机の中を探る。まだ私は、彼にも伝えていない秘密がある。  
そして、机の中に隠していた写真に手をかけ、やさしく微笑んだ。  
(…今日ね? 彼が退院してくるって。ちょっとだけ記憶障害が残ったみたいだけど…)  
 私は、写真に写っている”彼女 ”に話しかけ、心配しなくていいよと伝えた。  
 
                       ―― ―― ――  
――ピンポーン…  
 玄関のチャイムが鳴り響く。私と先生は顔を見合わせ、彼が帰ってきたと思い、玄関に向かった。  
――ガチャ  
 ドアを開けるとまーくんの顔…。私は少し涙ぐみ、誰の目も気にしないでまーくんの胸にそのまま飛び込んだ。  
「まーくん!…まーくん!!……お帰りなさい…グスッ」  
「た、ただいま。ユウキ。…あの〜、ちょっと視線が痛いんですけど…」  
 私はまーくんの声で我に返り、そっと周りを見る。まーくんの横にはぎこちない笑顔をしている大空さん…。  
私の後ろに視線を向けると、プルプル震えている水谷先生。  
「こ、こら! 野村さん?!誰かに見られたらどうするのよ?生徒同士が同棲してるなんて…。ばれたら私はクビなのよ〜!」  
「野村さん…。私がいることも忘れないでね?」  
「ご、ごめんなさい!…私、つい嬉しくって…」  
 私は急に恥ずかしくなり、まーくんから離れ、距離をとる。  
「さ〜さ〜。こんな所で立ち話もなんだから、家の中に入りなさい? あんた達」  
「あっ…先生。私はこれから部活がありますので、これで失礼します。…片岡君のこと”宜しく”お願いしますね?」  
「大空さん…そのとげのある言い方、やめてくれない?私は片岡君のことなんて何とも思ってないんだから」  
「…ま、いいです。じゃ、またね。片岡君。お大事に…」  
 
――チュ…薫は踵を返して去る前に、正人の頬にキスをする。  
「こ、こら!教師の前で! そこ!片岡君も顔を赤らめてボーッとしない!」  
「う、うん…今日は付き添いありがとう。大空さん、また学校で」  
「ふふ、またね片岡君」  
 こういう場面を見るとまーくんと大空さんは本当に付き合ってるだと思い、私は胸が痛くなる。  
だけど…。私はすでに大空さんに宣戦布告している。  
(まーくんにキスした…大空さん。わ、私も負けられない! けど…)  
                       ―― ―― ――  
 
 私たちはその夜、まーくんの快気祝いをして、そのあとリビングで談笑した。  
「せ、先生! また飲みすぎなんじゃないですか?今日はまーくんの退院日なのに…」  
 先生は気のせいかいつもより飲むピッチが早い。  
(まーくん帰ってきて嬉しいのかな? 先生も…)  
「だからよ! ま、片岡君が怪我をした原因は、コレくら〜〜〜い…だけど私にもあるしね…ヒックッ!」  
 先生はまーくんの顔の前で、親指と人差し指が付くか付かないか程度の仕草を取る。  
「なにいってるんですか!先生。そもそもいきなり大空さんの家に来た先生が悪いんじゃないですか」  
「グフフッ…。あ・ん・た!あの時、私が行かなかったら大空さんの貞操を奪い、野村さんを捨てるつもりだったんでしょ?…ヒック」  
――ピクッ?  
 先生のその言葉で私は硬直する。そう…あの夜のことは未だに怖くて、まーくんに聞いていない…。  
(まーくん…あの夜、いったい何があったの?)  
 
「な、何もありませんでしたよ! そ、それにユウキのこと捨てるってどういう意味ですか?」  
「何もない〜? シャツを裏返しに着てて、しかも股間には怪しいシミ…。どう考えたってね〜?ケタケタ…ヒックッ!」  
 まーくんは言葉が詰まり、私のほうを少し見る。  
(まーくん…私をそんな目で見ないで…呼吸が苦しくなる…)  
「と、とにかく! 何もありませんでした!それにユウキを捨てるもなにも…僕が付き合ってるのは大空さんなんですから!」  
「またまた〜? あんたもわかってるんでしょ? 野村さんの き・も・ち♪」  
「そ…それは…だけど、ユウキは…」  
 まーくんはまた私の方を見る…。  
(先生は知らない、本当は私が”男”だってこと…。それに家の中ではまーくんは私だけの…恋人ってことを)  
 だけど、まーくんも知らない秘密が私にはある。それはまだ、まーくんにも言えないけど…。  
 私はこの話題を続けられるのが苦しくなり、立ち上がる。  
「そ、そろそろお片づけしましょうか? まーくんもまだ完全に元気じゃないし、そろそろ…まーくん寝たほうが…」  
 まーくんもこの話題から離れたかったのか、すかさず立ち上がり、私に話し掛ける。  
「そ、そうだな? じゃ、じゃあ…お先に寝かさしてもらうよ」  
「こら〜!逃げるな、片岡! まだ話は済んでないぞ〜! …ヒックッ!」  
 まーくんは先生の言葉を聞こえない振りをして、そそくさと自分の和室部屋へ行き、戸を閉める。  
――ピシャ  
(ふう…。まーくんが帰ってきて、いきなり騒がしくなったな…嬉しいけど)  
 私がテーブルの空いたお皿を片付けようとすると、いきなり先生が背中から羽交い絞めしてきた。  
「!??」  
「…野村さん〜? 駄目よ〜もっと片岡君を押さなくちゃ! 本当に大空さんに取られちゃうわよ〜彼。ヒックッ!」  
「だ、だけど…私は…」  
「大丈夫よ〜? あなたはすごく可愛いし、大空さんにも負けてないわよ〜?ヒックッ!」  
「で、でも…私じゃ…駄目なんです。私じゃ…」  
 
「ん〜もう! だったら大空さんより早く、既成事実を作っちゃいなさい!…あなただって本当は彼にこうして貰いたいんでしょ?」  
 先生が後ろから私の胸を揉んでくる。  
「…!? せ、先生?」  
「ん〜?もしかして、胸の小さいのを気にしてるの〜?大空さん大きいもんね〜?」  
「………」  
「あ? ご、ごめんね〜。気にしないのよ〜そんな事は! 女はね、感度なのよ、感度!」  
 そう言うと先生はやさしく私の胸を撫で回す。  
(やっ…?! こ、声が出ちゃう。…んんんっ)  
「どう? 野村さん…気持ちいいでしょう? だけどね〜好きな男にされると、もっと気持ちいいのよ〜?」  
 先生は私の乳首の回りを撫で、時折乳首を軽くつまむ。  
「せ、先生! や、やめて…。まーくんに…き、聞こえちゃう…んんっ?」  
 先生は私の言葉を遮り、私の顎を手に持ち、私にキスをしてくる。  
――チュ…チュ  
(あっ…ああ。ま、まーくん、ごめんなさい…。まーくん以外の人と…しちゃった。)  
(な、涙が…出ちゃう…ごめんなさい、ごめんなさい…まーくん)  
 涙が頬を伝う…。だけど私の罪悪感までは流れない。  
「ちょ、ちょっと野村さん? な、泣いてるの?わ、私、一応ノンケなんだけど、酔うとキスしちゃう癖があるのよ〜!」  
 先生は私が涙を流した事に気がついたのか、慌てて言葉を取り繕う。  
「……グスッ」  
「ご、ごめんね!も、もしかして初めてだった?」  
 私は首を左右に振り、先生に答える。  
「そ、そう!よ、よかった〜!初めてが女だったらやっぱりショックよね? と、言うことは片岡君としたって事?」  
 私は答えようか答えまいか少し考えたが、結局小さく首を縦に振った。  
「や、やっぱり!…ってことはアイツ〜。野村さんとキスまでしておいて、大空さんと?ゆ、ゆるせん!」  
 先生は酔った足取りで立ち上がり、まーくんの部屋へ向かうが、私はそれを必死に止める。  
 
「い、いいんです! 先生。まーくんは悪くないんです…。悪いのは私なんです!」  
 私はこれ以上先生が進まないよう、先生にしがみつき懇願する。  
「…野村さん。あなた、本当に片岡君のことが好きなのね?……わかったわ、もう片岡君には何も言わない」  
「せ、先生…」  
「だけど! 今日これから夜這いをかけなさい! じゃないと、さっきの続き…またするわよ?」  
 先生の目が怪しく光る…。  
(ほ、本気みたい…。だ、だけど夜這いなんて…)  
「あなたはね〜。とてもいい子なんだけど、恋愛するのには内向的過ぎるのよ。だから命令。夜這いしなさい!」  
(こ、怖い…先生。やっぱり本気なんだ)  
「さ、シャワーを浴びてきなさい。もちろん聞き耳なんて立てやしないから安心して。私はもう寝るから」  
 私の返事を待つまでもなく、先生は私をお風呂場へと追いやる。  
「……先生」  
「私はね? あなたの味方なの。その胸のペンダント、あなたの片岡君への10年間の思いが詰まってるんでしょ?」  
「………」  
「その思いを無駄にしないためにも、頑張りなさい!じゃね」  
 そう言うと先生はお風呂場から出て行った。  
 
 私は首にかけているペンダントを強く握る。  
 ペンダントの思い…。そう、このペンダントには10年間の思いが詰まってる。  
彼から預かったペンダントが何だか語りかけてくるような気がした。  
(そうだね…頑張るわ!。”ユウキ”……私に勇気を頂戴!)  
 
 私は決意をして服を脱ぎすて,お風呂場に入る。  
そしていきよい良くシャワーの蛇口をひねった――  
 
 
シャワーから流れ落ちる熱い勢いを身体の隅々まで当てる。気持ちがいい。色んな雑念も私の頭の中から滴り落ちるよう……。  
 私はこの場所が好き。誰も来ないし、本当の自分に戻れる唯一の場所だから。  
 水谷先生に触られた胸のあたりを揉んでみる。自分でも判っている、自分は胸が小さいと。だけど、その代わり今まで彼にも学校の友達にも、そして大空さんにも私が”ユウキ”じゃないことを気付かれずにきた。  
(乳首……勃っちゃったの気付かれたかしら)  
 さっきの先生の愛撫の名残で、私の乳首はまだ少しツンと上を向いている。色は風呂場の蒸気にあてられ、すこし桜色。  
「ふう、夜這いか……」  
 頭から強く浴びても今日のシャワーは雑念を流し落としてはくれなかった。それどころか、さっきから一つの事だけを私は考えている。  
 秘密――彼にも言えない秘密。それは私が”ユウキ”ではない事。だけどこれは”ユウキ”との約束。彼には絶対にばれてはいけない。  
 ユウキと私が約束した時のことが脳裏にハッキリと浮かんだ……。  
 
――ねえ……私の代わりにまーくんの傍にいてくれないかなあ?  
――わかった。ユウキの代わりに私が彼を……。だから元気になってよ。ユウキ!  
 
 最初はユウキを元気づけるためだった。見舞いに行くたびに弱気なるユウキをどうにかしたいと言う気持ちからついた嘘だった。  
 元々、私はユウキが彼の所に行くと言い出した時には猛反対した。十年前の初恋とかそんな事、一時の気の迷いだとユウキに説明した。だけど、ユウキはガンとして聞き入れなかった。  
 
――だけどね。彼の事、思い出しちゃったから……。彼ならありのままの私を受け入れてくれるかもしれないって。  
 
ユウキは彼の父親に偶然出会い、彼の事を古い記憶から蘇らせてしまった。そして、彼が独りこの町に残ったことを聞いて彼を追いかけた。  
 私は顔を上げ、ユウキと同じようにしたショートカットの髪型にシャワーの勢いすべてを当て、両手で髪を掻き分ける。  
(私が嘘をついた時のユウキの顔、本当に嬉しそうだったな)  
 病室にいるユウキの事を考えながらシャワーを止め、洗面台に取り付けてある鏡に目をやる。  
「本当はユウキがしたかっただろうな」  
 湯気でぼやけた鏡に映っているのはユウキと瓜二つな顔。無理をして微笑んでみる。  
(ぎこちない……よく今までばれなかったものだわ)  
外見は似てるけど中身は違う。外見もユウキが彼のことを話している時の笑顔だけはどうしても真似が出来なかった。  
 髪から滴り落ちるお湯の名残りが心なしか少し辛い。気がつけば私は涙を流していた。  
 この涙の意味……もう自分でもわからないわけじゃない。意識の底で止めていたけど、気がつけば私も彼を好きになっていた。  
 ただの一時的な替え玉。ユウキが戻ってきたら交代するだけ。それだけの役割……。  
「最初はそう思っていたけどね……ごめんねユウキ。だけど今は……」  
 私は精一杯の笑顔を鏡の中の”ユウキ”に向ける。  
「ユウキ……。大空さんもそうだけど、私はあなただけには負けたくないと今は思ってる。あなたのいない時にズルいとわかっているけど」  
 涙を拭い、浴槽横に置いてあるボディーシャンプーをいきよい良く押して液体を手の平に出し、全身に万遍なく塗りこんでゆく。掛けてあるタオルを持ち、首、胸、そして下半身を軽くこすりながら、ゆっくりと身体を洗い流す。  
(でも……ユウキ。あなたと私じゃ決定的な違いがあるの。男と女というね……)  
 ユウキにはない下半身の繁みを見ながら、私は更に身体を強くこすっていった。  
 
 カシュッ! 手に持ったビール缶のプルトップを上に跳ね上げ、軽く口をつける。眼鏡も外してやっと一息ついた。  
(シャワーの音……やっとその気になったみたいね)  
 風呂場のほうに視線を送り、一気に半分までビールを飲み干す。リビングは私以外誰もいない。まだ少しテーブルに残っているつまみを口の中に放り込みながら考える。  
(野村さんと大空さん。何故、彼女達が片岡君を好きになったのかわからなかったけど、今ならわかるよ)  
 きっかけは彼の入院。それまではごく普通なエッチな男子生徒の一人、只の家主、それだけ。だけど、いなくなって始めて気付いてしまった。彼の存在がいつの間にか私の心に場所を作っていたことを。  
「わたしがねぇ〜? いくら男日照りが続いているからって……好きになるなんて、ね」  
 そっと口から溜め息とともに言葉が漏れる。気がつけば手に持っていたビールが空になっている。  
(ふふっ。意識しないでも同じ屋根の下で暮らしてたら、こうなっちゃうのか……)  
 軽く頭を振り、次のビールを持ってこようと少し椅子から立ち上がるが、視界に和室部屋のふすまが目に入る。  
(彼が……ふすま一枚隔てたあの先で寝ている)  
 私は立ち上がるのを止め、もう一度座りなおす。自然と目の前にあるビールの空き缶を振っては残りがあるかと確認する。5,6本振った所で既に入っていないことがわかった。  
 ふと空き缶の一つに手を伸ばし、彼女を愛撫した手で握る。強く、強く、潰れる位まで。  
(痛い……だけどしょうがないわよね。ペンダントの話を聞いちゃったらねぇ)  
 潰れた空き缶から指を離し、そっと指を舐めて、さっきの愛撫を思い出してみる。  
(乳首が立っていたわね……彼女)  
 両の手が自然と胸を弄っていた。彼女の胸とは違い大きめな胸。さすがに少し張りがなくなってきたけど、まだそこら辺の女子生徒には負けない自信はある。  
 彼女にしたように動かし触ってみる。横から中心へ、ゆっくりじらすように。一番敏感な所はガラス細工を触るように優しく。  
――好きな男にされるともっと気持ちいい……  
 自分が彼女に言った言葉を思い出す。触りながらふすまの向こうで寝ている彼のことを思い浮かべ、そして想った。  
(本当は私が触って欲しい! いじって欲しい! 強く打ちつけるかのように……挿れて欲しい……)  
 
 いつの間にか私は荒々しく胸を揉んでいた。しかも片手はパンストを潜り抜け、もっとも身体の中で敏感な場所を弄り始めている。大きい尻もその動きを歓迎するかのように上下していた。  
(濡れている……いっぱい濡れている。私……)  
 これから彼女が彼の所に行き、するであろう行為のことを考えると更に指が動き、奥からは快感が止め処なく溢れてきた。  
 好きになった男が他の女に取られる。酔いもいつしか醒めて嫉妬心が湧き上がるが、それを指の動きで忘れるかのように強く弄る。  
(んんんっ……はぅ)  
 この部屋に誰かがいればすぐわかるような匂いが漂いはじめた。  
 クチュ……グチュ……  
 椅子も軋み始め音が聞こえ始めるが、私はお構い無しに自慰行為に没頭する。快感が頭の中を突き抜ける。久しぶりの自慰行為だからか、すぐに真っ白になるその瞬間がやってきた。  
(も、もう少し……すこし……んはぁ……い、いきそう……あああぁ――!!!)  
 体全体が軽い痙攣を起こす。特に下半身辺りはまるでバイブレーターが壊れた携帯電話のように大きく震えた。  
(はぁはぁ……いっちゃった……)  
 
 しばらくすると引き潮のように快感が去り、その代わりゆっくりと自我が戻ってくる。私は連続で”いく”タイプではないので急激に身体も醒め始める。  
(後に残るは罪悪感とむなしさだけ……か)  
 彼がいる和室部屋を見ながら少しだけ涙ぐんだ。  
   
 
 
 風呂場の方から微かに音が聞こえた。  
(まずっ! 出てきちゃったかな? 寝たふりをしないと……)  
 咄嗟に椅子からソファーに移動して落ちているタオルケットを頭からかぶり、狸寝入りをする。  
 しばらくするとリビングに人の気配がした。彼女だろうか。少し動いているようだったがリビングの電気が消えると同時に隣の和室部屋へと気配も消えたようだった。  
(いっちゃったか……頑張んなよ? とりあえずは応援する)  
 タオルケットから顔を出し、暗闇の先、和室部屋の方へと視線を向ける。下半身に少しだけ残った疼きが、別の感情を湧き出たさせると同時に口からも言葉が発せられた。  
「一回は応援するわ……だけど二回はないかもよ? 野村さん」  
(???)  
 口から出た無意識の言葉に一瞬戸惑ったが、これが私の本音とわかって軽く笑みを浮かべた。  
(あ〜あ……この年になって若い教え子二人と張り合わなけりゃならないのか……茨の道を行くねぇ私は)  
 私は彼女との約束通り瞼を閉じて眠りにつこうとタオルケットをまた頭までかぶった。彼女達の声が聞こえないようにと思いながら。  
 
中編 了   
 

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