そこにいるのは誰? ダイス : 15d10 → 92 ダイス : SAN(58) → 86(失敗) SAN-1 ダイス : アイデア(70) → 36(成功) ダイス : アイデア(70) → 36(成功) →意味不明すぎてめちゃくちゃ怖がりながら部屋全体を見回す →困惑しながら自分自身を確認する →壁のパネルを確認しに行く ダイス : SAN(57) → 73(失敗) SAN-1 ダイス : SAN(56) → 42(成功) →外への扉を確認しに行く →青色の扉を確認しに行く →絵画やマネキンをキョロキョロしながら黄色の扉に向かう ダイス : 目星(45) → 5(成功・クリティカル)
蔵之介
ダイス : アイデア(70) → 82(失敗) ダイス : 目星(45) → 45(成功) ダイス : SAN(56) → 100(失敗・ファンブル)1d2の減少 → -1 ダイス : SAN(55) → 47(成功) →戦闘開始 ダイス : キック(75) → 98(失敗・ファンブル) ダイス : CON対抗(70) → 61(成功) マーフォーク : かぎ爪(30) → 41(失敗)
ダイス : キック(75) → 3(成功・クリティカル)
テオ
蔵之介
テオ
テオ
蔵之介
テオ
蔵之介
テオ
蔵之介
テオ
蔵之介
テオ
蔵之介
テオ
テオ
蔵之介
テオ
蔵之介
ダイス : 聞き耳(85) → 82(成功) ダイス : 知識(50) → 50(成功)
蔵之介
テオ
ダイス : 目星(45) → 34(成功) ダイス : 知識(50) → 20(成功) ダイス : SAN(55) → 13(成功)
蔵之介
テオ
ダイス : アイデア(70) → 6(成功)
蔵之介
蔵之介
テオ
蔵之介
テオ
テオ
蔵之介
テオ
テオ
蔵之介
蔵之介
ダイス : SAN(55) → 40(成功)
テオ
蔵之介
蔵之介
ダイス : アイデア(70) → 81(失敗) ダイス : こぶし(50) → 68(失敗) ダイス : DEX(60) → 1(成功・クリティカル) ムーンビースト : 槍(25) → 65(失敗)
テオ
ダイス : 聞き耳(85) → 57(成功)
テオ
蔵之介
ダイス : SAN(55) → 18(成功)
蔵之介
テオ
テオ
テオ
蔵之介
テオ
蔵之介
蔵之介
テオ
ダイス : SAN(55) → 20(成功)
蔵之介
ダイス : アイデア(70+20) → 自動成功
蔵之介
テオ
蔵之介
テオ
テオ
蔵之介
蔵之介
ダイス : SAN(55) → 84(失敗)
蔵之介
ダイス : SAN(53) → 52(成功)
テオ
テオ
蔵之介
テオ
テオ
テオ
テオ
蔵之介
テオ
テオ
テオ
蔵之介
テオ
テオ
ダイス : SAN(53) → 92(失敗)
蔵之介
テオ
テオ
テオ
クリア報酬:SAN回復2d6 → 7 最終SAN値 57
ここにいるのは何故?
繋いだ手は、どうしていつも離れるの?
目が覚める。
冷たい感覚を背中に感じて、自身が仰向けに倒れているのだろうと理解する。
微睡みの中でぶれる視界は、何度か瞬きをすることで正常になる。
視界が定まると、恐らくあなたは床に倒れており、それを、大勢の誰かにのぞき込まれていることに気付いてしまう。
目線をあわせようと眼球を動かす。
ああ、違う。
誰か、ですらなかった
あなたを取り囲むようにずらりと顔を寄せているのは、奇怪な服を着た無数のマネキン達だ。
どれもあるべき場所には顔がなく、モザイクじみた模様が塗りたくられている。
瞳のないそれらが、しかしあるはずのない双眸で、寝転ぶあなたを見下ろしている。
どうしてここにいるかなど、全く思い出せやしない。
自身の利き手が、不自然な形で握りしめられていることに気が付く。
しかし、そこに何があるわけでもない。
あなたが異様な光景に動けずにいると、やけに聞き心地の良い声色で、口のないマネキン達は話し出す。
しかしその言葉は会話としては不自然に早口で、あなたが聞こうとしている傍からゲームのスキップ機能を使ったかのように素早く展開されていく。
まるで”この会話は聞かなくても問題ない”と、言わんばかりだった。
立て続けに言葉を並べ、それで満足したのかあなたを取り囲んでいたマネキンは連れだって離れていく。
マネキンの足が動くはずもなく、床を滑るように移動していた。
心なしかその移動速度も本来想定されているものより速く感じる。
青色の扉に吸い込まれるように消えていく彼女達を呆然と眺めていれば、ばたんと音をたて扉が閉じる。
この場にいるのはあなただけとなった。身体は、自由に動く。
あなたは何故か、会話内容をはっきりと思い出せる。
「こんなところで寝ていたのね」
「駄目でしょう、勝手に逃げ出しちゃ」
「お客さまがいないからって、飛び出すなんて危ないわ。傷でもついたらどうするの」
「新入りだからルールがわかっていないのかしら」
「あなたも『作品』になるなら、キャプションに”おてんば”なんて書かれたくないでしょう?」
「わ!ほらほら、早く自分の場所に戻りなさい」
「あの子もどこにいったのかしら」
「ほら、抜け出すのが好きだから」
▼探索可能箇所
・部屋全体
・自分自身
・青色の扉
▼部屋全体
全体的に薄暗く、どこか物悲しい印象を与える部屋だ。
何かの建物のエントランスホールのように思える。
部屋の中央には豪奢なシャンデリアが吊られているが、そのあかりはちっぽけなろうそく程度しか灯っていない。
マネキン達が入っていった青い扉の他には、外へと繋がりそうな『扉』と正面の壁に何かが書かれた小さな『パネル』があるのがわかる。
▼追加探索箇所
・外への扉
・壁のパネル
▼自分自身
見たところどこにも怪我はなく、服装も普段通りの恰好だ。持っていたはずの荷物はない。
友達と遊ぶために電車に乗っていたところまでは確かに記憶している。
もちろん、こんな薄暗い建物にひとりでやってくる予定はない。
▼壁のパネル
外への扉の反対側、恐らく建物の正面に位置する壁には、A4サイズほどの真っ白な四角いパネルが貼り付けられていた。
純白の上に踊る数行の簡素な文字列は、一目見ただけでは理解ができない言語だったはずが、ひとつ瞬きをした間に、すっかりあなたの母国語へと姿を変えていた。
01【壁のパネル】
◆当美術館からのお願い
・美術館ではお静かに。芸術は誰にも邪魔されないものです。
・美術館の作品に傷をつけないでください。お楽しみいただけなくなります。
・美術館の作品を持ち出さないでください。お持ち帰りにはなれません。
・お守りいただけない場合は、係の者が伺います。
パネルの注意書きを読み終えると奇妙な感覚に襲われる。ただの文字の羅列に、目をそむけたくなるような居心地の悪さを覚えたのだ。
――逃げなければ。
どうしてか、焦燥感がわきあがる。
▼外への扉
すりガラスとなった扉の向こうには、夜の街の活気を感じさせるような、色とりどりの照明が映し出されていた。
鍵穴は見つからず、扉が開く様子もない。今ここから出ることは難しいと分かる。
▼青色の扉
べったりとした青色で塗りたくられた扉は、鈍く光る金属のドアノブがついており、鍵がかかっている様子はない。
くるりとひねれば簡単に扉は開く。
扉を開けば、まるで湖や池の近くにいるかのような、湿度のある重たい空気が探索者を包み込む。
そこは床も壁も天井も、扉の色と同質の青で塗りつぶされた、真っ青な世界だった。
美術館と書かれていたように、壁にはいくつも『絵画』が飾られており、それらを鑑賞、もしくは案内するように先ほどのマネキンたちが点在している。
展示室と呼べるほどそれなりに広いスペースの奥には『黄色の扉』が見えた。
▼探索可能箇所
・絵画
・黄色の扉
▼黄色の扉
くすんだ月のような、どんよりとした黄色で染められた扉。
鍵がかかっているようで、ドアノブはうまく回らない。
ドアノブに小さく魚のような絵が彫られていることに気が付く。
▼絵画
壁のあちこちには大小さまざまな絵画が飾られていた。
そのどれもが海や川、水辺をモチーフにした絵のようで、部屋の色も相まって、この展示室は水に関係した絵画のみが集められているのだと容易に想像がつく。
絵画を案内するようなポーズのマネキンや、興味深そうに眺めている姿のマネキンは、先ほどと違って動く様子はない。
絵画の右下部分には全て題名や簡単な情報が記載されたキャプションが貼られている。
『窓辺の海』『単調な波音』など、特に目立つタイトルでもない。
マネキンの近くにも『案内する女』や『腕を組み鑑賞する男』などの題名が書かれたキャプションがある。
蔵之介はキャプションに作家名の記載がないな~とだけ思いました。
展示された絵画を眺めていると、多くのマネキンが観客として集まるひときわ大きな絵にたどり着く。
恐らくこの部屋の目玉作品なのだろう。
アンティーク調のグレーの額縁の中に閉じ込められた、広大な海がそこにはあった。
縦幅2メートル、横幅3メートルはあるそのキャンバスには、この場の静けさを表したかのように凪いだ海中だけが描かれており、見渡す限り生き物はひとつも存在していない。
複数の油絵具で表現された水光(すいこう)が、本当に揺らめいているように見える。
キャプションに書かれた題名は『海底の息吹』である。
ふと、キャプションから絵画に視線を戻す。
本物の海を閉じ込めたようなその絵は、ゆらゆらと光をさざめかせ、やがてちゃぷん、と。はっきりと水音を鳴らした。
次の瞬間、潮の香りがむっと鼻につく。
『海底の息吹』だけではなく、この部屋の全ての絵画から、水という水があふれ出す。
異様な光景に抵抗する間もなく、探索者は頭まですっかり水に浸かってしまう。
まるで展示室が巨大な水槽になったかのようだ。
突然のことに、充分な空気を取り込むことなどかなわなかった。
咄嗟に口を閉じ、目を瞑る。両足が浮く。無意識に上へ逃れようとする。
しかし、あっという間に天井まで水に覆われた空間では、空気のある場所など存在しない。
細く目を開ける。
どこからともなく、まっすぐにこちらへと泳いでくる影が見えた。
それは飛び出んばかりの丸い目をした人型の存在だった。
下半身は銀色の鱗に覆われ、上半身は人間の皮を剥いだような薄いピンク色をしていた。
首元のエラは真っ赤に脈打ち、獲物を捕らえんと広く開いた口には針のような歯がびっしりと並んでいる。
水かきとひれ足を持つその魚人のような何かは、明確な敵意を持ち、あなたを視界に捉えた。
▼マーフォーク
STR20 CON10 SIZ18 DEX10
耐久値10
かぎ爪 30% ダメージ:1d3
水中では姿勢が安定せず、蔵之介のキックは外れたが溺れることはなかった。
マーフォークの攻撃は空を切って当たりません。
ダメージ: 1D10 → 4
マーフォークの耐久値:10 → 6
蔵之介のキックは確実にマーフォークを捉えた。
2メートル弱はある魚人があなたにかぎ爪を振りかざした瞬間、自身の脳裏に浮かんだ感情は、何故か『助かる』という漠然とした安心感だった。
鋭い爪があなたの皮膚を切り裂く寸前、予感を裏付けるように何かが裂けるような音と、水が一か所に引き寄せられていく感覚。
どうにかその方向に視線を向ければ『海底の息吹』のキャンバスが大きく裂かれ、そこから覗く真っ黒な空間に部屋中の水が吸い込まれ、瞬く間に抜けていく。
あの悍ましい魚人も、闇に吸い込まれ、やがて見えなくなった。
わずか十秒足らずですっかり元通りとなった展示室に、静寂が落ちる。
ずぶぬれだった自身の体を見下ろせば、はじめから全て幻だったかのように指の先までひとつも濡れてなどいなかった。
落ち着いて顔をあげれば『海底の息吹』の前にひとりの人物が立っていることに気付く。
男性だ。
歳は十代後半から二十代前半といったところか。
灰色がかった猫っ毛は男性にしては少し長く、後ろでひとつに束ねられていた。
落ち着いた青色の細いリボンの長さが均等なので、几帳面な性格なのかもしれない。
前髪で半分ほど隠れた瞳は、空のような水色にも深海の青色にも見える。
かっちりとした黒のベストからのびる長袖のシャツにはフリルがあしらわれており、首元のジャボにつけられたブローチは瑠璃色に輝いていた。
手には大ぶりなパレットナイフを携えている。
高くも低くもない控えめな声は、一瞬異国の言葉に思えたが、耳馴染みのある母国語としてあなたに届く。
ぽかんとする蔵之介。
しばらく会話をしていると、黄色の扉の方からカチャン、と軽快な音が鳴る。
明らかに鍵が開いた音だ。テオは少しだけ苦々しい表情をする。
蔵之介はすぐに立ち上がり、扉に向かいます。
蔵之介はどこからか奇妙な笛の音が聞こえる。
音の根源を辿ろうとする間に、聞こえなくなった。
扉を開くと、甘酸っぱい、ラズベリーのような匂いが鼻腔をくすぐる。
壁や床は黒で統一されており、淡い光を放つ存在が部屋の真ん中に鎮座していた。
月だ。見上げるほど大きな月は、有名なテーマパークにある地球を模した円形のそれと同じくらいの高さに思える。
大体十メートルといったところだろうか。
『月の模型』以外には、壁に掛けられた『絵画』がひとつ、奥に『赤色の扉』が見えた。
宇宙飛行士曰く、宇宙には独特の匂いがあり、例えるならばラズベリーの香りと言われていることを知っている。
▼月の模型
ぼんやりと白と黄色の光を放つ丸い月の模型。
より明るく見える場所は表面がごつごつとしており、大小さまざまなクレーターがあることが分かる。
暗く見える場所の表面は平らでなめらかだ。
クレーターもあまり見られない。
床に設置されたキャプションには『月面』とシンプルなタイトルが記載されていた。
暗い場所には灰色の石が積み重なって出来た都市のような場所が見える。
また、月面の明るい場所をのぞき込むと、廃墟らしきものが見え、それを長く見ていると妙に心の中がざわつくのを感じる。
あなたの持つ知識とすり合わせると、目の前の模型は明らかに異なる様子を模した物であると分かる。
▼絵画
金の額縁に入れられた横幅1メートルほどの絵画は、真っ暗な海とも空ともいえる波打つ空間に、何隻もの船が浮かんでいる様子が描かれていた。
両舷(りょうげん)に数多く備えられた櫂(かい/オール)が印象的な、黒い船だ。
キャプションには『月夜のガレー船』と記載がされている。
月夜と銘打たれているが、絵のどこにも月が描かれていないことに気が付く。
▼赤色の扉
赤土のような、赤みのある茶で染められた扉。
鍵がかかっているようで、ドアノブはうまく回らない。
扉を開ける手段を話し合うなど展示室でしばらく過ごしていると、足元に小さな揺れを感じる。
地震かと思ったその揺れは、徐々に大きくなり、”何かがこちらに近づいてきている”揺れなのではないかと嫌でも理解する。
テオの吐き捨てるような言葉は、絵画『月夜のガレー船』に向けられていた。
先ほどまでは誰も乗っていなかったその船には、無数の巨大な生き物の影があった。
いや、それが生き物だとわかったのは、すでに随分とこちらに近づいてきているからだ。
槍を持ったその生き物は灰色がかった白色の体躯を持ち、ぶよぶよとした質感と油っぽさは見ている者を不快にさせる。
更に顔と呼ぶべき場所にはピンク色の触手が花のようにかたまって生え、それらは奇妙に震えていた。
地球に存在する生き物に例えるなら、ヒキガエルと表現できなくもない。
もちろん、異質さを度外視するならばだが。
ガレー船から次々と下船し、それらは今まさに額縁を越えて、確実に探索者達に迫ろうとしていた。
その数は、十や二十では到底足りそうにない。
▼ムーン=ビースト
STR16 CON13 SIZ20 DEX10
耐久値17
槍 25% ダメージ:1d10+1
先頭を歩んでいた化物が、ついにそのぬらついた足を額縁から展示室の床におろした時、カチャン、と聞き覚えのある音が背後から鳴る。
音の先に視線を向ければ、赤色の扉があった。
テオもそれに気付いたのだろう。
あなたの手をとり、赤色の扉へと駆け寄ろうとする。
近寄ればやはり先ほどの音は鍵があいた音だったようで、ドアノブはするりと回った。
振り返ればヒキガエルの化物は展示室中にあふれかえっており、その体がひしめき合う音がぬちゃりぬちゃりと嫌に耳につく。
決して遅いとはいえないその移動速度では、追いつかれるのも時間の問題だと感じる。
あなたから何かを奪い取ろうと言わんばかりに槍を持っていない方の手をこちらにのばす。
蔵之介は、化物が今自分が持っている『月の模型』を狙っているような熱視線を感じます。
これを遠くに投げることで、逃げる時間を稼げるかもしれないとなんとなく思いました。
蔵之介は走りながら投げるのに失敗し、あまり遠くに投げることができません。
ですが、運よく進行方向とは反対のところに模型は転がっていきました。
安心したのもつかの間、ムーンビーストは模型に向かう際に蔵之介に向かって槍で突こうとします。
槍は空振りに終わります。
テオは蔵之介の手を掴んで走り出す。
無数の化物に追いかけられながら、あなた達は必死に扉の奥へと向かう。
赤色の扉の先は、真っ暗な通路のようだった。
淡い光をはなつ月を手放してしまった以上、そこに光源は存在せず、それでもただ無我夢中で走り抜けるしかなかった。
考えている暇などない。
繋いだテオの手は緊張からかひどく冷たく、それが逆にあなたの意識を明瞭にさせた。
視界は前を走るテオを捉えることで精一杯だが、左右の空間から木々が擦れ合うような音が聞こえてくる。
もしかしたらここは森なのではないか?
探索者がそう考えた次の瞬間、鋭く風をきる音が目の前を切り裂いていった。
直後、伸びてきた触手のような何かに目の前のテオの片腕が絡めとられ、暗闇に引きずられそうになる。
あなたは反射的に、掴んだままのテオの手を思い切り引っ張る。
パキリ、と何かが割れるような音が耳に届いた。
間一髪のところで、テオはあなたの方へと倒れこむ。黒の中に目を凝らす。
それは、動く木だった。
ひとつだけではない、この暗闇一帯に、葉のない木々が密集していた。
本来なら動くはずのない木々が、あなた達を絡めとろうと鋭い枝を、まるで意地の悪い魔女の杖のように伸ばさんとしている。
どれだけ走っただろうか。
うまく息が吸えず、吐けず、果ての見えない暗闇に心身ともに摩耗しそうになった時、ひとつ、扉が見えた。
それは本来だったら地味な灰色の扉であったが、この墨よりも深い黒の中では白よりも輝いて映った。
テオの短い言葉は了承を得るものではなく、宣言であった。
次の瞬間には扉はいとも簡単に開け放たれ、ふたりが飛び込んだのを確認したかのように強く閉じられた。
バタン、と大きな音が響き、後にはふたりの荒い呼吸音だけが残る。
やがて呼吸を整え、酸素不足により発生した軽い頭痛がひけば、ようやく部屋を見渡すことができる。
扉と同じく、床、壁、天井は陰鬱な印象を与える灰色で統一されており、マネキンの姿はない。
今までの展示室とくらべれば狭いもので、一般的な学校の教室より少し大きいくらいの広さしかないだろうと思う。
また他に扉はなく、この部屋が展示室の終着点なのだろうと考えずとも理解する。
入口から一番遠い壁には、あなたを待っていたかのように、ひとつの『絵画』が確かに存在していた。
▼探索可能箇所
・絵画
壁の一面を埋めてしまうくらい巨大な絵画。額の中で描かれていたのはありふれた、電車の中の光景だった。
外の景色は明るさから見るに昼間のようで、乗客はまばらだ。
優先席には人のよさそうな老夫婦が、少し離れた座席には母親と少年が隣り合って座っていた。
若者は少し余裕を持った座り方をしながら熱心にヘッドホンに意識を向けている。
唯一扉の横で立っているスーツの男性は大きなトランクを持っていた。
油絵で表現されてはいるが、それはあまりにも普通の、あなたがいつも乗っている路線の車内だった。
しかし携帯ゲーム機で遊ぶ少年の隣、座席の端の仕切り板にもたれかかるように眠っている人物だけがシルエットのようになっており、その姿が黒く塗りつぶされていた。
それを見たあなたは気が付く。
いや、確信をもって言える。
このシルエットは間違いなく自分自身だ。
この絵画には他の全ての作品についていたキャプションが存在しない。
また、シルエット部分に触れてみると、キャンバスの他部分にくらべて素材が脆いように感じる。
あなたは確信する。
テオが持つパレットナイフでここを切り裂けば、その先へ進めば、元の世界に帰れる。
それは予感ではない。確信であった。何故だろうか。
特になんの疑問も持たず、蔵之介はテオに頼む。
テオはポケットに入れていたパレットナイフをあなたに渡す。
初めて手にしたはずのそのパレットナイフは何度も持ったことがあるようにあなたの手になじむ。
力を入れて絵画のシルエット部分に突き立てれば、薄い膜はあっさりと破れ、その人影の隙間から光が差し込んだ。
蔵之介が灰色の部屋に差し込む眩い光を見た時、脳内にひとつの映像が過ぎる。
それは、絵画の向こうにふたりで歩みだす光景だ。
しかし、映像は唐突に黒く塗りつぶされていく。
全てをなかったことにされていく感覚。
ぐちゃぐちゃと体がねじれ、うねり、巻き戻される。そして、ひとりで、どこかに倒れこむ。
立っているのに、背中に冷たい床の感触がする。心臓がうるさい。
どうしてだろう、いや、分かっている。分かってしまう。
きっと”何度もここを通ろうとしてその度失敗してきた”のだ。
例えばそれが92回目だとしたら。
1d2の減少 → -2
途端、奇妙な笛の音が耳をくすぐった。
それはすぐに鳴りやむことはなく、あなたは音の出どころを辿ることができた。
出どころを探るのは至極簡単だ。
これまで一緒に行動してきたテオの体内から聞こえてきたのだから。
あなたが振り返ると、テオは先ほど木に絡めとられた片腕の肩口を、もう片方の手で押さえているのがわかる。
あなたはテオがおさえている肩口を見る。
彼の白い指の隙間からは、赤い血液がこぼれているのがわかる。
ただ血液だと思ったものは、どろりとした液体だった。
まるで油絵具のようだ。
あなたが赤い液体を指摘すると、テオはその重たい前髪の隙間から青い瞳を困ったように細めた。
そう言うと、テオはポケットの中から名刺ほどの小さな白い紙を取り出す。
それはこの美術館で何度も見てきた、作品に必ず貼られていたキャプションであった。
『芸術家 テオドール・グレイ 18歳の姿』
テオは、あなたが持つパレットナイフの先を自身の左胸、心臓部分へ向ける。
確かな意志のこもった瞳があなたとしっかりと交わったその時であった。
テオの背後に、きらりと光る猫のような黄色い瞳が見えた。あなたは咄嗟に、彼の手を引く。
テオのいた場所に、しゅるりと触手のような細長いなにかが音もなく伸ばされる。
それは獲物であるテオを絡めとることに失敗すると、一度引っ込められた。
あなたは、亡霊のような、浮遊する巨大なクラゲのような存在を見上げる。
雲のように浮かんだその生き物は、長くしなやか触手をいくつも垂らしており、数多の黄色い眼はその全てが威嚇するようにこちらに向けられていた。
あんな存在は、”今まで”見たことがない。
1d4の減少 → -3
『お守りいただけない場合は、係の者が伺います。』
最初に見た美術館の注意事項が、あなたの脳裏をよぎる。
今にも次の触手がこちらに伸ばされようとしている。
時間は、もうない。
あなたが起こせる行動は、ひとつだけだ。
あなたはテオの言葉を信じ、パレットナイフを彼の心臓に突き立てた。
あっさりと裂けた彼の肌からは油絵具のようにどろりとした赤い液体が零れ落ちる。
その先に直径30cmほどの、黄色く卵のような形をした美術品が顔をのぞかせた。
ホイッスルのような音は確かにこの卵からしており、あなたは恐る恐る両手でそれを取り出す。
ぐるりと確認してみても、その卵にキャプションはどこにもなかった。
思いのほか重量がある卵があなたの手に渡ったことを確認したテオは、短い間、いや、恐らく何度もこうしてきた中ではじめて、柔らかく微笑み、胸がぽっかりと空いたその身体で、とん、とあなたの肩を後方へと押しやった。
光の奥へと倒れこみ、意識が途切れる瞬間に聞こえた声はあたたかく。
こちらへ伸びる触手は、ついにあなたに届くことはなかった。
かたん、かたん。心地の良い振動。
ぴこぴこと小さく聞こえる電子音。
聞きなれた、最寄り駅の発車メロディー。
微睡む中でそこまでを認識して、ようやく意識が覚醒する。
慌てて飛び起きれば電車の中で、端の席に座っていたあなたは、窓から見える景色から目的の降車駅だと気付く。
荷物をひっつかみ、メロディーが鳴り終わるまでに外へ出る。
電車でうたた寝をし、変な夢を見ていたようだ。
「お母さーん!負けちゃったー!」
携帯ゲーム機を近くにいる母親に見せながら悲しそうに大声をあげる少年は、先ほどまで隣に座っていた子どもだと気付く。
ちらりと見えたゲーム画面には『GAME OVER』の文字と共に倒れこむ操作キャラクターの姿が映し出されていた。
「あら、惜しかったわね。帰ったら続きやろっか」
「うん!」
親子は、ありふれた会話を重ねながら帰路へとつく。
あなたはいつものように改札を出たところで、見覚えのないポスターが駅前の掲示板に貼られていることに気が付いた。
02【駅前のポスター】
《テオドール・グレイの不思議な世界》
日本初上陸!
奇才の芸術家・テオドール・グレイが描く不思議な世界に皆様をご招待いたします。
目玉展示は美しいイエローエッグ。
更に、彼の自室から見つかった幼き自画像も初公開。
××美術館 〇月〇日より開催
-------------
白いポスターの中にコラージュされた色彩豊かな作品の中で、グレーの猫っ毛を青いリボンで束ねた少年と、小さく目が合った気がした。
END:A テオドール・グレイの不思議な世界