恥肉を貫かれた時も相当なものだったが、それを更に律動させられた痛みたるや、その比では無かった。
肉棒がゆっくりと上下する度に柔肉が押され、引っ張られ、潰される。切れ味の悪い鋸で、胴体を無理矢理
輪切りにされているような、経験したことのない激痛。
(あ……あ……あ……あああっ!)
その上、私は潤平の気を散らさないように、その痛みを表情に出すわけにはいかず、必死になって堪えてい
た。勿論、潤平だって私が痛みにのたうっていることくらい察しが付いているだろう。しかし、だからといってこ
の処女地を侵す行為をやめるわけにはいかない。
潤平が、始める前に言っていた。これは私達二人の絆をより深め強固なものにしていく過程の、くぐり抜けて
いかなければならない大切な試練なのだから。
「凪。難しいかと思うけど、もうちょっと全身の力をぬいてリラックスして。そうすれば、少しは痛くなくなるから」
「あ……ううん……」
言うは易し、である。精神的にも肉体的にも、とてもそんな余裕はなかった。どうしても身じろぎもしないまま身
体を硬直させ、日に焼けた小麦色の裸身を反り返らせてしまう。
(痛い……痛いよ……いつまでこんなことが続くの? 大人はこんな苦行じみたことを毎晩、悦んで姦っている
んだろうか? 潤平も悦んでいるんだろうか? それとも私が間違っているのか? それを悦べる才能が欠如し
ているんだろうか?)
不感症――そんな言葉が頭をよぎる。
(私は、もしかしたら不感症なのか?)
せっかくの性行為を共有する相手が、自分と同じエクスタシーを堪能していないことほど興をそがれるものは無い。
申し訳なくて堪らない気持ちになった。私には潤平と添い遂げる資格が無いのかもしれない――脳が痛みの嵐を
回避しようと、意識を他へ逸らせるべく様々な思考が泡沫のように湧いては消えていく。
潤平が腰を突き動かす度に、ギュッ、ギュッと湿った音が室内に響く。二人の荒い息遣いがそれに重なる。
どれほど時が過ぎたか――私は自分の肉体の深い部分から胎動する、小さな変化を感じ取っていた。ただただ拷
問でしかなかった恥部の痛み。やがてそこに、ほんのりと熱が生じ始めていた。それは徐々に大きく熱く拡散し――
それはまるで小さく固い蕾が、膨らみ色づき大輪の花を咲かせたかのようで、劇的な現象だった。
(お、おっ、おっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!)
その熱が呼び水となったのか、破瓜による痛みが180度引っ繰り返り、えも言われぬ快感へと変わっていった。それ
はこれまでの、触られたり、弄られたり、嬲られたり、舐められたり、苛められたりといった誘淫行為で得られるもの
とは全く次元の違う、圧倒的な、凄まじいまでの衝撃。
ふわふわの雲の絨毯の上で寝そべっているような至福。これは桃源の世界か。皮膚の内側で肉が綻び、血が騒ぎ、
胸が震え、下腹が痺れる。
(ああっ! ああっ! これなら分かる。これなら……なんて、なんて、なんて……気持ちいい!)
嬉しかった。潤平と一つになって与えられる快楽を理解できたことが。潤平とエクスタシーを共有できるということが。
「潤平……分かる。分かるよ……私に中に潤平がいっぱい……ああ、凄い……気持ちいい!」
「俺も……凪の中って、最初はキツキツで狭くて食い千切られるかとおもったけど、今は……全体が
温かくて柔らかいものに押し包まれているようで……最高だ――ところで、凪。具体的に何処が気持
ち良いんだ?」
「えっ? それは……その……腰の辺りが……」
「ハハハッ、それは正しい表現じゃないなぁ。ここは正しく『オ〇〇コ、気持ち良い!』って言わないと」
「なっ! な、なん……なんで、そんなこと!」
「やっぱり晴彦が教えてくれたんです。『何が最高って、女の子の口からエロ用語が吐き出されたとき
ほど燃えることはないな!』って、俺もぜひ、それを確認しておきたくって」
まさか、この段階でこの瞬間に、言葉責めを強要されるとは思いもしなかった。
「ば、馬鹿! そんな恥ずかしいこと言えるもんか!」
「あれ、駄目なんですか? 俺がこんなに頼んでも? それじゃ、もう……止めちゃおうっかなぁ」
そう言うと、性器の結合の律動をピタリと停止させてしまった。燃え上がっていた情欲の熱が一気に引
いていく。
「あっ、嫌! そんな……もう、それじゃ……一回、一回だけだからな」
「分かってるよ」
「お……お……おま……おま……ああん、やっぱり駄目だ! 恥ずかしい!」
「頑張って、凪。もう少しじゃないか――よし、それじゃあ最後まで大きな声で、きちんと言えたらご褒美
あげよう」
「お……お……お……お〇〇コ、気持ち良い! こ、これで、どうだ!?」
恥ずかしくて頭に血が昇る。頬の筋肉がヒクヒクと痙攣する。背中をモゾモゾと何かが這い回りこそばゆ
い。愛する男の前で恥ずかしい台詞を強制的に言わされる屈辱。それでも最終的には男の理不尽な命
令に従ってしまう恥辱。だけど私は気付いていた。身を焦がさんばかりの辱めを受けてなお、心の中に不
思議と不快感はない。寧ろ、清清しいほどの達成感がある。恥を重ねることの快感。『ご褒美』に対する期
待感。
「OK。バッチリ聞こえましたよ。それじゃ、良い子には約束通り、ご褒美をあげないとね――それっ!」
潤平が再び律動を開始した。先程までよりもずっと速く! ずっと強く! ずっと深く!
「あっ! あっ! あっ!」
驚いた。全然違う。まるで違う。これまでのは、一体何だったのか? 決まっている。ほんのお遊びに過ぎな
かったのだ。
これこそ本物だ。
一つ突かれるたびに、脳みそが揺さぶられる。内臓が掻き回される。このままでは身体がどうにかな
ってしまいそうだ。いつまで正気を保っていられるか。それでも、『もう止めてくれ!』なんて言えやしな
い。だって、あんまりにも――。
「すご……じゅんぺ……あああっ、死んじゃう。私、気持ちよすぎて、死んじゃうよぉ!」
「いいですねえ。なら、いっぺん、死んでみますか?」
潤平が更にストロークを激しくしていく!
「はぁっ! ひいっ! がっ! ああああっ! ひゃぁっ! くぅ!」
いつの間にか私の両脚は潤平の肩からずり落ちて、身体の左右に大きく開いた状態になっていた。半
狂乱となった私に追い討ちをかけるようにガンガン突きまくっていた潤平が、不意に私の背中に手を廻し
、そのままグイッと身体を引き起こした。
「はあんっ!」
咄嗟に状況が飲み込めず、されるがままに私は潤平に抱きつくような格好となった。二人の身体が密着
し距離がゼロになった分、性器同士の結合も、より完璧なものとなり肉茎が子宮の奥を突くというよりも、
突き破らんばかりに抉っているような状態となった。
「は……はああああっ!」
潤平の肩に、力なく頭をもたせ掛けて無意識のうちに両手両脚を絡めて潤平にしがみ付いた。
潤平が言った。
「凪のよがる表情が、あんまり可愛いから、すぐに終わらせちゃうのが勿体なくなっちゃったよ。この際、色
々な体位を経験しておいた方がお互いのためにも良いと思うんだ。凪も、そう思うだろう? 因みに最初のが
『屈曲位』でいまの形が『対面座位』って言うんだ。しっかり憶えておいてくれよ♪」
潤平の手がしっかりと私の尻の肉を掴んで固定すると、ほどなく男のモノが力強く押し入ってきた。
「んはぁ!」
充分な抵抗感を伴って、長大な肉茎が一息に子宮の奥まで侵入してきた――熱かった。ひどく熱か
った。股間一杯に、ヒクヒクと蠢く湿った熱源を隙間なく埋め込まれたような。蜜壷にしっかり収まった
ことを確認するとやおら、リズミカルに腰を振り始める。順平の下腹部と私の尻がぶつかる度にパン、
パンと乾いた音が響いた。
固い床の表面にキリキリと爪を立てる。頬を押し付ける冷たい床の感触が火照った身体にひどく心地
よかった。
「あ……は……はあ……」
「どうだ、凪。同じ結合でも体位が変わっただけで随分と感じ方が違ってみえるだろう?」
潤平の問いにさえ、もう満足に受け答え出来ないでいた。
「ああ……お〇〇こが……熱い」
「――アハハッ、申し訳ないけど今はこれ以上、ご褒美の持ち合わせがないな。悪しからずだ。でも卑猥
な言葉を連呼してる凪の表情は、とっても素敵でそそられるよ。出来れば俺が突いている間、ずっと言い
続けててほしいな?」
処女を失ってから、どれほどの時が過ぎたのか。本来ならあれでさえかなり衝撃的な出来事だった筈。し
かしあの程度のことなど、ほんの入り口。まるで些細なきっかけでしかなかったかのように、いま私達二人
は矢継ぎ早に様々に形を変えて性の経験値を積み上げている真っ最中だった。
屈曲位から対面座位、そして次は正常位から腰高位、対面側位、騎乗位……。
潤平の言った通り、体位を変える毎に肉襞を擦り付けられる感触、子宮を突かれるポイントも微妙に変わっ
ていき、それが新たな悦楽を生み新たなリビドーに魅了され、一昔前のスピルバーグの映画のように息つく
間もないほどだった。
すでに私以上に私の肉体を熟知している潤平が、私がオルガズムに達する寸前のタイミングを見計らって強
引に体位を変えていく。あんまりだと思い、いくら抗議のつもりで鼻を鳴らしてみても聞きやしない。
「さて、次は脚をこう開いて……上半身を起こして……はい、これが『騎乗位』。正しくは『女騎乗位』かな。これ
は今までと違って、凪が自主的に腰を振らなきゃならないから、ちょっと難しいぞ――でも大丈夫だよね? さ
あ、姦ってみようか。それもこれも全部、凪のためなんだから――分かるだろ?」
「う、うん……」
一体、何が正しくて間違っているのか、もはや私には判断する暇も気力も有りはしない。延々と肉欲の双六が繰
り返され、その度に振り出しに戻され、快楽に溺れ続ける無限地獄。
そして今、私はベッドから引き摺り下ろされ床に這わされていた。まるで畜生のように。が、さして羞恥も屈辱も感
じない。寧ろ、今のこの私にはお似合いの格好だと思う――何しろ私という女は、楓と加奈子の気持ちを裏切って
まで自身の幸福を選んでしまった卑怯者なのだ。獣のように這い、獣のように犯されてこそ、相応しいのだ。
潤平が腰を振る度に打たれる尻が痛い。私にはそれが楓と加奈子にぶたれているように思えた。裏切り者の私を、
憎悪と侮蔑の眼差しを向けながら。
後悔も迷いもないが、罪悪感だけはある。でも、どうすることも出来ない。だから私は尻を打つパン、パンという音が
響く度に、
「お〇〇こ……お〇〇こ……」
と呟きながら、同時に心の中で、
〈ごめんなさい……ごめんなさい……〉
と、楓と加奈子に詫び続けるしかなかった。
「一度、思いっ切り出しておいたおかげで随分と持久力がついたみたいだ。これならまだまだ持ち堪
えられそうだな」
慙愧の念に苦しむ私の心情など知らぬ気に、潤平が怖ろしいことを言う。私は潤平のようなタフガイ
ではない。すでに精神的にも肉体的にも、かなり追い詰められてきていた。
身体が熱い。どうしようもなく熱い。このまま焼けた鉄板の上に放り込まれたバターのように、グズグ
ズと溶けてしまいそうだ。
「潤平……私もう……お願い……」
「あれ、もう? 俺としては、まだしばらくは楽しんでいたいんだけど……仕方ないな。これ以上は、凪
を苛めてるみたいで可哀そうだ。それじゃ――いくよ」
「中に……出して。全部……今度は、ちゃんと……受け止めるから……」
「了解。仰せのままに」
律動が更に激しさを増した。まるで子宮内に某かの刻印を残そうとするかのように強く、強く、執拗なま
でに突いてくる。私も最後の美味をしっかりと味わいつくすべく、尻を揺らしながら潤平の責めに応えて
行った。
「……んんっ!」
(あああっ!)
潤平が低く呻いた次の瞬間、ビクン、ビクンと肉茎が脈打ち、大きく膨張した。そして間髪いれず、一度放
出した後とは思えない勢いと量の濃い精液が膣内に、子宮内に、たっぷりと注ぎ込まれ満たされていった。
ほどなくして陰茎が静かに引き抜かれていった。途端に私の身体は支えを失い、糸の切れたマリオネット
人形のように頽れ、荒い息を吐きながらグッタリと冷たく固い床に横たわった。
数分後、私達は再びベッドの上に戻っていた。
流石に疲れたのか、ゆったりと身体を大の字に広げて仰臥している潤平。私はといえば、潤平の下腹部に
陣取り、血と精液で汚れた肉茎を舌で綺麗に清める作業に没頭していた。潤平に命令されてやっているわ
けじゃない。自主的な奉仕活動である。
実際、私だって疲労困憊の極みにいた。頭の中は靄が立ちこめて朦朧とした状態だったし、身体も鉛のよう
に重い。指一本動かすのさえ、億劫だ。出来ることなら、このまま潤平の隣に寄り添い余韻に浸りながら眠っ
てしまいたい。
でも常識ある人間として、やり残したことから目を逸らして次のステップに進むわけにはいかない。何といって
もこの陰茎は、私に性の悦びを教えてくれた潤平の大切な大切な肉体の一部なのだ。その恩に報いるために
も、この魅惑的で愛しい肉の器官を汚れたままにしておいて良い筈がない。
『お願い。ちょっと休ませて!』と、悲鳴を上げる身体に鞭打って、私は細やかな舌の奉仕を強行した。完璧主
義の、我ながら損な性分かな、とも思う。
「凪。こっちにおいで」
ようやく奉仕にメドがついた頃、潤平が私を呼んだ。
「んんっ……」
呼ばれたからには、行かねばならない。急いで潤平の方へ躙り寄って行こうとするが、いかんせん身体が重い。
冬眠から覚めたばかりの蛙のように動作が緩慢なものになってしまう。順平が焦れったくなったのか、私の両脇
の下に手を廻すと、そのままグイッと引き寄せられてしまった。
「ああんっ」
一気に距離が縮まり、お互いの鼻の頭がくっ付きそうなくらいまでになる。つい先程の屈曲位の状況を思い出し、
頬が赤く染まった。今更ながら胸がドキドキする。
(やっぱり、そうだ)
自分なりに納得した。
(69の時みたいにお互いの顔が反対向きの状態よりも、今みたいにただ見つめ合って抱かれている時の方が、何
十倍も何百倍も嬉しい。こっちの方が、絶対良い!)
「凪。急にニヤニヤし出して、何を考えてるんだ?」
不意に詰問され、
「べ、別に何も……」
慌てて首を振るが、あの眼差しで射竦められると内心を全て見透かされているようで、今度は別の意
味でドキドキする。
「本当かな? 本当は、悶々といやらしい事でも考えてたんじゃないのか?」
「ち、違う! 違うったら!」
ああ、もう私の馬鹿! 全然、違うのに――これじゃ、認めたと勘繰られても仕方ないじゃないか!
「アハハッ。まあ、いいや。この件については、後でゆっくりと詮索するとして――どうだ、凪。こうして、
滞りなく姦り終えてみて。処女じゃなくなった気分って、どんなもんだ?」
突然に直球のクエスチョンを投げられ、私は思わずたじろいでモジモジした。股間から膝辺りまでが、
まだ生温かくヌルヌルとした感触が残っている。
「そ、そうだな……正直、まだよく分かんないや。自分が変わってしまったようでもあり、何にも変わっ
てないような気もするし……」
「もしかして――ちょっと後悔してる? 俺とこんな関係に……」
「そんなことない! そんなことないったら、潤平!」
私は大きく首を横に振り、叫んだ。
「そっか、なら良かった。それじゃ、最後の質問。今夜は思いつく限りの色々な体位を試してみたわけだ
けれども……凪は、どれが一番良かった?」
「えっ? そんな、こと……」
「一通り名称は教えた筈だから、憶えてるだろう? どの体位が凪的に一番気持ち良かったんだ?」
「え……あ……なんで、そんなこと言わなきゃなんないんだ?」
「今後の参考にしようと思って――それとも、俺の言うことが聞けないのかい?」
「潤平……その言い方。なんか、怖い」
「そうさ。俺って、本当は凄く怖い男なんだから。言うことが聞けないようなら――もう逢わない。もう二度
と、指一本触れてやんないぞ」
氷の手で心臓を鷲掴みにされる衝撃! 冗談だと思いつつも、心底震え上がった。肌が粟立ち、血の気
が引いていく。
「やっ……そんな! あの……お尻から! お尻からしてもらうのが一番良かった!」
気が動転し、とにかく頭に思い浮かんだ体位――最後にした印象に残っている体位を叫んだ。