As.−Treat me nice

『千紫万紅』

komedokoro


 

 

 

 

 

2019/12/24 23:20pm


 酒豪として知られるミサトであったが、実際の所はビールの量が凄いだけであり、強い酒をがぶ飲みできる程アルコールに強い訳ではない。勢いで飲むだけである。実際の所はこうやって、音楽を聞きながら水割りにした良いブランデーを飲むのが性に合っている。リツコが片思いの相手と宜しくやっているあいだ、偶然見つけたこのライブジャズの店に粘る事にした。気楽な学生同士のカップルはいても、こういう場所には余りべったりした場違いなカップルはこないものだ。この時間とも成ると、ジャズを神聖視したのめり込み型のファンも片隅に陣取っているし、煩い酒場ではなくなっているのでミサトにとっては久し振りにのんびりとした空間が確保出来たという所か。店にはいってからすでに3時間が立っていたが、それと感じない程、此所の空気に馴染みやすい物を感じていた。

 

・・・大人の時間って感じよね。このブランデーも良いの出してるじゃない。

 

強くはないが酒は好きである。ブランデーといってもミサトにとっては銘柄なんぞ興味はない。旨いか不味いかだけ。特に水割りで飲みたいミサトにとっては、ヘボなブランドよりもしっかりしたやつでないと安ウイスキーよりも不味い物を飲む事になるので勘弁してほしかった。去年まで契約していた畠と折り合いが悪くなって別の畠で契約をし直したミサトでも知っているブランドがあった。ボトルで50もする高価なブランドだった。契約を切られた畠は名もないブランドと再契約したが去年までの50が今年はたった12クレジットで飲める。お笑いなのは50のブランドが危機感から営業を強化したため、その年は空前の売れ行きとなった。品薄でプレミアが付き、60で売り買いされた。

 

まぁ、人間もそんなふうに上げ下げされる事はあるけどね・・・

 

ネルフの最高本部作戦部長葛城ミサト一佐も、現在は只の高校教師で恋人は行方不明、親友にも見捨てられ、同居の子供達は恋愛中でイブくらいは家を開けてやりたいので帰る場所もない有り様であった。別に落ちぶれたとは思っていないし、それはそれで幸せな毎日なんだと思ってはいるが。

 

やっぱ私は波乱の中で生きるのが似合ってるのかしら?

 

さんざんギリギリまで引っ張られたゴムのようになっているだけなんだとは思う。
だから、だらーんと・・。臨んで平治に乱を興す訳ではないが身体が燻っている。
バーテンが、水になってしまったグラスを取り替える。
大きな丸く削ったアイスを、砕かれた小さな氷が取り巻き、ダブルのブランデーが注がれる。
ミサトが注文していないものだ。

 

「あら、私はシングルの水割りしか頼んでないわよ。」
「この店のやり方で。注文された以下のものは、客に出さないんです。あなたの飲むペースから見るとこの比率でおいておくと一番注文に近い状態で飲んで頂けそうですから。無論店が勝手にやる事ですからお代はかかりません。」

 

そんな事を言うので、ミサトの猫をも殺すような好奇心に火を付けてしまう。

 

「ねえ、そんなんでよく店がやっていけるわね。」
「これがいいと言う事で、釣をおとりにならない方も多ございますので。その方々のおかげで何とかやっております。」
「そう言えば、演奏をやっているのにテーブルチャージも取らなかったわね。」
「入り口にある木のボックスに、演奏が良かったと思う方には1クレジット頂いております。それが彼等の収入になるわけです。」

 

そういいながら、素早く次々と料理が上がっていく。ミサトから見ると手品のような手際の良さだ。最近めっきり腕をあげたシンジより数段上だ。素材もいいのだろう。シンジの料理を食べていて、それより旨いと感じられるレストランが、あまりないと言うのもプロの調理人達はだらしないと思うが、此所の料理には十分満足していた。勿論、酒場のつまみと軽食だから、そんなに凝った料理ではないのだが。

 

「なるほどね〜。いいお店な訳だ。客とオーナーの共同経営のような店、かぁ。ちっとうらやましいような世界だわねぇ。」

 

思わず口にすると、バーテンはにっこり笑った。ミサトもついつり込まれて笑った。

 

「僕もそう思っているんです。幸せ者だな、僕はって。」
「あら、あなたがオーナーなの?」

 

意外な若さに吃驚する。この辺で店を構えるには莫大な資金がいるだろう。

 

「爺さんの趣味の店でやってました。この混乱の中で爺さんが死んだ時、此所を押し付けられましてね。やることもなかったんで継いだ訳ですよ。そうしたら・・・。」

 

バーテンは言葉を切って何か考えているようだった。

 

「うん?」
「バーテンがこんな事を言ってはいけないんですが・・・。」

 

バーテンは、オリーブオイルを鍋に注ぐと、一気にポテトに焦げ目を付け、石窯からピザを4枚引っ張り出して、一気にカウンターに注文された品を並べた。ウエイトレスが戻ってくる前にザクザクとピザを切り、ポテトを籠に移し、ビールジョッキを5つ並べた。洗い物を片づけている間に料理は無くなって、2分もせずにシンクも綺麗になった。

 

「すごいわ。私から見ると、まるで魔法だわ。」

 

何ごとに付け有能な人物には正直に感動してしまうのはミサトの長所だ。音を立てずに、ぱちぱちと拍手をする。バーテンの後ろにかかっている古いコカ・コーラの鏡に写った自分は、いつもより素直で可愛い顔をしているような気がする。

 

「いや、そんな・・・。」

 

照れたのか、バーテンは自分の後頭部を押さえてぎゅ、ぎゅっと押した。

 

「それ、照れた時の癖?」
「あ?ああ、これですか。前はガリガリと掻きむしるのが癖だったんですが、食い物を扱うようになったでしょう? 必死で癖を直したんです。不潔ですもんね。」

 

ちょうど演奏が終って皆が拍手をした所だったのでミサトの押さえた笑い声は響かずに済んだ。その喧噪にまぎれてバーテンはミサトにだけ聞こえるように顔を寄せて言った。

 

「・・・あなたは、凄くチャーミングだ。また、来て頂けませんでしょうか。」

 

ミサトは自分の顔が数年ぶりに、燃え立つように染まったのを感じた。

 

「な・・・あのっ。こんな所で軟派?」

 

笑いに紛らそうとしたが相手は本気の目をしているのが分かった。
伊達に長く女をやっていない。

 

「僕はサイギカヲル。妻の木と書きます。あなたの名前を教えて下さい、どうか。」

 

その瞬間、ミサトは魔法にかかったような思いだった。彼女はもともと加持以外の誰とも、付き合った事がない。今どき珍しいほどに、カビの生えた『貞操観念』などというものと、親友付き合いをして来た女性だった。それが今、はっきりとこの青年の言葉に揺れた。揺れただけではない。彼が聞いて来なければ自分で尋ねていたに違いなかった。加持との事が運命なら、この青年とも運命。そんな気がしたのだ。

 

「わ、私・・・。」

 

ミサトは真直ぐ見つめている青年の視線から目を外せないまま、言ってしまった。

 

「ミサトよ。・・・葛城ミサト。」

 

結局、その夜は2時の閉店時間までその店にいて、バンドのメンバーも従業員も皆帰ったあとも、店の灯りをカウンター以外の所全てを落とし2人は長々と話し込んだ。気が付いたらもう朝の7時を回っていた。
みうみう、みうみう、とミサトの携帯が猫の様に鳴いた。やっと、リツコ先生からの連絡だ。出たくはないが出ずばなるまい。

 

「はい。ミサト・・・あんた一晩中どこに行ってたのよっ!雪だから困るかと思ってずっと待機しててやったんだよ?う?ああ、そうでしょ。うん。そう、そいりゃよかったじゃなーい。」

 

『夜中じゅう歩き回りながら話すんだもの。こっちがハイヒールなのに気づいてくれたのが2時よ。詩人は鈍くて困っちゃうわ?』

 

そう言いながらちっとも困っていないのは勿論だった。

 

「こっち? ええこっちは・・・なんだ、ジャズ酒場で夜明かしよ。疲れたったらないわ。うん?いいよいいよ、迎えに行ってやるわよ。どこにいるのよ。え?ええっ?あんたねっ、それはどういうことよっ。そりゃ今日から冬休みだけど教師には生徒と同じ休みがある訳じゃ、ちょっとあんた、ねえって、待ちなさいリツコ!」
「学校のセンセイなんですか、もしかして・・・。」
「まぁ、いまはね。世を忍ぶ借りの姿・・・って、どうやらこのままになりそうなんだけど。」

 

にやりと笑い,妻木にそう言った。妻木はミサトの横の席に座っていたが、くるりと椅子を回転させて立ち上がった。

 

「どうやら、お友達には振られたようだし、朝飯でも食べに行きますか?」
「そうね、コーヒーでも飲みたいわ。ファーストフード店でもモーニングサービスでも、なんでもいいから。」
「じゃ、行きましょう。」

 

妻木がミサトの腕を取って軽く引っ張ると椅子が回った。そこにミサトのコートを、肩からかけて、バッグを手渡してくれた。リツコの事はあきらめた。機上の人では、どうしようもない。店のドアをあけると眩しい光が階段下まで射し込んでいて、ミサトは思わず手の平を目の前にかざした。指の間から軒下の雪が輝いているのが見えた。

 

 

 

 

 

***
2019/12/25 07:15am

 

 身体中が火照り切ったまま、歩くのも辛いような脱力感、いつまでも消えてくれない焔(ほむら)が、繰り返し襲ってくる。それがあの男との情事の後、いつもの事だった。身体が際限なく、より多くの刺激をいつまでも求めている。


なんだろう。他の人間といくら激しく交わったあとでも、こんな事はないのに。

 

明日香はやっとの思いで店に戻り、身体を湯に浸した。
あれから、男の求めは執拗だった。いつもの『叔父様』とは人が変わった様に全身を苛まれた。一回だけ男が満足すれば、その後はむしろ幾ら明日香が身体の飢えを訴えても抱いてはくれないのが、あの男のやり方であったはずだった。

 

明日香にしてみると昨日だけはあまり仕事をしたくはなかった。それが何故なのか、分からなかったが、『叔父様』に呼び出されて、いかなければならない時になって、やっとその理由が分かったのだ。

 

・・もしかしたら、ほんとにもしかしたらだけど。あの少年が自分を誘ってくれるかも知れない。あの少年の可愛い恋人が、彼のやり方に怒って、ちょっと拗ねでもしてくれたら、途方に暮れて、少年が尋ねてくれるかも知れない。

 

そんな、先ずあり得ないであろうシチュエーションを胸に思い描いていたのだった。
出かけていく時の顔は華やかに清楚に着飾った服装と逆に泣きそうな目をしていた。
いつもは賑やかに声をかけてくる店のお姉さん達が気の毒そうに、しんとしていた。

 

ばっかみたい・・・そんな事、なんで期待してんのよ。
あたしのことなんか、あいつは絶対見てる訳無いじゃない。
あいつは・・・あいつはあいつのお姫様の為に一生懸命なんだから。
あたしは、あの子の為の踏み台。練習台に過ぎ無いんだから。
それを、あたし自身がそう望んだんじゃない!
時々あっちのアスカから奪い取ってちょっとした優越感に浸りたいだけだった筈よ!
は!あんなぼうや。
馬鹿シンジのことなんか・・・。
馬鹿シンジ・・・。

 

『僕なんかしょっちゅう、馬鹿シンジ馬鹿シンジ言われてさ。』

 

「シンジは気づいてない。この馬鹿シンジって言う言葉の中にどれほど惣流さんの想いが詰まっている事か・・・ずっと気が付かないままでいればいいのに。」

 

でも、それに手を貸してしまったのは自分だ。清らかな関係でお互いを大事にしていたが故に、肉体の壁に阻まれてその前で絶望して立ち尽くしていた2人に手を貸してしまった。他ならぬその穢れ切った肉の檻の中で蠢いている淫売である自分が。

 

「夢・・・が、見たかったのよね、きっと・・・・」

 

湯面に、天井から水滴が垂れてくる。
ぽちゃん、と音をたてる。その音を、水面ギリギリまで顔を沈め、聞いていた。

 

お湯で、ざぶざぶと顔を洗った。湯槽を出てスポンジに思いきりボディーソープを付けて、身体をごしごしと洗いはじめた。痛みを感じるくらいにしないと、まだ火が消えていない、この淫猥な自分の肢体は勝手に火照りはじめてしまう。身体中に切なさが積み上がり、最後にはそれに負け、あの男に弄ばれている自分を想像しながら、恥ずかしい行為に耽ってしまう。べとべとになった指、その淫微な自分の白い肢体が悶える様が、ありありと眼前に思い起こされる。血がでるほど唇を噛んだ。
・・・今日だけは決して負けまい。そう明日香は思った。

 

それでは、余りにも自分がみじめすぎるではないか。
シンジに抱かれているつもりで、客に抱かれて、いた。
それだけでも泣きたいほど惨めだったのに。

 

電源を切り忘れたツリーの灯りが、仄明るくなった店の中で瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

***
2019/12/25 10:50am

 

「コアの調整はどうだ。」
「もう少し。後1ヶ月もすれば完璧でしょう。」

 

満足気に男は大きな椅子に背を持たせかけた。

 

「これが昨夜までのデータだ。同調させてくれたまえ。」

 

機械が小さな円盤状の板を飲み込むと、正面の波にもう一本の線が重なる。

 

「これは・・・随分ノイズが多いですな。ここ漸く次第に同調が悪くなって行くように思えるのですが。」
「先例のある事でな。ここからのリバウンドが見ものと言う訳だ。」
「そんなもんですか。」

 

技術者らしき人物は肩を竦めたが、男は自信たっぷりの様子だった。

 

「こちらのマンマシンシステムの実体についてはそちらの専管事項ですから我々は預かり知らぬ事ですが、人間の魂の委譲と膨大な記憶データの操作などというものを実用化していたなどと言う事は未だに信じられませんな。だからこそのネルフ、それが為のネルフと言う事であったのでしょうが。」
「幾ら信じられずとも、それが事実であったのだから、仕方がない。真実とか言うあやふやな物ではない。事実あったのだ。人のこう合って欲しいと言う願望と全く別の場で存在していたのだよ。」
「人の肉体が作れるのと同じように、人の思念も作る事ができる。コピーの様に幾らでも、ダミーとして、本物として、条件付けされた物として、偽りの記憶を持つものとして。どのような人間でも創りだせる。」
「どうした。恐ろしいとでも言うのかね。君たちがさんざん行って来た洗脳とか言う不自然で不完全な技術でさえ、その真似事は出来たのだ。ネルフほどの科学技術集団にそれが不可能であったと思える方がどうかしていないかね?」

 

エアロックが開き、白衣の女性が入って来た。

 

「目を醒ます時間です。御会いになりますか。」
「いや今の所必要あるまい。やる事は決まっているからな。手が開いたら隣室から見物させてもらうかも知れん。だが、自分の自由意志で参加してくれれば、それが一番効率がいいからな。一応その辺は・・・。」
「はい、心得ています。」
「頼む。」

 

その女性が白衣を翻して出ていくと、先ほどの男が口を開いた。

 

「綺麗な方ですな。」
「何、あれがもともとこの計画の発案者のようなものだ。中味はそれこそ悪魔。」
「う・・・本当ですか。」
「君が、この仕事にたいして有能で、計画遂行に対して、欠くべからざる人物だと彼女が認めたら、彼女は君の思い通りに自分の身体をどうにでも弄べと言って、君に与えるだろうよ。君が望むならな。」
「ま、まさか・・・。」

 

男は一瞬にやけて脂下がった後、真っ青になった。

 

「あ? 自分のクローンを、ということですか。」
「クローンは人間ではないと言うのが彼女の意見でな。」

 

 

 

 

 

***
2019/12/25 16:32pm

 

ミサトが学校に取って返したのは、夕暮れ近くになってからだった。職員室は混乱し、その片隅にアスカの肩を抱きしめて、シンジが座っていた。

 

「シンちゃん、アスカっ。」
「ミサトッ!」
「ミサトさんっ!」

 

ふたりが中腰になった所に駆け寄った。

 

「航空会社からは何て言って来てるのっ。」
「今朝、海上新空港を出た、セイシェル行き700便が墜落して、リツコがその乗客名簿に、名前、載ってるって。」
「他に、吉真田先生も一緒だったらしいって言ってました。勤め先から調査した方の係りからは学校にも同じ頃連絡があったらしいです。僕らの方は連絡先にうちが指定してあった2人だって。」

 

『・・・は全員絶望と見られており、デリーからセイシェルまでのおそらく海上においてなんらかの理由で墜落した物と・・・』

 

「なに言ってんのよ!この馬鹿テレビは!なんらかの理由がなくて墜ちる訳無いじゃないのっ!」

 

叫びざまミサトは応接セットのソファをテレビに投げ付けた。
上に載っていた花瓶と辞書が落ちて、花瓶が砕ける派手な音がした。

 

校長があたふたとやってきた。ミサトを捕まえて結婚していない職員同士が事故と言うのはどうにもまずいから、前々から付き合っていて、近々婚約する事になっていたとか、友人として言って欲しいとかいう事をくどくどと言いはじめた。ミサトは、彼女にしては我慢強くしばらく聞いていたが、いよいよ顔が真っ赤になって『この!』と言いかけたところで、アスカが後ろから股間を蹴り挙げていた。校長が悶絶して倒れた後、三人は背中に足跡を無数につける作業を行って、ミサトの車で空港にむかった。

 

年末を海外で過ごそうと言う人間がこんなに多かったのかと思うほど空港はごった返していた。まだ、飢餓境界線上に多数の人々が蠢いている国で、片方では海外に一週間単位で遊びにいこうと言う人々がいる。成功者と脱落者がいることは、この体制では当然なのだということはわかっていても、シンジの若さはそれを不公平と感じてしまう。リツコだってそのうちの一人なのだが。

 

「シンジ、リツコが吉真田先生と付き合っていたなんて聞いた事あった?」
「いや、初耳だよ。ミサトさんは御存じだったんですか。」

 

こっくりと頷く。がたがたと身体が震えている。その身体を抱きしめて呻く。

 

「私が、焚き付けたの。そうじゃなかったら生きてたのに。ごめんリツコぅ。」
「だって、そんなのミサトのせいじゃないでしょうが。まだ死んだって決まってないのよっ。しっかりしなさいっ。」

 

アスカが激しい声で言う。久しぶりにアスカらしい声だなと、ミサトは思った。
シンジに貰った、黒のチョーカーの飾りが揺れて光る。この数ヶ月で、見違える様に女らしくなって、驚くほどだ。リツコだって、もう少し生きていれば、もともと好んで珍妙な格好をしていた分、素晴らしく綺麗になったに違いなかった。だが、それを見るチャンスは殆ど無いと言っても良かった。インド洋のど真ん中で生存の可能性はまずなかった。

 

「リツコゥ〜〜、リツコゥ・・・」

 

辺りに構わず、ミサトはぼろぼろと涙を流し続けた。加持に続いてリツコまでが。
自分を知る人間がいなくなる事は、深い暗黒の縁に落ちていくような気がした。
アスカとシンジはかける言葉もなく、嗚咽にむせんでいる彼等の姉を見守っているしかなかった。

 

 

 

 

2002/4/1 As.13 千紫千紅

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