不自然な体勢のままでキスをして、ふと流したままの水道に意識を廻らす。
「……あの、洗い物だけ、終わらせてから」
ムードも何もあったものじゃない。
しかし彰もそんなことを気にするようにはできていなかった。
「いいよやってて。俺も勝手にやるしー」
「え、」
信子が聞き返すよりも先に、片手をキャミソールの中に忍ばせる。
「、ちょっ…」
非難めいた声を上げた信子の白い項に軽く歯を立てて痕を付けると、彼女の身体が小さく震えた。
下着の隙間から手を差し入れて、柔らかい胸を掴む。
「ゃ…っ、駄目、彰」
「早くやんなよー」
抗議は聞こえない振りで彰は掌で感触を楽しんでいる。
指先で先端を軽く擦ると悩ましげな吐息が落ちた。
「……最初から、洗わせる気、ないんだ」
「当ったりー」
能天気に笑って空いた手で蛇口を捻って水を止める。
その手を信子の下腹部からジーンズの中へと滑らせた。
「でも野ブタだって結構その気っしょ」
薄布一枚隔てた上から撫で上げると、信子がびくんと跳ね上がった。
「ぁ、あっ……ん、だ、め…っ」
さらに指を布の下へ侵入させていく。
敏感すぎる箇所への刺激に悲鳴のような声が上がった。
「やっ、あぁ…っ!」
触れられたところが熱くなって、信子は逃げるように身体を捻った。
後ろから責められているので縋れるものもなく、顔が見えないということが不安を煽る。
「ぃ、や…ぁ!だめ、だめぇ…!」
泣きそうに細い声で訴えても彰は容赦なく責め続けた。
「野ブタってさ、嫌とか、駄目とか言うけど、やめてって言わないよね」
やめないでいいってことにしちゃうよ。
ねえ、と顔を覗き込んでも小さく頭を振るだけで明確な答えは返ってこない。
「じゃーあー、カラダに聞いちゃう」
それまで責めていた突起から更に奥へ指をずらす。
指先に触れた濡れた熱に彰はまた笑った。
「やめないでいいっていうか、やめてほしくないって感じー?」
信子は俯いて何も言わない。
それが答えだということにして、蜜を絡めた指で再び刺激を与えていく。
「っあ…、ふ、ぁあ…!」
乱れた呼吸に紛れて甘い声が洩れる。
足ががくがくと震え始め、立っていることすら困難になる。
「あぁ…っあき、ら…っ、」
訴えるような声で名前を呼ばれたことに気付いていたが彰は手を止めなかった。
崩れ落ちそうになる信子を支え直して、指の動きを速めた。
「あ、あっ、ゃ…もう…っ、ぁ、ああぁぁっ!」
引き攣れた高い声を上げて信子は軽い絶頂に達する。
力の抜けた身体を抱え上げると、彰は信子を調理台の上に座らせた。
「まな板の上の野ブター」
何かが可笑しかったらしく彰が高い声で笑う。
ぼんやりとそれを眺めていると、気付いた彰がずいと顔を寄せた。
「料理して食べちゃうって意味じゃおんなじ、だーっちゃ」
それはそれは無邪気に笑うので、信子も力なく笑った。
軽く触れるだけのキスを何度か繰り返して、彰は信子のジーンズに手をかける。
「まずは皮むきってのも一緒じゃん!」
楽しそうに白い肌を露出させていく。
内腿を撫でると信子が耐えるように口唇を噛んだ。
「野ブター?…って、さっきイッたばっかだもんね」
彰は一人で納得したように頷き、信子は頬を赤らめてますます俯いた。
しばらく考えて、台の縁を掴んでいた手を肩に回させる。
「ちゃんと俺ここにいるからさ、おかしくなっちゃってもへーきへーき」
「……え」
「だからー、行けるとこまで行ってみちゃったりしない?」
信子が何か言うより先に彰の指は下着の中へ潜り込んでいる。
「全部見せてよ。そーいう野ブタ」
「……っ、あ」
熱い蜜を溢れさせているそこに指を押し入れる。
柔らかい内壁はそれをすぐに飲み込んでいった。
「あ、ぁ…っ、ん、あぁ…っ!」
まだ絶頂の波が引いていない身体は過敏に快感を訴える。
彰の指は執拗に壁を擦り上げながら、更に敏感な場所へと彷徨う。
「ぁあっ…!ゃ、あ…っは、」
刺激されるたびに信子は身体を震わせて、彰の背中に縋りついた。
既に頭の中は白く霞んで何か考える余裕もない。
「っ、ぁん…っ、あっ…あぁ、ああぁ…っ!」
そしてまた信子は高みへ昇り詰めた。
生理的な涙が頬を濡らし、腰から下は軽く痙攣を起こしている。
「……なんかー、俺今すっげー凶悪な気分」
彰が呟いて信子の涙を舌で舐め上げた。
荒い呼吸を刻む口唇を塞いで、思い切り口腔内を侵していく。
それと同様に挿し入れたままの指で内部を掻き混ぜると信子が大きく身体を震わせた。
「んっ…ぅ、ふ…っ!」
苦しそうな声が合わせた口唇の隙間から洩れる。
それをひとしきり絡め取った後、ゆっくりと解放した。
「……っ、彰…ぁ」
掠れた声が名前を呼び、熱に浮かされた瞳は切なげに揺れた。
「お願…っ、もう、…許し…っ」
それは余計に嗜虐心を煽るような言葉だったけれど、彰は動きを止めた。
こんなお願いを無下にできるようなら今まで苦労なんかしていない。
結局敵わないんだなあと場違いなことを思いながら宥めるように囁く。
「じゃ、これで最後。俺も一緒。ね」
弱々しくも信子は頷き、彰は笑ってみせて、軽く口接けを落とした。
「、あぁ…んっ、ああぁ…っ!」
彰が腰を沈めていくと信子が背中を反らせた。
挿れただけで達してしまった彼女の内部は激しく彰を締め付ける。
「野ブタん中、すっげー」
間抜けな感想を呟いて信子の片足を抱え上げる。
より深く混ざり合い、蕩けてしまいそうなほどの熱を放つ結合部は淫靡にぬかるんだ音を立てた。
「ぁ、やぁっ…、あ、あぁぁっ!」
絶頂は尾を引き、更なる絶頂へと導いていく。
彰が身動きするたびに信子は高みへ突き上げられ、乱れていった。
「ふ、ぁ、ああぁ…っ、ああぁあぁっ!!」
もう何度目かもわからない絶頂の末、信子は意識を手放した。
「野ーブーター!起きるのよーん!!」
ハイテンションな彰の声に叩き起こされ、信子は思わず時間を確認した。
まだ外は薄暗く、ただでさえ眠りにつくのが遅かった今日はまだ眠っていたい時間だった。
しかし同じ時間しか寝ていないはずの彰は信じられないほど元気だ。
「あーまた寝ようとしてるー!駄目だって、ほら、外見て外!」
外、と言われて窓の外を見やる。
そこにはまだ静かな海辺の様子しかない。
顔を顰めて彰を見やると、もうちょっと、と言って笑った。
「ほらほらほらほら!きたきたきたきたきた!」
彰が大はしゃぎで指を指す。
その先には、仄かに明るい水平線。
ただぼんやりと明度を上げていくそれを訝しげに眺めていた信子の表情が次第に変化していった。
「……すごい…」
思わず漏らした感想に彰が自慢げに頷く。
「俺がここで一番好きな景色だっちゃ!」
朝陽を受けた海がきらきらと金色に光る。
東京ではまず見ることのない光景に、ふと信子は思い当たって彰を見つめた。
「もしかして…修二の家に行くの、嫌がってたのって」
これを見せたかったからなのだろうか。
彰は少しだけ戸惑った様子で、視線を海へと逸らした。
「俺の好きなものはさ、やっぱ野ブタにも好きになってほしい、じゃんっ!」
やがて群青色は晴れた青空に呑み込まれて、また新しい朝が始まる。
その一連の変化を見届けてから、ぽつりと信子は呟いた。
「…好き、だな」
弾かれたように彰が振り返る。
「ほんとっ!?よかったー!」
本当に嬉しそうに言うので、信子はその言葉の続きを言い損なった。
この景色も、そんな彰の心も、大好きだと。
けれどそんなことは言葉にするまでもないのかもしれない、と信子は自然と浮かんできた微笑に託した。