「詳しいことはまだ聞いてなかったんやんな。鳳が言うにはな、デートの帰りやったらしいわ。
鳳が、宍戸の家まで送っててんて。けどそんときに、横断歩道でな。
信号は青やったのに、猛スピードで乗用車がつっこんできて……飲酒運転やったらしいわ。
んで、ほんまにひかれそうやったんは鳳なんやけど、その鳳をお前が突き飛ばしたんやって。そんで、お前がひかれてしもたん」
忍足は話した。目を伏せがちに、ゆっくりと。
光るヘッドライト
耳をつんざくようなブレーキ音
目の前に見える立ちすくんだ人の影
ソイツに向かって無我夢中で走るオレ
「………ってぇ…ッ」
「……宍戸?」
「オイ、どうした?頭痛ぇのか?」
ソイツ大きな背中に体当たりするオレ
吹っ飛ぶソイツの身体
急に身体に受けた衝撃
赤い車体
赤い視界
遠退く意識
動かない身体
頭が痛い。がんがんする。
右肩の傷が酷くうずく。
痛い。痛い。イタイ!
何かに捕まりたくて手を伸ばす。
手に触れたのは、心配そうにオレの顔を覗き込む跡部の右腕だった。
忍足はいない。ああ、医者でも呼びに言ったのか?
イタイ痛いいたい。頭が痛い。
脳内にフラッシュバックする、多分オレが事故ったときの映像。
地面に打ち付けた右半身が悲鳴を上げるように痛む。
ちくしょう、いてぇ。痛えよ、
跡部。
「…ッ、宍戸。宍戸…!オイ、大丈夫か?ちょっとだけ待て、今忍足が医者呼んでくるから…」
「あ、とべ……あたま、いてぇんだ…」
「……頭?」
「フラッシュバック、てーのかな…多分、事故ったときのことが頭ン中、巡ってて………すっげぇ、いてぇんだ………ッ」
跡部は、跡部の腕を握りしめるオレの手の平に自分の手をかぶせて、大丈夫だからと何度も呟いた。
怖い。
そうだ、怖かったんだ。
そんで、ソイツが、鳳ってゆーんだな?
しばらくすると、頭の痛みは引いていった。
ちょうどその時に忍足が医者を連れて戻ってきて、オレは何でもないっす、と言って医者を返した。
握っていた跡部の腕を放すと、紫色の痣になっていた。
ごめんと謝ると、何ともねぇよ、と言われた。
頭には鳳らしき人物の、背中だけが残る。
あと、そいつの声も。
何で鳳は、オレの見舞いに来ないんだろう。
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