N i c e t o m e e t y o u , b a b y ? :

よく晴れた夏の日。
一角は、仕事をさぼって現世に遊びに来ていた。
死神で、一般の人間には見えもしない存在なのだが、やはり夏は暑い。
しかもいかにも厚そうな真っ黒な服を着ているのだから、余計。

「あーっちぃなー」

一角は誰にともなく呟いた。

何故か道路には人一人いない。
ジリジリと照りつける太陽の下、一角はぶらぶらと意味もなく歩いている。

今日は非番のはずだったのだ。
それなのに、事もあろうか、やちること11番隊副隊長が、『つるりんあたしと非番かわってぇ★』などと。
一応上下関係は守る一角だ。
副隊長の願いであれば、引きつった笑顔ででもオーケーを出す。
けれど、よく考えれば、副隊長の非番は昨日。
非番は1週間ずつ回ってくるわけだから、つまり、一角は来週まで休みなし。
かなり損である。

「ツイてねー…あーもう!」

一角のつぶやきは青空に吸い込まれた。


と。

「!?」

急に、ぐんっと空気が重くなった。
今でも慣れない気持ちの悪さ。
これは、虚だ。

「あーくそ!ツイてねぇ!!どっちだ!?」

この管轄は元からやちるの代わりの一角が担当していたところ。
ソウル・ソサエティにいるよりも早くそこに行けるだけ、まだツイているか。


霊圧の強い方へと足を向けていくと、3分も走った先に大きな虚の仮面が見えた。
大きな虚だ。
襲われているのは?

「やだ!やだぁああっ」

幼い声。

「子供かよ!くっそ」

一角は一層スピードを上げて走った。
気付いた虚が一角の方を向くと同時に地面を蹴り上げて、高く高く飛び上がる。

「てめーは鬼灯丸出すまでもねぇな!」

そう言うと、一角は落ちるのに合わせて一気に虚の頭部を切り裂いた。
声にならない声を上げて虚は消えた。
後に残ったのは小さな女の子と、一角だけだ。
女の子はしゃがみ込んで震えていた。

「……嬢ちゃん?もう終わったぜ。大丈夫だ、顔あげな」
「や…っ!…?おばけ、は…?」

一角の声にびくりと反応して顔を上げ、周りを見回すと、女の子は不思議そうに首を傾げた。
(うわ、かわいー)
一角が思わずつばを飲み込んでしまうほど、女の子は可愛い。
後10年後には、男泣かせの美人になることだろう。

「オレがやっつけた。もう大丈夫だぜ?」
「……あ、…りがとぉ…」
「…!おぅ」

にこおっと笑ったその笑顔に一角ノックアウト。
思わず頬を赤らめて、女の子から目をそらした。

「おにいちゃん、かっこいいね」
「そ……そっか?あんがと」
「どーいたしましてぇ」

さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。
ニコニコとして、女の子は一角のことが気に入ったらしい。

それより、女の子はもう肉体が生きられる状態じゃないらしかった。
魂葬するしかない。

「なあ、嬢ちゃん」
「なぁに?」
「嬢ちゃんさ、オレとソウル・ソサエティってとこいかない?」
「……そ…?何で?」
「嬢ちゃんは、母さんとか父さんとか、いんの?」
「ううん」
「え、いねぇの?」
「うん。菜子ひとりぽっち」
「……そか」

ならば、心配することはない。
一角はこの女の子を魂葬することに決めた。

「今から行くトコはすっげぇいいとこだぜ。いっぱい優しい人もいるし」
「ぅん?」
「腹もへらねーし、全然いいとこ。だから、心配すんな?」
「うん!」
「じゃあ、バイバイだ」
「え、え?待って!お兄ちゃんも行くでしょ?」
「は?オレは違う。いかねぇよ」
「やだぁ!菜子一人やだもん!お兄ちゃんもいっしょがいいもん…っ」

さっきまで笑っていたのが嘘のように、女の子−−菜子は大きな瞳に涙を浮かべた。
しゃくりあげながら、やだもん、お兄ちゃんもいっしょにいてよう、と小さな声で一生懸命言う菜子を、一角は複雑な気持ちで見ていた。
(いや、オレだってこんなカワイー子を一人で行かせるのはイヤだけどよ。どうしろってんだ?……オレが連れてく?)
(そっか。そーすればいっか)

「嬢ちゃん?泣くなよ。オレもいっしょに行ってやるって」
「……っく、…ほん、と…?」
「マジ。ホラ、行こうぜ?」

一角が大きな手を差し出すと、菜子は涙を流しながらにこりと笑い、その小さな手を一角の手にかぶせた。
一角はその手を潰してしまわないように軽く、でもしっかりと握った。

「じゃー行くぜ?」
「うん!」


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