。」
「え、ああ、あれ?」
「エヴァの外甲殻ではないかと思う。・・・体温も僅かながらあったし。拘束具をつける前の、本来のエヴァの甲殻。しかも色から見てアレは弐号機のものではないかと。」
「もしそれがその通りだとしたら、この施設の1〜3Fにはエヴァが詰まっているって事?」


冗談ではない、だから此所には敵の影が少ないのだとしたら、既にコントロール不能な状態まで爆発的に細胞増殖が進んで、孵化直前などとも言えるではないか。


『 ! もしかして、立川の米軍部隊が此所に向かっているのはその為?』


孵化直後のエヴァを捕獲する為の部隊をここに派遣したのだとすれば、孵化はスケジュール通りで、もう変更不能なまでに事態が進行した事を意味するではないか。


「本部ッ!先行した部隊を施設外に誘導してっ!至急最優先っ!」




『シンジ・・・  シンジ・・・』



「綾波っ!今何か聞こえなかった?」
「え、なにも・・・」



『シンジ・・・シンジ・・・! 』


「アスカだっ、ミサトさん、アスカがいるッ!」
「しっかりして、シンジ君、この建物崩れる可能性があるのよ。」


びきびきばきばきっ!


いっている傍から、建物に細かい亀裂が走り始めた。嫌らしい音が建物全体に軋んで伝わる。


屈み込んで、目を閉じ、心を研ぎ澄ます。アスカの声が確かに聞こえたのだ。

『アスカ!どこ!』こころの中で呼び掛ける

「アスカ、もう一度呼んで、僕を呼んで。」

小声で再び呼び掛ける。


『・・・ここ・・・こっちよ・・・シンジ、レイ!』



「聞こえたッ。」
「聞こえたわっ!」


シンジとレイが同時に大声を上げた。


「この上だねっ!」


マシンガンを抱え直すと、2人は一気に階段を駆け上がった。
ミサトも必死でその後を追った。
煙草の本数、減らさなきゃだめだわ。持久力が。と関係の無い事を考えながら走った。

こことおぼしき部屋に着いた。激しくドアを叩くが反応がなく、鍵がかかっている。
躊躇わずドアのキーを吹き飛ばす。
3人が飛び込んだ部屋の中、誰もいない。次の部屋、更に次のへやっ!


「あっ!」


血まみれの部屋。なんらかの惨劇があったらしく、血まみれのシーツやベッドが放置されている。
その血だまりの中に突っ伏すように、少女が倒れている。


「アスカッ!」


抱き起こす。わずかに目を開いたが、再び閉じてしまった。もう一人の少女は背中に大穴を穿たれ即死状態だった。大きな目が凍っている。


「どういう事・・・こっちもアスカじゃない。」


年末に現れた少女だ。どちらかは。


「しっかりしろ!アスカッ!」


思わず身体を揺さぶると、再びゆっくりとまぶたが開いた。



「シンジ・・・あたし助かったんだね・・・シンジ・・・」
「うん。帰ろう、僕らの家に帰ろう。アスカ・・・ 」


ミサトは次第に振動が強くなった建物の壁に走るヒビを睨み、激しく叫んだ!


「いったん脱出よっ。」


シンジがアスカを背中に背負い、レイが後を支える。全力を振り絞って階段を降りていく。
不思議と残して来たほうが本物ではないかという考えは浮かばなかった。
レイの8個。シンジの11個の手榴弾で道を阻むものは全て吹き飛ばす。
後数個となったところでやっと玄関ロビーにたどり着いた。パワーショベルが無理矢理玄関口にその半体を突っ込み中央部の柱と天井を支えている。


「早くッ! アームの下を走って!」


日向が叫んで腕をグルッグルッと回している。通過した瞬間に重機のオペレーターが飛び出して来る。天井が、がらがらと崩れ始めた中を日向とオペレーターが外へ飛び出していく。
柱に亀裂が走り、コンクリが弾き飛ばされて周囲の壁に突き刺さるように叩き付けられる。
鉄筋が見る間に圧縮されたようにきいいーと嫌な音を立てて曲がっていく。


「下がれっ、崩れる。ビルが倒れるぞっ!」


ドドド、ベキベキベキベキバキッ・・・・・


最後に、ボスンという音がして猛烈な煙が周囲に噴きあがる。不均一の圧迫決壊のため上部の建物は傾いていく。その崩壊しかけたビルの中か、この世の物とも思えぬ叫びがあがる。


「きゅああーーーーーーっ。ぎゅわあああーーーーーーーっ。」


何ごとかと思う間もなく崩れたビルの側面から何かが貫き通される。真っ赤なカラーリング巨大な人形(ひとがた。)がらがらと巨大なコンクリ塊が下に向かって落下して来る。




「たッ、退避ッ!」
「なっ、なんだあっ!」


ヴン!という腹に響く振動が伝わって来る。
ずしんずしんと地面に食い込むように続けざまに、猛烈な勢いで落ちて来る。
その最上階でなにかが蠢いているのが見える。身体を揺さぶっている。


「ごわああっ!」


ビルの崩壊と圧壊が同時に起きた。壁面が丸ごとそのまま倒れる。濃いミルクのような煙。
その煙が周囲を霧のように覆う。それが次第に薄くなりミサト達はその場に浮かび上がって来たものを目にした。そこにいたもの全員の視線が釘付けになる。恐怖で声が出せない程の衝撃。


「う、うそお・・・。」
「ああ・・・」


レイが、無線機のスイッチを次々と跳ね上げ、本部の周波とあわせる。
ミサトが、熱にうかされたように呻いた。



「エ、EVA...弐号機。  EVA02-JD-UNF ...」


そこに現れたものは腰から下を埋め尽くしたビルの残骸から立ち上がる。何トンも有る塊をまるで丸められたティッシュのようにはね除けながら。


ぎゅあああああああ・・・・・・・っ!


その、聞くものの心を深淵に引き擦り込まずにはいない、悪魔の雄叫びが響き渡る。
以前の真紅ではない。静脈血の様にやや黒ずんだ機体のカラーは見るものにこれが悪しき存在であることを、瞬時に理解させ、身体を凍り付かせる。もっともそのカラーは未だ全身を包んでいる訳ではない。皮膚がもともと装甲外板として変異している部分を除けば、吐き気を催すような腐敗臭をともなう赤黒い肉体が生々しくさらされているのだ。
腿を包む筋肉、後頭部から脊椎に沿ってと、下腹部と脇に沿って下肢まで。そこで広がり、下腿全てを取り巻いて包んでいる。上半身前面胸部は覆われ、脇に繋がってそのまま背面の肩甲骨を覆っている。そして特徴的な複数の目。実戦配備用の最強のEVA。


「弐号機・・・・!」


シンジとレイは唇を噛んで、その地上最強にしてもっとも禍々しい存在を見上げた。
アスカは、死んだようにぐったりとシンジの背中にもたれ掛かったままだった。

 

 

 

 

 

AS-tret me nice-26『目眩』2002-08-25

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