アイドルパロ side隠岐


※隠岐→蔵 生駒隊がアイドル、蔵之介は水上のオタク

モデルにも引けを取らないスタイル。芸能人と言われても頷けるほど整った顔立ち。ピアスが何個も空いていて少しヤンチャな雰囲気。頭は悪いけど運動神経はそこそこある。クールな態度で女子にもモテまくる吉本蔵之介17歳。花の男子高校生。
そんな彼は見た目に反してなかなかのオタクだった。

「なぁなぁ清嗣!聞いてや!今度のCD握手会券付きやねん」

いつも通りの昼休み。清嗣は親友である蔵之介の話を、ストローで紙パックのジュースを飲みながら聞いていた。

「ふーん?ていうかむしろ今まで無かったんや」
「そうなんよ。珍しいよなアイドルで握手会無しって……いやでも男アイドルってそんなもんなんかな?」

うーんと頭を捻らせる蔵之介。そう、彼は男の身でありながら男アイドルを推すという、少し珍しいタイプのオタクだった。

「何にせよよかったやん。直接話せるチャンスやろ?」
「そ、そうやねんけどさぁ……!どないしよ!水上先輩にオモロを提供できる自信ないわ……」
「アイドルの握手会でオモロを提供するつもりなん?」

蔵之介が愛する「水上先輩」こと、水上敏志は関西のアイドルグループ「生駒隊」のメンバーである。4人組のグループで、水上はグループの頭脳担当だ。

「だって水上先輩にせっかく会えるチャンスやのに『こいつおもんな』って思われて嫌われたくない!」
「……お前何回かライブ行って認知されてるんやろ?」
「まぁ……ただでさえ男ファン少ないし……その中でも俺レベルで熱狂的なファンって言うたらごく僅かやし……」
「じゃあ大丈夫やろ。おもんなくても熱心に応援してくれてるファンに冷たくするような人ちゃうんやろ?」
「それはそうやけどぉ!」
「うるさっ」

うだうだと悩んでいる蔵之介に、清嗣は呆れていた。

「じゃあ握手会までに何個かすべらない話用意しとけや」
「お前がこの前机に落としたサプリ拾って飲んだとき散らばってた消しカスも一緒に飲んだ話とか?」
「それはやめろ」

なんだかんだ優しい清嗣は蔵之介と共にいくつか話を用意し、最終的に「これで握手会も安心や!」とニコニコする蔵之介を見て、「ほんまに単純やなぁ」と思った。



***



そして迎えたイベント当日。
会場には多くの女性客がいた。アイドルに引けを取らない容姿の蔵之介は注目の的であった。

(なんでこんな見られてんねん……男ファンがそんなに珍しいんか……)

自分の見た目の良さを自覚しておらず、また人見知りで注目を浴びるのが苦手な蔵之介は落ち着かなかった。
列が少しずつ進んでいく。今回の握手会はメンバー個人のものではなく、流れで全員と握手できるというタイプのものだった。グループ名通りの順番、つまり生駒、南沢、そして蔵之介の推しこと水上、最後に隠岐という順番だった。
スタッフから注意事項の説明を受け、いよいよ蔵之介の番になった。

「次の方どうぞ〜!」

スタッフが呼び込みをする。ついにこの時が来た。
蔵之介は覚悟を決め、一歩踏み出す。緊張しているせいか足がもつれたがなんとか持ち堪え、ブースに入る。

(水上先輩やぁぁ〜〜!!!)

足を踏み入れた瞬間、蔵之介の視線は水上に釘付けになる。

「ちょっとちょっと、そこの君!明らかに水上ファンのイケメン君!最初はこのイコさんと握手やで!」

茶目っ気たっぷりに話す生駒。その明るい雰囲気のおかげで、蔵之介の緊張感は少し和らいだ。

「あっはい!すいません!」

慌てて生駒の元に駆け寄る。
目の前に立つ生駒は、テレビ越しで見るより遥かに格好良かった。
差し出される手にドキドキしながら手を添えると、力強く握られる。

「イコさんの事もちゃんと応援してや?」
「あっ、は、はい!!もちろん!!」

ムードメーカーでお笑い芸人のような立ち振る舞いの多い生駒だが、目の前で見ると迫力がすごい。それに顔が整っている。イケメンというより男前という感じの顔だ。

(えぇ……めちゃくちゃカッコいいやん……)

テレビで見るときは「面白い人」という感じだったが、実物を前にすると「面白い男前の人」という印象に変わった。
そんな事を考えているうちに、生駒との握手タイムは終了した。

「はいはーい!次は俺です!」

自分を指差し、元気に手を振る南沢。蔵之介はその勢いに圧倒されながらも手を差し出した。

「こんにちは!水上先輩推しの人なんすね!!」
「えっと、はい」
「水上先輩のどんなところが好きなんですか〜?性格悪いとこ?」
「おい海」

カラカラと笑いながら質問してくる南沢に、思わずツッコミを入れる水上。

(はぁぁぁ……!!)

不意打ちで推しのツッコミが聞けて、蔵之介の心は満たされる。そんな蔵之介の気持ちを知ってか知らずか、水上は言葉を続ける。

「自分、あんま海にまともに対応せんでええよ。疲れるから」
「疲れるって何すか!!」
「そういうとこや」

水上と南沢がやんややんやと言い合っているが、蔵之介はそれどころでは無かった。

(推しに!!話しかけられた!!!)

嬉しさのあまり、蔵之介の心臓はバクバクと音を立てていた。

「はい終了で〜す」
「あぁ!水上先輩が邪魔するから俺の握手時間すぐ終わっちゃったじゃないすか!」
「俺のせいなん?」

ぷんぷんとかわいらしく怒る南沢との握手タイムを終え、いよいよ大本命。推しの水上敏志の登場である。
差し出される手に、蔵之介は震える手で触れる。

「来てくれてありがとう」
「……は、はぁ、はい!いえ!こちらこそ!!」

水上の声を聞くだけで胸がいっぱいになり、声が上手く出ない。自分が何を言ってるかもよく分からなかった。

「あ、あ、あのっ!俺、水上先輩のファンで……!!」
「知ってる。自分ブース入ってきた時から俺のことめちゃくちゃ見とったもんな」

面白そうに笑う水上。
バレていた恥ずかしさと、推しが笑ってくれた嬉しさで、蔵之介の頭はパンク寸前だった。

「あっ、は、はい……」
「ありがとな。嬉しい」
「はい……」

もう何が何だか分からない。蔵之介はただただ幸せな気分に浸っていた。

「終了です〜。次にどうぞ〜」

スタッフに剥がされてハッと我に帰る。幸せで意識をどこかに飛ばしている間に推しとの握手タイムが終わってしまった。

「じゃあな」
「あっ、は、はい!!!!」

去り際に水上にゆるく手を振られ、蔵之介はふらつきながらその場を離れた。

「お兄さん大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、はい!」

にっこりと整った顔面に微笑みを湛え、最後のメンバーである隠岐が声をかけてくる。

(うわっ……めちゃくちゃイケメン)

蔵之介は特に隠岐の事を推している訳ではないが、グループでは一番イケメンであることは認めている。

「俺とも握手してくれます?」
「あっ……はい!すみません」

慌てて差し出された手を握ると、ぎゅっと両手で包み込むようにして握られる。
謎の鬼ファンサにドキリとしてパッと顔を上げ隠岐の顔を見ると、普段の微笑みは何処へやら。何故か真剣な表情でじっと蔵之介を見つめてくる。

「え、えと……?」
「かわいい……」
「はい?」

ボソリと呟かれた言葉の意味がわからず聞き返すも、隠岐は一瞬でニコニコとしたいつもの表情に戻り、「名前なんて言うんですか?」と尋ねてきた。

「?吉本です」
「下の名前は?」
「……蔵之介ですけど……?」

何故そんなことを聞くのかと不審に思いながらも素直に答えると、隠岐は嬉しそうに目を細める。

「ふぅん」
「えっ!?」

急にグイッと手を引かれ、耳元で囁かれる。

「蔵之介くん。一目惚れしたんですけど、後でご飯でも行きません?」
「…………はぁ……?」

今まで生きてきて、こんなにも甘い声で話しかけられたことなどない。
突然のことに頭がついていかない蔵之介は、固まったまま動けなくなってしまった。

「はい終了です〜。次の方どーぞー!」

スタッフに剥がされ、促されるままブースを出ようとした瞬間。後ろから隠岐に話しかけられる。

「もしよかったらこの後待っててくれへん?おいしいものご馳走するから」
「…………行かへん!!!」

ダッシュでその場を離れ、蔵之介は握手会会場の外へと逃げ出した。

(何やねんあいつ!!)

自分に推し変させるための鬼ファンサだとしても、あれはやりすぎだ。今まで「イケメン担当」程度にしか思っていなかった隠岐だったが、「いけすかない奴」という印象に変わっていた。

(あぁ、せっかくの水上先輩との握手が台無しや)

先程までの幸せだった気持ちが嘘のように萎んでいくのを感じる。

(次から握手会行くのやめよかな……)

真剣にそう考えながら、蔵之介は家路についた。



***



「隠岐、お前俺のファンって言ってたイケメンになんかした?」

IM2O控え室。IM2Oの面々は今日行われた握手会の感想を語り合っていた。「え〜?してませんよ〜」

「ほんまか?ダッシュで逃げ帰ってたけど?」
「ちょっと口説こうとしただけです」
「それやろが」

隠岐の言葉に水上が突っ込みを入れる。

「だって一目惚れしてもうたんですもん。これから落とす予定なんで、応援してくださいね」
「絶対嫌」

水上が即答する。
隠岐はニコニコと笑っていたが、その目はまるで獲物を狙う獣のようであった。








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