ぎらぎらと照りつける太陽にうだるような暑さを感じる。季節は夏だ。やっと夏休みだ。  
今俺は昼のお弁当の準備中だ。  
「ねぇ、しゅーじぃ、これ食べていいナリか?」  
テーブルにだらんと頭をくっつけて、修二が作ったおかずを眺めている。  
「つーかおまえちょっとは手伝えよ!弁当箱に詰めるとかさ!」  
なんせ四人分だ。大変なんてもんじゃない。さっきから見ているだけの彰が気に入らない。  
「だぁーってこういうの苦手なのよん。」  
さいばしで唐揚げをつついて、弁当箱に入れようとすると、テーブルの下の方に転がっていった。  
「あ〜もういい。おまえ、やっぱ何もしなくていいや。」  
せっかく作ったものも台無しにされそうで、修二が慌てて飛んでくる。  
「悪いね、修二くん。」  
えらそうにそういうと椅子の上であぐらをかいた。  
「今頃野ブタたちはどこら辺だろうネッ。」  
今日は待ちに待った信子とまり子がやってくる日だ。彰の家の自家用ヘリで今大空を飛行中だ。  
「さあな〜。」  
早く用意しないと着いちゃうだろうが、修二がせっせと詰めていく。  
「あと一時間もかかんないかなぁ〜野ブタと二ヶ月も会えなくて寂しかったのよーん。」  
そう言ってから彰がやっちゃったと顔をそらした。(ん?二ヶ月?)修二が彰の言葉に引っかかって眉間にしわを寄せる。二ヶ月前といえば・・・。  
「へぇ〜、GWに会ってたってわけだ。」  
俺はまり子と会うのを我慢してるっつーのに!修二が彰をじとっと睨んだ。  
「まっまり子には会ってないよ!!」  
当たり前だよ、会ってたら、そのなんていうか、おまえとはもう口聞かねえよ!!  
「おまえ、親に呼ばれたって言ってなかったっけ?」  
「それはほんとなのぉ〜。」  
(とぅーちゃんに一緒に会いに行ったのよん。)彰が両手で頬杖をついた。  
「えっ?結婚でもするの?」  
彰の突拍子のない話しぶりに俺はずいぶん慣れていたはずなのに、不覚にも驚きの声を上げてしまった。  
「そうだとよかったんだけどぉ〜。」  
“結婚”の二文字に反応して彰は気持ち悪い笑みを浮かべた。  
「野ブタを連れてってあげるって約束しただけなのぉ〜。」  
「親、びっくりしねぇの?」  
「全然なのよん。おとぅーさんは、一つどうかよろしくお願いしますと頭下げるしさ。おかぁーさんは、見捨てないでねとか目をうるうるさせるしさ、俺はなんなんだっつーのぉ。」  
彰の両親にたじたじな信子が目に浮かぶ。  
「まあ嫁姑問題はクリアってことだ。」  
「そうなんだけどぉ〜。」  
彰は納得いかなそうだ。  
まあどっちかっつーとおまえが問題をクリア出来ない方だけどな。  
「でもさぁ、野ブタたちが来る日にさぁ、弟くんは合宿で、パパしゃんは出張なんて凄い偶然なのぉ〜。」  
今度は彰が歩き回って、台所の横にあるカレンダーをチェックする。  
(ばぁか、狙ったんだよ。)まり子と二人になるために俺はいろいろ・・いろいろ大変だったんだぞっ。  
 
「今日の部屋割りはどぅーすんの?うちいっぱい部屋余ってるのぉ〜。」  
まあ当たり前だよ、俺らが3人で住んでるとこおまえは一人でのうのうと暮らしてるんだから。  
「俺んちで皆寝るの?」  
「はっ?」  
おまえ俺がどんだけ今日を待ち望んだ事かわかってるのか?おまえに邪魔されてからこの四ヶ月どれほどまでつらかった事か!!  
「いや、普通に俺とまり子、おまえと野ブタだろ。」  
(うちだって誰もいないんだしさ。)せっかくの努力が水の泡だ。それ以外あってはこまる。  
「え〜〜〜〜じゃ枕投げは?」  
「しない!」  
おまえはどこぞの中学生かっ!!修二がすばやくシャットアウトする。  
「しないのかっ。」  
彰が憎たらしい顔を修二に向けると椅子の背もたれを前にしてまた腰掛けた。  
「でもさ〜野ブタ、俺と二人じゃ嫌じゃないかなぁと思うのよん。」  
はぁ〜、彰が背もたれに体を預けてため息をつく。  
俺はいまだに信じられない。こいつと野ブタが本当に付き合ってるだなんて。  
春休み、彰たちがホテルに戻ってきた後、野ブタが優しく“彰”と呼んだのがどうも気になって、帰りのヘリの中で聞いてみた。  
彰はぐふふふぅーと奇妙な笑い声を立て、両思いなのよーんと軽いタッチで報告された。  
「なんで?」  
付き合ってるなら二人でいたいだろ、つーかあんな事もこんな事もそんな事もこいつらがしているだなんて。想像したくない・・  
「ぬぁんでって、二人じゃ枕投げ出来ないのよーん。」  
「えっ?おまえ、それ本気で言ってんの?」  
俺は握ってる米粒を落としそうになった。  
どうやらまだこんな事もそんな事もしてないみたいだ。まああんな事ぐらいはしてるかもしれないけど。  
「そうだっちゃ。」  
「はっ?つーかおまえら付き合ってんだよな?」  
「イエス。」  
「じゃ、二人でお泊まりっつったらさ・・。」  
俺、なに言ってんだよ、つーか分かれよ、彰。  
「だってそういうことした事ないしぃ。」  
(修二、スケベっ!!)と顔を覆う。  
(スケベで結構・・。)さくらんぼかよ、つーか普通にカミングアウトするな。まあ、俺もうすうすはそうじゃないかとは思ってた。それどころか彰にしろ野ブタにしろ子供の作り方知ってるのか?とさえ疑ってたぐらいだ。  
とはいえ、彰も健全な男子高校生だ。そのくらいは充分一人でお勉強してるだろう。  
「それにさ、俺、野ブタに嫌われたら生きてけないし。それなら別に・・。」  
彰が沈んだ。(馬鹿だな〜おまえ。)野ブタがおまえを嫌いになるわけないじゃんか、修二には彰の純粋さが可愛く思えて、少し微笑んだ。  
恋愛には2パターンあって、好きだからこそ引っ付いていたいタイプと好きだからこそ手を出せないタイプがいて、俺は前者で彰は後者だと思う。  
だけどさ、気持ちだけじゃなく、気持ちも体もつながるって結構いいもんなんだぞ。  
「そんなこと言ってると“男はちょっと強引なところが好き、彰くんのバカッ!!”ってどっか行っちゃうもんだよ。」  
かわいらしく女の子調に演技すると、サヨナラーと修二が手を振る。  
「・・・いっ言っちゃうのよーん。修二が二年のかわい子ちゃんと屋上に消えた事、まり子に言っちゃうのよーん。」  
野ブタは違うのぉ〜、馬鹿にされたのが伝わったのか、彰がふてくされる。  
「ばっばかだな、あれ何にもねぇよ、その告白されただけだよ、きっぱり振ったし、つーかまり子はそんな事じゃ動じないよ、まり子は俺にベタぼれだし、うん。」  
俺のこの自信はどこから来るものなんでしょう。(ぜってー言うなよ。)修二は彰に釘をさすと、最後の弁当のふたを閉めた。  
「さて、そろそろ行くか、さくらんぼ。」  
さりげなく皮肉たっぷりに言うと修二が玄関にむかう。  
「えっ?ぬぁにそれ?ぬぁにがさくらんぼ?」  
♪となりどぉーし、あ・な・たとあーたし、さくらんぼぉ〜♪  
「おっおいてかないで、修二くん。」  
何においてかれるんだか、彰が慌てて追いかける。  
残念だな、彰!おまえの隣の家のさくらんぼは、浩二、だ。  
スタートラインが違うんだよ、修二が靴をつっかっけて家のドアを開けた。  
 
「そっ空って飛んだらこっ怖いんだね・・・。」  
学校から家に向かう途中、まだ足が震えてるようで信子が彰の腕にしがみついた。  
適当なヘリポートが思い浮かばなかったので、また学校の校庭を拝借した。よっぽど怖かったらしく、信子は腰が抜けてヘリからしばらく降りてこなかった。心配して覗いた彰が抱きかかえておろしたくらいだ。  
「俺と一緒だったら怖くなかったのぉ〜。」  
そんな信子の行動が嬉しかったらしく、信子の頭をなでる。  
まあお似合いと言えばお似合い、かな?身体を鍛えている彰だけあって、信子の重さをものともしない。彰に引きずられているように見える。その姿が修二には微笑ましかった。  
「何見てんの?」  
修二が彰たちをじっと見つめていたので、まり子が気付いて顔を覗きこんできた。  
「いや、別に・・。」  
「うらやましくなったとか?」  
まり子が微笑むと修二の腕に手を絡めた。  
すらっとしたまり子は俺とそんなに変わらない。俺らは、はたから見るとお似合いなんだろうか?修二は歩きながら人目が気になった。  
「しゅっ修二と草野くんって隣同士なの?」  
(仲良しだね・・・。)家の前に着くとまり子はちょっと後ずさった。  
いや、違うんだ、まり子、これはすべて彰に仕組まれたことなんだ。  
「とりあえず俺んちで着替えるのよ〜ん。」  
(3LDKなのぉー。)と鍵を開けると、まり子はあっちの部屋、野ブタはあっちの部屋でお着替えしてネッ、と張り切って仕切りだした。俺らは早速海に行く予定だ。  
「俺も着替えるの〜。」  
彰が自分の部屋に入ると、すぐにサーフパンツの上に6分丈くらいのズボンをはいて、浮き輪にゴーグル、フィンにシュノーケルといった出で立ちで出てきた。  
「おまえお約束どおりだな・・・。」  
分かっていたよ、ああ分かっていたさ。  
俺が彰に冷たい視線を投げかけていると、信子とまり子も程なくして出てきた。まり子はTシャツにデニムのミニスカート、半そでのパーカー姿で、信子は薄い青のワンピースに白いカーディガン姿だ。  
「あっ彰、恥ずかしいから上着て・・。」  
信子が彰をチラッと見ると、見ないようにぎゅっと目をつぶる。  
えっ?そこ?ねえ、恥ずかしいのは上半身裸なとこ?  
やっぱベストカップルだ、修二は自分の部屋に何も言わずに移動した。  
 
学校からも海が見えるが、二人の家もまた海沿いで、広い道路を渡ると砂浜に出た。  
「わ〜すごぉ〜い!きれ〜〜い!」  
海に出るとまり子が叫んだ。  
「海、だね!」  
まり子が修二を見てはにかんだ。  
海、だよ、多少のおまけはいるが、俺らが来たがった約束の海だ。  
適当な場所にレジャーシートを広げると、とりあえず海に入ろうと洋服を脱いだ。  
・・・今俺はビキニなるものを考え出したやつに称賛の拍手を贈りたい・・  
まり子の水着は、薄い橙色をベースにきらきらした素材が散りばめられたビキニで、太陽の下、まり子の笑顔のように光を反射する。  
胸元にはフリル、ショーツの両脇にリボン、細い肩紐が頼りなげで、それもまた一層艶っぽい。  
ビキニからすらりと伸びた手足、よく映える白い肌、胸の谷間に引き締まったお腹、修二はまぶしすぎて直視できなかった。  
夜まで待てません・・これ以上見るのはやばいと、さりげなく野ブタを横目でチェックする。  
野ブタは・・って野ブタ意外と胸あるな、まな板かと思ってたよ、ごめん、野ブタ。  
信子は胸元に切替しのリボンがついた、太ももの半分くらいまでの丈のAラインのワンピース型の白い水着をきていた。ホルダーネックなこともあいまって、胸元が少し強調されている。  
なんとなく彰を見たら、恥ずかしそうにちらちら野ブタを見ながら準備体操をしてごまかしていた。  
ちなみに、ショーツ部分とはセパレートされてるらしい。これは水にはいるとワンピースが浮くんだ。それはそれで見逃せない。ちらリズムさまさまな俺としては本当見逃せない。  
「修二?」  
まり子に顔を覗き込まれた。  
「なっなに?」  
どうやら信子を見すぎたらしい。まり子がちょっと怪訝そうに見る。  
「あっ、彰さん、修二さん。」  
俺が気まずそうにまり子に笑顔を向けていると後ろから声をかけられた。振り返るとクラスメイトが数人立っていた。なぜか分からんが俺たちはクラスの男子からさん付けされている。一目置かれているだけある。  
「奇遇っすね〜。」  
修二たちが遊んでいるってことは学校の奴らがうろうろしていてもおかしくない。その中の男性陣が目を輝かしながら寄ってくる。  
「都会の女っすか?」  
そうっす、都会の女っす。なんて思ってる場合じゃなかった。突然の出来事に修二がたじろぐ。  
「いい匂いー。」  
鼻を突き出しながらどんどん寄ってくる。しっしっ、俺は片手で牽制した。  
「見ちゃダメ、なのよん。」  
クラスメイトのいやらしい目に、彰が慌てて、バスタオルで野ブタの身体を覆う。  
いや、どっちかっつったらまり子だろ、つーかおまえの彼女、全然露出してないし。  
でも見せたくない気持ちは分かる、修二もバスタオルを探す。  
「なにこれ?」  
さすがにまり子も身の危険を感じたのか、修二がバスタオルをかける前に、せっかく脱いだパーカーをまた羽織っていた。  
「今の学校のクラスメイト・・。」  
修二の顔は明らかに引きつっていた。  
「こんにちは。」  
それでも学園のマドンナたるゆえんか、まり子は笑顔で挨拶をした。ついでに信子も後ろで頭を下げる。  
「いい女っすね〜。」  
褒められてまり子は恥ずかしそうにしている。  
 
「修二の彼女なのよ〜ん。」  
彰が口をはさむと、さすがっすね〜と男性陣がざわめく。  
「・・きっ桐谷くん、彼女がいたなんてひどいっ。」  
そんな人だと思わなかった〜、と少しはなれたところにいた女性陣がショックで逃げていった。  
ちょっと待て、俺はおまえらに何をした・・・?  
さっきの仕返しとばかりに彰がにやついてるのが腹立たしい。  
「修二?」  
まり子が眉をひそめて立ち上がって歩き出す。  
「えっ?まり子?ちょっ、ちょっ、まり子。」  
まり子はこんな事じゃ動じないんじゃなかったか?俺の自信はもろくも崩れた。  
「修二さん、すいません。」  
その様子を見て、口々にクラスメイトが謝って去って行く。  
「えっおい!」  
何これ?もう泣いちゃおっかな〜俺・・・つーかっ・・・  
「まり子!!」  
修二は慌ててまり子の後を追いかけた。  
「だっ大丈夫かな?」  
事の次第についていけず、呆然と見ていた信子が心配する。まり子たちが去ったほうへ体を向けたので、肩にかけていたバスタオルがずり落ちる。  
「大丈夫っしょ。」  
ずれたバスタオルの隙間から信子の胸の谷間が垣間見えて、その膨らみに手を伸ばしてしまいそうで彰は慌ててバスタオルをかけなおした。  
「愛があれば大丈夫、だっちゃ。」  
いつもなら隠れてるはずの柔らかそうな太ももも、つい触れてしまいそうで彰は視線を外した。  
「修二はまり子の尻に敷かれそう、ダネッ。」  
何でもいい、話をしなきゃ。彰は必死に気持ちを落ち着ける。  
「そっそうかな?あたしは反対に思うんだけど。修二がまり子さんをリードしてそう。」  
(ふうん・・・。)修二の事はよく分かるんだね、彰の中でやきもちが顔を出し、振り払うように口を開いた。  
「野ブタはぁ〜意外に教育ママになったりしそう。」  
二人してめがねのふちを指で上げている信子を想像する。(なんか嫌だ・・。)信子があわてて否定する。  
「あっあたしは彰に振り回されてると思うんだけど・・。」  
それを聞いた彰が信子の顔をみて動きを止める。  
「野ブタ言っちゃった・・。」  
えっ?なんかまずいこといった?彰が真顔なので信子が心配になる。  
「俺に振り回されてるって事は俺との未来があるって事なのよん。」  
彰が嬉しそうな顔をして喜ぶ。  
「ちっ違うの?」  
お嫁においでっていってたのに、もうすっかりその気だった信子はちょっと恥ずかしくなった。  
「違わないけどぉ〜、こっから先ずーと俺一人って事だよ、いいナリか?」  
だってさ、俺修二みたいにかっこいいこと言えないし、すげーやきもちやきだし、全然野ブタを幸せにしてあげる自信なんてないんですけど。  
彰の不安も信子が(うん。)とこくりと頷いた事でかき消された。  
「いいの、こんなに早くそんな人に巡り会えるなんて、あたしラッキーだと思うから・・。」  
そういう答えもあるんだ、また一つ信子に教えられた気がした。  
「ほっか・・ほっかほっか。」  
彰は信子の言葉を嬉しさで噛み締めながら、照れくさそうに(お腹が空いたから早く戻って来て欲しいのよん。)と呟いた。  
 
「まり子〜。ちょっとまって。まり子〜?」  
波打ち際を無言で歩くまり子のあとをなんと弁解していいか考えながら修二はついて歩いていた。  
時折寄せる大きな波がはねて、まり子の体に水を浴びせる。そのせいでまり子のショーツが少しお尻にはり付く。  
(水着ってえろいよな・・。)小股の切れ上がったまり子の後姿が、さっきから目に焼きついて離れない。まり子の誤解を解かなくてはならないのに、視線はそこに釘付けだ。  
「すげー離れちゃったし、戻るのも大変、みたいな・・。」  
海水浴場も端の方まできて岩場が顔を出し始めた。  
「つーかほんとなんもないから、俺にはおまえだけだし。」  
「わかってるよ。」  
そう言うとまり子はやっと立ち止まって笑顔で振り返った。  
「えっ?そうなの?」  
てっきり怒っているんだとばかり思っていた修二は体の力が抜ける。  
「うん、そうじゃなくて二人で海を見たかったの。」  
ふーん、ってえっ?まり子を見ると、はにかんで頬を赤らめ、俯いた。  
「ほんのちょっとだけでもよかったの。」  
(二人で見たかったの。)もう一度小さく呟くと、まり子は岩陰に腰を下ろした。  
「そっか。」  
修二もまり子の隣に腰掛ける。  
「二人じゃなくてごめんな。」  
「ううん、私の方こそわがままでごめん。」  
まり子の可愛いわがままは修二の心を躍らせた。  
まり子、あんまり俺を誘わないでよ、我慢できないじゃんか。  
修二が顔を覗きこんでまり子の唇をふさいだ。  
「修二・・。」  
唇を離すとまり子は目をぱちくりさせた。愛くるしいまり子に修二も歯止めがきかなくて、まり子の体を抱き寄せて、パーカーの中に手を入れた。水着の胸の谷間から、柔らかい乳房に手を伸ばし、愛しい人に触れられた事で感じたその先端を指でこねくり回した。  
「や・・め・・て・・恥ずかしいから・・。」  
まり子の声が上ずる。  
「だめだよ・・修二・・これ以上はだめ・・だからね・・。」  
ダメ、否定の言葉なのに肯定に聞こえる。修二は手を止めなられなかった。  
「ダメ!!だよ、修二。」  
外れにいるといっても、すぐ傍まで人がいる。まり子が強めの言葉で制した。  
・・・ごめんなさい・・俺は反省の意味をこめてまり子の水着を綺麗に整えた。  
 
夕飯はまり子が作った。信子も少し手伝っていたが、ほぼまり子が一人で作っているように見えた。  
「まり子、バスケ部はどぅーしたの?」  
彰がご飯を食べながら、珍しくまり子に興味を持つ。  
「バスケ部はもう引退だよ。三年生だし。戻ったら受験勉強しなきゃ。」  
(ねっ小谷さん?)と同意を求める。  
「うん。」  
野ブタが頷くのを見て、彰が動揺する。  
「えっえっ野ブタ大学行くの?」  
「いっ行こうかなと思って・・・。」  
彰は信子に聞かされてなかったのがちょっとショックみたいだ。  
「修二は?」  
救いを求めるように修二に聞く。がすぐに裏切られた。  
「俺も、実は大学いこうかなーと思ってんだ。ほら、やりたい事もないしさ、まだ社会に出るには早すぎるんじゃないかと思ってさ・・。」  
まだまだ学ばなきゃいけない事は山ほどあるんじゃないかってさ、ごめんな、彰、言わなくて、でもおまえみたいにこの年で将来が描ける奴なんて少ないんだ。  
「えっ?じゃ、俺も行く!だぁって俺たちいつでも一緒デショッ!!」  
(しゅーじぃ〜。)彰が情けない声を出す。  
「おまえ会社どうすんだよ?」  
「そんなのなんとかなるっしょ。」  
なんとかなんねぇよ、つーかなんとかしろよ。  
「やだ〜俺も野ブタと一緒の大学行く〜。」  
(で、皆でプロデュースサークルつくるぅ〜。)彰がじたばたする。  
「わっ私は入らないけどね・・・。」  
まり子の表情は強張っている。  
「なんで?」  
今度は修二が驚いた。  
「なんでって・・・。」  
分かってよ、まり子は答えに困ってた。  
「あっでも彰、知ってるか?おまえ、裏口は犯罪なんだからな。」  
「ねっぬぁんで?ぬぁんで裏口ってきめつけんの?ねっひどくない?野ブタもまり子も、ぬぁんでそんな目で見るの?ねっ?ぬぁんで?ぬぁんで?」  
彰が他の三人の顔を交互に見ながら喚く。  
(あたし、女子大なんだけど・・)でも今の彰なら女装するとでも言い出しかねない。信子はその光景を冷静にみながら、胸の奥にしまった。  
 
「ねむそー。」  
修二がそういったので視線の先を見ると信子が船を漕いでいた。  
「疲れちゃったんだね。」  
まり子がお皿を流しに持ち運びながら微笑む。  
「おまえ、いいの?」  
彰を促す。  
「野ブタぁ〜?」  
彰が起こそうと信子の顔を覗きこむ。  
「寝かせてあげれば?」  
まり子が可哀想になってそう言う。  
「うん、起きないな。」  
連れていけと今度は首で促す。  
「野ブタぁ〜。」  
彰がしぶしぶ立ち上がって信子を抱きかかえる。  
「修二、ドア開けて。」  
彰について修二も隣の家に移動する。  
「野ブタ寝ちゃったらつまらないのよん。」  
彰が自分のベッドに信子を横たわらせる。  
「おまえ、野ブタについててやれよ。」  
「そんなこといってまり子といちゃいちゃしたいってことはバレバレなのよぉー。」  
彰が非難がましい目を向ける。  
「いやっ、野ブタが起きた時誰もいなかったら寂しがるだろ?おまえ、その、彼氏なんだし。」  
「え〜目を覚まさなかったら俺どぅーすんの〜?俺さみすぃーじゃん。」  
しらねえよ、野ブタの寝込みでも襲えよ、だからおまえはさくらんぼなんだよ。  
「まっ、とりあえず、俺、トランプとか今日好きじゃないから、そーゆーの禁止なっ。ぜってー禁止なっ!」  
(じゃ、おやすみ!)彰の恨めしそうな顔をよそに、俺は彰の家の玄関を勢いよく開けた。  
 
 

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