もどかしいとはこういうときに使うのだろうか。  
愛しい存在というのは彼女のことなんだろうか。  
────・・  
 
放課後いつもなら3人屋上に集まって他愛も無いことを話し合ってた。  
でも今日は、修二は弟が熱でダウン、面倒を見に帰ってしまった。  
野ブタは調べごとがあると図書室にこもるそうだ。  
もちろん俺もついてくって言ったのに  
「騒いだら、め、迷惑かかるから・・・」と言われた。  
 
下駄箱で別れる。野ブタは「き、嫌いなわけとかじゃないから・・・」と。  
そんなとこが可愛い。一生懸命で可愛い。あぁ可愛い愛しい愛でたい。  
あぁ、好き。  
でも俺の思いを伝えたら、どうなるのかが怖くてまだ気持ちは伝えてない。  
野ブタが安心できるように頭を撫でながら「わかってるのよーん」と笑顔で帰った。  
 
 
 
フリをした。  
 
自転車置き場まで行って、10分ほど体操座りで待機。  
ひっそり図書館に潜んで野ブタを観察しようと思ったのだ。  
早く行き過ぎると、野ブタがまだ椅子に座ってなかったり  
本を選んでたりしてるかもしれない。  
男は忍耐。  
もう10分ほど待つ。  
 
・・・風邪が頬を撫でる。秋が来る。雲が近く感じる。  
野ブタはこの空を見てるだろうか。今頃本と睨めっこだろうか。いつもみたいに一生懸命に。  
でも、俺がほんとに野ブタに見て欲しいのは、空でも本でもなく俺自身だったりする。  
 
そんなことを考えてるともう、悠に時間は過ぎていた。  
「じゃっ、そろそろ彰くん出動だっちゃ☆」  
背伸びして鼻歌を歌いながら、上履きを履いて階段を上る。  
 
 
人は多くなかった。野ブタ窓に一番近い席で本と睨めっこしていた。  
予想通りで笑いをこらえたら口の端が吊りあがって閉じた唇から息が漏れた。  
カモフラージュのためにその辺の本をニ、三冊持って野ブタの背中が見える席に座る。  
 
 
本を読みながら野ブタの背中をチラ見。  
中年のおっさんならセクハラになっちゃうのっよーん☆と  
自分に突っ込みを入れつつ、ある異変に気づく。  
野ブタのシャーペンを持った右腕が動いてない。  
周りに人はもういない。図書室の先生が本棚の向こうでキーボードを打つ音だけが聞こえる。  
 
静かに静かに心は忍者で、野ブタの横の席に座る。  
やっぱり寝ている。うつぶせになって寝息を立てて。  
それでもシャーペンだけは離さないで、赤ちゃんみたい・・・と素直に思った。  
突然、ん・・・と聞こえたかと思うと野ブタが顔の向きをこっちに向けた。  
気づかれたんじゃなくてうつ伏せは息苦しかったんだと思えたのは、  
野ブタの寝顔があまりにも優しかったから。  
 
そして、ふと気づくその存在。  
重たい前髪が顔の殆どを占領してる中で、野ブタの唇が見えた。  
申し訳ない程度に口が開いていて、無性に欲情してしまった。  
 
 
キスしたい。柔らかそう、きっと柔らかいだろう。だって野ブタだもん。  
でもキスしたらどうなる??起きるだろうか、軽いキスなら起きないだろう。  
寝たふりかな?まさか・・・いやでも・・・。  
 
心の中での葛藤が30秒は続いたと思う。  
窓の外はきれいな夕焼けで、二人の影が机に映る。  
 
「野ブタ・・・」口先だけでだした声はかすかすで、誰にも聞こえない。  
真っ黒な髪を撫でる。染めて脱色して縮毛したりで痛みまくった女子とはちがう。  
手櫛をしても絡まることはない。きれいだ。  
白い肌も黒い髪も大きい目も、全部俺だけのものになればいいのに。  
野ブタが人気者にならなくていいのに。  
俺の目にだけ野ブタが映ればいいのに。  
 
 
 
 
「野ブタ、好きなんだっちゃ・・・」  
(やっぱ、柔らかい・・・)  
机の上の二人の影が1つになったのはそのときである。  
 
 

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