「あ、あれ修二じゃん」
まり子とその友人達が修二の存在に気づいた。
「遠くからでもすぐに修二の事なら分かる」それはまり子の絶対の自信からくる発言。
しかし、まり子でなくても人気者の桐谷修二は校内のどこにいても目立ってしまうというのが真相だが、
この事はまり子の前では言ってはいけない。
勿論、どこにいても目立つという事は修二自身もその事は自覚しているしいつ見られても落ち度のないよう心がけていた。
そう、つい最近までは…。
体育館入口の階段に座って、ぼんやりと頬杖をつき地面を見つめて休憩している桐谷修二。
まり子達はこっそりとその様子を眺める事にしたようだ。
「本当だ。何してるのかな」
最近、修二は変わった…まり子はそう実感していた。
どこがと言われれば的確に答えられるわけではないが、以前とは明らかに違う。
大好きだから全てが知りたいと、まり子は思う。だからこそ、一人でいる様子を見れば何か分かるのではと考えたようだ。
興味津々で修二の様子こっそり窺う。
「ねえねえ、きっとさ大事な事考えてるんだよ。だってすごく真剣な顔してるじゃん」
まり子の友人が憶測を言ってみる。
「大事…修二の大事な事て何だろう…」
友人の言葉にまり子は、考えるが思い当たる事がない。
修二はこれといって何かに執着しないし…学生時代に夢中になるだろう部活にも所属していない。
まり子の友人の憶測は、半分は当たっており半分ははずれていた。
(小谷はなんで、俺と向き合ってくれないんだろ…)
修二が考えていたのは、最近恋心を自覚したばかりの小谷信子の事だった。
(大体、俺と話すときはこちらを見ない
ましてや、目を見て会話なんてありえない…たまに目が合ってもすぐに視線はずされるし…。
でも何故かあのアホとは目線合わせてちゃんと話すんだよな…俺実は、嫌われてんのかな…)
「あ、なんか遠く見だしたよ」
顔を上げて、遠くを見つめるを修二を遠目から観察しつつ、口々に憶測を述べる。
その真剣な瞳で何を考えているのか、非常に残念に違いないだろうが
世の中知らないほうがいいこともある。今回のことなどはいい例だ…
(でもふとした時に、あの目でじっと見られたりするんだよな
…それに稀にみせる上目使いとか…)
修二は思い出して少しだけ目を細めた。
(俺、小谷の目好きだから逸らさないで、見つめてて欲しいのに…)
ぼおっと空を見つめつつ、軽く溜め息をつく。
「ちょっと、なんか溜め息付いてるよ!何か無茶な頼みごとでもされたのかな?」
「修二が悩んでる…話してくれれば相談に乗るのに…手助けしてあげれるかもしれない…」
桐谷修二の長年かぶってきた人気者ベールが手伝ってか、盛大に心配されている
が、実際の修二の悩みとやらはそんなに大層なものではなかったりする…
(どうしたら、小谷の顔をずっと見てられるかな…俺が小谷を正面から見れて…小谷が視線を外せない何か
…しかも、至近距離で…)
そしてここから先は我らが人気者、桐谷修二くんの目くるめく思考…いや想像…と言うよりもはや、
いきすぎた妄想…は広がっていく。
「や…桐谷くん…何…これ…」
「大丈夫、俺しか見ないから」
(そうそう…こんな感じの体位だったら、俺は結構余裕で…小谷は不安がって視線を外さずに…顔を見せるだろう)
いきなりこんな想像に飛ぶあたり、修二の突き抜け方は凄まじかった。
今まで、誰かを抱きたいとも抱こうとも思わなかったが
恋心を知ってからというもの毎日が理性との闘いそして、禁欲生活の始まり…
こんな想像も修二は軽くこなせるようになってしまっていたのだった。
「見られ…るから、嫌なのに…っ…あ!…あっ!…やだっ!…っ!」
(小谷は初めての体位だから、緊張したりして…足とか震えたりするんだきっと)
しかし、想像が的確なあたり、あなどれないものがあるだろう。
「腰、最後まで落として…小谷」
「無…理っ!…だ、だって…や…奥まで入ってくる…」
(きっと嫌がるだろうから、俺がそっと腰を押さえてあげて…
ゆっくりゆっくり挿れてあげるんだ。
…その間耐えてなきゃいけないから…キツいけど、我慢しかない)
「平気だから…ゆっくり…ほら」
「ん…っ…んんっ!」
「ほら、入った」
「…あ…ぁ…」
(最初はきつくて動けないだろうから…小谷が落ち着くまで待ってあげて…それからそっと優しく言ってやるんだ)
手の平で顎を押さえたまま、一点を見つめ想像という名の妄想は広がる。にやりと少し笑ってしまうが、
幸か不幸か、向かいにいるまり子達にはそれは見えていなかった。
「…ね、小谷。今度はゆっくりでいいから…動いて」
「…え?…えっ?…私が…動くの?」
(泣きそうな顔で俺を見下ろしてくるだろうけど、俺は平気な顔で
…いや、少し笑って見せてあげたほうが安心するか…?それで静かに説得だ)
「そうだよ、小谷が動かないと…」
「むっ…無理だよっ!…そんなの…無理…」
「でも俺はこの状態じゃ動けないから、小谷が動いてくれないとこのままだよ?」
「そんな…」
(俺が動いてくれないか、許してくれないか、探るような目で見て来るだろう
…そのときは潤んだ目で見つめ返されるに違いない…!)
ここまで綿密なシュミレーションが出来るからには、最早この手のシュミレーションは今回が初めてではないのだろう。
「ゆっくりでいいから…な?これだと小谷が好きなように動けるから…辛くないだろ」
「う…ん…」
「小谷が気持ちいいと思うところを探して動いてみなよ…ほら?」
(そうして、少しづつだけど…小谷が動いて
…意外と、夢中になるとどんどん激しくなっていったりして
…気持ちいい所に当たれば、もうきっとすごい事になるだろう)
「あ…あっ!あっ…!や…!」
(電気が走ったみたいに、背中反らせたりするだろうから、そしたら俺が支えてあげて…
そうだ…ちゃんと俺も、小谷を触ってあげなきゃ…顔だけじゃなくて隅々まで小谷の事を見て…)
「小谷…っ!」
(きっとここらへんになったら俺も、やばそうだから…我慢の限界まで耐えて…
…で、きっとここら辺で小谷は頭真っ白になって夢中で腰を動かしてるだろうから…見逃さないように…じっと表情を見つめ続ければ…)
「ん…んっ!…あ…気持ち…いいっ!…きっ…桐谷…くん…ぅ!…ん…んっ!…んっ!」
「…もう…いかせて…?」←きっと上目使いに間違いない!
…行為最中の小谷の上目使い…!!
「あ、修二…急に屈んだ」
「どうしたのかな?考えすぎて胃痛?それとも腹痛かな?…え、もしかして体調が悪いのを悩んでたとか?…どうしよー?!」
まり子達の憶測は、最後に大きく外れた。
天気も良く、木々からこぼれる日射しもまだまだ眩しい気持ちの良い放課後。
美形で人気者な桐谷修二、通称修二。
卒のない男とまで言われた彼も、こと初恋の彼女に関してだけは普通の男だった。
…というより、そろそろ限界ギリギリなチェリーボーイだった。