「のーぶたちゃんはぁ、恋したことありまーすかー」
「……え・・?」
「恋、恋!こーいー。あいらぶゆう!な恋」
例によって『ミーティング』に集まった彰と野ブタ・・・もとい信子は、毎回のように遅刻をかます修二
(クラスメイトやマリ子を撒くのは結構な時間を要するらしい)を待って、
冬の風が混じる肌寒い空の下、彰持参のマメチチ・・・豆乳を飲んでいた。
「したことあるのか、聞いてるんだ〜っちゃ」
「え…あ……わ、わか、んない…」
「よおく考えんしゃい。んん?」
突然の質問に戸惑い、信子は俯く。質問の真意を量りかねる。
いつも自由奔放な・・・言ってしまえば意味の不明な言動を取る彰の思考が読み取れるわけもない。
それに、実を言うと、恋、という感覚がうまく感じ取れない。
「じゃーあ、質問を変えます。」
「う、うん」
「ある特定のヒトの言葉とかー、行動とかー、見てーキュンッ☆とかなったことは、ありますかー?」
「・・、きゅ、ん?」
「そーう、きゅうんっ☆ってなるの」
彰は胸の前に指を組んでキュンッキュンッと言いながらくるくると回りだした。
「恋するとー、キュンてしたり、胸んとこがほかほか幸せんなったりしますねん」
「そ、…それが、こい・・・」
「イエス!」
「恋・・・」
ふ、と桐谷修二の手帳を見たときのことが思考を掠めた。
いくつものあみだくじ。114の日。結果が『花』になるまでしてくれたんだと思うと胸のところが変になった・・・。
「お、のぶたちゃんわかりやすい反応、なーいすっ」
「え……え…」
顔を上げた信子の顔は耳まで真っ赤になっていた。火照った顔を冷たい風がすべる。
考えていたことまで読み取られてしまったような気がして恥ずかしくなった信子は再び俯く。
「あ、あの・・・、草野君は、・・・ある?」
「聞きたいー?」
彰はいつものようにへらり、笑っている。
「あるよ。っていうかー絶賛フォーリンラブ☆中なのよーんっヒャハー恥ずかしいねー!」
「そ、そう、なんだ……」
突然彰が信子の両頬を包むみたいに掴む。
いつもみたいなふざけた様子が影を潜めて、まるで別人みたい。胸がざわついた。
「な、何・・・」
にっこり笑った彰はゆっくり身を屈めて
ちゅ
信子の額に唇を落とした。
「―――…・・っっ!」
信子はおもわず一歩引き下がって額を押さえる。
顔はさっきなんか比べられないくらい真っ赤だ。
一方彰のほうはというともういつもの調子でへらへら笑って、
「かわいい野ブタちゃんの恋が実りますように。おまじないだっちゃ☆」
というとまたくるくる回りだす。今度は、信子の手を掴んだまま。
ああ、よくわからないヒト。信子はこっそり思う。
でも、そこがいいところなんだ、と。よくわからなくて、他人にはない思考、いつも明るい笑顔。
初めてできたトモダチが、他の誰でもなく、この人でよかった、と。
――・・・5分後、やっとの思いで屋上に駆けつけた修二は、回りすぎて疲れ果て、柵に凭れ掛かり、
お互いの肩で頭を支えあってまどろむ二人を見つけ、なぜか面白くない顔をするのであった。