吉本蔵之介は、がらんどうの浴槽に全裸で横たわっていた。 ダイス : SAN(62) → 27(成功) →自分自身をまず確認
蔵之介
ダイス : 聞き耳(85) → 72(成功) ダイス : SAN(62) → 55(成功) SAN-1
蔵之介
→浴室全体を見渡す
蔵之介
→棚から探索 ダイス : 幸運(60) → 50(成功)
蔵之介
蔵之介
ダイス : 目星(45) → 21(成功) ダイス : アイデア(70) → 97(失敗・ファンブル) ダイス : SAN(61) → 97(失敗・ファンブル)SAN減少1d3+1 → 1+1 → -2
蔵之介
蔵之介
蔵之介
ダイス : SAN(59) → 81(失敗)SAN減少1d3 → -2
蔵之介
→一刻も早く帰りたすぎて何も調べたりせずに開ける ダイス : SAN(57) → 23(成功) SAN-1 ダイス : SAN(56) → 17(成功) SAN-1
蔵之介
ダイス : POW対抗(60) → 46(成功) ダイス : 知識(50) → 49(成功)
蔵之介
ダイス : SAN(55) → 85(失敗)SAN減少1d3 → -1 ダイス : 幸運(60) → 37(成功)
蔵之介
ダイス : SAN(54) → 92(失敗)SAN減少1d3+1 → 3+1 → -4
蔵之介
ダイス : SAN(50) → 69(失敗)SAN減少1d2 → -1 ダイス : 幸運(60) → 30(成功) ダイス : 幸運の半分(30) → 58(失敗) ダイス : SAN(49) → 42(成功) SAN-1 ※不定の狂気 ダイス : POW対抗(60) → 22(成功) ダイス : SAN(48) → 70(失敗)SAN減少1d6 → -1 クリア報酬:SAN回復2d10 → 11 最終SAN値 58
見上げた天井では照明が、ちかちかと、頼りなさげに揺れている。
水気のない空気は、それでも何故か肌にまとわりつく。自分以外に誰もいない空間では、自身の呼吸音しか聞こえない。
知らない、浴室だった。
▼探索可能箇所
・浴室全体
・自分自身
・扉
▼自分自身
改めて自身の体を見下ろす。
衣服を身にまとっていない。おかげで、どこにも怪我がないことはすぐに理解できた。
その反面、何故ここにいるか、ここに来る前に何をしていたかなどは一切思い出せない。
僅かだが、横たわっている浴槽の底に、自分の体温ではない生暖かさを感じる。
▼浴室全体
洗い場と浴槽が存在する一般的な浴室。
特段綺麗すぎることも、汚すぎることもない。
ただ、切れかけの白熱電球が、時折空間に闇を落とす。
あなたが身を預けている浴槽は、成人男性だと満足に足を伸ばせるかは微妙だが、ユニットバスのような狭さは感じない。
洗い場には風呂用の椅子や桶の他にシャンプーなどを置くための『棚』と、縦長の『鏡』が見える。
シャワーフックにかけられたシャワーヘッドと、一瞬目が合った気がした。
▼追加探索可能箇所
・棚
・鏡
▼棚
鏡の下に備え付けられた棚には、プラスチックのシャンプーボトルが数本と、洗顔フォームのようなチューブ容器、一般的なカミソリなどが置かれている。
幸運にも蔵之介はプラスチック容器などを見ることが出来る。
よく見れば、文字化けしているかのように理解できない言語で製品名や説明書きが記載されていた。
▼鏡
風呂椅子に座ると、ちょうど全身が映る高さに設置された縦長の鏡。
覗き込めば、状況を飲み込めていない自分が、想像以上に情けない表情をしていることに気が付く。
鏡面に違和感を覚える。
よく見れば、何か、指でなぞったような跡がある。シャンプーか何かをつけたのだろうか、その部分だけ少しだけ濁って見えた。
ふと蛇口に目をやると、何か、細長い糸のようなものが出ているのが見える。
気になってそれを引っ張るとどさり、と。大量の毛髪が蛇口から探索者の手の中に落ちていた。
長さや色がまちまちの髪の毛は、ひとつの生き物のように絡み合って、脈打っていた。
シャワーでお湯を出して鏡を曇らせれば、何かわかるかも?と薄らぼんやり思う程度にはわかります。
あなたはカラン(浴室の蛇口)に手をかけ、切り替えハンドルの向きをシャワー側に傾ける。
すると、シャワーから冷水が流れ出て、しばらくすれば温水へと変わる。
やがて水蒸気が鏡を曇らせていき、何が書かれていたかが浮かび上がってくる。
それは、文字であった。あなたの母国語で、大きく。
『恐怖を忘れるな』、と。
あなたは、”浴室”自体を『怖い』と思ったことがある。
その、恐怖の原体験を思い出す。
それは以前聞いた浴室に出る幽霊の話かもしれないし、虫が出たまま行方不明で退治していないからかもしれない。
ぶるり、と身震いする。
浴室のあちらこちらから、あるはずのない視線を感じた。
▼扉
浴室特有のすりガラスになった折れ戸は手前に引くことで簡単に開きそうだ。
目星が出来ますし、開けるという宣言も可能ですがどうしますか?
すりガラスの先は、照明がないのか、暗闇だけが広がっている。
あなたはその闇に、潜在的な恐怖を覚えた。
もし少しでもこの扉を開けてしまえば。
ずるり、と。
その闇が今にも動き出し、身を守る術を持たない自分に襲い掛かってくるのではないかという、底冷えする想像が脳裏を駆け巡る。
一刻も早くこんな見知らぬ浴室からは出なければならない。
しかし、分かるのだ。
浴室にいるのならば『髪と身体を洗い、湯船に身を沈めなければならない』と。
自分はそのためにここにいるのだと、その思考に体までも支配されたかのように、裸足のつま先が、無意識に洗い場へと向いた。
半泣きで洗い場の風呂椅子に腰をおろすと、先ほどまであなたが横たわっていたがらんどうの浴槽に勝手にお湯がたまり始める。
ごうごうと浴槽の底に蛇口から出るお湯が打ち付ける音を聞きながら、あなたの手は『そうすることが当然』のように、シャワーや棚に手を伸ばす。
▼髪を洗う
シャンプーとトリートメントがどれであるか見当をつけ、一度濡らした髪の毛を洗っていく。
髪につけたシャンプーが泡立っていく様子は、目の前に設置された鏡に映る。
鏡越しに、すりガラスの扉が自身の背後に映る。
奥に見える闇が、やはり、蠢いていると感じる。
ぶんぶんと首を横に振り、嫌な想像を否定した。
続けて、シャンプーを洗い流すためにお湯を出し、目を瞑る。
当然、視界は黒に染まる。
浴室で一番無防備な瞬間は、間違いなく髪の毛を洗い流す、今まさにこの時だろう。
見えない。
人間が五感から受ける情報量の割合は、視覚が圧倒的に多く、八割以上とどこかで聞いたことがある。
その八割を失った時、人間は他の五感に頼らざるを得ない。次に割合が多いのは、聴覚だ。
カタン。
背後で、何か、乾いた音が鳴る。
後ろは見ずにそのまま髪を洗い流していきます、が、こういう時に限ってふと思いだしかけたことがあります。
ただの迷信に過ぎないが、蔵之介はひとつの話を思い出す。
『背後に気配を感じて何もいなかったら、その存在は上にいる』と。
蔵之介は一度気になったものを、無視するわけにはいかなかった。
視線を天井へ移す。
照明の他に視界に捉えたのは、格子状の蓋がされた換気扇だった。
動いていない換気扇には、当然何の異常も見られない。
気のせいだ。ため息をひとつついて、正面に向き直る。
何せ異常な状況だ。些細なことに過敏になりすぎているのだろう。
そう結論付け、何気なく眼前の鏡を見る。
少し表情の和らいだ自分自身と目が合う、はずだった。
しかし、そこに映っていたのは後ろの扉を見つめたままの、自身の後頭部だ。
鏡の中の自分は、そのまま緩慢な動作で天井を見上げ、不審なものがないかを確認した。
それからようやく、ため息まじりに正面に向き直り、目が合った。
その表情は、幾分か安堵しているように映った。
▼身体を洗う
容器に記された文字は読めないが、並び順や雰囲気からおそらくボディーソープであろう容器を見つけ出し、液体を手元で泡立てる。
予想通り泡立ち始めたそれを、自身の身体に撫でつけていく。
首元から足先まで、丁寧に。
急がないといけないと分かっているが、身に染みついた動作であるはずなのに、自身の焦りを鎮めるかのようにゆっくりと肌をなぞることしかできない。
そうして、全身くまなく泡に包まれた頃には、見知らぬ浴室で身体を洗っているという歪な現実を、少しばかり冷静に見れるようになっていた。
シャンプーの容器に触れた際、コン、と音をたてて隣にあった容器が床に落ちる
。拾い上げてみれば、まるで空っぽのように軽かった。
どうやら中には液体ではなく、何か小さな固体が入っているようで、傾ければカサリと音が鳴る。
手元の泡を洗い流し、ポンプ部分を回して蓋を外してみれば、中にはくしゃくしゃに丸められた紙が入っていることに気が付く。
ひっくり返し、狭い入口に指を入れ、紙を取り出す。
広げてみれば少しばかり水で滲んでいたが、文字は問題なく読めるだろう。
【容器の中のメモ】
気が付いたら大嫌いな風呂にいた。すぐに出ようとしたが、嫌な予感がする。
外に、何かがいる。
アレはどうやら、扉を開けることができないらしい。
ずっとここにいれば助かるのか?
それとも、克服してしまえば楽になれるのか?わからない。わからないが。
ああ、だんだんと、こわくなくなってきたな。
シャワーから温水を出し、身体の泡を落とす。
じわじわと全身に熱が伝わっていく様子に、ほう、と息が漏れる。
排水口に白い泡が流れていく。
瞬きをする。
ふと、今しがた泡を流した自身の腕が目に入る。
そこに見えたのは肌色ではなく、べろん、と皮が剥けた先にある、人間の肉の色であった。
腕だけではない。胸、腹、太もも、つま先に至るまで。
皮膚ごとシャワーで洗い流してしまったように、筋肉と、脂肪の生々しいコントラストが目に映る。
……だが、それも一瞬。
再度瞬きをすれば、先ほどまでの光景は夢だったと言わんばかりに、綺麗に泡が流し落とされた自身の裸体が鏡に映っているだけだった。
頭と身体を洗い終える頃には、浴槽の湯はすっかり溜まりきっており、いつの間にか蛇口のお湯は止まっていた。
あとは湯船に浸かれば良い。
浴槽の縁をまたぎ、ちゃぷんという音と共に肩まで身を沈めれば、再び静寂が落ちる。
熱くもぬるくもないお湯に身を預け、ただ、広がる波紋を眺めていた。
その時。
『ちゃんと100まで数えるのよ』
扉の外から、声が聞こえた。
それは、相手を安心させるような女性の声だった。
真っ先に受けた印象は、すぐ湯船から出てきてしまう子どもに声をかける、優しい母親。
その異質さに鳥肌が立つ。
こんな場所で『優しい女性の声』が聞こえるはずがないのだ。
意識すれば、その声は「安心感を与える』ために声帯と声帯を繋ぎ合わせた、はりぼてのようにも思えた。
人間ではない何かが、一生懸命に人間を模している。
しかしあなたは確かに『100まで数えなければならない』と強く思うのだ。
口に出して、もしくは頭の中で数を数える。
……48、49、50。
早く100にならないだろうか。
どうして、数えなければいけないのだろうか。
白熱電球が、一度大きく闇を落とす。
数秒すれば、再び浴室には明るさが戻ってくる。
しかし、変わらず影を落とし続けている場所があった。
湯船の中、自分の足先。
視線を向ければ、まるで影そのものが意思を持ち、じい、とこちらを窺っているようだった。
ぶくぶくと、自分の中の恐怖が膨れ上がる瞬間、再度照明が落ちた。
瞬きをするかのように、次に光をもたらした時には、影など存在していなかった。
蔵之介は震えが止まらなくなるほどの恐怖を感じてしまいます。
身震いどころではなく心から冷えてしまうような、恐怖を浴びながら浴槽に浸かっているお湯がまるで水のように温度を感じられません。
蔵之介の限界は、案外簡単に訪れた。
自分の中の恐怖への耐性が、注がれたグラスの許容量を超え、床に零れ落ちたのだ。
あなたの思考は『ここから逃げ出したい』ただそれだけに支配される。逃げようとするならば、向かうは扉の外しかない。立ち上がり、折れ戸に手をかける。
この先に何があろうと、今よりはマシだ。
そうだ。
そもそも自分は、風呂が怖いのだ。
嫌な思い出のある風呂という場所に、どうして居続けなければならないのか。
そうして、外へ出る言い訳を脳内で並べ立て、扉を開けようとした、まさにその時。
『怖かったでしょう、もう出ておいで』
優しい母親を模したような、人ではないその声に、全身が硬直した。
それは、扉のすぐ近くから聞こえた。
すりガラスの奥は、闇しか見えない。
ドッと、嫌な汗が吹き出るのがわかる。歯の根が合わず、恐怖が震えとなって伝わる。
怖かったでしょう、もう出ておいで
怖かったでしょう、もう出ておいで
怖かったでしょう、もう出ておいで
壊れた再生機のように、同じ言葉を何度も繰り返す。
逃げ出したいその気持ちは、薄い扉一枚隔てた先の未知の恐怖により、僅かに縫い留められる。
蔵之介は恐怖のあまりその場にしゃがみ込む。
蔵之介は恐怖に耐え、扉を開けなかった。
しかし、壊れた再生機のように、繰り返しあなたに声をかける。
『怖かったでしょう、もう出ておいで』
……98、99、100。
100まで数え終えた頃にはあなたの『恐怖』という感情はすっかり消え失せていた。何を怖がっていたのだろう。自分は、ただ浴室にいるだけなのに。
『もう出ておいで』
扉の外から優しい女性の声が聞こえる。
ああ、そうだ。
自分は100まで数えたのだから、風呂からあがることが出来るのだ。
軽やかな足取りで、扉の前へと向かう。
そして躊躇いなく、その折れ戸を手前に引いた。
ギイ、という音と共に、目の前には夜が広がっていく。
どれほど黒に黒を重ねれば、このようになるのかは分からない。
ただ、そこには巨大に渦巻く夜の群れがあり、あなた自ら扉を開けるこの時を待ちわびていた。
あなたは『恐怖』を思い出した。
現状を、正しく理解することができる。
『恐怖を感じなかった先ほどまでの自分』が異常なことに、底知れない恐ろしさを覚える。
その感情が、最後の一歩を踏みとどまらせた。
『 危ない!』
突然背後から声が聞こえ、誰かがあなたの腕を引っ張る。
そのまま浴室に引き戻され、強引に扉が閉められたのを確認した瞬間、あなたの意識は遠のいていった。
がくん、と舟をこいだ自分の頭。
その鼻先が浴槽に満たされたお湯に触れた瞬間、あなたの意識は明瞭になる。
見慣れた浴室、ぬくもりを感じる照明、入浴剤のやわらかな香り。
どうやら湯船に浸かったまま、居眠りをしてしまったようだ。
夢の内容ははっきりと思い出せないが、うるさくなる鼓動が、悪夢だったのではないかと知らせてくれた。
浴槽から出る際、ふと、鏡が気になり目を向ける。
自分自身の瞳と、正しく目が合ったことに、何故か安堵した。
END:A 明るい浴室
【後日談】
蔵之介は一週間程度、不定の狂気の後遺症で思い出したように怖くなって震えてしまいます。