※隠岐蔵
「あ、こら」
短縮授業で帰宅が早まった事で生まれた、隊での活動までの微妙な空き時間。隠岐と蔵之介は生駒隊の作戦室のソファーに並んで座り、映画を観たりして暇を潰していた。
そのうち飽きてきた蔵之介は隠岐のサンバイザーを取り上げ、悪戯っぽく笑う。
「ふふん、この映画つまらんからお前で遊んだるわ」
八重歯を見せて楽しそうに笑う蔵之介に、隠岐は愛しさと共に加虐欲が湧いた。
「……ふ〜ん?」
隠岐は蔵之介の手首を掴むと、肩に腕を回して引き寄せる。
「とか言うて、キスして欲しいから邪魔なサンバイザー取り上げただけちゃうの?」
「ちっ……!がう……し」
自分の中に少しだけあった下心を見抜かれた恥ずかしさに頬を赤らめながら、それでも否定する蔵之介。しかし、それは嘘だと確信している隠岐は遠慮なく顔を近づける。
「ほんまに?」
頬に手を添えられ、隠岐の方を向かされる。愛しいと目で訴えてくる隠岐の視線に耐えきれずに視線を逸らすと、すり……と親指で頬を撫でられる。
「……なぁ、ちゅーしてええ?」
いつもより低く甘い声色で囁かれ、耳を軽く撫でられれば思わず身体が震えてしまう。
「…………い、いちいち聞くな」
精一杯強がってみる蔵之介。その天邪鬼な態度も隠岐からすれば可愛くてたまらず、そのまま唇を重ねようと顔を近づけた瞬間。
「ただいま〜!!」
生駒隊隊長である生駒達人の元気な大声が入口の方から聞こえてきた瞬間。蔵之介は驚いた猫のように飛び上がり、その勢いで隠岐の身体を突き飛ばしたかと思うと、勢い余って渾身のボディーブローをお見舞いした。
「ぐぇ……」
腹部を押さえてソファーの上でうずくまる隠岐と、はぁはぁと息を荒げてそんな隠岐を踏みつける蔵之介。カオスな場面に遭遇した生駒はギョッと目を丸くすると、やはり元気な大声で叫んだ。
「え!?殺人事件!?!?」
生駒の声でハッと我に帰った蔵之介は慌てて隠岐から距離を取り、入り口の方へのじりじり後ずさった。
「ち、ちがうんです……あの、隠岐、隠岐と……そう、隠岐と喧嘩しとって!それがちょっとヒートアップしてもうて!騒がしくしてすいません!お邪魔しました!!」
早口で言い訳を述べつつ、蔵之介は脱兎の如く逃げ出した。
呆然とその背中を見送る生駒の背後から、くつくつと笑いを押し殺すような音が聞こえる。振り返ると、ソファーの上に蹲ったままおかしそうに笑う隠岐がいた。
「ふふ、見ました?顔真っ赤にしてぴゃ〜って逃げてく蔵之介くん……っふ、ふふ、かわい〜」
心底愛おしそうに笑う隠岐を見て、生駒もようやく事態を把握した。
「お前らここでイチャイチャしとったなぁ!?」
「あははは、バレてもうた〜」
「作戦室でイチャイチャすな!」
「すんませ〜ん」
反省の色のない謝罪をする隠岐に、これはそのうちまた同じことをするだろうなと悟った生駒は即座に水上にチクった。ネチネチと長時間ド正論でお説教され、流石に堪えた隠岐はそれ以降生駒隊作戦室に蔵之介を連れ込んでイチャつくことは無かったが、その代わりに手を繋いだりぴったりと隙間なく横に座ったりと、どこでもスキンシップを取ることが増えたという。