「信子に触るなって言ってる修二くんはどうなんでぃすか〜?!  
 自分だって抱き寄せちゃってますけど!」  
いかにも、面白くないといった顔で草野が返す。  
草野のその言葉に修二は狼狽えた様子を見せた。  
 
―…言われて見れば、何で俺こんなにムカついてんだ…?  
しかも、無意識のうちに野ブタを抱き寄せてさ…でも、あれだ草野が悪い!野ブタにくっついて挙げ句キスまでして見せて…  
…て、待てよ俺?!これじゃあまるで俺が妬いてるみたいじゃねえかっ!!  
違う!そんなわけねえ!だってあの野ブタだぞ?!  
野ブタが草野の馬鹿といちゃついてようが俺には関係ない!!  
 
修二が無意識にしていた百面相を、信子は疑問に思いながらも口を開いた  
 
「きっ…桐谷く…ん…はっ…離れて…  
 あっ…彰くん…も…なっ何…おっ怒ってる…の…?」  
 
信子の声にはっとした修二だったが、気に障った様に眉間が険しくなり気がつくと信子の両肩を掴み  
 
「野ブタお前こそ何で怒らないんだよ?!  
 二度も草野にキスなんかされて!しかも何が彰くんだ!!」  
 
力一杯揺さ振りながら修二は怒鳴った。  
そんな様子の修二に信子は目を丸くさせ、躊躇いがちに口を開いた。  
 
「おっ…怒ってるのは…きっ桐谷くんと…あっ彰くん…わっ私は…おっ怒ってない…  
 きっ…キスは…あっ…彰くんが…らっらぶ…て…なっ名前は…やっ…約束…したからっ…」  
 
たどたどしくも、言い切った信子の言葉に修二は自分の頭の中で、何かの切れる音を感じた。  
 
「…野ブタ…」  
絞りだすような修二の声に信子は体を強ばらせたが、修二はそんな信子を気にせず、  
信子の両肩にかけていた手に力を込め  
 
「お前はラブて言われたら、キスされてもいいんだな?!  
 一方的にでも約束したら、名前で呼んでラブホにも泊まるんだな?!  
 
 だったら、俺も信子って呼ぶからお前も修二って呼べ!ラブホにも俺と泊まれるよな?!  
…それから…」  
 
肩にかけていた手をそのまま後ろにまわし、信子の小さな体を思い切り抱き寄せ、  
顔を傾け、いきなりの修二の行動に驚き固まっている信子の顎に手をあて上を向かせ  
そのまま唇を重ねた―…  
 
それは先日、草野にされた包み込むような暖かくて優しいキスでも先程された音を立てた軽いキスでもなく  
普段のクールな修二からは連想できないような、荒く奪うようなキスだ―…  
 
息も満足に出来ない、情熱的なキス離す様子を全く見せない修二の力強い腕。  
信子は息苦しさと恥ずかしさと突然の修二の行動にパニックに陥りとうとう、  
その目に涙を浮かべてしまった。  
 
信子のそんな様子に、草野が動いた。  
修二から、信子を奪うように離し目に浮かんでいた涙を舌ですくいとるように舐め  
「びっくりしたっちゃね〜信子?」  
草野の行動にまた驚き、涙は引っ込んだが今度は先程の修二のキスと草野に舐められた事実に、一瞬で頬を赤く染め上げてしまったのだった。  
力なくその場に座り込んでしまった信子の頭をぽんぽんと触り、草野は修二に近寄った。  
 
一方、修二も力なく座り込んだ信子を眺めながら軽いパニックに襲われていた。  
―…ちょっ…待てよ俺!今、今俺は何した?!  
何故か、野ブタの言葉にものすごく腹が立って…気がついたら抱き締めて…キス…キスだあーーー?!  
 
いつの間にか、修二の真横に立っていた草野に肩を組まれ  
 
「なぁ〜んだ、修二くん気づいちゃったんだ?それとも、無自覚のジェラシー?」  
 
耳元でそう言われ、自分の気持ちを説明された修二はカッと赤くなった。  
 
「あらら〜?無自覚から自覚しちゃったか。  
 でも、相手は野ブタ。人気者の修二くんは親友の俺に譲ってくれるよね?コンコン☆」  
手で狐を作り、いつものように言う草野。  
 
―…空っぽだと思ってた俺が、無我夢中で行動を起こした野ブタ。  
いじめられっ子の野ブタに人気者の桐谷修二が落ちた。  
人気者の桐谷修二と釣り合うのは学園のマドンナの上原まり子なはず…  
 
けど、それは人気者で空っぽの桐谷修二。  
俺はもう、空っぽなんかじゃない。だとしたら、答えは決まってる―…  
組まれた手を振りほどき、笑顔で目の前の奴に向き合った。  
 
「断る。お前は別に親友じゃねえし。あいつと居ると俺は空っぽじゃなくなる。  
それに、お前は初めてに拘ってたけど俺はさ…最後ってほうが好きなんだよ。  
キスはお前のが先にしたけど、その先は最初も最後も俺だけがする。  
先に自覚したお前には悪いけど、自覚した俺は手強いよ?」  
 
そう宣言した修二は、すがすがしい笑顔を浮かべていた。  
草野は珍しく、目を丸くさせたがそれはほんの一瞬で、すぐにいつもの表情に戻った。  
 
「それは残〜念!でもこれって、所謂、青い春じゃんすか?  
 あっ!俺も手強いっちゃよ☆  
 
 ―…、じゃあ俺らにラブられてる幸せあんど不幸せな野ブタちゃんをお家まで送りますか♪」  
 
いつの間にか談笑している二人の様子を不思議そうに眺めていた信子の元に二人がゆっくりと近づいて、それぞれ信子に手を差し出した。  
信子は一瞬、ほけ〜としたが慌てて二人の差し出した手に自分の手を預け起こしてもらうと  
「あっ…ありがとっ…」  
礼の言葉を口にした信子に、二人は「どういたしまして」と口を揃えて言いそのまま、信子の頬に唇を寄せた。  
ちゅっと音を立てキスを済ませると、唖然とする信子の荷物と自分達の荷物を手にし、真ん中に信子左右に修二と草野。  
三人並んで学校を後にした。いつもと同じ様に見えなくもないが、  
信子と修二、信子と草野の手はそれぞれ堅く繋がれていた。  
 
信子は終始「…え?…え…?」と疑問を口にしていたが、その疑問は誰も答えることなく夕焼けに溶けていった―…  
 
その日以来、俺達三人の不思議な関係は、信子が俺達から離れようとした時まで続くのだった―…  
 
信子が俺達から離れようとしたきっかけ、しばらく続いた俺達三人の不思議な日々については、また別の話―――…  
 

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