遠征選抜試験前日譚 | 作・ぽんすけ

「最悪や……なんでほぼ強制参加なん?俺遠征行く気ないねんけど……1週間も他の人らと一緒におるの無理やって……」

どんよりとした空気を纏い、蔵之介は絶望感を漂わせる。
そんな彼に、清嗣が励ましの言葉をかける。

「まぁまぁ!まだ隠岐がおってよかったやん!話せる人間が誰もおらんかったらいよいよやばかったけど一人はちゃんと喋れるやん!」
「いや喋れるけどぉ!そこちゃうねん問題はァ!!」

蔵之介は隠岐孝二をライバル視している。同じポジション、同じ大阪出身、同じB級部隊で実力も同じぐらい。更に同い年同じ性別ほぼ同じ身長。共通点の多さから、どうしても意識してしまうのだ。
隠岐の方は別の意味で蔵之介を意識しているらしく、同じチームに決定した瞬間隠岐の方から嬉しそうな気配をビシバシ感じたのだが……それはそれとして。

「清嗣はええよな。仲良い先輩と同じチームで」
「まぁカゲ先輩と同じチームなのは嬉しいけどさぁ……犬飼先輩もおるからどう考えてもあの2人喧嘩するんよな……」
「あー……確かに……」

蔵之介も犬飼と影浦は相性が悪いと感じていた。そんな2人と同じチームとなれば、心労が凄まじいだろう。

「あと太一がおるからすごいトラブル起きるかも」
「それは……お互い苦労しそうやな……」
「ほんまによ……」

とぼとぼと作戦室に向かいながら話していると、話題は上層部に呼び出された江須と網走の話に移る。

「えさんは弓場さんと一緒やろ?そこも相性悪そうよな」
「えさんは弓場さんの対極に位置すると言っても過言ではないからな……まぁ来馬先輩が隊長らしいしなんとかしてくれるやろ」

江須が弓場に怒られているシーンが容易に想像できてしまい、2人は苦笑いを浮かべた。

「ムショパイは二宮さんとこか」
「ロリさえ絡まんかったらまともやから二宮さんと東さんと組んだらめちゃくちゃ強いやろうけど……なんせおるからな。ロリが。」
「雨取さんが心配やわマジで……」

なんだかんだ常識人だから変な事はしないだろうという信頼はあるものの、やたらと話しかけたり頭を撫でるぐらいはするかもしれない。

「ちゃんとイエスロリータノータッチって教え込んどかな俺がユズルに嫌われるかもしれん」
「必死すぎやろ」
「生きがいだからな。ユズルの恋路を見守るのが俺の」
「穂刈先輩構文また出た」

作戦室に戻る途中、個人ランク戦のブースに寄った2人は影浦の姿を見つける。

「あ、カゲ先輩」
「声かけてもええんかな?」
「挨拶ぐらいならええんちゃう?禁止されてたのは作戦練ったりする事やろ」
「そっか。カゲせんぱ〜い!」

ブンブンと手を振りながら清嗣が影浦の元に走り寄ると、蔵之介もその後に続く。

「江須隊の犬と猫」
「も〜っ!ちゃんと名前で呼んでくださいよ!」

キャンキャン吠える清嗣を無視して、蔵之介は影浦に話しかける。

「カゲ先輩、うちの犬よろしくお願いします」
「おい!誰が犬や!」
「そっちもユズルと同じ部隊のやついんだろ。お互い様だわ」
「カゲせんぱ〜い!俺の事無視せんといて〜!」

キュンキュンまとわりつく子犬のように騒ぐ清嗣の頭をガシッと掴み、影浦は彼を睨む。

「口もうるせぇし感情もうるせぇ!!」
「痛い痛いっ!!髪抜けるぅ!!!」

ギブアップを示すように影浦の腕を叩く清嗣だが、その腕はびくりともしない。

「すいません躾のなってない犬で……」

蔵之介は清嗣の首根っこを掴み、影浦から引き剥がす。

「カゲ先輩!俺カゲ先輩と同じ部隊でめっちゃ嬉しいです!!一緒に試験頑張りましょね!!」

蔵之介に引っ掴まれても尚元気よく叫ぶ清嗣を見て、影浦は呆れながらも面白そうに笑った。

「わーってるよ。足だけは引っ張んじゃねぇぞ」
「はーい!じゃあ挨拶したかっただけなんで俺たちは失礼しまーす!」
「失礼します」

影浦に見送られてその場を去った後、蔵之介は清嗣を引きずりながら言う。

「カゲ先輩ってあんな顔するんやな」
「あんな顔?」
「アホな飼い犬に呆れつつ可愛いな〜って思ってる顔」
「誰がアホ犬や!!」

ギャンギャン喚き散らす清嗣だが、落ち着くと打って変わって楽しそうに言った。

「まぁでもなんか楽しみになってきた!枕投げとかあるかな!?」
「修学旅行ちゃうねん」
「ええやんええやん!せっかくの合同訓練なんやから色々楽しもうや!」
「お前ほんま切り替え早いな……」
「さっき案内きとったやん?個人コンテナに入る分の私物はもってきてええって!お前何持ってく?ゲームは厳しいかな?」
「俺はまぁ……米とかやろな」
「は?米?」
「コンテナいっぱいに」
「狂人?」
「まぁ流石にそれはないけど食糧持ってかな絶対足りんわ」
「お前めっちゃ食うもんな」

その後も2人は談笑しながら歩き続け、作戦室の扉を開く。

「お疲れ〜」
「おつかれさん」

先に戻っていたらしい江須と網走に出迎えられる。

「えさ〜ん!ムショパ〜イ!試験に何持ってく!?めっちゃ楽しみやなぁ!!」
「テンション高いなぁ〜」
「そういう清嗣は何持っていくん?」
「俺?俺はねぇ〜!」

ニコニコと楽しそうにする清嗣を筆頭に、4人は遠征選抜試験の話題で盛り上がる。
4人はまだ知らなかった。
2人部屋になった時に隠岐に軽く追い詰められることを。予想以上に影浦と犬飼の喧嘩が激しく半泣きになることを。弓場に叱られまくり1日目にして限界を迎えることを。蔵之介が冗談として言ったコンテナいっぱいの米を雨取が実行してくることを。この時の彼らはまだ知らない。








G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMITȂ1~] COiq COsیI