「ゆ、裕人さんっ…! え、えいっ、です……!」
「お? お?」
博打で一点買いに全て掛けた様な思い詰めた声で呼ばれたと思うと、俺はそっと胸を押されて春香のベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「は、春香?」
「ええと、これは、その……。お母様が言うには『うふふ。殿方と一緒にベッドに座ったら、思い切って押し倒してみるのも時には仲良くなる秘訣ですよ?』なのだそうです」
俺の肩を押さえた春香の、茹でられたミズダコの様な真っ赤な顔が俺の目の前にあった。
秋穂さん。またアナタは、色々と物議を醸し出しそうな事を娘に吹き込んで……。
「あー、春香? その、春香が俺と仲良くなりたいって思ってくれてるのはすげえ嬉しいんだが、こう言う遣り方はあんまりやらない方が良いと思うぞ?」
「あれ? そうなんですか?」
秋穂さんの入れ知恵と分かってなければ、俺のナタデココの様な理性なんぞ第一宇宙速度(秒速7.9キロメートル!!)で衛星軌道に到達してその儘危険極まりないスペースデブリになってしまっていただろう。
「……『失敗』、です」
しゅん、と。俺の上の春香が尾を垂れたマルチーズみたいに肩を落とした。
「あー、春香。別に落ち込む必要は無いんじゃないか? 俺だって春香とは仲良くなりたいと思ってるからな」
「え? ほ、本当ですか? 裕人さん」
「ああ。つまり、春香は俺ともっと仲良くなりたかったって事なんだろう? だったら、その、春香の気持ちはちゃんと伝わったしな」
「あ……。裕人さん……」
緩くウェーブの掛かった春香の柔らかい髪を、俺は嬉しさと感謝を込めて撫でた。
「えへへ。裕人さんに撫でて貰っちゃいました♪」
匂い付けをする猫の様に、俺の手に頭を擦り付けながら目を細める春香。
こんなに純粋な春香の気持ちを、俺の自分勝手な思い込みで傷付けるなんて絶対にイカンだろう。
「裕人さん……」
「春香……」
お互いの名前を呼び合って、その儘じっと見つめ合っていると、
「裕人さん……。ん……」
「――!?」
そっと目を閉じた春香が、徐々に俺の方に近付いてきた。
秋穂さんのアレな指導だと分かっていても、不整脈を禁じ得ない春香の接近。
それでも、またいつもの様に寸止めで終わるのだろうと考えていた俺は、
「す、好きです。裕人さん……。大好きなんです……!。はむっ」
「え? は、春――んぅ!?」
気が付けば、春香の唇と俺のそれと、今まで幾度となくニアミスをしていたものが重なりあっていたのだった。