誕生日の隠岐蔵 | 作・Re:s


※隠岐蔵

「あ、」

吊り目がちでクールな印象のイケメンが、顔に似合わないすこし間の抜けた声を発する。

「ん?どないしたん蔵之介くん」

それを隣に座る垂れ目(そのうえ泣き黒子まで備えている)の柔和なイケメンが
顔に似合ったのんびりとした口調で返す。

「俺今日誕生日」
「そうなんや~~……えっ?!ちょっなんで!??」
「うるさ!それはオカンに聞いてくれ」
「いやいやいや今日生まれたことに対してやなくてさ、
 なんで当日に言うん?ってことなんやけど?」

狙撃手の合同訓練が終わり、クールイケメン……蔵之介と柔和イケメンの隠岐は
蔵之介の所属する江須隊の作戦室で隠岐と二人並んで
心霊系YouTuberの動画を流し見したり、蔵之介の推し和尚の怪談説法を聞いたりと
動画の内容に反してまったりと防衛任務のない午後を過ごしていた。


「さっきまで忘れとった」
「いやいや……さすがに自分の誕生日は忘れへんやろ~」
「誕生日は忘れてへんけど、今日の日付と接続してなかったわ」
「あ~まあそういうことはある……かなあ?」

いつもはよく言えばはんなりと、悪く言えばのらりくらりとしながらも
他人の意見を受け入れる隠岐が今日はなんだか疑り深い。

「なんやねん。男でこの歳になって誕生日ちゃんと自覚してるやつのほうがやばいやろ」
「え、そう?イコさんは毎年一週間前からソワソワしてはるし、一週間後も余韻に浸ってはるけどなあ」
「イコさんは別や」
「別かあ~」

イコさんは別、了解。

いやそうじゃなくて。

「ん~でもなあ」
「……今日はえらいしつこいな」
「一回聞いてや誕生日の蔵之介くん♡」
「は?だる」
「まあまあ……」


午前の合同訓練のとき、蔵之介くん結構ギリギリで来たやん?
いっつも端っこがええ言うてはよ来んのに。

──日程忘れとってん。さっきも言うたやろ。

ああ、そうやったなあ。
でもそしたらさっき今誕生日やったこと思い出したっていうのがおかしない?
今日が何日か思い出したから訓練来たわけやろ?

──……そん時は訓練遅刻するって思って焦っとったんや。誕生日とか吹き飛んだわ。

なるほどなあ。
あ、そうそう、さっきから気になっとってんけど、部屋の隅に色紙散らばってへん?
あれなに?

──あ~それは瀧先輩の誕生日祝いのときのやつや。クラッカーのごみ。
  片付けれてへんかってんな。あとで掃除しとくわ。

そうなんや。
あれ?でも網走先輩って誕生日4月2日やなかった?先々週やん
キレイ好きの蔵之介くんが先々週のごみほったらかしとくん珍しなあ。

──……防衛任務とかで忙しかったんや。

へ~?
それじゃ、最後にもう一つ。


「蔵之介くんさあ、なんで換装解いてへんの?」
「え」
「今日は防衛任務ないんやろ?」
「いや、まあ……楽やし……ってかお前さっきからなんやねん隠岐!!!
 ネチネチネチネチ小姑か!!」
「あ~ん蔵之介様がキレた!」
「誰がストレイツォじゃ」

しばらくギャースカとやりあっていたが
ふ、と隠岐が声をひそめて蔵之介の耳元で囁く。

「クリーム、おいしかった?」
「は……?」
「誕生日祝いでパイ投げしたんやろ?
 ほんであらかたクリーム落としたけど髪の毛まで洗ってる時間なくて訓練に遅刻しそうになった。
 訓練終わった後にシャワーでも浴びようと思ってたけど俺がおじゃましてるからそれもできんくなった。
 ちゃう?」
「ッッ~~~~あああああクソぉあああああ!!!!!!!」
「いたた、いた、あはは」

換装を解き、隠岐の肩を割と本気でどつく蔵之介。
色白の肌は耳の先まで赤く染まり、
つんつんととがっている毛先には白いクリームが付着していた。

「おっまえ殺す!!!絶対殺す!!!!今すぐ殺す!!!!!!」
「ええよ?」
「……はぁ?」

怒りと羞恥で我を失っていた蔵之介も隠岐の間髪入れない答えに思わず虚を突かれて動きを止める。

「今殺してくれたら、蔵之介くんの誕生日が俺の命日になるやん?
 それってめっちゃよくない?」
「……よくねえよアホ。ボケ。垂れ目。モテモテ男」
「いやいや、モテませんて」

すっかり牙を抜かれた蔵之介は三角座りになって顔を隠し、くぐもった声で話し始めた。

「なんやねんお前……水上先輩みたいなしゃべり方しよって……
 さっきからめっちゃ怖かったわ」
「推し和尚より?」
「は?三木住職なめんな」

一瞬で元の威勢を取り戻し、眼光鋭く隠岐を睨みつける。
三木住職最恐、了解。

「え~ん!蔵之介くんのいじわるっ!」
「お前は性悪やな」
「え?今のめっちゃうまない……?座布団あげるわ」
「よっしゃ」

ようやく空気がほぐれて、先ほどのような穏やかな時間が訪れる。

「お誕生日おめでとう。プレゼントは俺の苗字でええ?」
「ありがとう。お前が吉本になれや」

そう言う二人はその日一番の笑顔だった。




【後日談】


「そういえばなんで誕生日忘れてるフリしたん?」

換装を解いた後、「髪ベタベタするからシャワー浴びてくるわ」と
シャワールームへ行く準備をしている蔵之介の背中に、隠岐は疑問を投げかける。

「……別に」
「沢尻エリカにならんといてや~」
「上手いこと言わんでええねん腹立つな」
「ええやんか教えてや~絶対笑ったりせんから~~~!」
「……ほんまに笑わんか?命かけれるか??」

振り返り、真剣なまなざしを向けてくる蔵之介の顔を見て、隠岐は正座で姿勢を正した。

「絶対。約束する。命かけてもええ」
「……お前の」
「うん」
「お前の誕生日は知ってんのに、お前が俺の誕生日知らんのがムカついたから」
「うん」
「終わり」
「なるほど」

そっかそっか、なるほどな。
うんうんと頷き反芻する。

「つまり俺にお祝いしてほしかったってことか」
「はぁ~~~!?なんでそうなんねん!!!」
「んもう蔵之介くん可愛すぎやわ。これ以上好きにさせんといて~~~!」
「違う!!断じて違う!!!俺が知ってんのにお前が知らんのが不公平でムカつくってだけや!!!!
 ニヤニヤすんな!!さっき賭けた命払え!!!」
「も~~だから死んでもええって言ってんのに~~♡」
「あ~~~~!!!!!もう知らん!!!!!シャワー行くから帰れ!!!!!」
「ほな生駒隊の部屋で待っとくな~」
「誰が行くか!!!!!」

その後、脱衣所で髪を乾かしていた蔵之介が生駒に
「さっき隠岐から聞いたんやけど、クラちゃん今日誕生日なんやって?おめでとう
 今水上がケーキ買いに行ってるからあとでうち来てや」
と誘われ、良い笑顔の隠岐と再会するのはまた別の話。








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