あまり姿勢のよろしくない後姿を見つけて足を止める。  
 大きく息を吸って、吐いた。  
 何度か拳を握ったり開いたりした後、彰は意を決して駆け出した。  
「グッドモーニングゥ!」  
「ぅわっ」  
 突然後ろから覆い被さってきた彰に信子は声を上げた。  
 彼女が身体を強張らせたのに気付いて彰は軽くその肩を叩いた。  
「もー少し、そのまんまでいてね」  
「……こ、このまま?」  
 ってどのまま?  
 信子の小さな問いには答えずに彰は笑う。  
「だってやっぱそう簡単にはいかないっしょ?」  
 そう簡単に、一度点いてしまった火は消えない。  
 だからせめてもうしばらく、誰のものにもならないで。  
 俺のものになってくれなくていいから。  
 せめて、誰のものにもならないでいて。  
 もう少しだけ。  
「そのまんまキープなのー」  
 相変わらず彰の言っていることは理解できなかったが、信子は頷くしかなかった。  
 彰の笑顔は見知った無邪気なものでなく、どこか、大人びていた。  
 何故か急に不安になって制服の裾を掴むと、彰はまた傷付いたように笑った。  
 

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