キキイイイィィィッ
「…ッ、し……宍戸、さあぁあん!!!」
覚えているのは、耳をつんざくような車のブレーキ音と、
誰か、の、叫び声。
暗いところから不意に意識が引っ張られた感じ。
目を開けた。ぼんやりとした明かりが光が視界に広がった。ずいぶんと久しぶりの光で(どうしてだろう。分かんねぇけど)、オレは目を細めた。
なかなか視界が晴れない。視力が低下したみたいにぼやけているから少しムカつく。
目の前に誰か居る?4人くらいが、顔を覗き込んでいるのが分かった。誰だかは、分からない。
もう一度目を閉じた。何故だか目を擦りたいけど、手が動かない。だるい。そう言えば、体中が疲れ切った感じだ。
聴覚が戻った。
声が聞こえる。
『…ッ宍戸!!よかった……目ぇ覚ましたんだな!?』
『オイ、オレ分かるか?もう、マジびっくりしたっつーの』
『マジ良かったわ……無事に目ェ覚ましてくれて』
『亮ちゃーん!!亮ちゃん亮ちゃん、オレマジ心配したC!』
誰だ?
目を開けた。今度はぱっちりと目も開いて、視界もクリアになって一人一人の顔がよく見える。
一人は青い瞳をもつ美形で、右頬に泣きぼくろがあった。
一人は、変なおかっぱみたいで、前髪がV字の変わったヤツだった。
一人は胡散臭い丸眼鏡をかけて、真っ黒な髪の毛をしていた。
一人は、金髪で柔らかそうなくるくるした髪の毛のヤツだった。
見覚えはあると思うけど。
誰?
『なぁ宍戸。ホントに良かったよ、もうこのまま起きないかと思った!』
『ほんまや。跡部なんか真っ青で泣きそうな顔してずっと宍戸のそばおったんやで?』
『ッセーなぁ…でも…マジで、心臓止まるかと思った』
『俺も泣きそうだったっての!でもホントよかったぁ』
フィルターがかかったように聞こえてくる4人の声。
こいつらが言っている宍戸、てのは、オレのことだ。と思う。亮ちゃん?てことは、オレは『宍戸亮』?
『宍戸亮?』
あれ?オレ、名前、思い出せねぇ………。オレって誰?何?宍戸って、誰だよ?オレが宍戸?え??
「宍戸?どないしたん?」
まだ気分悪いんか、と関西弁で聞いてくるまる眼鏡に、心底焦った。
どうしよう。覚えてないって言ったら、どう思う?
でもしょーがないよな?だって自分の名前も思い出せねぇのに。
「あの、さ………」
久しぶりに出した声。あれ、掠れてる。
緊迫した表情のオレに攣られたのか、4人の安心していた顔が強張った。
どうしよ………ごめん。
「ごめん、えーっと…………誰、だっけ?」
瞬間、4人の表情が険しくなって、止まった。
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