プロデュースをやめたい、と思ってしまった。
それは自分のまごうことなき本音で、彰は頭を抱えた。
あの、シッタカと信子のデート。気が気じゃなかった。
後をつけていても、どうして隣にいるのが自分じゃないんだと歯がゆくて仕方なかった。
修二に何度も止められてさえいなければ、乱入してぶち壊してやりたかった。
彼女の手を他の男が握るなんて許せない。
俺以外の男が、彼女を手に入れるなんて、想像しただけでおかしくなりそうだ。
かといって、自分は彼女の側によるのでさえ勇気を必要とするのだ。
ついこの間まで、スキンシップが過ぎるくらいべたべたと触っていたというのに!
ひとたび意識してしまえば、もう無理だった。
以前の自分はよく平気な顔をしていられたなと思う。尊敬すらする。
でも今は、どうやって触ることが出来たのかなんて全くわからない。
ああ、恋がこんなにもやっかいなものだったなんて。
こんなにも、人を変えてしまうなんて。
彰は青春らしく悩んだ。
いつでもどこにいても、目が信子を追っている。
ストーカーか、と自分で自分につっこんだが、いやこれは単に恋のなせる業なのだ、恋って偉大だ、恋ってスゲー。
見ていると色んなことに気付いた。
歩幅が小さい。
デートのときはゆっくり歩いて歩調を合わせよう、と彰は誓った。
何かに触れるときはおずおずと触れる。
手をつなぐときはこちらからリードすべきだな、と彰は決心した。
見えないところで努力している。
俺はちゃんと見てる、野ブタが頑張ってるのは偉い、と彰は思った。
それから、気付いたのは彼女自身のことだけではなく、例えば彼女に対する他のやつらの視線。
女子は少しずつ、彼女の存在を認めている。
それはいい。野ブタがいじめられなくなるのは願ったりだ。
「でもなぁ」
問題なのは男どもだ。
シッタカのラブレターいう異例の出来事はあったが、今はまだ、彼女を恋愛対象に見る男は少ないだろう。
しかし油断は禁物なのだ。
彰がいちはやく気付いた野ブタの魅力に、いつ気付くやつが現れるかわからない。
野ブタが可愛くなっていくのを見るのは、彰も嬉しい。
と同時に、どんどん可愛くなってしまっては、男にもてるんじゃないかとか、不安でたまらなくなる。
彼女の可愛いところは、俺だけが知っていたいと思うのだ。これ以上周りのやつらに教えてやるなんて嫌だと思う。
なんてこった、これじゃプロデューサー相棒失格じゃないか。
俺の役目は修二と一緒に野ブタを人気者にすることなのに。
そしてまた彰は頭を抱える。
けれど腕の間から、しっかり目は信子に釘付けなのだから手に負えない。
俺はいったいDOしてしまったんだ、DOすればいいんだぁ、と彰は苦悩した。
草野彰、思春期真っ只中。複雑なお年頃。
終わり。