どうやら彼はスキンシップが好きらしい。
外はやっぱり屋内と気温が違う。
肉まん、こたつ、おでん、鍋物なんかが恋しい季節。
そろそろコートや手袋やマフラーが必要かな、と信子が思っていると、後ろから軽い衝撃があった。
「わ」
「よっほ〜い。あっきらくん参上!」
抱きついてきた身体の主は、だ〜れだ、ということもなく向こうから名乗ってくれた。
もっとも、名乗られなくても信子はそれが誰か、簡単にわかっているのだけれど。
だって、信子にこういうことをする人は一人しかいない。
「あー、やっぱ野ブタはあったかいナリ」
「そう?」
自分ではむしろ、彰の方があったかいと思うのだ。彼の性格そのままに。
彰は暖を取るためか、身体をくっつけてくる。
「やっぱ豚肉だから? 柔らかくてあったかい?」
「……さぁ……」
言葉としては結構ひどいことを言われているのに気にならないのは、彼の人柄のなせる業だろう。
ぎゅ、と抱きしめられた腕に力がこもった。
彰の声が耳元に落ちる。
「野ブタちゃん、あんましおいしそうだと食っちまうぞー。ぶー」
「私なんか食べても、おいしくないよ」
信子の言葉に、彰の声が一瞬途切れた。
どうしたのだろうと思っていると、どこか掠れた声で
「あー……意味、わかんねっすか。深読みしてくだーさい」
深読みしてみた。
豚肉。
おいしそう。
あったかい。
「しゃ、しゃぶしゃぶ?」
「ぶっぶー。はずれー」
「すきやき?」
「俺、すきやきはどっちかっていうと牛派」
「……やっぱり、わかんない」
お手上げ、降参、白旗を揚げる。
「んじゃ最大のヒント。俺が、狼で、野ブタが仔ブタ」
「……三匹の仔豚」
「残念でしたー。んじゃ罰ゲームね」
そんなのがあるなんて聞いていない。
抗議しようとした信子は、くるりと身体を反転させられた。
近くにある彰の顔は、いたずらっこのそれだ。
ちゅっと寒天に音を残して、スキンシップ過剰男は笑う。
「これが正ー解」
こんなの全然罰ゲームなんかにならないのに、と信子は思った。
終わり。