甘えたい蔵之介


※隠岐蔵 成人済設定

吉本蔵之介は、恋人の隠岐孝二に甘えるのがとても苦手だ。
いつもツンツンした態度を取っては、甘えるチャンスを逃したことを少しだけ後悔する日々。
蔵之介が素直に甘えれば隠岐はこれでもかというほどにデレデレと甘やかしてくれるだろう。そう分かっていても、今更素直になんてなれるわけがない。



***



「ん……ねむい」

久々に休みが重なったその日。隠岐の部屋で2人で食事をし、少し酒も飲んだ後。2人並んでソファーに座っているその時に、蔵之介はら酔ったふりをして隠岐に寄りかかってみた。しかしいざ隠岐の体温が伝わってくると途端に恥ずかしくなって、緊張と焦りで汗が止まらない。

「あらら…蔵之介くん酔ってもうたん?あんま強くないもんなぁ」
「ん……」
「耳まで真っ赤っかやわ。そんな飲んでないのに」

そりゃこの赤さは酒だけじゃなくて恥ずかしさからも来てるからな!とは口に出せず、ただ隠岐の肩口に擦り寄るようにして甘える。

「え?!蔵之介くん?!」
「……」

普段クールで冷たい態度ばかりとってくる蔵之介がすりすりと甘えてきて、隠岐は盛大に動揺した。

(恥ずかしい……!!!)

ただ少し擦り寄ってみただけだが、蔵之介の心臓は既にバクバクである。隠岐にもたれかかったままチラッと見上げると、隠岐は顔を真っ赤にして固まっていた。

「隠岐……?」
「あかんあかん!!可愛すぎる!!」

隠岐は大興奮で蔵之介をぎゅっと抱きしめ、そのまま蔵之介の頭にキスの雨を降らす。

「おねむになると素直に甘えてきてくれるん?そういえば前も眠そうにしてた時ぎゅって抱きついてきてくれたやんな?あぁ〜…おねむの蔵之介くんかわいすぎる!!」

早口で捲し立てる隠岐の言葉に聞き捨てならないものが含まれていたような気がする。ぎゅっと抱きついた?俺が?隠岐に?いつの話だ?と思いつつ、よくよく考えてみるとうっすら心当たりがあるような気もしなくもない。というか思い返してみれば確かに眠い時、隠岐に対して甘えた仕草をしていた記憶もあるような……。
無意識のうちに甘えまくっていたことに今更気付いた蔵之介は、羞恥心に悶絶しながら顔を隠すように隠岐の肩口にグリグリ頭を押し付ける。すると隠岐はさらに嬉しそうな声を上げた。

「ふふ、今日の蔵之介くんは甘えん坊さんやねえ?かわいいわぁ……」

と言いながら腕の中の蔵之介の頭を優しく撫でる。正直隠岐に撫でられるのは満更でもなく、構ってほしい時の猫のようにすりすりと、隠岐の手に自分の頭を押し付けた。

「かわええ〜。ほんまに猫みたいやねぇ」
「ん〜……」
「蔵之介くんの髪の毛もサラッサラやから気持ちいいわぁ。お肌もすべすべやね」
「ん……」

隠岐の手つきはとても優しいもので、まるで壊れ物を扱うかのように蔵之介に触れる。それが心地良くて思わず目を細めた。
隠岐に素直に甘えられた達成感と満足感に満たされ、優しく抱きしめ撫でられて、蔵之介は本当に眠くなってきた。このまま寝てしまいたいくらいには身体も瞼も重くなっている。

「蔵之介くん?そろそろベッド行く?」
「ん〜……」

隠岐に抱えられ寝室へ連れていかれる。隠岐に優しく布団をかけられると、いよいよ本格的に意識が遠のいてきた。

「今日はゆっくり休みや。おやすみ」

ちゅっと軽く頬にキスされる。隠岐に頭を撫でられながら、蔵之介はそのまま眠りについた。



***



「かわええなぁ……」

健やかに寝息をたてる蔵之介を見つめながら、隠岐は幸せそうに微笑んだ。
蔵之介が酔ったふりをして寄りかかって来たことには気付いていた。
最初は本当に酒に弱い蔵之介が酔って眠くなり、こちらを枕がわりにしようと寄りかかって来たのかと思った。しかし、ふと視線を見せると体にガチガチに力が入っており、顔もいつもより赤かった。
これは何かあるな、と察した隠岐は、気付かないふりをして蔵之介の好きにさせた。するとどうだ。あの蔵之介が自分の意思で擦り寄って甘えてきてくれた。あまりにも嬉しくてつい素で反応してしまったが、蔵之介を抱きしめてこちらの顔を見れなくし、頭にキスの雨を降らせながら自分を落ち着けた。その後肩口にグリグリとまた甘えられ、またもあまりの愛しさにどうにかなりそうになった訳だが。
酔ったふりをしたり、何か言い訳がないと素直に甘えてこれない蔵之介の不器用さが愛しい。

(ほんまに、かわいすぎやで……)

蔵之介の柔らかい髪をさらりと指先で掬う。蔵之介は一度眠るとなかなか起きないタイプなので、隠岐はその寝顔を存分に堪能した。



***



「んん……ん?」

翌朝。目が覚めた蔵之介は自分の体の上に隠岐の腕が乗っていることに気付いた。隠岐は蔵之介の体を後ろから抱きしめるようにして眠っているらしい。
いつもなら泊まりに来ても隠岐がベッド、蔵之介は客用布団で寝るのだが、昨日は蔵之介がベッドを占領してしまった。それで狭いシングルベッドに男2人無理やり並んで寝るために、隠岐は自分を抱きしめながら寝ているようだ。

(ベッド占領したんは悪かったけど……狭いねんから客用布団で寝たらええのに……)

隠岐の体温を感じつつ、その腕の中で身じろぐ。隠岐が起きる気配はない。
蔵之介は隠岐の腕の中から抜け出そうと試みたが、隠岐ががっちりホールドしているせいで抜け出せなかった。仕方なくそのままじっとしていることにする。
昨日、隠岐に甘えようと蔵之介なりに奮闘した。その結果予想通り甘やかされはしたが、寝落ちしてしまったので少し消化不良だ。あんなに恥ずかしい思いをしたのに。蔵之介はむっと口を尖らせた。
隠岐の腕の中でくるりと体を半回転し、向かい合う。

「隠岐」

小さく呼んでみるが起きない。蔵之介は隠岐の胸に顔を寄せた。とくん、とくん、と隠岐の心音が聞こえる。蔵之介は隠岐の心臓の音を聞きながら、胸元にすりすりと額を擦り付けた。
隠岐の匂いがする。シャンプーやボディソープは同じものを使ったはずなのに、隠岐自身の香りが混じっている気がするのは何故だろうか。
隠岐の匂いに包まれると安心する。隠岐の温もりを感じると心が落ち着く。
そっと隠岐の腰に手を回し、ぎゅっと抱きついた。隠岐が寝ているため素直に甘えられ、蔵之介は満足感で満たされた。しばらく抱きついて隠岐の体温を感じていたが、だんだん眠くなってきた。まだ起きるには早い時間だし二度寝するか、と再び隠岐の胸に顔を埋める。

ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。

隠岐の心音が早鐘のように鳴っている。嫌な予感がして恐る恐る顔を上げると、隠岐は寝たふりをしているのか瞼は閉じたままだったが、その顔は真っ赤に染まっていた。

「…………」
「…………」
「お、起きてたんかい!いつから!」
「蔵之介くんがこっち向いて名前呼んできたあたりから」
「最初からやんけ!!」

蔵之介はあまりの恥ずかしさに真っ赤になって叫ぶ。隠岐はそんな蔵之介を見て口元を手で覆いながら悶絶する。

「たまらん……かわいすぎる……!!」
「もう知らん!!俺は二度寝するからな!!」

蔵之介はまたも隠岐に背を向けるように寝返りを打ち、隠れるようにして布団をかぶった。
隠岐はというと、蔵之介の行動に完全にノックアウトされていた。普段全く甘えて来ない蔵之介からの怒涛のデレに、隠岐は天にも昇る気持ちだった。

「蔵之介くん……ほんまかわいい……」

自分も布団に潜り、腕の中の蔵之介の背中を見つめながら呟いた隠岐の声は、幸せそうに蕩けていた。

「蔵之介くん」
「……何」
「蔵之介くんに甘えられるのめちゃくちゃ幸せやから、もっと甘えて来てくれん?」

これは言い訳がないと素直に甘えられない蔵之介への助け舟でもあり、正真正銘隠岐の本音でもあった。蔵之介は隠岐の言葉を聞いて黙っていたが、しばらくしてぼそりと口を開いた。

「……考えとく」

背中を向けたままぶっきらぼうにそう答える。隠岐はやはり素直じゃない蔵之介の答えにまたもや悶絶し、力一杯腕の中の愛しい身体を抱き締めた。








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