イチャついてるだけ


※隠岐蔵成立済 付き合いたて

防衛任務もない金曜の夜。
隠岐は最近付き合う事になった愛しい恋人、蔵之介と共にまったりと時間を過ごしていた。

以前から友人同士だった事もあり、お互い気を遣わずに各々好きなことをして過ごす。
ぼんやりと特に興味のないテレビ番組を垂れ流しながらソファーにだらりと座り、ちらりと隣の蔵之介を伺う。
どうやらソシャゲに夢中なようで、先ほどからずっとスマホに齧り付いている。
友人だった頃は当たり前に思っていた光景が、今は恋人なのに思うとなんだか面白くない気分になる。

(せっかく一緒におるのに……)

隠岐は蔵之介にずっと片想いしていたが、蔵之介は隠岐のアプローチに根負けする形で付き合ったのでまだ恋人としての自覚が芽生えていないのだろうか?いや、そんなことはないはずだ。蔵之介も自分と同じ気持ちだと知っているし、だからこそ付き合い始めたのだ。
ならば何故こんなにも無関心なのか。
少しだけムッとした隠岐は、蔵之介になんとかして構ってもらおうと思い立つ。

「蔵之介くん」

そう言って、距離を詰めてぎゅっと横から抱きつく。

「ん?」

反応はするもののスマホから目を離そうとしない蔵之介にむぅと頬を膨らませる。そして、蔵之介の手にあるスマホを取り上げるとテーブルの上に置いた。

「こっち見て」

そのまま顔を寄せ、キスをする。
ちゅっちゅと何度も啄みながら、角度を変えて唇を重ねる。

「もぉ〜……なんやねんいきなり」

眉間に皺を寄せているが、少し血色の良い頬が満更でもない事を物語っている。それに普段よりほんの少し声が高く、甘えたような口調になっている。
ちゃんと恋人らしい甘い雰囲気になった事に満足した隠岐は、「へへ」と笑いながらまた蔵之介を抱き締めた。

「も〜!なにってば!」

照れたのか顔を赤くして文句を言う蔵之介を見て、隠岐は更に調子に乗る。

「蔵之介くん好きぃ〜♡」

蔵之介の首筋にすり寄り、頬擦りする。

「い〜や〜や〜!こしょばいってぇ」

くすぐったそうに身を捩る蔵之介を押さえつけ、今度は耳に息を吹きかける。

「ひっ!?」

びくりと身体を震わせる蔵之介の反応が可愛くて、つい意地悪をしたくなる。耳元でわざと吐息混じりに囁いた。

「蔵之介くん可愛い♡」
「っ……」

蔵之介は声にならない悲鳴を上げると、恥ずかしくなったのか両手で自分の口を塞いだ。驚いたように目をまんまるにする蔵之介が猫のようで可愛らしく、隠岐は思わず笑ってしまう。

「あははっ、ほんまに蔵之介くんはかわええなぁ」
「もー!!うるさいわ!!」

真っ赤になって怒る蔵之介。猫が飼い主に顔を近づけられて拒否する時のように手で押し退けられる。その仕草もまた隠岐にとっては愛おしくて堪らないものだった。

「ふふっ、ごめんて。もうせぇへんよ」
「ほんまにやめろよ!なんかゾクゾクすんねんあれ!」

そっぽを向いてしまった蔵之介だが、隠岐はその言葉を聞いてニヤリとする。
蔵之介の弱点を見つけた隠岐は嬉々として蔵之介に飛びかかると、馬乗りになって再び蔵之介の耳元に顔を近付ける。

「なんてな!やっぱもう一回する」
「は!?やだやだやだやめろ!バカ!おい隠岐!こら!!」

隠岐はじたばた暴れる蔵之介に構わず、赤く染まった耳に息を吹きかける。

「んぅっ!?」

大袈裟にビクリと跳ねる蔵之介を見て、隠岐は堪えきれずに吹き出した。

「ぶっ……くく……あはははははは!かわい!かわいすぎやって蔵之介くん……!」

腹を抱えて笑う隠岐に、蔵之介は「お前絶対許さんからな!」と言って隠岐を押し除けようとする。しかし隠岐は笑いすぎて力が入らないのか、蔵之介に覆い被さるように倒れ込む。

「んなっ……も〜!重い!どいて!」
「い〜や〜や〜!蔵之介くんが可愛すぎるのが悪いんやんか〜!」
「意味分からん事言うな!うざい!」

隠岐はぎゅっと蔵之介に抱きついて離れない。

「ちょ……苦しいって隠岐……離れて……」
「嫌」

即答で断られ驚いて横を向く。真剣な表情の隠岐に至近距離で見つめられ、蔵之介はドキリとした。

「…………なんや、蔵之介くん。ドキドキしてる?」
「は!?別にしとらんけど!?」

図星を突かれた蔵之介は慌てて否定するが、のしかかるように抱きつかれて密着している状態では隠しようがない。

「素直じゃないなぁ〜」
「ほんまやし」
「もぉ〜そんな照れんでもええのに」
「はぁ!?誰が照れてるって!?」
「はいはい、そういうことにしときますぅ」

隠岐は余裕綽々と言わんばかりにニコニコとしている。それがなんだか悔しくて、蔵之介は隠岐の腕から抜け出そうとジタバタもがく。

「隠岐のあほ!はよ離せ!」
「嫌や」
「このっ……離せっちゅうとるやろ!!」
「あ痛っ!?」

蔵之介は渾身の力で隠岐を蹴り飛ばすと、反動で隠岐がソファーから落ちる。

「ぐぇっ」
「ふんっ、ざまあみろや!」

隠岐は落ちた衝撃で腰を打ったらしく、お尻をさすりながら涙目になっている。

「いたたたたた……ひどいわ蔵之介くん……」
「自業自得や」

ツーンとそっぽを向く蔵之介。照れ隠しなのはわかっているが、何か仕返しをしてやりたいと隠岐は悪戯心を起こす。

「そう……蔵之介くんはそんなに俺とイチャイチャすんの嫌なんや」
「……」

わざとらしいくらい悲しげに呟くと、蔵之介は少し罪悪感を感じたのか難しい顔をして押し黙る。

「ごめんな?そんな嫌がると思わんかってん……これからはもう抱きついたりチューしたりせんようにするから……」
「……っ……」

隠岐の言葉を聞いた蔵之介は、隠岐の方を振り向くとみるみると悲壮な顔になる。

「ち、ちがう…………」

目を潤ませ、俯きながら隠岐の服の裾をきゅっと掴んでくる。

「蔵之介くん?」
「……違う、恥ずかしかっただけ……蹴飛ばしてごめん……」

しゅんとした表情に今にも泣き出しそうな声で謝罪してくる蔵之介に、隠岐は胸を撃ち抜かれたような感覚を覚える。

「っ、ええよ、大丈夫。俺も蔵之介くんが可愛くてつい意地悪したくなってもうたわ。ごめんな、許してくれる?」
「ん……」

隠岐が謝ると、蔵之介はしょげながらもこくりと小さく首を縦に振る。
仕草のひとつひとつが可愛すぎて、隠岐はどうにかなってしまいそうだった。

「ありがとう蔵之介くん」

暴れ回る内心を押し隠して優しく微笑むと、蔵之介の頭を撫でてやる。すると蔵之介は気持ち良さそうに目を細めた。

(ああ〜!可愛い!!)

隠岐は優しい微笑みを浮かべながら内心で悶絶する。こんなに可愛い人が自分の恋人だなんて信じられない、と幸せを噛み締めていると、蔵之介は安心しきった様子で隠岐の胸に身体を預けてくる。その甘えた姿にも隠岐はキュンとしてしまう。

「蔵之介くん、好きやよ」
「ん……知ってる」

相変わらず可愛くない返事をするものの、隠岐の胸にすり……と擦り寄る蔵之介。そのあまりの愛らしさに隠岐は思わず天を仰いだ。

「……どうしよう……俺の恋人が今日も世界一かわええ……」
「はいはい」

蔵之介は呆れたようにため息をつくが、隠岐はそれを気にせず蔵之介を抱きしめる腕に力を込める。

「大好き。蔵之介くん」
「……あっそ」

蔵之介は面倒くさそうに答えるものの、隠岐の背中に回された手がギュッと隠岐のシャツを掴んだのを隠岐は見逃さなかった。

「ふふ、蔵之介くんかーわい」
「うるさい」

蔵之介は不機嫌そうな声色で言うが、隠岐から離れる気配はない。どこまでも素直じゃない可愛い恋人に、隠岐は頬を緩ませた。








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