…気付いたら、何てそんなのは、本当は言い訳になるだろう。  
 
ずっと好きだった。  
強くて儚い野ブタが好きだったんだよ…。  
 
彰が信子に想いを伝えたのは、2週間前。  
困ったように俯いていたけれど、同じ気持ちでいたと、小さく笑ってくれた。  
それから、変わらず、だけど少し何かが変わったように一緒に居た。  
「今日も夕日キレーイねぇ、ねぇ?野ブタ?」  
『う、うん…キレイだ、ね…』  
夕日が、信子に当たって横顔がとてもとても綺麗だ。  
彰は触れたい気持ちは、抱きしめたい気持ちはいっぱいなのに、手を繋ぐのが精一杯だ。  
 
(俺ってば、奥手だったのねん…)  
遠く見つめるように、空を見上げている、気付いた信子が  
心配そうに見上げてくる。  
『ど、どうしたの…?なにかあったの…?』  
(優しい野ブタ。大好きだよ)  
「んーん、大丈夫だっちゃ、ゴメンネ!心配かけてっ」  
そう笑い、彰は繋いだ信子の優しい手を、抱きしめるように握っていた。  
 
彼女の家まで送るのが日課。  
家の前まで、着いた時、信子が思い出したように言う  
『あ、あの…忘れてた…』  
「ん?ドゥーした?」俯く信子の顔を彰が覗き込む  
『昨日、彰の家に、忘れ物した…』  
「えぇ?うそんー。俺ん家汚いから気付かなかった!アヒャヒャ!」  
 
呆れたように、彼女が返してきた  
『…生徒手帳忘れた。』  
「まっ!もっと早く言いなさいよー!野ブタちゃん、ダメねー」  
「んじゃー、俺っちが取ってくるから待ってんしゃーい」  
彰が自転車を方向転換して、乗り込んだ  
 
『あ!ま、待って!』  
信子が、慌てて彰の制服をひっぱる  
一人で行く気まんまんだっただろう、彰が驚く  
「う、うお?」  
『い、一緒に行ってもいい?…』  
 
嬉しそうに、信子に手を差し伸べる  
「んっかんっか、じゃー、いっしょ行こっか」  
『う、うん。』  
握った暖かい彰の手が、彰そのものみたいで信子は暖かい気持ちでいっぱいになる。  
 
いつも同じ道。  
なのに、彰の表情、話はころころと、変わって信子は飽きない。  
少し困ったりするけれど、この人を好きだと思う。  
 
家に着き、彰と信子は一階のテーブル付近で一生懸命信子の生徒手帳を探している。  
「昨日、俺ん部屋で宿題やってたっけ?」  
『やった…』  
「んじゃ、俺ん部屋にあるかもー」  
そう言い、階段をどたどたと、上がっていく彰を追うように信子もゆっくりと上がる  
彰の部屋は、いつ見ても汚くて散らかっている。  
 
『すこし…片付けたほういいと思うの…』  
ため息つくように、信子が言う。  
「野ブタ、この前もそういってたぬー。」  
彰はそこら辺にある、オモチャを雑に、片付けていく。  
信子が注意するたび片付けるのだか、いつも面倒になってやめてしまう彰。  
 
『あたし、片付けようか…?』  
彰が真面目にやらないことを知っている信子が諦めたように言う  
「えー!野ブタが片付けてくれちゃうのー!?ラッキー?」  
『だって…彰、いつもちゃんと片付けないし…』  
「お片づけは苦手だっちゃ」  
コンっと、信子にキツネをむける。  
『彰はいいからそこに、座ってて…あたしがやる。』  
「はぁーい…」  
オモチャをきちきちと片付ける様は、信子を彰の母親のように見えてくる。  
彰はいつも子供みたいで、純粋で素直でまっすぐ。  
 
オモチャの数々を信子はダンボールに入れている  
すると、1つのオモチャの横に信子の生徒手帳があった。  
『あ…あった。』  
その声に反応して、彰が信子に近づいて行く  
「うそーん、そんなところにあったのかぁ!」  
『うん…。』  
 
信子は振り返ろうとする  
が、まだ残っていたオモチャの腕のようなものに足を取られる  
『キャ!』  
 
ふわり…。  
彰が慌てて、信子の体を受け止める。  
「ナイスキャーッチ…野ぶた、へーきぃ?」  
不安そうに彰が、まっすぐな瞳で信子の顔を覗き込む  
そのまっすぐで綺麗な瞳に、信子は戸惑う。  
『だ、大丈夫…』  
彰のたくましい腕の中から離れようとする信子に、  
隠していた感情を彰は抑えることが出来なくなっていた。  
 
「離したくないよ…」  
思いのまま伝えてしまうのは、いつものことだけど  
信子のこととなる、途端臆病になる彰。  
また泣かせてしまう…そう思えて仕方ない。  
抱きしめている信子の体が、小さく震えているように思えてしまう。  
 
「…なーんちって、冗談冗談、俺ってばスケベねー。」  
 
ごめんね、そう腕をゆっくり離していく彰を信子は赤らめた顔で見つめる  
嫌なんかじゃないのに、離れようとした自分がイヤになる。  
 
『そ、そうじゃ…ない』  
誤魔化したように、部屋をうろうろする彰に信子が言う。  
「んー?」  
『ビックリしただけ…だよ…』  
「野ブタ…」  
 
『彰の、こと…す』  
好きだから。そう続けるはずの言葉は彰の胸でかき消される。  
今までずっとずっとこうしたかった。けど、怖かった。  
一度触れてしまえば、後には戻れない。  
あの時、ビデオを捨ててしまったときのように、感情が抑えられなくなるかもしれない…信子に嫌われることが、何より怖い…。  
 
「俺のこと怖く、なーい?」  
『え…?』  
『…彰は彰、でしょ…怖くないよ?』  
「さんきゅーなのぅ。」  
抱きしめる腕は、強く暖かい。  
いつもと少し違うけれど、怖くなんかない…。  
信子も彰に触れたいと思っていた、けど、それはどう伝えていいのか分からなかった  
彰はこんな自分を愛してくれた、大切にしてくれた。  
胸がいっぱいで、大切で泣けてしまう。  
 
少し、だけど、長い…時間抱き合ったままでいた、二人。  
「ゴメンネ、少し苦しかったでしょぅ?」  
彰が、優しく呟き信子の額に、軽くキスを落とす。  
驚いて信子が額を手で覆う…  
 
「あひゃひゃ、野ブタ、顔まっかなのよーん」  
言ってる彰も十分赤めなのだが、信子は気付かず俯く  
『そ、そんなこと…』  
「へへー。」  
 
「ま、ここにするのは、もうちょい先かなぁー、コンッ」  
彰は、きつねの指先を信子の唇につけて、微笑む。  
初めてのキスは、もう少しあと。  
それが待ち遠しくて仕方ないのは、秘密にしておこう。  
照れたままの二人の気持ちは、繋がっていた。  
 
 

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