そうか、思い出したか、と跡部は小さな声で言って、俯いてしまった。
どうしたのかと思って、少し身体をちぢこめて跡部の顔を覗き込むと、
跡部は、とても嬉しそうで、嬉しくて泣いてしまいそうに見えた。
見んな、と軽く頭をはたかれた。
まだ思い出したのなんて、ほんのちょっとなんだけど。
跡部がそんなに喜んでくれるなら、早く早く、全部思い出してしまいたいと思う。
L
O S
T
跡部が顔を上げて、オレの顔をじっと見た。
今までよりもずっと真剣な瞳。
思わず吸い込まれてしまいそうな青い瞳に、オレが、……オレだけが映ってる。
「……あと、
ガラッ!
「邪魔すんで!」
オレが跡部を呼びかけた瞬間、病室のドアが勢いよく開いて、聞き慣れない関西弁が聞こえた。
瞬間、オレと跡部はパッと目をそらした。
何だ?
何だってんだ、今のは?
ああちくしょう、何か知らねぇけどすげー鼓動が速い。
「おぅ、跡部も来とったんか」
「ああ。お前今日はこねぇんじゃなかったか?」
「いや、そのつもりやったんやけど。…宍戸、お前に会わせたいヤツがおんねん」
跡部としゃべっていた忍足が急にオレの方を向いた。
会わせたいヤツ?
オレの知ってるヤツかな?
「え、別にいいけど。何。てか、誰?」
「……ほれ、はよ入ってき!鳳!!」
「鳳!?」
バッと扉の方を見ると、おずおずとでかいヤツが入ってきた。
そいつは、オレを見た瞬間、泣き出した。
大きな涙をボロボロと両目から流して、それからその場でいきなり深く頭を下げた。
「し……ッ宍戸さん!宍戸さん、本当にすみませんでした!自分のせいです、本当に、謝っても謝り切れません!!」
「お……オイ、」
「ごめんなさいごめんなさい!本当に申し訳ありません!もうなんて言っていいのか分かんないですけど、でも、本当にすみません……ッ」
個別の部屋で良かったと思った。
こんなに泣きながら大声で謝られるのを他人に見られたら、恥ずかしくてどうしようもない。
とにかく、この大きな(マジ後輩かよ?)の顔を上げさせた。
既に涙でぐしゃぐしゃの顔を歪めて、子供っぽいったらない。
オレ、マジでこんなのと付き合ってたのかよ?
うーん、前のオレが信じらんねー。
「泣くなよ。いいって、全然気にしてないし。てか、しょうがないじゃん。お前元気でよかった」
「いえ!オレが怪我をすればよかったんです!!宍戸さんが、こんな………入院までさせてしまって、ほんとに……っ」
「あーもういい!謝らなくていい!!お前のせいじゃねーって!!」
泣かれるのには弱い。
思った。
きっと前のオレは、「付き合ってください」とかって、こいつに泣いて告られたんだ。
そうに違いない。
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