「…人に嫌われるのって、怖いよな」  
 
小さく零れたその呟きは、いつもの彼のそれとは異なり、  
酷く弱く、酷く情けなく、酷く心に突き刺さった。  
 
…トサッ  
 
体の力が抜けてしまう。  
ビニールのカサ付いた音と、牛乳が引力に従った結果。  
同時に、何かに突き動かされたような感覚。  
気がついたときには桐谷修二の温かさが腕の中にあった。  
 
「大丈夫…誰も、嫌ったり、しないから」  
 
草野くんも、上原さんも、クラスの人達も、私も。  
ぼんやりとどこかを見る彼はピクリとも動かない。  
 
ああ、何を言っているんだろう。  
…私の声では、届かないのかもしれない。  
 
 
初めて抱きしめた男の人の体は、細く、壊れてしまいそうな位。  
思っていたよりも、柔らかかった。  
 
磁石に弾かれるように離れると、自分の不可解な行動を謝り走り去る。  
それ以上その場には、いられなかった。  
 
助けてあげたい。  
守ってあげたい。  
悲しまないで。  
笑って。  
笑って。  
 
家に着くまでの数分間、3人で居た屋上の、青い空ばかりが浮かんでは消えた  
 
 

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