(ん……んぐぅ……ぐへぇ……)  
半ば予想していたことではあったが、まさかここまで苦難を伴うとは思ってもいなかった。  
(やっぱり、やらなきゃ良かった……)  
すぐに後悔の念が押し寄せた。  
そもそもサイズが、私の口では規格外でお話にならない。いっぱいに開いて先端部分がやっとおさま  
るような格好だ。なのに、その巨大なモノはまるで自分の意思があるかのように、私の口腔の粘膜を蹂  
躙し、グイグイと喉奥への侵入を試みようとしていた。先端で喉を突かれ、噎せ返りそうになる。(どうで  
もいいが、何故、ノドチ〇コなどという卑猥な名称が付いているのだろう?)  
塩辛いというか、ほろ苦いというか、なんとも表現し難い味覚の嵐が舌の感覚を麻痺させていく。それに  
伴い唾液が溢れ、顎の下を伝い滴り落ちていった。  
試練は、まだあった。私が高坂の下腹部に鼻面を押し付けるような体勢をとっているため、彼の汗と体液  
その他諸々の臭気の塊が、どっと鼻孔に襲撃を仕掛けてきた。その威力は凄まじく、おかげで鼻水が止  
まらなくなったが、無論、そんなことに構ってなどいられない。味覚と嗅覚の同時テロによって、胃が前方  
ニ回転半捻りを起こし、胃液がせり上がって吐き気をもよおしたが、それもなんとか踏み止まった。ここま  
で来た以上、高坂の前で嘔吐するような醜態は見せたくないという意地が、私にそうさせていた。  
しかしそれも、いつまでも持ち堪えられるものではない。  
(く、苦しい……呼吸が……)  
こめかみがズキズキと痛む。意識が段々と遠のいていく。  
高坂を気持ち良くさせるどころか自分の気持ち悪さを抑え込むのが、やっとの状態だ。これでは、なんの  
ために頑張っているんだか。惨めな想いで、涙が込み上げて来る。涙と鼻水と唾液で、いまの私の顔はひ  
どい有様になっていることだろう。  
(嫌だな)  
私は思った。  
 
(ああ、本当に嫌だ。高坂の前で、こんな顔を晒すの。高坂、ごめん――私、もう限界だ……)  
 
顎の感覚も無くなってきた。もう全てを諦めかけた、その時――  
「先輩、苦しいでしょうけど頑張ってください。落ち着いて、鼻でゆっくりと呼吸してみて」  
高坂の声がした。そしてベッド脇に備え付けのティッシュでそっと私の顔を拭いてくれる。恋する者の哀しさ  
か、そのたった一言の激励で私の中の気力が徐々に漲ってくるのを感じる。つくづく己の単純さに、ため息  
がこぼれた。  
臭気を堪え、鼻呼吸を繰り返すうちに脳に酸素が充分に行き渡り、気分がスゥッと楽になっていった。まった  
く完全とはいかないが、それでも頭痛も吐き気も次第に薄れ、精神的に余裕が生まれてきた。  
(私は独りじゃない。いつだって高坂が傍にいてくれる)  
それが私を奮い立たせた。  
高坂のくれたチャンス。これを活かさないでは、一ノ瀬 凪の名がすたる。  
(ありがとう、高坂――私、頑張るから!)  
高坂の手が私の後頭部に充てがわれ、ゆっくりと前後に揺らし始めた。私の方も、それに合せるように唇を  
窄め舌を使って、拙いながらも愛撫を繰り返していく。  
 
「んん……ふぅ……」  
高坂の口から、熱のこもった艶っぽい息がこぼれるのが聞こえた。僅かずつではあるが、効果が現れ  
て来ているらしい。  
(だいぶ手間取っちゃったけど、すぐに気持ちよくさせてやるからな)  
すでに高坂の介助の手は外されていたけれど、私はそのまま頭を自分なりのリズムを掴んでストロー  
クさせ続けていった。  
(ただ闇雲に口に咥え込んでいるだけじゃ駄目だ)  
いったん高坂のモノを口から離すと、すぐに根元を手で掴み軽く擦り上げながら裏筋に舌を這わせてい  
った。  
今度はヒュッ、という笛を吹くような音が高坂の口から漏れる。この方法も間違っていないようだ。これに  
ますます気を良くした私は、とにかく思いつくまま色々なやり方を試してみることにした。  
裏筋を充分に刺激すると、間を置かずに舌先で雁首の周辺をなぞるように舐め上げて、次いで雁そのも  
のを唇で柔らかく挟み込んで全体を、特に鈴口と呼ばれる箇所を集中的に舌先で突付き、擽っていった。  
(おっと、いけない。危うく手がお留守になるところだった)  
透かさず手を恥毛で覆われた根元の更に下部に差し込むと、そこにある袋――陰嚢を包み込むように手  
のひらに収め、壊れ物を扱うように丁寧に丁寧に揉みしだいていく。  
「――せんぱ……すご……こんな……どこで……?」  
さすがの高坂も言葉を失い、呆然と私にされるがまま快楽に身を委ねているようだった。  
(決まってるじゃないか)  
奉仕を続けながら、私は高坂の疑問に答える。  
(高坂、お前のためだぞ。高坂のためになることなら、私は何だって出来るんだ)  
事実、あれほど私を苦しめた味覚と臭いも、今ではさほど気にならなくなっていた。  
どんなにキツイ味も臭いも、もともと『高坂の一部』だったもの。そう考えると、不思議と抵抗は無く、スンナ  
リと受け入れられた。  
いかに困難な状況でも一度コツさえ飲み込んでしまえば、私は大概のことはやってのけられた。そういう臨  
機応変さがなくては、何十人もの部員を従えた陸上部の主将など務まるはずも無い。  
高坂の手が、私の髪をクシャクシャとかき上げていく。指先が私の喉元を撫で擦る。  
(なんだか、猫みたいな扱われ方されてる……)  
それでも、それが高坂なりの私の奉仕に対する賛辞の表れのようであり、本当に喉をゴロゴロ鳴らしかねな  
いほど、胸の高揚はいやが上にも高まっていった。  
思えば。こうしてベッドを共にして以来、主導権は高坂に奪われっぱなしだった。女の悦びを教えられる代償  
として、弄ばれ、苛められ、辱められ、泣かされ……常に天国と地獄の境目を彷徨い、高坂が天使にも悪魔  
にも見える瞬間があった。  
だが、いまは違う。ようやく私が攻めに転じる時が来た。この千載一遇の好機、逃してなるものか。  
私は、この状況に有頂天になっていた。そのため、すっかり失念していた。この先、何が起きるかを。私はそ  
れを、身をもって経験したというのに……。  
「ああっ!」  
と高坂が呻いた。  
すると手の中の陰嚢が不意に大きく膨らみ、グイッ持ち上がり、同時に陰茎もビクビクッと痙攣し、やはり膨ら  
んだ――と思った瞬間、先端部分から生暖かい粘っこい液体が勢いよく射出されてきた。  
「――!」  
一瞬、何が起きたか訳が分からず、それよりもその粘液が気道を一時的に塞いでしまったため、今度こそ呼吸  
困難となり、私は奉仕を中断し高坂のモノから口を離して、何度もむせて激しく咳き込んだ。  
口から、鼻から、ヨーグルトを溶かしたような暗白色の粘液が零れ滴った。  
それだけでは済まなかった。  
私の目の前で勃起したままの高坂の陰茎が再び大きく痙攣を繰り返し、避ける間もなく私の顔めがけて二度目  
の射出が行われ、私の視界は再度、白い闇に覆われることとなった。  
 
 
「あの……先輩、本当にすいません。大丈夫ですか?」  
高坂が、私の顔をウエットティッシュで拭きながら、気遣わしげな表情を見せる。  
「うん――全然、平気。だから、気にしないでくれ」  
高坂の顔を、まともに見られない。彼と目を合せるのがつらい。かと言って、高坂に対して憤ってる  
わけでも何でもない。理由は、そんなんじゃない。  
今回のことは、事故みたいなものだし、私だって高坂にほとんど同じようなことをやらかしたばかり  
で、お相子だ。そんなことより、私が引っ掛かっているのが、高坂の噴出させた精液を私が吐き出し  
てしまったこと。  
私の指戯と口腔奉仕によって導き、せっかく高坂が出してくれた精液を、高坂の目の前で吐き出し  
てしまった。勿論、あれほど大量の粘性の液体を全部飲み干すなんて無理だったかもしれない。  
それでも、それを実行してみることで、私が抱いている高坂への想いを私なりのやり方で示すこと  
は出来た筈だ。  
(高坂が与えてくれるものだったら、何だって嬉しい。それなのに……)  
結果的に私は拒絶してしまった。彼の目の前で――最悪だ。  
(高坂、すまない。私が不甲斐ないばっかりに……)  
しかし高坂は、そんな私の態度を、自分が顔にぶっ掛けてしまったことでショックを受けているのだ  
と勘違いしたらしく、  
「本当に、すいません。大体、これで良いと思うんだけど――目、痛くないですか?」  
「うん、大丈夫」  
(ああ、高坂――頼むから謝ったりなんかしないでくれ。謝りたいのは、私の方なんだから……)  
だけど運命は何処までも残酷で、高坂の口から私へ更に追い討ちをかけるような言葉が告げられた。  
「俺って、やっぱり駄目だな。あんまり気持ち良かったもんだから、つい調子に乗っちゃって……先  
輩も慣れないことの連続で疲れたでしょ? 今夜は一旦この辺で打ち切って、残りは後のお楽しみ  
ってことに――」  
「駄目だ!」  
最も怖れていた言葉に、氷の刃で刺し貫かれたような痛みを覚えて、私は心の底から叫んだ。  
「でも――」  
「でもも、ストもない! そんなの……そんなこと……絶対に、駄目なんだ……」  
今夜のようなことは、もう金輪際有り得ない――わけもなく、そんな気がした。こんな素敵な、目眩く  
夢のような(夢なんだけど)一時が、そう何度も訪れるはずがない。  
それともう一つ、私にはライバルが多い。  
私にとってのディーバでもある楓。  
けしからんダイナマイト・ボディと泣きボクロという最強アイテムを併せ持つ加奈子。  
どちらも強敵だ。二人を前にして、私は勝つ自信などない。もし、今夜このまま高坂と別れてしまえば、  
再び私のもとに戻ってきてくれる保証など、何処にも無いのだ。  
もし、そんなことになったら私は……とても耐えられそうにない。  
「先輩、本当に良いんですか? 明日も朝練とかあるんじゃ……」  
「他のことなんか、どうだっていいんだ。今の私にとって、何より大切なのは高坂とこうして身を重ねて  
いることだけなんだ。だから、高坂――最後の最後まで、私を見棄てないでくれ」  
 
情けない。こんなの本当はちっとも私らしくない。こういう女を巷では『重い』なんて言うんだろうな。  
だけど、これが私の偽らざる気持ち。呆れられ愛想を付かされるかもしれない。それでも、どうして  
も言わずにいられなかった。  
そんな私に高坂は、  
「見棄てるなんて、そんなことある筈ないでしょ。俺の方だって、まだまだ犯り足りないって気分です  
し、先輩にそう言ってもらえるのは願ったりって心境なんですが――先輩、一応確認しておきますが、  
『最後まで』ってことが、どういうことか分かってますか?」  
私は虚を衝かれて息を呑む。  
私だって、そこまで世間知らずのおぼこじゃない。  
それは、私が高坂のためにしてあげられる最後の切り札。処女を捧げるということ。私の肉体に高坂  
の刻印をきざむということ。女として最高の誇り。  
正直、未知の領域に足を踏み入れる怖れもある。不安もある。しかし、それ以上に期待と悦びもある。  
(高坂のため……私のため……)  
私は、もう逃げない。何故なら私は一ノ瀬 凪なのだから。  
「無論だ。最初から覚悟のうえで、高坂に身を委ねたのだから」  
高坂の眼差しを正面から受け止めて、私は力強い口調で言った。  
「分かりました。先輩にそう言ってもらえて俺も嬉しいですよ。それじゃあ、ベッドに横になって――楽  
な姿勢で良いですよ。今夜をお互いの満願成就の夜にしましょうか」  
 
 
 
 
 

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