日も落ち、辺りはすっかり真っ暗になっていた。  
町一番の大きさを誇る童守病院も、入院患者と少数の医師を残して  
すっかりと静まり返っている。  
 
病院の中でも少し離れにあたる場所、玉藻の研究室だ。  
真夜中だというのにも関わらず、その部屋は少し騒がしい。  
「痛いっ!もうちょっと優しくしてよ」  
擦り傷に消毒液はよく染みる。  
「タダで診てやっているんだ。我慢しろ」  
表情一つ変えず、彼女の細い腕に消毒液を塗っていく。  
「ダメダメ!もう限界!」  
葉月いずなは我慢しきれずに腕を思い切り振った。  
「・・もう終わりだ」  
小さくため息をつきながら、玉藻は消毒液を机に置くとガーゼを手にした。  
手馴れた手つきでいずなの腕の傷にガーゼをあて、包帯を巻き始めた。  
 
「全く・・少しは自分の力を自覚するんだな」  
 
時は流れ、いずなは高校生になっていた。  
派手好き・流行好きの今時の女の子ではあるが、あまりギャル言葉は使わなくなり  
中学生の時ほどの生意気さは抜けていた。  
その理由のひとつは、霊能力者としての自覚が生まれたからだろう。  
金もうけではなく、人の為に力を使う様になっていた。  
しかし、未だにその能力は半人前だ。  
 
「今日戦った悪霊は、ざっと計算してお前の霊力の10倍はあったぞ」  
「もー分かったってば」  
「私が助けに入らなければ・・」  
「分かったよ!うるさいなー!」  
 
2人の会話のほとんどは口喧嘩だ。  
しかし、いずなが手の負えないような悪霊と戦うと、必ず助けてくれる。  
鬱陶しいくらいに小言は言われるが、傷の手当てもしてくれる。  
2人きりの部屋。  
玉藻には口が裂けても言えなかったが、いずなはこの時間が少し好きだった。  
 
「出来たぞ」  
「・・ありがとー」  
「お前がちゃんと金を稼げるようになったら、今までの治療費は  
 全て払ってもらうからな」  
「え!それはちょっと・・」  
「・・冗談だ」  
 
玉藻は口元を少し吊り上げ、フッと得意の笑みを見せた。  
(やばい・・)  
いずなは少し鼓動が早くなるのを感じた。  
近頃、玉藻と居ると度々鼓動は早くなる。  
その理由は分かっているけど、認めたくない。  
たまらなくなり、いずなは必死になって話題を探した。  
 
「あ!そういえば、美樹ちゃんに聞いたんだけどね  
 あんたさー、この間童守小に出た悪霊倒したんだってね」  
「あぁ、そんな事もあったな」  
「その時の玉藻先生、ぬーべーと被って見えた!って美樹ちゃんはしゃいでたよ」  
「くだらんな」  
「どうして助けに行ったの?人間の愛を理解したから?」  
玉藻の眉が少し反応した。  
眉間にしわがより、目はどこか遠くを見ていた。  
「・・・・・理解できていれば楽なもんだ」  
「・・・え?」  
「鵺野先生に頼まれていた。俺が居ない間は、童守小そしてこの町を頼む、と」  
「でも、頼まれたから守るんでしょ?それって愛みたいなもんじゃん?」  
「何に対する愛だ?」  
「・・・・それは、よく分からないけど・・うーん・・」  
いずなは少し伏目がちになり、考え込んだ。  
玉藻は使った消毒液を薬品棚に戻しながらいずなに話しかける。  
「お前は人間のくせに、愛を理解していないんだな」  
「そんなことないよ!私、今までに色んな人を愛してきたもん」  
「愛を理解しているなら、なぜ私の質問に答えられない?」  
「・・・愛って説明できるもんじゃないと思うし・・」  
 
思いつめたようないずなの口調に、ハッとして玉藻は振り返った。  
いずな目に涙を溜めながら、グッと拳を握り締めていた。  
 
「なぜ・・泣く?」  
「だって・・なんか・・・苦しくて」  
「苦しい?」  
「だってもう・・」  
いずなは両手で涙を拭ったが、止まる事を知らずに涙は流れ落ちた。  
自分でも何故こんなに涙が流れるのか、理解できない。  
張り詰めた緊張の糸が切れてしまったかのように、いずなは泣き続ける。  
「あたしね・・鵺野先生がゆきめさんと結婚したとき、なんで妖怪と?って思ったの」  
「・・・それは同感だ」  
「いい妖怪がいる事はもちろん分かっているけど、寿命の事もあるし  
一生一緒にいられるわけじゃないのにって・・でも」  
「でも?」  
いずなは顔をあげて玉藻を真っ直ぐ見据えた。  
涙に濡れた顔は、いつも以上に色っぽく・美しく見えた。  
「それでも、そんな事どうでもいいくらいに、好きになる気持ちが分かったの」  
2人の視線が短い距離でぶつかった。  
「あたしは玉藻のことが、好きなんだよ」  
 
少し掠れた声で、いずなははっきりとそう告げた。  
何を言われたか理解するのに、玉藻は少しの時間を要した。  
 
「私のことが・・好きだと?」  
「好きだよ・・」  
「冗談はよしてくれ」  
「冗談なんかじゃない!」  
いずなは大きい声で怒鳴った。  
自分の気持ちはもう後戻りできない所まで来てしまっている。  
「あんたが・・玉藻がいない生活なんて考えられない!  
もっと傍にいたいし、もっと玉藻という存在を理解したい・・!」  
「駄目だ」  
小さく玉藻はつぶやいた。  
 
口をついて出た言葉"駄目だ"の意味を、玉藻は必死に考えた。  
何を思い、この言葉を口にしたのか。何を、駄目だと思ったのか。  
まだ幼い少女は目の前で泣き崩れている。  
玉藻は、今までに経験した事の無いような不安感に襲われた。  
鵺野先生とあの雪女との結婚は、祝福こそしたものの理解しがたいものだった。  
人間が妖怪を愛すること、妖怪が人間を愛することに疑問を感じていたからだ。  
さっきいずなが言ったように、寿命のこともある・・  
それに、妖怪が人間に恋心を抱くという事が、玉藻にはどうしても理解できなかった。  
玉藻はいずなを見つめた。  
彼女は人間で、自分は列記とした妖怪だ。  
"愛"も"恋"も生まれる筈が無い。生まれてはいけない筈だ。  
 
胸の奥底が沸騰したかの様に熱くなるのを、玉藻はしっかりと感じだ。  
―――そうか。  
―――愛しては駄目だ・・そういう意味だったんだな。  
目の前にいる少女を愛しているという事を、玉藻はハッキリと自覚した。  
 
「いずな・・顔をあげてくれないか」  
 
玉藻はいずなの名前を呼んだのは初めてだった。  
ふいに口をついて出た言葉に、玉藻は内心少し驚いていた。  
いずなもまたそれに気づいたらしく、少し肩を震わせた。  
「何よっ・・・・」  
いずなは必死に涙を拭いながら顔をあげた。  
あまりにも真っ直ぐ、玉藻が自分を見つめていることに気づき少し恥ずかしくなった。  
玉藻はまだ少し震えているいずなの肩に手を置き、ゆっくりと話し始めた。  
 
「いずな、よく聞いてくれ」  
「・・・・離して」  
肩に置かれた手を解こうと、いずなは玉藻の手を掴んだ。  
平行して、玉藻の手に力が入る。強い力でいずなの肩を掴む。  
「私は妖狐だ。そして、この姿は仮のものだ」  
「そんなん知ってるよ」  
「私の容姿を好きだと言う女性はたくさんいる」  
「・・何が言いたいのよ」  
玉藻は妖狐本来の姿に戻った。  
人間に化けている時のクールな容姿とは程遠い、妖怪の姿だ。  
「これが私の本当の姿。・・・怖いか?」  
玉藻は目を見開いて自分を見つめるいずなに、恐る恐る聞いた。  
自分で聞いたことなのに、ここで頷かれるのが玉藻は怖くてしょうがなかった。  
 
さっきまで肩を掴んでいた手は、鋭い爪を従えて大きくなった。  
人間に化けている時とは比べ物にならないくらいの妖気を感じる。  
元から人間とさほど見分けがつかなかった雪女のゆきめとは違い  
玉藻は見るからに妖怪と分かる姿になった。  
それでも・・・いずなの胸にこみ上げる熱い思いは、少しも揺るがなかった。  
 
「馬鹿にしないでよ・・あたしはイタコだよ。狐は見慣れてる」  
「私はそういう事を言っいるのでは――――」  
「からかうのは止めてよ!」  
玉藻の言葉を遮るようにいずなは叫んだ。  
「あたしのことなんて、どうでもいいんでしょ?もういいよっ」  
いずなは玉藻の手を振り解き、扉の方へ走った。  
 
「違うんだ」  
 
玉藻には似合わないか弱い声で、言葉を吐き出した。  
いずなの足が止まる。  
 
「怖いんだ。愛されるという事が」  
「・・・」  
「愛することも・・・怖い。どうしても、理解できない」  
いずなはゆっくり振り返った。玉藻は妖狐の姿のまま、少し俯き加減で言葉を発する。  
「ただ、いずな・・お前に触れたい」  
「え・・?」  
「抱きしめたいと思う・・だが傷つけてしまいそうで、怖い」  
「・・・それって、愛なんじゃないの?」  
「そう思っていいか?」  
いずなは玉藻の傍まで歩き、額を胸の辺りにくっつけた。  
お互い、心臓の音が聞こえるくらいに距離が近づいた。  
「あんた、他のどんな人間より人間らしいよ」  
「いずな・・」  
「だって温かいもん・・・・心」  
 
いずなの目には、再度涙が溢れてきた。  
しかしさっきとは違う。今は嬉しくて涙が出る。  
顔をあげた。  
目の前に、いつのまにか人間の姿に戻った玉藻の顔が見えた。  
「抱きしめてもいいか?」  
いずなが照れながら小さく頷くと同時に、玉藻は腕の中にいずなを閉じ込めた。  
 
どれくらいの時間、こうしていたかは分からない。  
玉藻は、強く強くいずなを抱きしめる。  
それは初めて感じる温かさだった。長年の悩みが解決された様な気がした。  
いずなの髪をそっと撫でながら、額に軽く口付ける。  
 
「なんか、照れるなー」  
悪戯っぽくいずなは笑った。その笑顔は玉藻の心を和らげる。  
二人は目を合わせ微笑み合うと、今度は唇を重ねた。  
「ん・・」  
小さくいずなが声を漏らした隙に、玉藻はいずなの口内へ舌を侵入させた。  
「んんっ・・・」  
初めて経験する深い口付けに、いずなは少し困惑した。  
それでも、玉藻の動きについていこうと必死に舌を絡ませる。  
絡み合う舌の間から、吐息と声が漏れる。  
今までとは比べ物にならないくらいに、心臓の動きが早まっている。  
玉藻は首筋へと唇を落として行く。それと同時に服の上からそっと胸に触れた。  
ビクッといずなは体を震わせた。  
 
「・・初めてか」  
「そうだよ・・・悪い?」  
「いや、私も初めてだ。この体の持ち主だった者は、経験しているだろうが」  
「400年以上生きてるのに?」  
「400年以上生きて、人間に触れたいと思ったのはいずなが初めてだ」  
顔が一気に真っ赤に染まったのをいずなは感じた。  
「さすが狐・・・キザ・・」  
あまりにストレートな玉藻の言葉。  
皮肉ろうと思っても、いずなにとっては素直に嬉しい言葉だった。  
「嫌か?」  
「ううん、嬉しい」  
少し恥ずかしそうに答えるいずなに、玉藻の欲情は更に駆り立てられる。  
人間を抱きたいと思うなんてな・・新しく自分の中に芽生えた感情に少し戸惑いながらも  
玉藻はいずなをベットへと押し倒した。  
 
嫌がる様子は無かったが、いずなの体は緊張で強張っていた。  
知識こそあるものの、実際の行為に及ぶのは玉藻にとっても初めてのことだ。  
セーラー服のリボンをほどき、上着を脱がした。口付けを繰り返しながら、スカートも脱がす。  
下着姿になったいずなは、更に顔を赤くさせた。  
「あたしばっか恥ずかしいよ・・」  
「あぁ」  
短く答えると、玉藻は邪魔な衣服を脱ぎ捨てた。  
いずなの上に覆いかぶさると、緊張を解くように優しく体をさすった。  
「アハハ、くすぐったい!」  
「色気のない声、出さないでくれ」  
下着をずらしながら、少し強引に胸をもみしだく。  
玉藻の手の動きに合わせて、いずなの胸は形を変えていく。  
綺麗なピンク色をした中心の突起物は、既に硬く尖っている。  
その突起を口に含み、優しく舌で転がす。いずなの声は徐々に艶っぽくなっていった。  
 
「んっ・・あっ・んんっ」  
「いい声出せるじゃないか」  
少し意地悪な玉藻の声、その声ですら、いずなには心地よく感じる。  
手と口で執拗に胸を攻め続ける。  
いずなの体は熱くなり、頬は紅潮し、洩らす声は色っぽい。  
その全てが玉藻の心を温かく満たしていく。  
片方の手を、いずなの秘所へとすべらせていく。粘着質の熱が、指を湿らせた。  
「あっ、いや・・んっ」  
ゆっくりと一本、指を進入させる。  
少し出し入れを繰り返すと、いずなは更に大きな声で喘いだ。  
玉藻は二本目の指をいずなの中へと入れた。二本の指を動かすと、蜜は更に溢れ出す。  
「はぁ・・・はぁ・・」  
どうにか呼吸を整えようといずなは大きめに息を吐き続ける。  
 
「指だけでかなりきついぞ。やめた方がいい」  
「・・大丈夫」  
「無理はしなくていい」  
「来てよ」  
「私は・・こうして心が通じ合っただけで嬉しく思う」  
「あたしは体も繋がりたいよ!」  
いずなは涙目になって訴えた。  
「あたし達は・・ただでさえ色々違うんだから・・  
せめて、ちゃんと愛し合った証がほしいよ・・・・」  
いずなの涙が頬を伝った。  
 
「悪かった・・・」  
親指で涙を拭う。  
今日だけで、何回この子を泣かせてしまったんだろう。  
「私はまだ、人間の心を勉強しなくてはいけないな」  
膝を割って、玉藻の体がいずなの両脚の間に入る。  
「無理だけはしないでくれ」  
そう言うと、玉藻は再度いずなに唇を落とした。  
 
深く深く、舌が絡まりあう。いずなの体からフッと力が抜けていく。  
眩暈を起こしてしまいそうな程の恥ずかしさと快感。  
しかし、それよりも喜びが勝っている。愛する人に抱かれる喜び。  
「・・行くぞ」  
自分の秘所に、硬く温かいものがあてがわれているのを感じる。  
次の瞬間、突き抜けるような痛みがいずなを襲った。  
「あっ――――――」  
声も出ない程の痛み。  
「大丈夫か?」  
「う・・ん・・でもちょっと待って」  
「あぁ」  
玉藻は苦痛に歪んでいるいずなの顔を優しく撫でた。  
その心遣いが、いずなは嬉しくてたまらなかった。  
「もう・・だいぶ平気・・」  
決して傷つけないように、ゆっくりと中へ沈み込んでいく。  
傷つけたくない・・そう思うのは、この少女を愛しているからなのだろうか。  
玉藻は奥まで達すると、いずなの痛みが過ぎるのを待った。  
力なく顔の横に置かれるいずなの手に自分の手を重ね、握り締めた。  
「大丈夫・・慣れた」  
「じゃぁゆっくり動くぞ」  
腰を少し浮かし引き抜き、完全に抜けてしまう手前で折り返す。  
その動作を繰り返すたび、動きに合わせていずなは声を洩らす。  
 
「あっ・・んっ・・た・・まもっ」  
 
重ねた手を強い力で握り返してくる。  
人間は何故、必要以上にこの行為に執着するのか玉藻はずっと疑問だった。  
その疑問がこの瞬間に解決した。  
愛しい人を腕の中に抱く、一つになるこの行為は、この上ない幸せを与えてくれるものなのだ。  
少しずつ玉藻の動きが早くなる。  
互いの体温を肌で感じながら、一緒に絶頂へとのぼりつめていく。  
「はぁ・・あたし・・もうっ」  
限界に近づいたいずなは、懇願するような目で玉藻を見つめた。  
 
「いずな・・愛している」  
 
その一言を発した後、二人は一緒に絶頂へと達した。  
玉藻はいけないと思いつつ、いずなの最奥で爆ぜていた。  
 
 
 
診察用のベットは二人で横になるには窮屈だった。  
しかしいずなは、ずっとくっ付いていられるからいいと笑って見せた。  
息遣いも鼓動も全て聞こえる距離。  
愛を感じ、本当に守りたいものが出来た喜び。  
自分の腕の中で幸せそうに微笑む少女。  
玉藻の心は、温かい愛で満たされていた。  
 
「いつか・・」  
「え?」  
「私はお前のことを失う時がくるのだな」  
「別れは、人間にだって訪れる話だよ」  
「あぁ・・しかし」  
決定的な寿命の違い・・いずなを失ってからも玉藻は生き続けなくてはならない。  
「安心してよ。どんな姿になったって、生まれ変わったら必ず会いに行く」  
いずなは子供っぽい笑顔を作った。  
根拠などないのに、その言葉をすんなりと信じることができた。  
「では・・お前がその魂を持ち続ける限り、私も愛し続けることを誓おう」  
玉藻も心からの笑顔を作った。  
 
「約束だよ」  
いずなが顔の前で小指を立ててみせる。  
「約束だ」  
玉藻は自分の小指をいずなの指へ絡ませた。  
いずなは満足そうに笑うと、玉藻の腕の中で深い眠りに落ちていった。  
 
 
【終】  
 
 

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