あかい煙草、あおい煙草、きいろい煙草。お前にどの煙草やろかね?  
 あかい煙草は不幸の煙草、血にまみれて生を失う。  
 あおい煙草は悲しみの煙草、涙に溺れて呼吸を失う。  
 きいろい煙草は狂気の煙草、煙に巻かれて正気を失う。  
 
 「……ばかくさ。それって便所の妖怪のパクリじゃねぇか。赤い紙いるかー青い紙いるかー黄色い紙いるかー、だろ?」  
 ぷかりぷかりと煙草を吹かしながら克也はもともと三白眼気味の目をさらに半目にして美樹に返した。  
 「パクリたぁなによパクリたぁ!  
 百万個に一個、煙草の中にはそれぞれ三本の色がついた煙草があってね、人にはその色は見えないんだけどそれを吸ったらそれぞれ大切なものを失うのよ!」  
 だから小学生の癖に煙草なんて吸うんじゃないの!ほらおやめったら!美樹が克也の手からふたば、と書かれたクラシカルな紙煙草の箱を毟り取った。  
 「ったく、ぬーべーにあんだけ怒られてもちぃっとも反省しないんだからたいした不良よね!」  
 「郷子みたいな真似したってお前にゃ似合わないよん」  
 吸ってる煙草を上下にぴょこぴょこ動かしながら克也がニコニコ顔で美樹のカッカした顔を見ている。  
 「けっ、あんたみたく構われたくって不良の真似ごとしてるボクちゃんに言われたかないー」  
 イーっと美樹が顔を歪ませてランドセルを揺らした。  
 「あ、バレバレ?」  
 「自分ひとりが苦労背負ってるみたいな顔してんなよ!」  
 あたしあんたのそうゆうとこ、腰抜けとかバカとかえっちとかそんなのより嫌い。美樹がきつい顔で叱るように克也に言うので、彼は怖い女、と思った。  
 「……じゃあ、一緒に帰ってくれる?」  
 おれって構われたくてそうゆう顔する癖があるから、と克也が座っていたロッカーの上から飛び降りた。  
 
 夕焼けがそこら中を赤く染めてて、空に浮かんでいる雲まで鮮やかに染まっている。  
 堤防の道を二人が横に並んでてくてく歩いているので、二人の影が濃くて長くてまるで影を引っ張って歩いているみたいに見えた。  
 「ぬーべー、元気にしてるかな……卒業式に来るって言ってたけど、ビンボで来れないんじゃない?」  
 「さぁどうだろーでも何だかんだ言って来るんじゃね?そーゆー奴だし」  
 「……そうかな。だと嬉しいね」  
 力なく美樹が笑うので、克也の心臓の端っこがしくりと痛んだ。最近こういうのが多くてなんか居心地が悪いったらありゃしない。  
 「そういえば郷子って――――――ぬーべーのこと、好きだったの知ってる?」  
 へっ?しゃっくりするみたいに変な声が美樹の口から漏れる。表情は固まってて滑稽だ。でも克也の心臓の端っこの痛みは酷くなる。  
 「広が言ってた。いっつもあいつ郷子のこと見てたじゃん。だから――――――分かるんだって」  
 できるだけ平気な声を出しているつもりなのに、言葉が揺れててみっともねぇなと彼は内心穏やかではなかった。  
 「だからおれも分かる。ずっと見てたから、お前の……」  
 「――――――胸?」  
 じと目で美樹が克也を睨むので、おれは本当に信用がないのだなーとげっそりする。日ごろの行いのせいかな、いやでも最近は結構真面目なつもりなんだけど。  
 「ちっがーう!真剣なときはそういう外し方をするな!  
 お前のこと、ずっと見てたから分かるの!お前も、すきだっただろ、あの0能力教師!」  
 「そうよ」  
 あっけらかんと美樹が言い切った。克也といえば拍子抜けより先に意外で意外でリアクションが出来ないまま固まっている。  
 「あたしこういう性格じゃない。最初あんたもあたしのこと嫌いだったでしょ。  
 5年の時っていろんな人が……弱いのもバカなのも、嫌なのも怖いのも、悪い奴も卑怯な奴もぬーべーは誰も差別しなくって、みんなおれのクラスの生徒だって……仲間に入れてくれたから」  
 
 やっぱ嬉しかったのよ。誰にも分け隔てなかったから。  
 えへへ、美樹が照れ笑いを挟んで頭を掻くと、11月の少し涼しさの多い夕暮れの風が二人の間を駆け抜けていった。  
 「それに比べてあんたと来たら単細胞でー、間抜けでー、臆病者でー、かっこ良くないシスコンー」  
 指折り数えながら美樹が何重苦だろ、とずけずけ短所を上げ連ねる。  
 克也がなにおう、と怒鳴り声を上げようとしたときに彼女がにやーっと笑って彼に言った。  
 そんなあんたが好きよ。  
 「女王様には奴隷って付き物じゃない」  
 けらけらけら、少女が笑う。赤いランドセルに入っている筆箱が揺れるたびにカタカタ音を立てる。克也はそれを不思議そうに見ていた。  
 「……ダメなおれでいいの?」  
 辺りが真っ赤に染まっている。美樹の足も、髪も、胸も……顔も。  
 「いいよ。あんたは?意地悪なあたしでいいの?」  
 道端の草も石も真っ赤に染まっている。克也のランドセルも、ウインドブレーカーも、首も、頬も。  
 「い…いいよ、いい!お前がいいんだ!」  
 赤い色、目の前が一色で塗りつぶされている。  
 カラスの鳴く声と川の流れる音、それから自分のうるさい鼓動。耳がそればかりに埋め尽くされて頭がガンガンする。  
 「……あんた夕日って好き?  
 あたしは好きじゃないなー。どっかに引きずっていかれそうな気がしない?真っ赤でさ、夜を連れてくるんだよ」  
 大きくてとびきり赤い色をした揺らぐ“火の玉”は、遠い街に飲み込まれていく。美樹がそれをじっと見ている。そして克也はそんな美樹をぼんやり眺めていた。  
 赤く輝く美樹の顔にゆっくり深い影が落ちてゆく。  
 “夜を連れて来るんだよ”  
 頭の中で反芻される美樹のセリフが歪んで形を変えていく。禍々しくて不安な居心地の悪い空気を纏って。  
 
 “夜”にさらわれる!  
 何故彼がそんな事を思ったのかは分からない。だが、克也は自分のカラダの中を稲妻のように貫いた恐怖に駆られたのだ。  
 震えるよりも先にここに居てはいけないような気がした。  
 “美樹を夕日に連れて行かれてしまう”  
 克也は慌てふためいて夕日の沈む反対側、つまりもと来た学校への道を美樹の腕を掴んで走り出した。  
 「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!?なに、何事ー!!?」  
 「いいから走れ!早く!」  
 引きずるようにして美樹を走らせて少年は走る。夕日に背を向け、全速力で。  
 早く、早く逃げなければ。彼女を少しでも遠くに連れて行かなければ……さらわれてしまう!  
 「どーこーいーくーのーよーッ!!」  
 耳の後ろでガタガタ鳴るランドセル。引っ張る長袖の美樹の腕。頬を這う風が背中を抜けて沈む夕日に持っていかれるような錯覚を覚えた。  
 長い影踏み。影がどんどん逃げていって一向に捕まらない。克也はもう必死で赤色から逃げ出す。  
 どこだ、どこに逃げればいい?夕日に捕まらないように、どこへ、どこへ!  
 半分閉まりかけた校門を抜けて校内を走り回る。もう誰も居ない、静かな校舎を二人が走る。  
 ふと身体が何者かに引っ張られるようにある一角を目指していることに気が付いた。宿直室。そうだ、おれ達がたくさん先生と過ごした場所。あそこならきっと安心だ。  
 飛び込んだ宿直室の鍵を慌てて閉めて、窓にカーテン、押入れから中身を引きずり出し、中へ隠れる。  
 「ちょ、ちょっとぉ…はぁ、はぁ……もう、なんなのよー」  
 「はぁ、はぁ、はぁ…黙って……夕日が沈むまで…隠れてないと」  
 「はぁ?何いってんの?」  
 ドックドックと血が駆け巡る音が全身に響いている。まるではたもん場の時みたいだ、と克也は思った。彼が一番恐怖した記憶。  
 蘇る震え。  
 
 「怖い、怖いんだよ……もう助けに来てくれる人居ないだろ……」  
 血の色は嫌いなんだ、怖いことを思い出すから。自分の腕をまだ掴んで離さない克也が少し震えているのを、美樹は見逃さない。  
 「……バカじゃないの、あんた」  
 びくりと大きく克也の身体が軋んだ。それに付け込むように美樹が畳み掛ける。  
 「まだぬーべーから卒業できてないわけ?ハッみっともない!弱虫!臆病もん!腰抜け!  
 あんた一体先生に何を習ってたのよ!?頼ること?守ってもらうこと?助けてもらうこと?  
 自分で考えて戦うことをぬーベーは教えてくれたのよ!逃げたり隠れたりせずに弱くてダメでも自分の力で生きてくことを!」  
 掴まれている腕の力が緩んだ所を引き剥がして、美樹ががっしり彼と手を繋ぐ。  
 「あんた一人じゃないでしょ。あたしだって戦えるわよ、美樹ちゃんを甘く見ないで」  
 押入れの暗闇でも不思議に彼女の力強い笑い顔が見えた。つよいつよい女の子。  
 「……うん」  
 「夕日が何よ、赤色が何よ!二人で居ればちっとも怖くなんかないわ!でしょ!?」  
 「うん」  
 分かればいいのよ。満足げに美樹が胸を張ってふふんと笑う。  
 「あははは、でもあんた意外に繊細なのね」  
 けらけら身体を揺らしている美樹の肩が克也にぶつかる。湿っぽい押入れの匂いに混じって、煙草とシャンプーと汗の匂いがする。  
 「こんなとこに急に閉じ込めるから、あたしゃてっきりエッチなことでもされるのかと思ったわ」  
 胸元の開いた服、短いスカートから伸びる肉付きのいい足、さらさら流れるショートカットの髪。  
 美樹の声も聞こえていない風に克也の目がぼんやりしている。  
 ガタンガタンガタン!!  
 急に襖の向こうでドアの揺すられる音が鳴り響く。  
 『ったくここはたて付けが悪いったらありゃしない。今日は職員室にいるしかないかァ』  
 ドキンドキンドキン!二人の心臓が早鐘のように打たれて、お互いに手を叫びそうになる相手の口に当てて声を殺した。  
 
 「……行った?」  
 「――――――みたい」  
 はぁーっと細く長く大きな深い溜息をついて二人がようやく肩の力を抜いた。  
 「びっくりしたぁ……急に来るんだもん先生……」  
 「け、けど別に出てっても良かったんじゃないか?」  
 「他の先生はぬーべーみたいに甘くないの!親でも呼び出されたらどーすんのよッ」  
 「そんなに悪いことしてねーじゃん」  
 「バカっ!こんなとこで女子と男子が絡まってたら不純異性交遊って立派な不良行為になんの!」  
 カリカリする美樹の言葉に、はっと克也が自分たちの格好を認識した。  
 座布団の隙間に倒れている自分の身体の上に、美樹が圧し掛かるみたいに乗っている。足の間に彼女の太ももが絡んでて、右手には少女の二の腕、左手にはやわらかいボール。……ボール?  
 「なんで押入れにボールが?」  
 「いたぁい!」  
 ボールをきゅっと掴む仕草をすると、美樹が信じられないくらい色っぽい声を出して頬を染めた。  
 「バカァ!!どこ触ってんのよ変態!えっち!この豊満で可憐なおっぱいをよくも無断で――――――」  
 えっえっえっ?ワケが分からずうろたえている克也の耳に、ようやくおっぱいという単語が引っかかる。  
 「ごっごめん!!」  
 「いーから手をどけて!気持ち悪い!」  
 言われて返事よりも先に両手を離すと、美樹がそさくさと両腕で胸を庇う仕草をした。  
 「……ごめん、その、そーゆーつもりでは」  
 「…………そーゆうつもり、って何よ」  
 「いやだから、わざとじゃないんだって」  
 「………………ヘェ……わざとじゃないの。……じゃあ、あたしのお腹の下でおっきくなってるこれは何?」  
 びしい!とまるで背景に効果音でも付きそうなほど美樹は克也の“その部分”を指差す。  
 「そーゆー見え透いた言い逃れをするって事はまぁったく反省してないみたいねぇ!」  
 
 お仕置きだわ。  
 禍々しい笑い顔を顔全部に貼り付けて美樹が引きつった顔の克也に襲い掛かった。  
 「そら大人しくなさい!暴れたって無駄よ!証拠は挙がってんだ!」  
 「や、や、やめろー!!女がそんなとこ触るなァー!!」  
 「へっへっへ、イイじゃねぇか減るもんじゃなし」  
 「だー!お前ちょっとおかしいぞーなんでそんなベルト早く外せるんだよー」  
 「ふっ女の子の嗜みよ!」  
 「嘘付け!変態!いやー犯されるー!」  
 「ええい人聞きの悪い!おだまり!」  
 しばらくじたばたやってると、先に体力の切れた克也が怯んだすきに美樹がぱんつを掴んで引き下ろした。11、2才程度では背格好が変わらなければ女の子の方が強いのだ。  
 「わあー!!」  
 「けっけっけっけ、しかとこの目に焼き付けたわよー。これでオアイコね」  
 「…おかーさん、克也はお婿に行けない身体にされてしまいました」  
 しくしく言いながらぱんつを戻してぐったりなった克也の身体の上からまだ退かない美樹が、ニヤニヤしながら彼の顔を覗き込んでいる。  
 「責任とってあたしが貰ってあげるわよ」  
 「……ほんと?」  
 「美樹ちゃんうそつかなーい」  
 「…………これほど説得力の無い誓いもねぇな……」  
 「――――――じゃあ、約束、する?」  
 襟が開く。  
 美樹の指がボタンを外す。  
 「いまここで……あたしのものになる?」  
 どきん、どきん、どきん、どきん  
 心臓が痛いほど大きく鳴っている。耳の後ろとか首筋のとことか、そんなところが心臓と同じようにずきずき言ってる。……まるで、全力疾走したマラソンの後みたい。  
 
 「そ、そ、それ、どういう、こと?」  
 「知らないわけないじゃん。あんたいっぱいエッチなビデオ見てるくせにぃ」  
 「だ、だ、だって、そんなの、見ただけで、したことない」  
 声が引きつって曲がって掠れて途切れて上擦ってて、上手く出てこない。とろんとした美樹の声と自分の呼吸の音でいっぱいの押入れはとても息苦しい。  
 「あたしだってしたことないよ。――――――あたしの初めて、あげようか?」  
 声が、歪む。  
 「ブラジャー、外し方分かる?……背中のホック、上下に捻るみたいにして外すの」  
 彼の手を開いた襟から背中に導いて、白い清潔なブラジャーを外させようとする彼女は、ふわっと少年の首筋に顔を埋める。  
 「高いのよ、そっとやって。壊したら…承知しないんだから」  
 肌と服の間をごそごそ蠢く克也の冷たい手が美樹の背中に爪を立てないように慎重な仕草でブラのホックを捻っている。だが慣れない少年はなかなかコツが分からない。  
 どうするんだこれ?捻る?右と左どっちを捻るんだ?上に捻るのか?それとも手前に?どうすんだどうすんだ、取れないぞ!  
 目玉をぐるぐる回しながら冷や汗たらたらで少年がおろおろおろおろ背中を弄る。少女はわきの下のこそこそ這い回る少年の腕がくすぐったくてたまらない。  
 「あっあっあっ…んんっ……もっと、そっと……ゆっくりしてぇ……!」  
 「だって、わかんない、どどどどーすんだよコレ」  
 「右と左を摘んで引っ張るのよ!上下に!……それから、ん…左右に捻って…ぇ」  
 はぁはぁはぁはぁ。二人の息がどんどん上がっていく。触れ合う肌がビリビリ痛い。まるで電気を触ってるみたいだと彼らはぼんやり思っている。  
 ぱちん。  
 ようやく軽い音がして美樹のずっしりした胸がたゆん、と揺れて克也の胸の上にこぼれる。  
 わあ…重い!……けど……ぬくい……  
 「あはぁ…ン…と、取れた?」  
 「うん…取れた。……………………脱がす?」  
 美樹がくすくす笑いながらいいよ脱がしてみて、と克也の耳元で囁くので、彼は一層ゾクゾクした。  
 
 「どうしたの?顔赤いよぉ〜」  
 ずっくんずっくん猛る下半身が言う事をきかなくって苦しい。息も途切れ途切れになってて目が回る。でも目の前で揺れてる彼女の白く豊満な胸から目が放せない。  
 「ばっばかやろ!おれがお前のおっぱい好きなの知ってるくせに!」  
 怒ってるのか照れているのか彼の顔がますます赤くなってそんな事を喚くので、美樹の顔がぼんやり赤くなってきた。  
 「はっはずかしーこと言わないでよね!しかもおっぱいだけ?失礼しちゃうわ!」  
 襟からこぼれている胸のドキドキが止まらない。お腹に当たってる克也のあそこが熱くてあたしを押し上げてる。やだどうしよう、平気でいられない!美樹が何とか主導権の握ろうと四苦八苦しながら吐息をかみ殺す。  
 克也にはそれが愛しくて可愛くてたまらなかった。強気で悪戯ばっかしてて、性格だってキツいけど、なんつうか……隣にずっと居たい感じ。困らされるのも嬉しい。  
 おれってやっぱりマゾなのかなぁ?少年が少し悩んでいると、少女が無理に微笑みながら真っ赤な顔を近付ける。  
 「そ、そんなにおっぱい好きなら、触ってみる?……痛くしたら、わかってるわね?」  
 挑戦するみたいに美樹がいつもの声を必死で出しているのが、切羽詰った少年にも理解できた。……ここは男なら乗ってやらねば。一丁前にそんな気持ちになったのだろうか、無言で頷いて指を伸ばす。  
 最初に触れた中指の先端が熱を持つ。焼けてるみたいに熱い肌が指を焦がしてる。薬指と人差し指が遅れて肌に到達した時、彼女が我慢するみたいにんんっとかすれた声を出した。  
 「痛い?」  
 「つ、冷たい!ぞくぞくするぅ」  
 「やめる?」  
 「平気だから続けなさいよ!」  
 はいはい女王様ってな気持ちで苦笑いしながら克也は手のひらで胸を包むように触れた。熱い熱いピンと張った乳房の柔らかさときたら楽園のような感触で、性的満足よりも感動が起こる。  
 「ど、どう?立派でしょ?これほど……あぁっあっあっ…やっはぁっいや、いやぁ、そんな、いっぱい触ったら…ぁあー」  
 ふにゅふにゅする堂々とした胸は、少し力を入れるだけで簡単に凹む。強い弾力で指が押し返されるのが面白くて仕方が無い。克也はすっかり胸の虜となって一心に両手で揉みほぐしていた。  
 
 どのくらい胸をいじっていただろうか。はっと克也が我に返ると、目の前の美樹は見たこと無いほど顔を真っ赤にして涙でボロボロになっていた。  
 「どっどうした!?おい美樹!」  
 彼女から返事は無い。ただはぁはぁ息を切らせて熱に浮かされた濡れた瞳で彼を見つめているだけだ。  
 「息できないのか?……そと、外でよう!」   
 襖を開けるとひんやりした空気が二人のほてった身体を舐める。克也は慌ててさっきひっぱりだした冷たい布団の上に美樹を横たえ、慌ててその場を離れようとした。  
 くっとウインドブレーカーが引っ張られてその勢いで彼のトレードマークである帽子がその場にぱさっと落ちた。  
 「どこいくのよぉ、美樹ちゃんこんなにしといて」  
 ウインドブレーカーが手繰り寄せられ、フラフラ克也が美樹の身体に覆いかぶさる。  
 「だって、熱、タオル、水で、冷やして、頭に」  
 焦ってばらばらになる単語が美樹に降る。少年の言葉に宿る熱より強い心配が心地いい。  
 「あんたってほんと……世話焼きよねぇ……愛美ちゃんがうらやましーわ」  
 笑って美樹が克也の顔に触れる。顔を持ち上げてキスをする。  
 「っ!?なっなに!!?」  
 慌てて離れる克也の慌てぶりをきょとんとしていた美樹が一笑に伏した。  
 「あ…そーかそーか、チューすんの初めてだーあはははーごめん歯でも当てた?」  
 「あっ当たって…ねーよ……ビックリしただけだ」  
 ぶっきらぼうに言い捨てた克也が唇を手の甲で何度も拭っている。  
 「ごめん……嫌だった?」  
 その様子を薄く闇の蔓延る布団の上から見上げている美樹は、自分でも笑うほど沈んだ声になってきいた。  
 「ちげぇよ。……最初はおれからしようと思ってたのに先越されたから……」  
 むっとした声で克也が再び美樹の身体にのしかかるようにした。  
 「もっかい、今度は、おれからしてもいい?」  
 美樹の了解を得るより早く、彼が彼女の唇に目を閉じて唇を重ねた。それに応える様に彼女も目を閉じる。  
 
 もうじきに彼女の顔も分からなくなるほどの闇がやってくる。夜が部屋に入ってくる。  
 こわい、こわい、こわい。こんなに近くに居るのに、美樹の身体がふっと消えそうな気がして恐ろしくてたまらない。だから少しでも近づかなければ。もっと近くに、もっと側に。  
 窓の外はもう赤色じゃない。恐ろしい成仏の紫色。カーテンが染まっている。  
 「あたしばっか裸で恥ずかしいよ。克也もぬいで」  
 ウインドブレーカーが畳に落ちる。チェックのシャツ、肌着、ズボンと靴下……ぱんつ。彼女の手によってゆっくりゆっくり剥がされていく。  
 彼も捲り上げられたベスト、Yシャツに下着、スカート、ストッキング……こそこそ脱がせながら触れる肌にどぎまぎする。  
 「上手いじゃない……服を脱がすの」  
 「女の服は愛美で慣れてっから。お前こそボタン逆なのに脱がすのはええのなんで?」  
 「さぁて…何故でしょう?」  
 「…秘密…か」  
 「そゆこと。女の子には謎が多いって相場が決まってんの」  
 お互いの服を丸めて一緒に滑らすように遠くへやって、ぱんつだけになった美樹の最後の着衣に手を掛ける。  
 「ぬ、ぬがす、ぞ」  
 「……どうぞ」  
 ぱんつなんて野暮ったい言い方に相応しくないようなアンサンブルの薄い水色の下着はするする太ももを通過して足首をつるんと抜けた。  
 闇色が迫ってきてて、せっかく取り払った封印なのによく見えない。  
 「ちょっと克也なに凝視してんのよ!えっち!」  
 そんな怒声もそのままに、おそるおそるといった風に克也はその部分に指で触れた。神聖で禁断の、女の子の謎に。  
 「やあぁん!」  
 慌てたみたいに美樹が両手で克也の腕を掴んだ。  
 「きゅ、急になにすんのよぉ!!ちょっと!聞いてる!?克也ったら!」  
 当然みたいに美樹の声は無視された。  
 
 爆発しちゃう!彼女は自分の心臓の異常な動悸にパニックになりかけていた。息も出来ない、視界が歪む。  
 指が自分のぬかるみの中で動いている。克也の、指が。  
 「やっやっやだぁ…こんなの、やだよぉ……!痛い、痛い……」  
 引きつる声はかすれて引っかかって克也の耳には届いていないみたいだということを理解できない。必死で身体をくねらせて指から逃げようとするのに指は動きを止めようとなんかしない。  
 少年は必死だった。  
 ビデオでは最初にこうしていたし、実際ここに指を沿わして埋める事がどういう感覚なのかを知りたかった。熱くて柔らかでぬるぬる……している。  
 「克也!やめて!痛いってのが分からないの!!こらぁ!!」  
 その声にやっと我に返ると、目の前にありえないはずの怒った美樹の顔があった。  
 「わっわあああ!!」  
 「わあああじゃない、ったく。痛いっつってんの!わかる?」  
 ぐにょんと伸びた美樹の首。それがするする元に戻ってしゅぽんと消える。  
 「簡単にあたしの肉体に溺れてんじゃないわよ。まぁ仕方ないけどね?」  
 ほほほほ、なんて馬鹿にするみたいに半目になる彼女が笑う。でもその顔はまだ真っ赤で平気じゃなかった。  
 「痛いけど、これからもっと太いのがここに入るんだぞろくろっ首少女」  
 だから柔らかくしとかないと。大真面目な顔した克也がまだ埋まったままの中指の第一間接をくっと折り曲げる。  
 「きゃあ!……も、もう!ゆっくりしてって言ってるでしょ!!  
 それに、だぁれが最後までやっていいって言ったのよ?避妊具もないくせに」  
 美樹の言葉に彼ははっとした。そうだ。そんなもの小学生のおれたちが持っているわけが無い。  
 「習ったでしょー。コンドームがないとセックスしちゃダメなのよーだ」  
 セックス。  
 いった本人も聞いた人間もその単語を改めて認識した。  
 そうか、これは、そういうことなんだ。  
 保健の時間に習った、あの訳の分からない図面はこれに続いていたのだ。  
 
 だったら。  
 すっくり立ち上がって、克也が部屋の隅っこの畳を剥がし始めた。美樹はぽかんとその様子を見ている。  
 しばらくして克也は薄い緑色の箱を持って戻ってきた。ビニールをびりびり破って箱を開け、何個も連なった銀色のパックを引っ張り出す。  
 「はい。これ。」  
 「……な、な、な……なんでそんなもんが宿直室にあるわけ!?」  
 「いやぁ。昔さ、コンビニで広たちと面白半分に買って隠しといたの。ほんとはぬーべーにあげるつもりだったんだけど忘れてた」  
 にこにこして一つパックをちぎる克也に、脱力してぐったりする美樹。  
 「アンタ本気でやる気なんだ……」  
 「なんだよ最初に誘ったのはそっちだろー。おれは途中で投げ出すのヤな人なの。ほら、責任感強いから」  
 保険の時間に習ったとおりに装着をする。あの時はたしかにんじんだったけど。  
 「……ひええぇ……こりゃ、いよいよ腹を据えないとダメかなぁ……」  
 美樹が震える声でそんな事を言うので、克也はくるりと振り返って美樹の方を両手で掴んだ。  
 「い、い、嫌だったら、やめるから……その、あの……おれのこと嫌いにならないで」  
 彼の必死の顔が面白くて美樹は思わず噴き出した。  
 「あはははははは!!なんでよ?なんでそんなこと言うの?  
 別に嫌なんで言ってないじゃない。痛いのが嫌ってだけよぉ。……バカね」  
 頬に口付け、額にでこぴん。クスクス笑う顔が闇に紛れて顔をくっつけないとよく見えない。  
 「…あたしだって持ってるのよ、それ。郷子といっしょにキーホルダー型のを買ってね」  
 カバンにつけてるんだから。言って元気で笑ってる女の子のかばんについてる可愛いキーホルダーにそんなものが隠れてたなんて。克也は複雑な気分になる。  
 「今日はやっと日の目を見るかなぁって思ってたのに……開けるのまだ先ね」  
 連なる銀のパックがはみ出している箱を視界の端に止めながら美樹が体の力を抜いた。  
 「ゆっくりしてよ……美樹ちゃんの初めてをあげるんだから……」  
 少女が呟いて後はしんと静かになった。  
 
 「……どう……痛い?」  
 囁き声、ひとつ。  
 顔が真っ赤な少女が声も出せずに首だけをこくこく頷かせる。  
 「ごめん、あんま、ちいさくなんない。動かないから…じっとしてるから」  
 ぽろぽろ美樹の目から涙がこぼれてて、克也は心のどっかが不安でたまらなかった。なんで美樹がこんなに泣いてるのにおれは気持ちいいんだろ。何で一緒に苦しくないんだろう。  
 心臓が痛い。ぎゅうっと掴まれてるみたいに切なくて悲しい気持ちだ。彼は快感に溺れるよりも先にそんな事を思った。何度も何度も涙を拭ってやろうとするが、身動きしたらその分彼女が痛がるような気がして動けない。  
 「ごめん、ごめん……痛い?やめようか?」  
 ふるふるふる。涙が散るくらい美樹が首を左右に振る。  
 「やめたらまた痛くなるじゃない。もうちょっと待って、ちょっとだけ」  
 はぁはぁ息を途切らせて美樹が声を搾り出すみたいにして言った。切なくて震える声で。  
 「……うん、うん…待ってる、待ってるから」  
 じくじく痛む心臓。突き刺さった棘が痛痒い。それに夢中になる暇もなくゆっくりゆっくり美樹の髪を撫でる。頬にキスをして首筋に舌を這わせる。どうにか気を逸らして痛みを分散させようという作戦らしい。  
 美樹はそれをじっと受けていた。痛みと圧迫で息が出来ないのに、少し楽しい。  
 「ね、あたし、気持ちいい?」  
 「……いいよ、いい。すんげぇ…ぎゅってなってて…たまんない」  
 「――――――そう。じゃあ、いいよ……動いてみて……でも、ゆっくりね」  
 少女の手が彼の腰をぎゅっと掴んで一度だけ揺すった。電撃が走る。彼女には痛みの、彼には快感の。  
 「ひぐっ」  
 「うぅくぁ…ッ!」  
 後は止まらなかった。そんな気配が微塵もなかったし、お互いにそんな事を考えている暇がなかったのだ。  
 身体が自分の言う事を聞かない。脳の中にスパークするビジョンは今まで存在さえ知らなかった極彩色の世界。闇の黒でも血の赤でもない、色とりどりのショック。  
 
 指を差し込まれる痛みよりひどい押し広げられる感じ。突き上げてくる衝撃が頭の芯まで一気に駆け抜けて行く。息が出来ない、声も出ない。痛みに身体の節々がシンクロしてズキズキする。  
 畳にはみ出した肘が擦れて痛い。耳元でザラザラ布団と畳が引きずられる音が彼女を現実に引き止めていた。まるで拷問だと思う半面、真っ直ぐ正面を向く彼の快感に打ち震える表情が面白かった。  
 赤く紅潮した耳と、玉の汗がぼんやり消えかけた夕日に反射していて綺麗。少年の長い髪が自分の胸や首筋をくすぐるって痛みを押さえてくれるような気がした。  
 腕を伸ばして克也の頭を抱きしめてみたい。そう思ったとたんに行動に移した。彼女は欲望を我慢したりはしないのだ。  
 「あ、な……なに?なに?」  
 「んん…なんとなく」  
 大きな胸に顔がうずまって息が苦しい彼はしばらくもぞもぞやっていたがじきに大人しくなった。ズキドキする心臓と心臓が共鳴するかのように同じリズムを刻んでいる。  
 「――――――まだ痛いか?」  
 「……ん、まぁ、ちょっとはね」  
 「だいぶ気持ちよくなった?」  
 「まだわかんない」  
 「最初よりはマシ?」  
 「うーんどうだろ、今もまだ痛いけど」  
 あんたがそうやって心配してくれてるなら痛くなくなるかもね。頬にキスをしてウインク一つ。  
 「どういう意味だよ?」  
 「あたしのこと気にしてくれてるなら多少痛くても我慢してあげるってこと」  
 目を閉じて、大人のキスをしてあげる。美樹が目を閉じて克也に言うので彼は素直に目を閉じた。  
 唇が触れる。彼の唇を割って美樹の舌が口の中に侵入する。ぶるぶる震えてしまいそうな怒涛の快感が襲う。ついさっきまでファーストキスもまだだった少年を。  
 悲しいような、苦しいような、満たされているのに、情けないみたいな。嬉しくて気持ちいいのに、心のどっかがドロドロ溶かされてしまうんじゃないかという心配が止まらない。  
 熱が暴走してる、と少年は思った。  
 
 もう窓の外も真っ暗だ。とっくにみんな夕食だって食べ終わったに決まっている。なのに自分たちは学校の、大好きな先生が眠っていた布団の上でこんなことをしている。  
 何度目だろう、数えるのも飽きるくらいに一生懸命何度も何度もこうしている。  
 「おねがっあっあっも、も、ゆるしっ…あっ」  
 高く持ち上げられた腰に彼の両手ががっしり食い込んでいて身体を捩っても逃げられない。  
 「腰、抜けちゃうよーっもういい!もういいからぁ」  
 言うんじゃなかった、言うんじゃなかった、少女が心の底から後悔している後ろで、少年は懸命に男の責務を果たそうとしている。  
 『克也ばっかりいっててずるいじゃないのよー』  
 『……じゃあいくまでやるぞ。泣き喚いても知らんからな』  
 『ほっほっほ。あんたごときにこのあたしがいかせられるかしら』  
 煽るんじゃなかった煽るんじゃなかった。だってまさか後ろからされるなんて思っても無かったから。  
 「あっあっはぁ…っ」  
 「あっあっあっあーっあーっ!」  
 ばさっと顔を埋める布団は、確かに微かな彼の匂いがした。何度も抱きしめられ、頭を撫でてもらった先生の腕の中と同じ匂い。  
 「……いった…?」  
 「……………いったぁ…」  
 ヒクヒク蠢くまだ差し込まれている克也の身体ごとがぐったり自分の背中に圧し掛かってくる。  
 「そりゃ……よかった……」  
 後ろからしてもダメだったらどーしよーかと思ったァ、と少年が息せき切らして身体を離した。ごろりと畳の上に大の字になり、大きく上下する薄い胸板を開放する。  
 女をいかせるのって大変なんだなぁ、ビデオで簡単にやってるからもっと楽なものかと思ってたけど……も、5個くらい使ったよなぁ……疲れた。  
 克也は呟いてふっと気を失うみたいに眠ってしまう。  
 
 規則正しく聞こえる克也の寝息は心地いい半面、ひどく憂鬱になる。美樹は幸せそうに眠る克也の顔を静かに眺めていた。  
 あんたあたしがぬーべーのことを好きだって言ってたわね。でもそれじゃ半分当たりなだけよ。あたしがもう半分好きだったのは……広。  
 その名前が頭に巡った途端に彼女は顔を伏せた。罪悪感が身体中を満たす。  
 ほんとちょっとだけだ、冗談みたいな小さな想い。きっと郷子になんて比べ物にならないくらい軽くて浅いものだと思う。……だけど、そんなにくだらなくても、好きだった。  
 湧き出す涙を食いしばって顔を上げると、克也から取り上げた煙草の箱が目に止まる。美樹は一本だけ取り出して口にくわえ、火をつけた。  
 けれど何度ライターの火をかざしても煙は上がらない。  
 あっという間に飽きて美樹は咥え煙草のままトイレに行った。しゃがんで用を足すと、便器に鮮血とは言い難いミルクチョコレート色の血溜りがブルーレットの水の中を揺らいでいる。  
 「処女喪失に乾杯」  
 咥えていた煙草を投げ捨てると血だまりの側へぽたりと落ちた。真っ白の煙草の巻紙が血と汚水を吸って膨れ上がり、チョコレート色に染まる。  
 美樹はそれを見て諳んじた。  
 あかい煙草、あおい煙草、きいろい煙草。お前にどの煙草やろかね?  
 あかい煙草は不幸の煙草、血にまみれて生を失う。  
 あおい煙草は悲しみの煙草、涙に溺れて呼吸を失う。  
 きいろい煙草は狂気の煙草、煙に巻かれて正気を失う。  
 葉っぱの部分はチョコレート色の赤、フィルターの部分はブルーレットの青、砕けた巻き紙の部分はおしっこの黄。  
 あははははは、三色の煙草だ。美樹が笑って洗浄レバーを回した。煙草がくるくる回りながら真っ黒の穴に吸い込まれていく。ざざぁと音がして平静を取り戻した便器が青色の水を湛えている。  
 「そんな汚い煙草なんか誰が吸うか」  
 電気を消して彼女はドアを閉める。  
 トイレはじっと黙って何も音を立てない。  
 
 部屋と校庭を抜け出して銀色に煙っている堤防を二人で歩いている。  
 「あはははははもう3時だー不良けってーい」  
 「元はと言えばあんたがぐーぐー寝てるのが悪いんでしょうが」  
 「起こさないお前も悪いー」  
 片手にカバン、片手に手。  
 「お前変な歩き方だな」  
 足を極限まで内股にしてちょこちょこ足を進める彼女に克也が気付いて声をかけたらパンチが飛んできた。  
 「なっ何で殴るんだよ!」  
 「あんたが何度もするのが悪いんだから!腰とか痛いのよ!」  
 カリカリしている彼女の足がふっと地面から離れた。  
 「ちょ、ちょっとぉ!!」  
 「うわ重!無理!お姫様抱っこ無理!」  
 そんなことを言いながらも彼女の身体を下ろさない。少年は少年なりに意地を張りたかったのかそのまま歩こうとまでするので、美樹は呆れて無理に地面に降りた。  
 「何で降りるんだよ!」  
 「あたし抱っこしてその上ランドセル二つなんか持てるわけないじゃない」  
 「持てる!持てるったら持てるんだ!!」  
 熱弁を振るう克也に美樹は溜息をついて手に持っていたランドセルを背負う。  
 「ランドセル、前に背負って。」  
 ワケも分からず言われたとおりにランドセルを『前に背負っ』たら、空いた背中にどさっと美樹が負ぶさった。  
 「これなら文句ないでしょ」  
 ない。短く少年が言って歩き出した。ずっと前に落ちた夕日の方向に向かって。  
 美樹は本当に歩き出した克也に驚いたが、諦めて背中に力を抜いて負ぶさった。首筋の匂いが心地いい。  
 「……なあ、今度一緒に釣りに行かない?でっかいの釣ってやっから。……もう煙草も吸わないし」  
 そんな言葉を聞きながら少女はうつらうつらと目を閉じた。  
 少年ときたら、彼女の大きな胸が自分の背中で潰れている感触に呼び起こされる快感のリプレイを楽しんでいる。  
 
終了。  

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