放課後。屋上。
11月の空が時々冬だってことを
思い出したみたいに風が吹き抜ける。……寒い。
俺達をここに呼び出した当の本人はまだ現れない。
俺と信子は何をするでもなく古い金網の柵によりかかっていた。
信子はいつものように俯いたままだ。
しゃべりもしなきゃ飛びもしない。
野ブタよ、偉大なブタの言葉を知っているか?
飛ばねぇブタはただのブタだブー。……寒い。
俺のバカな思考を知るわけない信子はピクリとも表情を変えない。
いや、違うか。正確にはうっとうしい前髪のせいで表情が見えない。
せっかく切った髪ものびてきたみたいだ。いっそ坊主にすべきだったか?
いやいや、それはないない。
まぁ、せめて前髪だけでも…
俺はそっと信子のデコに左手をおいて上にあげる。邪魔な前髪が持ちあがる。
やっぱりベースは悪くないんだよな…
空いている右手で信子の顎をつかんで俯いている顔を無理矢理こっちに向かせた。
品定めするみたいに顔のパーツを一つずつ確かめる。
「…あっ…あの…」
「…何?」
今、俺は忙しいんですよ野ブタさん。
「…はっ…恥ずかっっしっいかもっ」
…はぁ?…えっ?
「えぇっ!?うわっ…ごめっ……いってっ!」
俺が信子に無意識にしてた仕草は
今まさに…しようとしてます!ってポーズで…。
それに気付いた俺は慌てて飛び退く。
慌てすぎて後ろが金網だってことすら忘れていた…らしい。
くっそ!いってぇ!これが人気者桐谷修二?情けなさすぎだろ?
「だっ大丈夫?」
後頭部をおさえて蹲る俺に信子が身を屈めて尋ねる。
ちょっと涙目で見上げると、首をのばせば
本当にキスできる距離に信子の顔があった。
信子のビー玉みたいな目が俺を心配そうに見つめてる。
「桐谷っ君?」
淡い蝋燭の火が灯るような感覚。
なんだこの気持ち?
俺の着ぐるみの中の暗闇に一点の光。
小さいのに…眩しくて…ゾワゾワする。
なんだこの気持ち?
「お〜また〜せだっちゃ〜☆」
屋上いっぱいに響く彰のアホな声。俺は立ち上がって
「おせぇよ」
と声をかける。
隣りの信子はまだ俺をさっきの目で見てる。
まだ気付きたくない。
あの光の正体に。
もう少しだけこの曖昧な三人の関係に溺れていたいんだ。